フォカスの塔にて発見された人魔大戦関連書類
聖光紀702年――7ヶ国の軍事同盟、13ヶ国の資源協力により、兼ねてからの人類の大望であった魔族殲滅戦が始まった。
リーフォニア山岳地帯を越える強行軍と、東外洋に点在する諸島を経由し海岸線からの上陸部隊による二面作戦は、獣に等しい魔族には覿面の効果があった。
706年夏季には当初の予定通り、半分以上の地域を占領していた。
拿捕した奴隷を使用し採取した莫大な資源は本国へと移送され、連合すべての国が勝利に湧いていた。
しかしこの時より、群れに過ぎなかった魔族に、不穏な動きが見られるようになる。
ただ猪突するだけが能だったはずの魔族が連携をとり、統率だった戦闘をするようになった。
各方面軍は対応に遅れ、撤退を余儀なくされることになる。
補給路がかねてから懸念されていた海岸線は、現地補給、海上補給線、いずれも敵の卑劣な奇襲により断たれ、100万を越える同胞が化外の地で虐殺された。
我々が占領にかかった時間よりも遙かに短く、魔族はわずか1年でその領土の大半を奪い去った。
しかし徹底した焦土作戦により、魔族の攻勢を挫くことで多大な時間を稼ぎ、リーフォニア地区に決死防衛戦を築くことが出来た。
また連合議会は魔族の首魁を王と認めてはいなかったが、維持可能な戦線がリーフォニアを残すのみとなった現在。
魔族首魁イヴを伝承に則り、魔王と呼称する事になった。
これは魔族に王族としての権威を認めるものではなく。人間に討たれるべき脅威に、忌避すべき名をつけたに過ぎないことを明記しておく。
そして魔法研究を担う、我らがフォカスの塔への予算が組み直され、戦況を打開するための新魔法開発が打診された。
開戦時の倍の予算であり、研究資材も連合より大幅に都合されることになった。
なにより我々の研究を阻んでいた道徳的理由による連合国法の黙認から、正式な免罪へと変更する旨をも取り付けることが出来た。
よって現在進行中の研究すべてを一時凍結し、塔の魔術師すべては第一から第五までの古式禁呪実用化に加わることを義務とし、その持てる全ての知恵を費やすようここに通達する。
既に解読、独自研究をしてる者も、免罪は遡行し適応されるため罪に問われないものとする。
またその成果は塔の共有知識とするが、成果に応じ研究権限を与えることをここに宣言する。
――聖光紀707年 フォカスの塔:導師リヒェンボルク・サールジェン
第四禁呪の定着実験にて7番目の適合成功をここに報告する。
検体番号903、リーフォニア地方の村にて回収した孤児。名をアダム。
リーフォニアは魔族の領域付近の山岳地帯であり、定着化の主力説である風土の関連性に影を落とすものである。
また魔力適応値、魔力抵抗値、魔力保有量、そのすべて平均域を脱さない。
しかし初期段階にて自我崩壊が起こっていない者は、81号に続き2体目であり、優先的に実験されたし。
気性は穏やかであり、81号に見られた凶暴性もなく、極めて安定化している。
若干嗜虐性を見せることがあるが、実験以前から確認されていた性質であり、個体保有の反応である可能性が高い。
現在連合国法の取り締まりが厳しくなっており、検体の確保が滞っている。それにより定着実験にも遅れが見られる。
今後の実験を鑑みるに、適合検体数に不安が強い。臨界実験を行うにはまだ当分の時間が掛ることが予想される。
――聖光紀703年 ヒルター会:リッセル孤児院長アルフォラ・ワルト
残存する適合検体は、903号、2293号、3001号、3192号、以上の4体でしたが、先の臨界実験時に4桁番号はすべて廃棄が決定しました。
しかし初期実験からの生き残りである903号は高い適応反応を見せており、調整いかんでは実用可能域に達していると判断します。
また一月後のリーフォニア協定調印式までに調整は完了予定でありますので、903号の叙任を進めて頂きたく報告した次第であります。
第四禁呪エデンの魔術臨界域は魔王の抗魔力とは無関係に反応する故に、他禁呪より適していることは明白であります。
よって我々四階層は903号を第6勇者として推薦します。
――聖光紀708年 四階層:主任術師マリエル・ヒルター




