人が好きだった神様
昔々あるところに人間が大好きな神様がいました。
神様は人々の暮らしを見守りながら、ちょっとした加護を人々に与えていました。
そんな神様を人々は身近に感じ、日々感謝し作った作物を神様に捧げていました。
月日が経つにつれ、神様と人々の関係も変わっていきました。
我がよく過ごしていた土地に、ある時から人間が住み始めた。
人間とはどんなものかと見てみると、人々は様々な感情を持って暮らしていた。
人々の様々な感情や、人々がより良く暮らすために努力や工夫している姿がとても興味深かった。
興味深くて人間の様子を見るのが好きになった。
ある時から、人々が我を祀る祠を建て、日々の感謝を捧げてくれるようになった。
我はあまり強い神ではないが、ちょっとした加護を人々に与えるようになった。
例えば、狩りをする際に獲物に少しだけ遭遇しやすくなるとか、天候で木の実等が不作でも本来よりちょっとだけ多く採れるとか、その程度の加護。
ほんのりと良くなった暮らしに、人々はまた我に感謝してくれた。
嬉しかった。
月日が経ち、我を祀った祠は苔生し、人々の暮らしは道具が増え、動物を増やし育てたり、作物を育てて、安定した暮らしをするようになった。
人々は我に日々感謝し、年に何度か作った作物を捧げてくれた。
我はまた人々に加護を与えた。
育てる動物が少しだけ多く生まれ、育てる作物が少しだけ多く採れるように。
とても寒い年があった。
育てている動物も寒さで死んでしまい、作物も育たない。
人々は我に助けてくれと祈った。
済まない…我は劇的によくできるような強い力はない。
同じ加護を与え続けることしかできなかった。
人々が飢え、赤子も育たない、幼子も大人も空腹で死んでいく。
我ではどうにもできない。
ある時、人々が我の加護をもらう為にと、幼子を供物に捧げると言った。
我を祀る祠の前で、幼子を殺して捧げた。
「どうかこれで助けてくれ」と。
幼子は苦痛に歪んだ顔で死んでいた。
我の力は弱い…我の加護で人々を救うことは勿論、幼子を蘇らすこともできない。
加護を与え続けつつ、幼子の亡骸は弔ってやった。
人々は状況が良くならないことに供物が少ないのだと考えたらしい。
更に幼子を殺して捧げた。
「違う!我の力ではお前達を救うことはできない!命を捧げられても、どうにもできない!」
我の声は誰にも届かない。
その後も何度も幼子の命を捧げられた。
心が限界だった…人を食べれば、力が強くなるのか?
捧げられた人間を食べたが変わらない…後悔した。
人々は「やっと神様が受け取って下さった。これで状況が良くなる。」と喜んでいる。
寒い年が終わり、暖かさが戻ってきた。
人々は「神様が供物をもって祈りを叶えてくれた。」と歓喜した。
我は人間を食べてしまったことを悔やみ続けた。
月日が経ち、また寒い年があった。
人々はすぐに若い娘を供物として寄越した。
生きて捧げられたので、そのまま何もせずに返した。
その娘は神様が気に入らなかったのだと、役立たずと人々に殺された。
亡骸は川に投げ捨てられた。
可哀想に…
状況は良くならず、また若い娘が生贄として捧げられた。
我はすぐに受け取り、娘を食べた。
人々はこれで良くなると喜んでいた。
少しずつまた暖かさが戻り、良くなっていった。
それからも何か悪いことがあると、若い娘が生贄として捧げられた。
我はすぐに受け取り、食べるようになっていた。
良くならなければ、関係ないと分かってくれると思って。
人々は良くならないと、供物が足らないと考えるようになった。
悪い状況が続くと、どんどん生贄を捧げられる。
「違う!生贄は関係ない!!」我の声は誰にも届かない。
人間を食べるのが当たり前になっていた。
更に月日が経ち、人々の技術は進み、寒い年も飢えることなく暮らせるようになっていた。
我を祀る祠は朽ちてもう何の祠か分からない。
人々からも忘れ去られ、何も捧げられなくなった。
寂しい。
人々の暮らしを覗きに行った。
満ち足りた暮らしのようではあるが、あまり幸せそうではない。
幸せじゃないなら、また生贄を捧げてくれるだろうか?
生贄を捧げられたら、今度は一緒に過ごそう。
そうすれば寂しくない。
人々は我のことを全く知らない。
祠はもう等に朽ちて何も分からない。
寂しい…寂しい…
また人々の暮らしを覗いたら、赤子が生まれていた。
親が忙しいのか、親の関心が薄いのか、赤子は放置気味だ。
昔は赤子を無事に育てる為に、目など離さない親ばかりだったのに。
赤子が我を見たように感じた。
この子がいてくれたら、寂しくないんじゃないか?
親がいらないなら、我が赤子を連れて行っても構わないんじゃないか?
ああでも、赤子や幼子の育て方が分からない。
死なせてしまったら元も子もない。
ある程度成長したら、迎えに来よう。
少し経った。
大きくなったかな?
まだ幼子と言える年齢だ。
今までは赤子だったと思ったら、もう老人だったのに。
成長するのが待ち遠しいと、こんなに長く感じるものか。
また少し経ってから様子を見た。
かつて我に捧げられた供物の子と同じくらいの幼子だった。
その子の前に姿を現してみた。
見えていないようだが、何かは感じているようだ。
やっぱり彼女がいれば寂しくない。
早く大きくなって、早く我のものになってくれ。
少し経ってまた様子を見るとだいぶ成長した。
少女と成人の間くらいだろうか?
人間の男が彼女に秋波を送っている。
気に入らない、彼女は我のものだ。
男を縊り殺した。
彼女に近づく者、彼女を悲しませる者、彼女を我から奪おうとする者、全部許さない。
そろそろいいだろう。
彼女を迎えに行こう。
彼女の暮らす家に近づいた。
彼女の部屋に近づくと彼女の起きる気配がある。
ああやはり、彼女は見えないまでも我を認識している。
喜びと共に彼女の部屋を開けようとするが、開かない。
何らかの呪いか、我より強い別の神の守りか、部屋に入ることができない。
怒りのまま彼女の部屋の扉を開けようと回し、開かない扉を叩く。
「開けておくれ」
「迎えに来たよ」
「開けろ!!」
彼女は応えず、息を潜めている。
仕方ないからその日は帰ることにした。
数日後、彼女が家にいない時に扉が開いている彼女の部屋に入った。
何らかの呪いの気配がある。
呪いの元を壊した。
他の神の守りは無さそうだから、これで迎えに行けるはずだ。
夜にまた彼女を迎えに行った。
開けようとするが、彼女の部屋に入ることができない。
呪いの気配と、何か強い守りがある。
こじ開けようとしたが、やはり開かない。
彼女は我のものなのに、何故?
何度か彼女を迎えに行ったが、彼女を連れて行くことは叶わなかった。
手に入らないならば…殺して、魂だけ連れて行こう。
彼女を徐々に弱らせて死なせて、魂を手に入れよう。
思惑通り彼女は徐々に弱っていったが、我と比較にならない程強い神が気付いて我の力を弾いてしまった。
我の力も弱まって、神の力もあってしばらくは彼女に近づくことすらできない。
悔しい!悔しい!!あと少しだったのに!!!
彼女は別の神の力が残っているうちに逃げるように、土地を離れた。
我は土地に紐付く神だ。
土地を離れて彼女を連れ戻すことも探すこともままならない。
精々が彼女の夢を通じて会う程度だ。
力は戻ってきたが、どう探すべきか。
彼女をこの土地に戻らせればいい。
この土地に残っている彼女の家族が死ねば、一時的でも戻ってくるだろう。
とは言え、不審すぎるときっと彼女は来ない。
彼女の家族が死ぬのを待った。
彼女はその間に人間の男と結婚してしまった。
気に入らないが、子どもがいなければ彼女を連れて行っても問題ない。
悲しむかもしれないが、我が愛して彼女の心を満たしてやればいい。
我を寂しくさせる人間は嫌いだ。
彼女を奪った人間は嫌いだ。
何故嫌いな人間に加護を与える必要がある?
人間に加護なぞ与えるものか。
土地?どうなろうと関係ない。
むしろ土地がなくなれば、我は自由になれるのに。
ああ…早く、早く、戻っておいで。
彼女を我の元に、早くこさせておくれ。
彼女が死ぬまで待ってやってはどうか?
何故?もう長く待っているのに。
今は彼女の夢を通じてしか会えない。
愛してるから、早く我の元へ帰っておいで。
我から彼女を引き離した人間を赦さない。
赦さない赦さない赦さない赦さない赦さない。
人間なぞもうどうでもいい。
昔々あるところに人間が大好きな神様がいました。
土地の守り神である神様は、力は強くないものの、優しい心で人々を見守っていました。
神様は人々に寄り添うあまり、捧げられた人間を食べてしまい、心が壊れてしまいました。
時代と共に人々に忘れ去られた神様は、寂しくてしようがありません。
心が壊れた神様は、自身の守っていた土地も、見守っていたはずの人々も、もうどうでもよくなってしまいました。
土地も荒れ、実りは減り、人々もそんな地を離れていきます。
そして寂しさを紛らわす為だけに、人間を連れ去ろうとし、今度は殺してでも自身の傍に置こうとしました。
かつて人々を見守り、加護を与えていた、優しい神様はもうどこにもいません。




