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蟲の魔法使いは吸血鬼と恋をする  作者: 帯川 葬


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6/12

次元が違う。

「いよいよ最後の試験だ。その内容は────受験生同士での1on1!!」


 ガレイルの咆哮が鳴り響くその場所はコロッセオと似た作りの広い闘技場。その中心部に集められたルインたち受験生は最後の試験という名目に緊張を露わにしていた。


「これよりこのフィールド内での魔法および武器の使用を許可する。どれだけ強大な技を使ってもいい。それらに耐えうる結界が張られているから被害の心配はない、存分にやりたまえ。マッチアップは以下の通りだ。」


 魔道具で宙に映し出されたのは各受験生の対戦カードだ。何行にも連なった対戦カード、その中からルインは自分の名前を探し始めた。


 俺の名前は……あった。最後の行に書かれてあるってことは大トリってことか。対戦相手は────シン・ベルゴニア!?


「最悪だ……。」


 また変に目をつけられて面倒くさいことに巻き込まれるにきまってる。ついさっき面倒なのに絡まれたばかりだってのに。


 ルインが思い出すのはあの剣術試験の試験官。ルインが強化魔法を使ったことに大変お怒りだったあの試験官だ。


「ルイン、かわいそ。」

「そういうお前はどうなんだよ。」

「ん、リン・エルリエってひと。」

「そりゃあまた……なんつーか、ラッキーだったな。」

「らっき~。」


 リン・エルリエ。魔法試験で中級以上の炎魔法を使いゴーレムごと消し炭にしてしまった天才────と。しかしそれはその光景を見ていた”受験生だけ”の話。魔法の頂点に最も近い存在と言っても過言ではない、魔女に育てられたルインや人族(ヒューマン)とは比べ物にならない身体能力と魔法の才を持ったフィーの前ではあれはただの”普通以下”に過ぎなかった。


「それでは────第一試合を開始する!!」


 コロッセオ中にガレイルの声が響く。第一試合のカードは緑髪のおかっぱの少年だ。最強の魔法使いになりたいと豪語した彼の実力はいかほどか、と関心を示していたルインだが、その思いはすぐに失望へと変わった。


「あひぃん!!」

「試合終了!!勝者────アード・ボースター!!!」


 あまりにあっけない、一瞬の出来事。おかっぱの少年と相対する受験生が小手調べとばかりに打った水魔法、それがおかっぱの少年にクリーンヒットしたのだ。


 水魔法を放たれたおかっぱの少年はそれを避けもせず、あたふたと焦りながら乱暴に杖を振るばかりで結果、一撃でダウンと。


「あいつ……魔法使えないのか?」

「そう、みたい。」


 すっかり興味の失せたルインはトボトボとフィールドから出ていくおかっぱの少年の背中を目で追う。


 あの様子じゃ魔法試験もさっぱりだったんだろう、俺と同じで。あれは落ちたな。


 明日は我が身。きたる試合の時に備え、ルインは再び気を引き締めた。


 その後、着々と試合が進んでいきついにフィーの名前が呼ばれる。


「次!!フィー・アーデンベルク!!リン・エルリエ!!前へ!!」

「ん、行ってくる。」

「ほどほどにな。」


 ルインを一瞥した後、フィーは悠然と階段を下りていく。


「各々、武器はよろしいですか?」


 フィールドに上がったフィーとリン。お互い魔法での勝負を望むのか手には何も握られていない。


「ん。」

「はい。」


 つまらなそうにフィーが返事を送った後、続くようにリンが睨みを聞かせて答えた。


「では────はじめ!!!!」

火炎槍(ファイアランス)!!!」


 開始の合図とともに放たれたリンの速攻。しかしフィーはそれをヒョイと軽く跳躍して避ける。


「やるわね。ならこれはどう!!炎縛の鎖(チェインイグニス)!!!」


 直後、炎で象られた無数の鎖が宙に浮いたフィーを拘束。続いて、


火炎矢(ファイアーアロー)!!!」


 何本もの火炎の矢が空気を切り裂いて一直線にフィーに向かう。拘束され身動きは不可能、火炎の鎖で焼かれるひ弱な体と迫りくる無限の矢。もはや絶体絶命かに思われたその時、パキンッとフィーに迫っていたはずの矢が彼女の目と鼻の先で割れた。


「なっ!!どういうこと!?」

「はんげき、かいし。」


 そうつぶやいたフィーの周りに血を編んだような深い赤の魔力が螺旋を描いて漂い始める。

 するとまた、パキンッとガラスにヒビが入ったような音と共に火炎の鎖が一つ、また一つと消失し始めやがてフィーを拘束していたはずの鎖は無くなっていた。


 宙に浮遊したままフィーがリンに向かって手をかざす。

 すると螺旋を描いていた深紅の魔力はその手に収束。のちに一つの点となり────。


「ごー。」


 無機質などす黒い光線となってリンに向かって放たれた。


「なに、それ────」


 リンは迫りくる血の閃光に唖然とし、立ち尽くしてしまう。


 避けられない、速すぎる。このままじゃ直撃────。


 死を悟ったリン。しかしその瞬間リンの身体が黒い影に連れ去られる。


「ほどほどにって言ったってのにあいつは……。」


 リンを抱え愚痴をこぼすのはルインだ。強化魔法を纏った黒い脚で跳躍しリンを両手で抱きかかえていた。


 はっと我に返ったリンは自分を抱きかかえるルインに動揺し怒鳴り声を上げる。


「何が起こって────って、あんた誰よ!!」

「助けてやったんだよ!!暴れんな!!」


 リンがルインに威嚇を送った後、先ほどまで自分が立っていた場所を見やる。

 だが、そこにあったのは大規模魔法によって抉れて焦げ付いた地面だけ。


 上級魔法?いやそれ以上かもしれない。もう、分からない。何もかもが分からない。理解できることがあるとすればそれは────次元が違う。ただ、それだけ。


「フィーやりすぎだ。」


 地面に降り立ったルインは同じく地面でぼーっと抉れたフィールドを眺めているフィーを叱る。


「ごめん。やりすぎ、た。あなたもごめん、ね?」


 フィーはルインから降りたリンに上目遣いを送る。悪魔すら虜にする天使のような彼女の瞳にリンは一瞬たじろいだ。


「い、いや────じゃなくて!なによあの魔法!!上級じゃないわよね!?」

「わかんない。昔ばあやに教えてもらった、まほう。」


 すまし顔で言い放ったフィーにリンは頭を抱える。


「昔って……はあ、もういいわ。私の負けよ。」

「リン・エルリエの降参を確認!!勝者────フィー・アーデンベルク!!」

「ぶい。」

「お前な……。」


 試験官の試合終了の合図を聞いたフィーは先ほどまでのことがなかったように感情のない顔でぶいサインを作る。それにルインはほとほと呆れかえった。

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