首都奪還後の後始末
被害らしい被害もなく、首都を奪還する事に成功したサウス辺境伯・アルブル王国連合軍は、首都を起点に反撃を始める為に首都の守りを固めていく。
その中、自分達よりも多い人質は全て武装解除されて、樹木魔法で作られた檻に入れられた。
手柄欲しさに同行してきた貴族や貴族の子弟や各国の将軍級の人物も多く、その人物達は特別丁重に扱われた。(ユリウス談:彼等はお金をくれるお客様だから)
食料などは押収した兵站で賄われていたので、こちらの腹は痛まず彼等は自分達の持ち込んだ食料や備品を、またお金を払って買っている。
そして人質交渉の為に一時的に停戦され、続々と高額身代金が払われていく。
その中で、フローラ姫も次の手を打つべく策を仕掛けていく。その様子を見ていたグレイとガリバーが、
「なぁ、ガリバーよ。最近のフローラちゃんは妙に貫禄というか、自信みたいなのを感じて堂々としているなぁ」
「いや、全くだ。若様の奥方様だけあってアリス様の若い頃を見ているみたいだな。仮にお前にもしもがあっても、サウス領は安泰だな」
「ああ、そうだな…………って、お前は自分が仕える主人の不幸を……親友よ。俺は悲しいぞ」
「泣き真似は止めろ。お前か泣くのは、アリス様との夫婦喧嘩したときだけだろ。それより若様はそろそろ着く頃合いじゃないか? そうしたら、三ヶ国同盟に打って出るんだろう?」
「ああ、そうだな。このアルブル王国周辺の平定はこれから起こる事の、最初の課題だからな失敗は出来ん。フローラちゃんの為でもあるしな。本当にバカ息子にはもったいない」
「そうは言うがな、若様はしっかりとしてるぞ。俺はお前の息子というだけの男に大事な娘を預ける程バカじゃない。若様の中にある芯に俺も惚れたのかもな」
「あの、バカ息子がなぁ。まあネメシアちゃんもフローラちゃんも良い子達だからな、不幸にしたら俺がぶっ飛ばすけどな」
「まあ、お義父様にガリバー様。御機嫌よう。このような場所でいかがなさいましたか?」
「ん? おお、フローラちゃん。未来の領地の話しをしてたんだよ」
「未来の領地ですか。私も楽しみです。ユリウス様がどのような形に治めてくれるのか。続きはあちらでお茶でも飲みながらお話しませんか? リラックス効果のあるハーブティーでも」
「おっ、いいね。んじゃ、そうしようか。なぁ、ガリバー」
「わかりました若奥様、ご同伴させてもらいます」
この日はよく晴れ渡り暖かく、緩やかな風が頬を撫でている。
新たに築かれた城のテラスから復興する街並みがよく見えた。人々は活気に満ちて笑い声がここまで聞こえてくる。フローラは『私が欲しかったこの光景』をいつまでも眺めていたいと思っていたがまずは、
「この度は、我がアルブル王国にご助力頂きありがとうございます。もしも、あの時ユリウス様とお会い出来なければ、このような光景を見る事は出来なかったと思います。本当にサウス領の皆様には感謝しかありませわんわ。」
深々と頭を下げて、なかなか顔を上げないフローラ姫に
「よしてくれよ、フローラちゃん。俺達はそんな仲じゃないだろ?だから……」
続きを言いかけてガリバーに止められた。
フローラ姫を見るとその目からは大粒な涙が止めどなく机の上に落ちて濡らしていく。
フローラ姫は今まで、自分の国を他国に蹂躙され続けた小国の姫という重責が……
いくら魔の森内に本当の首都があるからといっても何度も攻められた苦しみが……
攻められる度に逃げ続けないといけない悲しさが……
他国を追い払う度に復興する哀しさが……
犠牲を出さないようにと、小さい頃から頭を使い謀略を尽くしてきた努力が……
自分がいる為に他国に狙われている為に攻められ続けていた申し訳なさが……
そしていつまでも続く恐怖が……
全ての感情が涙となって流れてくる。フローラ姫も泣きたくて泣いているわけではないが、自分が嫁ぐ先の家族に優しくされて今までの想いが涙に変わりいつまでも流れてくる。顔を見られたくなくて頭を下げたままに。ただ、涙が流れる度に心の中に溜まっていた気持ちがほぐれていくようで、心地よさも感じていた。それと同時に机の上には湿った跡がたくさんできている。
そして頭を上げないだけでなく肩まで揺らし始めて、声に出して泣いていた。
グレイとガリバーは何も言えずただそこに居るしかなかった。
全てがこの小さな肩にのしかかってきていて日々の生活も辛く厳しかったはずだ。だけど、この子は笑顔を絶やさず国民の希望で有り続けた。グレイはこれまで、弱音を吐くフローラ姫を見たことはなかった。
その気高くも美しい少女は人々の笑い声が聞こえる中で、大きな声で泣いていた。国の驚異を取り除けたわけではないが今回の事はアルブル王国にとっても、大きな一歩でもある。小国であるアルブル王国が他国に勝てたのは始めてだった。
そしてこのフッとした瞬間に緊張の糸が切れてしまったのだった。
華麗に敵兵を罠にかけて欺く小さな姫はまだ十七歳の少女なのだ。
テラスから見えるアルブル王国の景色はきっとこれからも変わって行くだろう。それが良い景色になれるようにこれからも努力していこう……




