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蟲の魔法使いは吸血鬼と恋をする  作者: 帯川 葬


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5/12

最強の魔法使い

「次は剣術試験だ!お前たちにはそこにいる試験官と剣で戦ってもらう!」


 青い芝生の上、腕を組んで声高々と宣言するのは試験監督であるガレイルだ。魔法試験が終わり集められた先は広い校庭、その校庭には先ほどと同じように受験生の列と複数人の試験官、そして試験監督のガレイルの姿があった。


「魔法学園なのになんで剣術の試験があるんですか?」


 一つの質問が受験生の中から飛ぶ。


「うむ、しかしそれを答える前に一つ、お前たちに問いたい。お前たちが憧れ渇望する魔法使いとはなんだ?」


 ガレイルの唐突な質問に一同は戸惑いつつもぽつりぽつりと答え始める。『聡明な魔法使い』、『人々を豊かにする魔法を発明する魔法使い』、『人から尊敬を得る魔法使い』など口にする中で一人、ルインの右前にいる緑色のおかっぱ髪の少年が決然と口にした言葉に場が静まり返った。


「最強の魔法使いです。」


 ”最強になりたい”そう、この一言に尽きるのだ。どんなに綺麗ごとを並べてもこれだけは覆ることはない”本音”なのだから。おかっぱの少年の一言ににやりと笑みを浮かべたガレイルは声を張り上げる。


「そうっ!!お前たちが目指す先は決まっている!!世界最強の魔法使いだ!!そのためには剣の扱いにもなれておく必要がある!剣を使う相手の動きをおおよそ把握することができるからな!!」


 ガレイルの喝にみなの瞳に灯がともる。まだ、試験は終わっていない────と。


「もう質問はないようだな。では────始めぇい!!」


 息をつく暇もなく試験開始の合図がかかり、前に並ぶ受験生たちが一斉に試験官に打ち込み始める。しかし、その剣筋はひどいもので試験官になんなくいなされてしまっていた。


 その光景にフィーの前に並ぶルインは内心ため息をつく。


 こうなるのも当然だ。ここにいる連中は皆魔法使いになるために学んできたやつら。剣の修行なんてやっていないのが普通なんだから。とゆうか────


「なあフィー、お前魔法試験はどうだったんだ?」

「よゆう、ぶい」


 フィーより先に試験場を出たルインの問いにフィーはけだるげな表情のままブイサインを作った。


「ま、吸血鬼だもんなお前。」


 吸血鬼。身体だけじゃなく魔法の技術にも長けた種族だ、魔法試験なんてお手の物だろう。


「ん、でも……。」


 フィーは不安げにルインを見上げる。フィーの言わんとする言葉を察したルインは俯いて答える。


「ああ、俺は属性魔法が使えない。使えるのは強化魔法と……この呪いの力だけだ。」


 ルインは手の平に具現化した一頭の蒼く光る蝶を忌々しそうに眺める。

 しかしそれとは対照的に幻想的な光景を見るような瞳で蝶を眺めるフィーはぽつりとつぶやく。


「ルインのそれ、好き。」

「どうしてだ?」

「だって、助けてくれた、でしょ?」


 思い出すのはフィーを大クマから助けた記憶。思えばあそこから始まったんだ。


「そうか、そうだったな。」


 ”呪いの力”────己に宿る力をそう称したルイン。しかし思いがけずその力を好きと言ってくれたフィーにルインの頬が緩んだ。


「次!!ルイン・アーデンベルク!!」


 ルインの名前が呼ばれる。


「はい。」


 前に出て試験官と向き合ったルインは腰に差した剣を見る。


「安心しろ。これは模造剣だから死ぬことはない。まあもっとも?私に一撃すら食らわせることはできないだろうがね。」


 ルインを完全に舐め切っている試験官は剣をプラプラと振って煽ってみせる。しかしルインはそれに反応することなく静かに剣を抜いた。


「ふん、準備はいいみたいだな。では────来なさい。」


 ルインは無言で試験官を見やる。


「≪黒き弾丸(シュバルツ・クーゲル)≫」


 開始の合図は独り言のように小さく呟かれたルインの詠唱。その刹那、強化魔法を帯びたその黒い彗星は無防備な試験官の胴体を、貫いた。


「は?」


 黒い影を残し目の前からルインが消えたことに動揺する試験官。しかしそれも束の間、突如として体に鈍痛が奔り訳も分からないまま地面に突っ伏していた。

 地面に倒れ込み、理解が及ばない中試験官は魔力の気配をルインから感じ取った。


「意外とあっさりだったな。」

「ひ、卑怯だぞ……強化魔法なんて……!」


 ふうと一呼吸するルインに試験官は訴えた。


「卑怯?魔法が使用禁止なんて言われていませんが。」

「当たり前すぎて言わなかっただけだろ!!そのくらい理解しろ!!」

「やめろ見苦しい!」


 熱くなって怒声を響かせる試験官に異変を察知したガレイルが叱責する。


「私が魔法を禁止しなかったのはわざとだ。強化魔法による剣術の強化、これもひとつの魔法使いの在り方だからな。分かったら次の試験を続けなさい。」

「……はい。」


 叱責された試験官は悔しそうに歯を食いしばって起き上がった後、ルインに鋭い睨みを飛ばした。


 俺のせいかよ……。


「次、フィー・アーデンベルク来なさい。」

「ん。」


 名前を呼ばれたフィーは慣れた手つきで剣を抜いた。


「へぇ。」


 清廉された構え、普段のだらけた姿からは考えられないほどにスラリと伸びた背筋に獲物だけを映した真っすぐな瞳。ルインはその立ち姿を見ただけで感嘆の声を漏らした。


「お前、そこのやつの妹か何かか?」

「どうして?」

「苗字が一緒だ。」

「……そっか、そう言えばそうだった。」


 実は、フィーは自分のファミリーネームを思い出せないようだった。そのためフィーにはルインと同じアーデンベルクと名乗らせていた。


「まあいい、あいつの家族なら痛い目を見せてやる。覚悟しろよ?」

「ん、よく分かんないけど、いつでもいい。」

「では、きなさい!!」


 試験官は開始の合図とともに剣を前に出して防御の姿勢をとる。


 あいつと同じ流派の人間なら初段さえ(かわ)してしまえば隙が生まれるはず!ははっ!!見切ったぞ!!私に恥をかかせたことを後悔するがいい────


 ガギィンッ!!


「な……に……。」


 鈍い金属音と共に試験官に襲ったのは覚えのある激しい痛み。それに耐えきれずドサッと倒れた試験官の目の前に真っ二つに折れた模造剣が地面に突き刺さった。


 構えた剣ごと貫いた、だと……。どれだけの怪力なんだこの娘……。


「ん、おわり。」


 フィーは任務終了とばかりに涼しい顔でルインのもとへ帰る。


「お疲れさん。やっぱすげぇな吸血鬼は。」

「ぶい。」


 掛け合うフィーとルイン。その一方で地面に突っ伏したままの試験官は恨みのこもった瞳で二人を睨み続けていた。


「おのれ……覚えていろ……!」


 ◇

 剣術の試験が終わり、通されたのは教室のような空間。そこでは学科試験が二人を待っておりみっちり4時間、テストを受けたのだった。


「フィー、どうだった?」

「ん、なんて書いてあるかわかんなかったから白紙でだした。」

「……まじか。」

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