六月二十日「脳信号の遮断」
「ねえ、大丈夫?」
凛が心配そうに俺の顔を覗き込む、恐らくクマが凄まじいであろう顔で何とか頷く。
「俺は元よりあまり寝ないタイプだからな」
強がりだ、早寝早起きを心掛けていた。
「それでもやっぱり……」
今の状況を簡単に言うと寝ていない。
ハリガネムシを感知出来るのは、つまりラダーの声を聞けるのは俺だけ、俺が寝てしまえばハリガネムシを事前に避ける事は難しいだろう。
「やっぱりダメ!」
凛が俺の胸ぐらを掴んで顔を近づけ……
「てや!」
「痛っ!?」
頭突きされた。
「何しやがんだ!」
凛は自分の頭をさすりながら
「拓人さん石頭だね」
「答えろよ! 理由を教えろよ!」
「いや、気絶しないかなーって」
「気絶させてどうするつもりだったんだよ!」
凛は言いにくそうにして
「その……寝ないから」
「……すまん」
「じゃあ、寝て」
「それは駄目だ、いつ来るかわからない」
「ならばこれで……」
鈍器を取り出した凛を見て大人しく仮眠をとる事にした。
「拓人さん!」
大声で叫ぶ凛の声で目が覚めた、寝ろと言ったのは誰だよ。
そう思った瞬間ラダーが頭に語りかけてきた
[前ー]
寝ぼけ眼でこちらに跳んでくるハリガネムシを捉えて右に跳んだ。
「ぐっ」
思わず声が出たのは地面に身体を打ち付けたからではない、左足に激痛
を感じたからだ。
激痛を感じた左足を見ると細いハリガネムシが突き刺さっていた。
「こんにゃろ!」
精一杯の力を込めてハリガネムシを握り引っこ抜く、小さな傷口から大量の血が滲み出してきた。
左足の痛みに耐えながら凛を探す、百メートル先で四匹のハリガネムシに囲まれている。
「凛!」
叫んで走ろうとするも左足に力が入らない、痛みに反応して脳がセーブをかける。
凛を囲んでいたハリガネムシの一匹が凛の足を突き刺し凛が悲痛な叫び声をあげる。
「動け! 動けよ!」
俺の叫びに応えたのはラダーだった
[足、動く]
何かが腹の辺りから背中の方に動くのを感じたと同時に全身に電気が流れたように感じた。
全身に力が自然と入った。
俺はいままでに無い大声をあげて両手に力を込めて起き上がる、そして地をえぐるような勢いで右足を前に出して____
左足が動いた。
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
左足に強烈な痛みを感じながらも足は動く、セーブしようとする脳の信号を無視して動き続ける。
ポケットから果物ナイフを取り出して闇雲に切りかかる。
一匹のハリガネムシを切り刻み凛の左足に突き刺さっているハリガネムシを引き抜いて地面に叩きつけ、
残った二匹のハリガネムシに切りかかろうと右手に力を込めた時右足に激痛がはしった。
切り刻んだはずのハリガネムシの一部が右足に突き刺さっていた。
右足から力が抜けて左足が体を支えきれなくなって……
俺は地面に倒れこんだ。