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 魔王国史料 ―人魔大戦初期に置ける魔王国建国―

 かつて我ら魔族と人間は、各地小競り合いこそあれ、住み分けていた。

 天険グリフォニアの山々が、この世界を二分してた事が大きな要因となるだろう。


 しかし人間は膨大な犠牲を払いながらも山を越え、海を回ってやってきた。

 そうして人間の侵略と、未曾有の戦乱が始まった。


 魔族は驕っていた。また種族内での結束こそ強いが、そのすべてが手を取り合っていたわけではなかった。

 連合軍と称する人間どもはグリフォニア、そして海岸部を瞬く間に侵略し、陣を敷いた。

 我々には真似の出来ぬ連携であり、迅速さであった。


 盗られた地に住まう魔族はを奪還せしめんと奮起するも、内陸部の種族は静観を決め込み、結果前線にて5つの種族が滅びた。

 魔族は強かった。人間とは比べ物にならない魔力を持ち、強靭な肉体があった。ある者は爪をもち、ある者は牙、またある者は毒。

 しかし人間は多かった。数千、数万の集団が蠢く一個の生命体だったのだ。

 幾万の人間で構成された『軍』が、孤立する魔族を曳き潰すのは容易いことであっただろう。


 国と機能しない我ら魔族は、次々に領土を切り取られ、滅亡へとひた走った。

 残った32の種族がようやく協議を始めんとした頃のことである。

 かつて『魔族』の意味は人在らざる者の総称に過ぎなかった。

 しかしこの乱世に誕生した魔王が、その意味を書き換えたのだ。

 『魔族』とは魔王国の民の総称へと変わった。

 それまで12種族の長が取りまとめていた魔族の群れは、この時初めて王を戴き、魔王国として生まれ変わったのだ。


 魔王は人魔族の者だった。名をイヴと言った。

 取りまとめていた12種族にも入らない弱小種族の出ありながら、魔王イヴはあまりに強大だった。

 強大な魔力は竜族を上回り、魔術一つで一面を火の海へと変えた。

 人間並みの大きさしかなく、力で劣るはずの人魔族にも拘らず、その身に膨大な魔力を宿す魔王は、巨人族を膂力で打ち負かしたほどであった。

 

 イヴ魔王は比類なき戦士でありながら、策士であり、軍師であった。

 時に自ら先陣を切り幾千の人間を滅ぼし、時に地図の上で幾万の敵を壊滅させた。

 そして何より特筆すべきは他種入り混じる魔族を引き従える、王者としての風格である。


 領土の半分まで押し攻められてたが、怒涛の強攻軍を魔王が指揮し瞬く間に、海岸線の奪還に成功した。

 この勝利を皮切りに、次々と奪われた領地の大半を取り戻すことが出来たのである。

 ここまで魔王戴冠より、わずか1年ばかりのことであった。


 ついにグリフォニア周辺を残すのみとなったが、この時人間どもの姑息な焦土戦により国内領土の治世に魔王は追われ、グリフォニア戦線は膠着状態となっていた。

 しかしこの遅滞、魔族が国としての体裁を初めて持ったが故のものであり、魔王国がこの後しかと国であり続けるには必要なことであった。


 またこの頃より、強硬派の侵略論を唱える声が強くなっていたのも事実である。

 そしてグリフォニア戦役が始まって1年、魔王がその座について2年ばかりが過ぎたころ、人間側から停戦の申し出があった。


 強硬派は激しく反発したが、魔王がグリフォニア返還を条件に受諾したのだった。

 この時国が割れなかったのは、一重に魔王の力であった。力と知恵を持ち合わせ、真に覇者であったイヴ魔王。


 魔族は忘れていた。人間の姑息さを、愚劣さを……故に悲劇は起こったのである。



                魔王国史料編纂官 人魔族:デンドロッサ

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