六月二十日「男とエンジン音」
右足に突き刺さったハリガネムシの一部は動きを止めた、地面に叩きつけたハリガネムシは生きてはいるが動けない、まるで今の俺と同じだ。
襲いかかるハリガネムシを果物ナイフと土や石で退けているが時間の問題だろう、なにより凛が危ない。
凛は突き刺された右足を抱え込んでうずくまっている。
まさに絶望的状況だ、何故か痛みを無視して動かせるのは左足だけで、しかも負傷した左足では俺自身の体さえも支えきれない。
一匹のハリガネムシが俺の右腕を突き刺さし果物ナイフを落とした。
「……無理か」
諦めかけたその時、エンジン音と共に叫び声が聞こえた。
こっちに向かって走る車から筋肉質な男が四人降りてきた、手には斧を持っている。
「いけー!」
四人の男が残った二匹のハリガネムシを軽々と倒した、その後俺と凛をこれまた軽々と持ち上げて車に乗せた。
「ありがとうございます」
「礼はいい、恩を感じるなら働いて返せ」
助手席にいる一際大きな男が言った
凛は身構えて俺は凛を庇える体制になる。
「……そう身構えるな、別に働くと言っても嬢ちゃんの身体目当てとかじゃねぇ、大体嬢ちゃんの身体で興奮するほど飢えちゃあいねぇよ」
男は煙草を取り出した、運転席にいる眼鏡をかけた男がライターを差し出して火をつけた。
「おめぇらにやってもらうのは……簡単に言うと家事だ、その代わりおめぇらには安全な部屋と生活を用意しよう……どうだ?」
一応選択肢はくれているが意味は無い、俺と凛は首を縦に振った。
「俺は修二だ、名字は名乗らない主義だ……じゃあ行こうか、出せ」
男の合図と共に車は走り出した。