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蟲の魔法使いは吸血鬼と恋をする  作者: 帯川 葬


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7/12

イレギュラー

 最終試合前・西側控え室────


「────以上です。理解できましたか?」


 一つの背の高い影が問う。

 答えるのはそれより一回り小さい影。


「ふっ、どうやらあなたも必死なようだ。分かりました、確実に勝てるなら文句はありませんよ。」


 その言葉に納得したように背の高い影はにやりと笑う。


「必死ですか、そうかもしれませんね。」


 その影は続けて、


「この最終試験での死亡はすべて事故として扱われます。ですので存分にお願いしますよ。」


 その言葉に小さい影もニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「ええもちろん。私もあいつに恨みがありますから。」


 ◇


 同じく最終試合前・東側控え室────。

 長椅子が一つぽつんと置かれた白塗りの部屋にルインとフィーの姿があった。


「武器、これでいいの?」

「ああ十分だ。」


 ルインがブンッと腕を振る。その手に握られているのは血を編んだような朱色のハルパー。


「にしても便利だな吸血鬼。武器まで錬成できるとは。」

「あさめしまえ。」


 相変わらずの無表情で胸を張るフィーを一瞥してルインはつぶやく。


「あいつは絶対何か仕掛けてくる。もしかしたらお前も狙われるかもしれない。その……いらん気づかいかもしれないけど、まあ……気を付けろ、な。」


 吸血鬼だから分かる血の動き。赤らんだ頬を隠すためそっぽを向くルインにフィーは。

 意外にもルインは自分を気にかけているのだと驚き目を見開いて、しかしすぐに母のような優しい微笑みを送り、


「フィーは心配いらない。だから、ルインは試験にしゅうちゅう、ね?」

「……行ってくる。」


 相槌はない。ルインは無愛想に控室を出ていく。

 それを送り出すフィーが見たルインの表情にはどこか安堵したような笑みが浮かんでいた。


 ◇


「これより最終試合を開始する!!!両者前へ!!」


 夜の闇と星の光が共存する空の下でガレイルの声が響く。朝方から始まった入学試験は夜まで続き、残る試合はルインとシンの一戦のみとなった。


「なんだか君とは久しぶりな気がするよ。どうだい?僕に謝罪する気にはなったかな?」

「いいや。」


 ルインの返しにシンはつまらなそうに眼を細める。


「……そうかい。なあ、一つ賭けをしないか?」

「しねぇよ。」

「まあ聞きなよ。賭けの内容はこうだ。この勝負、僕が勝ったら君の隣にいた美しい少女を置いてこの学園の入学を辞退してもらう。そうだ!土下座で謝罪もつけよう!『僕が間違ってました申し訳ありませんでしたシン様~!』とね!!」


 興奮しているのかそうまくし立てるシンに、ルインは大きなため息をつく。


「はあ、話になんねぇな。」

「おいおい、賭けだといったろう?君のチップは僕が決めてしまったからね。僕のチップは君が決めたまえ。」


 こいつ、俺を完全に舐めてるな。絶対的な自信からか、もしくは────。


 ルインは内心ため息をつき、シンに向かって指を立てる。


「それなら、お前のチップも同じだ。俺に土下座で謝罪して入学辞退しろ。そうだ、お前が身に着けてるその目に悪そうな鎧と服を置いていってもらおう。」


 言い放ったルインの提示するチップの内容に、シンは吹き出し高笑いする。


「っぷ、ははははははは!!!分かった!どうせ無意味だが覚えといてやるよ!!」

「賭け成立だな。」


 かかったなとばかりにルインは二ヤリと笑う。


「話は済んだようだな。始めるぞ。」


 それまで待機していたガレイルが開始を促す。それに両者は頷いて答えた。


「両者距離を取って。」


 ガレイルの指示に無言で従う二人。


「いい試合をしよう。」


 シンが剣を構える。一方のルインはまだハルパーを下したまま。


「……そうだな。」

「両者見合って。では────開始!!!!!!!!」


 最終試合のゴングが鳴る。先に仕掛けたのはルイン。足に黒い魔力が纏い始め、


「強化魔法≪黒き弾丸(シュバルツ・クーゲル)≫」


 詠唱一つ、同時に黒い彗星が土を巻き上げてシンに激突。しかしガギィン!と甲高い音を立ててその彗星の一撃はシンの剣によって防がれてしまった。


「っ!!!!!!!!!」

「ふっ、ははっ!初撃ぃ防いだぞ!!」


 シンは攻撃を防いだことがよほど嬉しいのか、高笑いしてルインを煽る。

 しかしシンの表情には余裕がなく攻撃を防いだのでやっとという様子。


 一方ルインは自分の攻撃が防がれたことに最初こそ驚いたもののすぐに冷静に分析を始める。


 魔力増強剤と……着てる鎧は魔道具か。対策されているな。初撃を防げば勝てるとか助言を受けたみたいだが、まだ甘い。


 ルインはハルパーを一気に上に持ち上げ、つばぜり合いをキャンセル。


「何安心してんだ?」

「なっ!!!!!」


 強化魔法を脚から全身へ巡らせる。続いて上に掲げたハルパーを両手で持ち直し、振り下ろす。

 シンが見上げるその黒い影から隕石よりも恐ろしい強力な一撃が上から放たれる────はずだった。


「っ!?」


 拭えない違和感にルインの手が止まる。

 その様子にシンはにやりと不敵な笑みを浮かべ、


「おらぁ!!!!!!!!」


 ルインのみぞおちめがけて蹴りを入れた。


「っぐ!!!」


 ルインはその一撃に顔を歪ませ後ろに跳躍。一旦距離を取って考える。


 なんだ……これ、魔力が上手く操作出来ない……!身体干渉系の魔法────?いや、そんな搦め手をもっているようには思えない。だとすれば────


「それか……!」


 ルインが睨む先、そこにあるのはシンの握る青空のような水色の刀身を持つ長剣。


「なんだ?気づくのが早いな。そうだよ、お前が魔法を使えない理由はこいつだ。」


 シンが得意げに剣をプラプラと振る。


 鎧だけじゃなく剣も魔道具か……。効果はおそらく魔力回路を乱すものだな。


 しかし、とルインは思う。


 魔剣が起こす程度の乱れで俺が魔法を使えなくなるか?


 曲がりなりにもルインは魔法使いの最高峰である魔女から教育を受けた子供。その辺の貴族が持っている程度の魔剣の能力などでは干渉すらできない、はずだった。


「どうした、考え込んで。」


 シンは黙りこくるルインを見て楽しそうにニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべる。


「来ないのか?なら────こっちから行ってやるよ!!!雷電脚(ボルトスター)!!」

「っ!!!!!」


 痺れを切らしたシンは足にバチバチと鳴る雷を纏いルインに襲い掛かる。その魔法はルインの強化魔法には圧倒的に劣るものの、強化魔法を使えずハルパーで受けるしかないルインにとってそれはあまりにも効果的だった。


 バンッとけたたましい音の後、剣同士がギリギリと音を立てて拮抗する。腕の痛みにルインの表情が歪む。

 先ほどと立場が逆転し今度はルインがシンの剣を防ぐので手一杯な状況。


 このままだとまずいな……!立て直しだ!!


 ルインはすぐさま剣を振り上げ、後ろに跳躍。

 しかしそれを逃がすほどやさしい相手ではない。シンは依然として雷を足に纏ったままの脚で迅雷のごとく一呼吸のうちにルインの懐に入る。


「甘いねぇ!!」


懐に入ったシンがルインを捉え、左脇から右肩にかけてを薙ぎ切る。走る雷光と共に宙に血飛沫が舞った。


「くっ!!!」

「ぎゃはは!!」


 焼けるような痛みがルインの身体を這う。嫌な汗と鮮血が際限なく流れる中ルインは心で叫ぶ。


 なんだ……何が……原因なんだ!!

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