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第2話 魔王と勇者の追いかけっこ

 花が咲き乱れ、鳥たちが歌い、湖では魚が気持ちよさそうに泳いでいる。


 そんな楽園に家はまだない。


 水辺の木を切って拵えた、自然味あふれるテーブルの上に並んだ、様々な果物を次から次へと口へ押し込む魔王。


 勇者は食事をすぐに済ませ、少し考えてからこう言った。


「魔王様。追いかけっこをしましょう」


「ふぇ? え、何? 我まだゴハン食べてるんだけど……」


 美しい金髪が口へ入っているのを気にも留めずにモシャモシャと咀嚼している。


「追いかけっこです。もしかしてご存じありませんか?」


「むぐむぐ……っく。知ってるぞ? アレであろう? 捕まえる役が逃げる役を追い掛けて、捕まったら役を交代する童遊びであろう」


「意外ですね。また将棋の時みたいに半日説明しないといけないのかと思いましたよ」


「ふっ、我を甘く見るでないわ」


 はっはっはと果汁を飛び散らせて豪快に笑う魔王。


「まぁ話が早くて良いですね。では早速――――」


「待てぃ! まだ食べてると言っておろうが! あっ! 下げるな勇者よ。我が頑張って果物取ってきたのだぞ!? 勇者にも上げたのに……取ってきた我が食べられぬ通りがどこにあろうか!」


 ルビーの様な瞳を光らせ熱弁する魔王の気迫と言ったら凄まじく、内容が内容ならまさに魔王に見えたことだろう……。


「……すでに魔王様は3日分の果物を召し上がられました。これ以上食べる豚になりますよ?」


 見下すような冷たい視線を浴びせ良い放つ勇者。


「うぇ!? 我は豚になんてならんぞ? だって我魔王だし……」


「良いんですよ? 私は魔王様が豚の如く貪り、肥え太るのを眺めているのも楽しそうですから」


「うぐぅ……分かった。もう食べない。我慢する」


 明らかに物足りなさそうな視線を果物に送っている姿は子供にしか見えなかった。


 気の強そうな顔立ちと17,8を越えて見える均整のとれた体格と比べると、幼すぎる中身の方が哀れに思えてしまう。


「ですので、食後の運動ですよ。追われ、追い掛け。楽しく魔王様は痩せられること間違いなしです」


「我の事をそうも気にかけてくれていたか……勇者よ。お主もなかなか分かってきたようだな」


 すっかりノリ気であるが、『私が』が楽しくの前にあることに気付けないかったのは、魔王の自業自得と言えるだろう。


「だが、追いかけっこは童の遊びで、大人な我にはちょっと合わないんじゃないか?」


「大人な魔王様がそうおっしゃるのなら、やる気が出る話を少しさせて頂きましょう」


「よかろう。特別に聞いてやろう」


 ふふんと、胸を張る魔王に、勇者はゆっくりと話し始める。


「この楽園に来てもう4日は過ぎましたね。色々と溜まってくる頃合いです」


「うむ? 我は勇者が毎日いろんな遊びを持ってくるからストレス溜まってないがな」


「そして魔王様は実にお美しい」


「ひゃぅ!? い、いいきなり、何を言い出すんだ!」


「ご謙遜なさらずに。燃えるような赤の瞳に絹のように滑らかな金の艶髪。神の造形品とも思えるほど整った顔立ち。スラリとしていながら柔らかさを置き去りにしないそのプロポーション」


「ふへへ……そんなに褒めるな褒めるな。我もちょっと恥ずかしいでは――――」


 思いがけず褒めちぎられて顔を真っ赤にした魔王はくねくねと気恥ずかしそうに身もだえしている。

 しかし勇者の勢いは止まらずに、魔王の意図せぬ方へと脱線していく。


「見目麗しいとはまさにこのこと、そう見た目は良いのです。多少アホっぽい可哀想なところも目を瞑れば――――――」


「うぉおおぃいいいいい!? 勇者勇者!? なんかおかしくないか? 我いつの間にか罵られてるんだけど!?」


「そんなことはありませんよ魔王様。――――コホン。そしてさっき、豚のように卑しく果物を貪り食う魔王様を見て思ったのです」


「だから何で我、罵られ―――」


「魔王様も女で、――――穴はあるんだ、と」


 魔王が凍る。


 下種な視線で魔王の体をねぶるようにみる勇者。


 一目で高級と分かる上質なローブは残念なことに薄手で、スリムながらも出るところは出ている魔王の体を、勇者のゲスな視線から守り通すことは出来なかった。


「ひぇっ!? え、と。勇者? 何でそんな目で我を見て、ひっ!? あぁ……ちょ、ちょっと止まれ勇者よ。あ、なんでそんな手をワキワキさせ――」


「溜まったものは出さないと体に毒ですよね」


 何と下種な笑顔だろうか。勇者の言動とは信じたくないが、悲しいかな現実である。


「あ、ああ、あぁ、うぁぁわぁあああああぁぁああああああああああああああああ」


 脱兎のごとく、脇目を振らずに猛ダッシュする魔王。


 それを追い駆ける勇者の目は狩人のソレである。


「うわぁああああああん。来るなぁ! 我は美味しくないぞ、来るでない! 来ないでぇえええええええええええ」


「ふっへっへっへ。十分美味しそうだぜ子猫ちゃん」


「誰!? なんか口調も変わってるぅううううう」


「へっへっへ。揺れるお尻がプリチーだねぇ魔王ちゃん」


 背を向け全力で逃げてる魔王には分からないことだが、真顔で棒読みでこんなことを言う勇者はとても不気味である


「変態だぁぁああ!! 変態に見られてる! 我のお尻、変態勇者にみられちゃってるぅううううううううううう」

 




「ハァハァ……勇者ぁ……もぅ許して…………」


 魔王の白磁の様な頬は主に染まり、ルビーの瞳は薄い涙に濡れて、酸素を求めて開けられた口からは涎が、その小さな顎に伝っている。


「……ふぅ。おい魔王。いつまでハァハァ発情してるんだ。早く服着ろよ……」


「勇者が賢者になってる!? いや、違う! 違うぞ!! 裸じゃないし、そもそもなんで何かいかがわしい事があったみたいな感じになってるんだぁあああ!?」


「まだツッコミ出来るとはまだまだ元気ですね。第二ラウンド、イッちゃいますか?」


「ちが、もう良い。もう休ませてくれ。我はクタクタなのだ……」


「そうですか。では私は喘ぎながら色んな汁を垂れ流す魔王様を鑑賞する作業に戻りますね」


「汗だぞ!? 色んな汁なんて言うな!」


 イヤらしい不純だ、と憤るも一時間にも及ぶ全力疾走の疲れで息も絶え絶えである。


「………………どうも、色っぽい魔王様見てたらなんか、こう、ムラムラっと――」


「ひっ!? うぁ、ぅああ、うわぁあああああああん。勇者のドスケベェエエエエエエエ」


 生まれたての小鹿のようにプルプルと立ち上がり、ふらふらしながらも逃げていく魔王の背を、勇者は暖かく見守るのであった。


 今日も楽園は平和である。

…………二話目にして早くもシモネタに走る男tomerです。

読んで頂きありがとうございまいた。


2話にしてR15タグを付けるはめになるとは……当初の予定はハートフルコメディだったのに、どうしてこうなったんでしょう。

思いのほか楽しくて、20分とかからずに書けてしまいました…………。

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