七月四日「モニターとペットボトル」
「修二さん! 大型のハリガネムシが近くにいます! 来るかもしれません」
資料を読んでいた修二さんがゆっくりと立ち上がった。
「それはお前の能力……体内のハリガネムシの情報か」
「はい、では俺は凛の所に」
「まて」
走り出そうとした俺を止めた修二さんは物置から何かを取り出した。
「持っとけ」
「なんですか? これ」
「小型チェーンソーだ、軽く振動も少ない、ボタンを押せばすぐに動く」
「あ、ありがとうございます」
俺はチェーンソーを持って走り出した。
幾つかの扉を乱暴に開けながら走る、途中武装した男達が入り口に向かって走っていたが気にせず研究室を目指す。
研究室の扉を乱暴に開けて叫ぶ
「凛! なんともないか!」
凛は少し顔を赤らめて
「た、拓人さん声大きい」
「す、すまん……なんともないようだな」
「何ともないわよ、でも入り口の方に何体かのハリガネムシがいるようね」
と凛は持ち運び可能のモニターを見た
「そこには修二さん達がいったはずだ」
モニターを見ると修二さん達がハリガネムシを火炎放射器で燃やしていた。
「なるほど火炎放射器ね、火でどうなるかの調査にもなるわ」
凛がモニターを見ながらパンをかじった瞬間だった。
[後ろ]
俺はチェーンソーを起動させて扉の方を向いて構える。
扉を突き破ってきた一匹のハリガネムシをチェーンソーで受け止める。
切っても生きているハリガネムシをチェーンソーなんかで殺せるのだろうか。
そんな考えを読み取ったのか凛が叫ぶ
「大丈夫、あの時は切りどころが悪かっただけ! そこなら大丈夫よ」
「わかった!」
俺は踏ん張って腕に力を込めた。
ハリガネムシがどんどんすり減っていき、ぶっつりと切れて動かなくなった。
「ふー」
思わず座り込むと凛が お疲れ様 と ペットボトルの水を差し出してきた。
「で、どういうことだ?」
凛が首を傾げる
「何が?」
「あの時は切りどころが悪かったって話」
「ああ、トカゲの尻尾みたいなものよ」
「ふーん、じゃあ今回みたいに真ん中辺りを切りゃあいいのか」
「そういう事」
「なるほどな」
ともらったペットボトルのキャップを開けて水を飲んだ。
「えっ!?」
凛が驚いたような声を出した
「なんだよ」
「その、渡したのは私なんだけど……断ると思ったというか……やっぱり恥ずかしいというか……」
凛は少し顔を赤らめてモジモジしている。
俺は首を傾げて凛の視線の先をたどる、ペットボトル?
俺はペットボトルの中の水を見る、半分ほど減っていた、俺はこんなに飲んだだろうか。
いや、俺が飲んだのはほんの一口だ、という事は元から少なかったのだろう。
「ふむ」
つまりは誰かが飲んだのだろう、渡してくれたのは凛、研究室にいるのは俺と凛だけ、つまり……
「す、すまん……気づかなかった」
俺はペットボトルを凛に差し出した。
凛は更に顔を赤くして
「えっ……その……じゃあ……」
凛が俺からペットボトルを受け取ってから気がついた、俺が飲んだのを渡しても……
俺と凛はお互い赤くなり気まずい空気が流れた。
凛を直視できずにふとモニターを見た。
「凛! モニターを見ろ!」
俺は思わず叫んで凛の肩を掴んだ
「ひゃっ……な、ななな、何」
俺は真っ赤な顔の凛を落ち着けてモニターを指差す。
「えっ!」
凛がモニターを見て目を丸くする、少し体が震えているのも無理はないだろう。
俺は震えている凛の肩に手を宥めるように載せて聞く。
「これは……ハリガネムシか?」




