クリファの都にて残存していた人魔大戦関連書類【誤投稿修正済み】
3月14日17時30分から3月14日23時00分までの間、誤って別の文章を投稿していました。
不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。
第四禁呪の検体番号903号――第6勇者は見事和平会談にて責務を果たした模様。
魔王城は騒然とし、特使団にも護衛8名死亡、特使2名重傷、護衛13名重傷、と被害を受ける者の想定の範囲内に収まった。
勇者失踪を起点とする筋書きではあったが、第6勇者――公開されたものとしては3代目であるが、替えの効く勇者よりも、魔族により殺害された特使を利用すべしと■■■■■様のお言葉により、我々は魔族に手を下した賊の引き渡しと、領土の割譲を要求した。
結果的に予定より早く和平は破談し、鳩派は皆責任を取り、連合会議より席を失い、西方解放戦争は今一度我らの手の中へと戻った。
よって第三方面軍は、4種以下の兵を残し速やかにリーフォニア山脈を越え、ダールトンに展開中の第一、第二、第四方面軍と合流されたし。
これより行われる作戦は、この解放戦争にて初めての我ら人間の領土で行われる戦闘になる。そして最後の戦いになる重要なものである。
我ら皆、絶えぬ光の中に。
――聖光紀708年 宛先差出人不明
ウンザリだ。何が解放だ。何が平和だ。馬鹿げてる。狂ってる。冗談じゃない。俺たちは触れちゃいけない箱を抉じ開けちまったんだ。
リーフォニア山脈の空が黒く覆われた。雲じゃない。魔族だ。忌々しい化け物どもの濁流だった。
人も魔族もごちゃ混ぜで、どこもかしこも死体だらけだ。
炎も氷も雷も、なんもかんもが飛び交ってる。粉塵と煙で、昼なのか夜なのかも分からない。
いくら殺しても、魔族はどんどんと増えていく。
黒煙と炎の奥に垣間見た赤い龍、それに並ぶ巨人。恐ろしかったさ。震えたよ。
それでも果敢に立ち向かっていく部隊が幾つもいた。そりゃそうだ。ここは俺たちの土地なんだ。引けねぇよな。
俺も部隊を率いて突っ込むつもりだった。どいつもこいつも荒くれ者の捻くれ屋ばかりだが、今時ばかりは誰も文句は言わなかった。
だが、いざ向かうって時に、とんでもねぇ光が爆発した。まだ遠くだったってんのに、すげぇ音だったし、空気がびりびりと震えてた。
戦場は大混乱。何せ向かって行った部隊、いや周囲にいた奴らが、いや違うな。戦場その物が消しとんじまった。味方の魔法で。
こんなふざけた話があるかよ。
俺は、俺たちは覚悟してた。家族を守るためだ、国のためだ、金のためだ、そんなのはそれぞれだが、命を失う覚悟が、死んじまう覚悟があった。
いつかは魔族の爪か、牙か、はたまた竜の息吹で跡形もなくなっちまうか。あったけぇベットの上でポックリなんてのを望んでる奴は一人もいなかった。
だがよ、味方に殺される覚えなんてねぇし、そんなふざけた覚悟を抱いたことなんぞねぇのさ。
負け戦だ。何度も戦場に出てるから分かる。どんなにデカかろうと、どんなに滅茶苦茶だろうと、あぁいう空気は変わらねぇ。
指揮系統はずたずたで、阿鼻叫喚の地獄が広がっていく。
あぁ負けだった。龍と巨人をヤッても終わりじゃなかったんだ。魔族どもはどんどんと押し寄せる。河だ。濁流だ。滅びの河が押し寄せた。
俺は部隊の連中、それとそこらに転がる怪我人片っ端から拾って集めて、逃げだした。
あんまりに大きくなっちまった所為か、魔族に追いつかれて結局ほとんど死んじまったんだ。滑稽だ。あそこで勇敢に闘って死んでりゃ、まだ格好もついたってんのにな。
もっとも格好なんぞは、今から付ければどうとでもなる。
ここもすぐ見つかるだろう。時間が無い。
無傷なのは、たった1人。馬もちょうど1頭だから丁度いい。
この手紙は逃げ足の速い馬鹿に持たせとく。何せ悪運ばかり強い奴だ。何とか無事に届くだろう。
あぁくそったれ。
ダミアン、幼いお前を残して俺は逝く。母さんはきっと泣くだろうが、お前が付いていてやれ。この馬鹿も泣いてばかりで頼りにならん。お前がしっかりするんだ。
そして逃げろ。遠くへ、遠くへ、東の果てに、クリファの都に、なにこの馬鹿は意外と頼りになるいいばかだ、たっしゃに
――推定聖光紀709年 宛先差出人不明
第四禁呪は第6勇者以降の成功例は無く、術式そのものの解析は完了したが、定着実験に尽く失敗している。
また戦時運用に難があることも鑑み、第四階層を解体を決定する。
第一禁呪、第二禁呪の広域魔法は解析が遅れているものの、定着の簡易性から優先するものとする。
第一階層、第二階層は解体した第四階層の人員を組み込み、一日も早い実用化を。
第三禁呪は術式の確立に成功し、定着実験を完了。安定化実験、運用実験を保留にし、リーフォニア迎撃戦に第7勇者として投入することと成った。
魔力子崩壊による光爆実験の成果を考慮したものである。
第三階層は今後も定着式の確立を優先せよ。
第五禁呪の蘇生式は未完であり一向に進展しないものの、連合より強い要望があるため、今後も解析を続けるものとする。
この乱世を治め得るは、我らが魔法のみ。
我ら皆、絶えぬ光の中に。
――聖光紀709年 フォカスの塔:導師リヒェンボルク・サールジェン
この手紙を見つけた者よ。貴殿は捜索隊か、術師か、まさか一般人ということはあるまい。
いや誰でも良い。これをクリファへと持っていってくれ。これは魔族を滅ぼすための黄金の鍵だ。
実験体の保管場所である第四階層にて私は異変に気付いた。人の悲鳴である。これはフォカスの塔にてさして珍しいものではない。ほとんどの人間はもはや気にも留めないだろう。
しかし私は気付き、いち早く一階にある管理部へと走った。五階層への立ち入りはかつて階層主任であった私とて、いや、現階層主任であろうと禁止されているからである。
五階層の隔離申請は遅々として承認されなかった。数値的なものではなく、私個人の勘過ぎないのだから無理もなかっただろう。
だが私は確信を持って進言したのだ。しかし導師リッヒェンボルグの判断は五階層へ確認に人を遣わせるという、最悪の目であり、また結果的に最高の目を引き当てたのだ。
第五禁呪は連合上層に巣食う貴族、醜い老害どもの慰みに過ぎなかった。塔にとっては金の成る木。大した人員を割いてなかったことだろう。
未完の蘇生術式。不死の可能性。
塔においても、導師と階層主任、そして五階層研究者のみが知る事実。
第五禁呪とは、しかして蘇生術式の事ではない。かつて妻を失った魔術師が残した呪い。
術者に記憶と経験、知識を刷り込む魔法なのだ。
いや、だった、という方が正確だろう。
これは私の推測に過ぎないが、度重なる臨床実験により転写魔法は、突発的な変異を起こし、妄執のみが残ったのではないだろうか。
この魔法は寄生魔法の一種だった。本来蘇生術式の研究へ興味を抱かせ、知識を与え、もしその術者が完成に至らなければ他者に術式を写す。
そう言った類のものだったのだろう。
しかしこの惨劇から鑑みるに、寄生型から感染型に変異したのだ。
術者は蘇生術式の研究という過程を飛ばし、他者へ術式その物を広めることに終始する。術者本人の意思は術式に蝕まれ狂人のそれである。
第五階層へ確認にいった者は帰ってきた。忌わしい狂人となって。
第四階層の実験体は瞬く間に感染し、第三階層、第二階層と流れ込んだ。魔術師は次々に狂人へとなり果てて行った。
私は事前に旧知の、元第四階層の研究者に非難するように呼び掛けた。4割は無事抜け出せたことと思う。
少なくとも一人、私の助手を外へ出した。閉じた世界を開く鍵を渡してある。
ようやくだ。
重要なことをここに記す。
感染者の中には、まったく魔力適正のない実験体もいた。その者も熟練の魔術師と同様に、第五禁呪を使うのである。
いかな経験、適正も無関係な凄まじい汎用性が推測される。
しかし問題はそんな事ではない。
四階層には魔族もいたのだ。戦場にて拿捕した検体である。
そしてその魔族は、魔力抵抗値を限界まで上げた個体であった。
狂い来る感染者の中にその魔族がいたのだ。
騒乱に乗じて、脱出を試みたのではない。
抵抗力だけで言えば、魔王にすら匹敵するよう調節された個体が、第五禁呪に感染し、他の狂人と何ら変わりなく術式を広めるだけの媒体になっていたのだ。
第五禁呪は毒だ。あるいは我々すらも滅ぼす猛毒かもしれない。しかし魔族を根絶やしにする妙薬たり得るかもしれない。
この手紙に第五禁呪も添付しておく。恐らくこの世界を帰結した際に、他の術者は生き残ってはいないだろう。私も含めて……。
第四禁呪の欠点は隔離空間の内側に術者がいなくてはいけないことか……。もはや使う者もいない魔法だというのに、考えてしまうのは私の未練か、魔術師としての性か。
だがこれで証明される。多くの犠牲を払った。幾つもの怨嗟を背負って、それでもなお魔族が許せなかった。
平和に仇なす忌わしい怪物どもを、これで根絶やしに出来るのだ。
やはり平和は成せる。私たちの英知が! 魔法が! 人類に平和をもたらす。
アダム。私の平和を嘲笑ったアダム。お前に見せてやれないのが残念でならない。
私は間違っていなかった。
許しは請わない。結果が証明するだろう。私の正当性を、私は世界を救う、その鍵となったのだ。
――聖光紀714年 実験体管理主任:マリエル・ヒルター
団長。あの日から10年以上経ちました。小娘で、泣いてばかりだったあたしももう20も半ばです
あたしは貴方のお陰で生かされました。
追いすがる魔族を、団長やみんながボロボロなのに闘って、喰いとめてくれたから、ここにある命です。
あたしを庇って怪我をした団長を、置いて逃げた事を後悔しています。
ダミアン君も奥さんも泣きました。すごく、すごく泣きました。でもあたしを責めてはくれないのです。
だから団長はあたしを恨んでいてください。許さないでください。
言われたとおり、クリファの都へお二人を連れて逃げました。
生活は大変で、お二人にも苦労をさせてしまいました。でも大丈夫です。あたしは頑張りました。
だからきっと、ちょっとはましな苦労だったと思います。
でもこれから、うんと大変なことになります。
その時、手紙を残せるかわからないので今書いてます。団長にはもう届かないのに、変ですね。でも書かせて下さい。
6年前、魔術師たちの塔が消える事件が起こってたそうです。当時はクリファもそれどころじゃなかったので、知らなかったのですが……。
でも去年その塔が忽然と現れたんです。それであたしは調査団の護衛に選ばれたんです。
あ、別にお二人を放っておいた訳じゃないんですよ? 冷戦もようやく安定した頃で、クリファの中も落ち着いてたんです。
なによりお給金が結構良くって……3人の食い扶持を女手で稼ぐのって、それはもうすんごい大変だったんです。だからちょっとだけ多目に見てください。
それで大切なのは、魔術師のリッチェル・ヒルターって人から聞いた話だったんです。
彼女とは道中で随分と仲良くなりまして、でも彼女……帰りはとても悲しそうな顔で、隠れ家をあたしに教えてくれたんです。
『きっと酷い戦争になる。今までよりずっと酷い、戦争なんて呼べないくらいの終わりが来るわ。だから貴女は出来るだけ多くの人をここに導いてあげて』
そう言って彼女とはそれきり会っていません。
しばらくして起こった冷戦を破る連合軍の大攻勢。あたしにも徴兵令が来ましたが、また逃げました。
あたしの命はもう国の為に使えないから、お二人の為に、団長の為に……。
一時期はお祭り騒ぎでした。これで戦争が終わる。これで平和になる。
でもリッチェルさんの言葉は事実になりました。大攻勢からしばらくすると、ちらほらと噂が聞こえるようになったんです。
伝染病。戦場の霊。魔王の呪い――。色んな噂がありましたが、共通するのは突然人が狂ってしまう。
そして半年前、ついにクリファでも狂人が出ました。次々に人が狂っていくんです。あれは地獄でした。人が人を殺して、焼いて燃やして……あの戦場です。
団長は言ってましたよね。そこが戦場なら、どんなものでも臭いがするって。
先日、国は人類総兵令と言うものを出しました。女も子供も戦場に引きづり出す気です。
こうも濃密な負け戦の臭いだと、あたしにだってわかります。
あたしは人を連れられるだけ連れて逃げます。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
団長に助けて貰った命だから、お二人の為だけに使うべきだって分かってるのに……すみません。あたしには見捨てられませんでした。
リッチェルさんの言っていた隠れ家は、以前に確認した限り、家なんて規模じゃなくて、とても大きなお屋敷でした。
きっと千人、いいえ、二千人は何とか入れるはずです。
でも出発する前にリッチェルさんを誘拐しに行きます。助けたいだけじゃなくて、きっとみんなが助かるにはあの人が必要だから……。
本当に身勝手ですね。でもこれだけは信じてください。あたしは奥さんとダミアン君を死なせはしません。
それにあたしがこうなのは、団長の教育の所為なんですから……後でうんと叱って下さい。でも、今は、今だけは――。
――聖光紀720年 宛先差出人不明
本当にすみませんでした。
以後このようなことが無いようにします。