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蟲の魔法使いは吸血鬼と恋をする  作者: 帯川 葬


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8/12

呪いと産声

 クレイン魔法学園。その入学試験の最終試合、土埃と血しぶきが舞うフィールドを観戦席から、静かにしかし真っすぐな瞳で見下ろす美しい少女。フィーの姿がそこにあった。

 そしてそんな美しい彫刻のような少女の横にスッと座る影。赤い髪をハーフツインに結った美しい少女。リンだ。


「大丈夫なの?あれ。」


 フィーからの返事はない。


「あの黒い強化魔法、もう使わないのかしら。それとも一度しか使えないとか?」


 リンの問いにフィーは少し間をおいて、ゆっくりと口を開く。


「多分、魔剣、使われてる。」

「魔剣~?はっ、ベルゴニア家がやりそうな手ね!卑怯だわ!!」

「でも、禁止じゃない。から、試合は止められない。」

「っぐ、はあ。どうすんの~このままだとあいつ、負けちゃうんじゃない?」


 つまらなさそうに顎杖をつくリンを一瞥してフィーは。

 一切変わらぬ真っすぐな目でルインを見つめて、


「大丈夫。ルイン、私より強いから。」

「はあ!?馬鹿言うんじゃないわよ!もし仮にその話が本当だとして、じゃあなんであんなに手こずってるのよ!!」

「だから、おかしい。あんな魔剣程度、ルインなら平気な、はず……。」

「あの~……。」


 眉をひそめたフィーに後ろからおどおどとした声がかかる。


「ん?」

「だれよ、あんた。」

「す、すいません……!自分、マグ・テレジアと言います!」


 フィーがその声の主を見やる。それは最終試験の一番初めの試合であっさり敗れた緑髪のおかっぱ少年だった。


「ふーん、それで?なんか用?」

「え、えっと、あれはルール的にいいんでしょうか。」


 マグが指さす先はコロッセオの中央。今まさにルインとシンが戦っているフィールドだ。


「何言ってんのよ。試験監督が武器は何でも使用可って言ってたじゃない。だからあいつの魔剣もセーフってわけ。」

「そ、それじゃなくて。僕が言ってるのは呪いの方です……。」

「なによそれ。」

「呪い?」


 それまで黙って話を聞いていたフィーがマグの告げた呪いという単語に反応する。


「は、はい……。彼、ルインくんから魔剣の力と重なって呪いの力が見えてるんです。」


 フィーはそれに驚愕し目を見開く。しかし、それと同時になるほど、と内心納得もしていた。


 聞いたこと、ある。呪いは魔法と反対にある、黒い力……。フィーもルインも分からなかったのは多分、そのせい……。


「呪いって……じゃあ、あいつは魔剣の力と呪いの両方を受けてるってこと!?────っていうか何であんたはそんなの分かるのよ!!」

「あ、あはは……。僕の眼はちょっと特殊でして……。それよりいいんですか?あのままで。」

「いいわけないじゃない!!ほら行くわよ!!」


 リンは立ち上がりフィーの腕を引く。


「あんたも!!」

「ええ!?僕もですか!?」

「当り前じゃない!!呪いを受けてる人が分かるなら呪ってるやつも分かるんでしょ!!」

「わ、分かりましたよ~……。」


 そうしてコロッセオの観戦席を立ち走り出した三人。そして、その三人を見下ろす影がいることには誰も気が付かなかったのもまた────。


 ◇


「はあ────、はあ────、ゲホッ……。」


 絶え間なく滴る血と汗。荒くなる呼吸を必死に抑え込むようにルインは膝を抱えるが、それを妨げるのはやはり────


「ほら!どうしたどうしたぁ!!ギブアップかなぁ!?」


 眼前に雷のごとく迫ったシンは腕を振り上げてルインの身体を真っ二つに裂かんと、勢いそのままに魔剣を振り下ろした。


「っちぃ!!」


 ルインはその一撃をくるりと舞うように回転しシンの背後に回り回避。そしてシンの背後を捉えたルインは、回転そのままに左手に持ったハルパーをシンの背中目掛けて薙いだ。


「ふっ!!!」

「読めてんだよっ!!雷光矢(サンダーアロー)!!」


 響くシンの詠唱。ルインの背筋に怖気が奔る。


 魔法!!後ろっ────!いや、()()()か!!


 瞬時に魔法を察知し、ルインが振り向いた先。宙に浮いた煌々と光るいくつもの雷の矢が、バチバチと音を立ててルインを捉えていた。

 その光景にルインは目を見開く。だがそんなことはお構いなし。雷の矢がブンッと風切り、全方位から放たれた。


「くそっ!!」


 まさに間一髪。ルインはギリギリで後方へ跳躍し矢を避ける。


 過度な運動に序盤に食らった傷の痛みがズキズキと加速する。


「ふんっ、今のでやったと思ったが、なかなかやるようだね。」


 肩で息をするルインを見やったシンは嘲るような笑みを浮かべる。ルインはそれを無視し、静かに歯噛みする。


 どうする────ッ!

 相変わらず魔力回路はバグってて魔法は使えない。このまま持久戦に持ち込んでも先に体力が尽きるのは間違いなく、俺。

 隙を見て反撃に出ようにも、そもそもの俊敏性(スピード)膂力(パワー)が圧倒的に足りない。

 なにより────。血が、出血がひどい。胸の傷からの血が一向に止まらねぇ。正直、意識を繋ぐので手一杯だ。


 ルインはチラリとシンを見やる。余裕しゃくしゃくでこちらの動きをまつシンにルインは思案する。


 アレを使うか……?アレなら魔法じゃないから多分、使える……。いや────やっぱり、それはダメだ。


 ルインの頭に流れるのはやはりあの血に染まった記憶。


「おそいよ~。こっちからアタックしないといけないなんて君はまったく────シャイだなっ!!」


 伸びて広がった残像を残したその雷は、ルインへ向かって一直線に突撃。


 ガギィン!!


 シンの渾身の突きをハルパーの柄で器用に防いだルイン。だが、


「一辺倒!!」

「がはっ……!!!」


 それを読んでいたシンはキンッと剣を突き上げ、がら空きになったルインのみぞおちめがけて前蹴り。


 吹き飛ばされたルインは闘技場の壁に激突。

 パラパラと瓦礫のクズが舞う。

 ルインは瓦礫に背中を預けた状態でぐったりと前かがみになり、ついにはピクリとも動かなくなってしまった。


 アバラ、何本か折れてるな。もう、指の先一本も動かない。身体の感覚がなくなってきた。ああ、つらい。しんどい。痛い。苦しい。────投げ出したいな。


 もう────いいか。


「トドメだ。」


 シンが魔剣をルインめがけて振り下ろす、その刹那。


 ドクンッ────


 闘技場の、いや。世界の空気が胎動した。

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