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 魔王国史料―人魔大戦後期および、魔王イヴへの手紙―

 人魔大戦におけるプロローグとはグリフォニア和平会談、つまり建国より第一代魔王イヴが魔王城より姿を消すまでの事を指す。

 当然魔王失踪は波乱を呼んだ。また人間側の勇者なる者も同時期に失踪した為に、一層の混乱と疑心を両種族に与えることになった。

 会談も予定通りに執り行われるはずもなく、人魔大戦は苛烈を極めることになったのである。


 第二代魔王ルーシェン、第三代魔王ドミニアは魔王の側近であり、同郷の人魔族でもあった。何より和平派で、魔王の意思を引き継ぎ人魔共生を謳ったのだが、二代目は戴冠より半年で人間の奇襲にて崩御、三代目は戴冠した翌日魔王城内で惨殺されてるところを発見された。

 もはや魔王軍に歯止めは効かなくなっていた。国中が正義と報復を唱えた。魔王イヴの言葉により和平派だった者たちすらも、グリフォニアを越えよと声高に叫んでいた。


 第四代魔王アルフォード。強硬派でありながら魔王イヴに忠誠を誓っていた龍族の長である。

 魔王アルフォードによって行われた侵攻作戦は熾烈、また凄惨なものだった。多くの兵がグリフォニアにて散った。

 しかしこのグリフォニア侵攻戦にて築かれた道は、この後魔王軍が攻めいるに極めて重要なものとなったのである。

 同時に人間側領土には100万を優に越す大軍勢が待ち受けていたのであった。

 天険越えにて3割の兵を失った魔王軍は苦戦を強いられたが、撤退も停滞もすること無く人間に喰らいかかったのだ。

 この文字通り屍山血河を築いた激戦にて、魔王軍は初めて人間の領土への侵攻を成し遂げたのだった。

 だが流た血は何も人間の物だけではなかったのである。魔王軍はまたもその掲げる旗を失ったのだ。

 グリフォニア侵攻戦にて4代目魔王アルフォード、そして有力視されていた巨人族のサンジェルマンが戦死した。


 この時より我々魔族は、人間の使う魔法に恐怖するようになった。

 非力な人間。数こそ厄介であるが、個々の力において魔族に勝るものはほとんどいない筈だった。

 しかし人間が使う魔法はきわめて複雑なものであり、個体が有する魔力からは想像もできぬ効力を持つと判明したのである。

 人魔族のそれと、同種または劣性なものと思われていた人間の魔法であったが、アルフォード、サンジェルマンを失い、魔族は魔法を脅威だと認めざるを得ないのであった。


 人魔族主体での魔法解析と並列し、魔王軍の侵攻が始まった。

 グリフォニア攻略によって兵を失わずに行軍出来るようになってからは早かった。

 雪崩の様に押し込み、人間の町、村を問わず蹂躙し喰らい尽していった。

 しかし人間領土の半分を切った頃より、戦場にてたびたび著しく強力な魔法が確認されるようになった。

 人魔族の報告ではグリフォニア侵攻戦にてアルフォード、サンジェルマン両名に致命傷を負わせた物と下位互換であるとのことだった。

 火力こそ侵攻戦時よりも劣ってはいたが、恐るべきはその数であり、逆に押し込まれる戦線が出てくるようになった。

 魔王空席の所為もあり、魔王軍は統制を失いつつあったが、だからと言って人間に引けを取ることもなく、戦線では厳しい消耗があったが、時しばらくして実際に戦闘を行わない牽制戦が行われるようになった。

 これが人魔大戦における拮抗時である。

 これを魔王イヴの語った平和であると笑う者も多かった。



 痺れを切らした一部の者が少数で行動を起こしたことはあったが、10年間は戦闘が激化することはなかった。

 第五目が戴冠すると、魔王は内政に力を入れ、崩壊した魔王軍を立て直すことにその時を費やした。

 それは人間とて同じことだっただろう。

 しかし永遠に続くかと思われた長い拮抗は、容易く終わりを告げた。

 境界線の重大な要所の一つに敷いていた50万の軍勢が、一夜にして崩壊したのである。

 これを機に人間の大規模侵攻が始まることになった。

 

 また同時期に奇病が確認された。罹ったものは瞬く間に発狂し、敵味方の区別なく襲いかかるといったものだった。

 なによりこの奇病の脅威は感染力にあった。感染者に襲われたものもまた発狂し、別の者へ襲いかかる。

 人間の魔法の可能性を考慮し、感染者を本国へ移送し人魔族に解析をさせた。

 それこそが第五代魔王デンドロッサの大罪であり、愚王たる由縁なのである。


 結果的に人魔族はその血を断った。しかしそれだけに留まらず魔王国内にてこの奇病は猛威をふるい続けた。

 3年を待たずして魔王国は瓦解した。

 民なくして国あらず。一代目魔王の言葉は真実となった。民が皆死んだのだ。我々はもはや国で無く、私もまた王ではないのだ。

 これより我々は人間の首都へ総攻撃をかける。亡国の使途などとは言わぬ。有象無象に過ぎん。されど総玉砕の意志がある。これは不転退の進撃である。もはや止まる術など、我らにありはしないのだ。


                 魔王国史料編纂官 人魔族:デンドロッサ















 あぁ魔王イヴ。我が親愛なる魔王陛下。貴女の語る平和が私には信じ切れなかった。理解が及ばぬ人間のいる世界で、平和が築けるなどと到底思えないのです。

 貴女がいたとしても、あの日、あの和平を結べたとしても、我々の辿る末路はここだったのかもしれません。

 貴女の力と言葉があったなら、それはもっと遠い破滅だったのでしょう。少なくとも貴女がいる間は免れたのやもしれません。

 されど愚かなのです。人間も魔族も、私も。どうしようもなく、救いようのない愚者なのです。かくも許され難い暗愚なのです。

 どうか貴女の志を継げなかった私をお許しください。


                        第五代魔王:デンドロッサ



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