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蟲の魔法使いは吸血鬼と恋をする  作者: 帯川 葬


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血の記憶

「あの少年、果たして大丈夫なのか?」


魔女の傍に浮いた交信魔法の魔法陣。そこから低い男の声が聞こえる。


「なにがだ?」


魔女は細めた眼で新聞を読みながら答えた。


「隠すなよ。()()()唯一の残り、使う魔法も異様。そして私が思うに彼は■■■■■■■■だろう。」


途中、音声が乱れたが魔女は言わんとしたことを察して。しかしふっと、笑みを浮かべた魔女は、


「大丈夫さ。なんたって私の教え子なんだ。上手くやるさ。」


自慢げにそう言い放った。


「……そうか、実に楽しみだよ。」


魔女の言葉に魔法陣の主はそれだけ言ってぷつりと通信を切った。


その音を聞いた魔女はふう、と天を仰ぎ、内心でつぶやく。


上手くやれよ。ルイン。と



 場所はクレイン魔法学園が保有する広大な敷地の一角、魔法試験場。屋内に設置されたその区画は、クリーム色の石造りのレンガに覆われておりどれだけ強力な魔法を撃ったとしても破壊が外部に及ばないよう結界が張られている。手前には柵が設けられ、その先に見えるのは何体も整列しているゴーレム。

 ルインたちクレイン魔法学園の受験者たちは荷物を預けたのち、多くの試験官が並んだ列に集められていた。


「第一試験は魔法の練度を試す的当てだ。君たちには30メートル先に設置したゴーレムめがけて魔法を打ってもらう。使用する魔法に制限はない、炎魔法、水魔法なんでも好きなように使いたまえ。」


 試験監督を務めるガレイルが第一試験の説明を終えると会場内がざわつく。みなが口々につぶやくその内容はつまり一つだった。


 そんなの無理だ────と。


「君たちの言いたいことは分かる。魔法で30メートル先の的を狙うことは中級の魔法使いに求められる技術だといいたいんだろう?」


 ガレイルの問いかけにみなが押し黙る。それを肯定と捉えたガレイルは続ける。


「忘れたのかお前たち。ここは魔法学園、将来有望な魔法使いを育て、ゆくゆくは世界を動かすほどの魔法使いを生むための場所。そんな心構えでは合格など到底不可能、夢のまた夢だ。」


 そう言い放ったガレイルに一同は茫然自失として立ち尽くすばかり。その中には試験開始前、ルインに必要に絡んでいたシンの姿もあった。


「さすが……クレイン様の学園なだけあるね、最初からこれほどの試練を与えてくるとは……。」


 顎に伝った汗を拭い緊張気味にこぼすシン。

 そんな緊迫した雰囲気の中でルインの目の前から手が挙がった。


「質問です。あそこのゴーレムは壊してしまっても構いませんか?」


 ルインの前で美しい真紅の髪が揺れる。

 その少女は他とは違い緊張する様子はなく、毅然とした態度で挙手をしていた。

 少女の問いにガレイルはうむと頷いて答える。


「かまわん。今出せる全力で臨みなさい。」

「分かりました。」


 少女の手が下がるのを見届けるとガレイルは口元に拡声魔法を施した魔法陣を出現させ、吠える。


「ではこれより────第一試験を始める!!!!!」


 合図がかかり、列の先頭にいる受験生たちが一斉に魔法を放ち始める。火の球、氷の槍、光の矢まで多種多様な魔法が30メートル先のゴーレムに放たれる。しかしそのどれもがあらぬ方向へ飛んで行ったり、命中はしたが破壊力が伴っていなかったりと魔女の使う魔法に慣れていたルインにとってはひどい有様としか言えなかった。しかし────当の本人は額に汗をかいて、その面は他の受験生と同じ、いやそれ以上に緊張しているようだった。


 ────これは……まずいな。


「ルイン、どうかした?」


 ルインの様子がおかしいことに気づいたフィーが裾を引く。


「いや……なんでもねぇよ。」

「……ん。」


 ルインの返事を聞いたフィーは後味が悪そうに前に向き直った。


「見ていたまえよ君たち!!僕の美しき魔法を、ね!!」


 シンの声が会場に響く。


「おい、でるぞベルゴニア家の雷魔法が……!」

「あの雷魔法の家系のか!?だからあんなに自信があるのか!」


 意外にも会場の声はシンを後押しするもので、その中には尊敬の念すら感じる声もあった。


 あいつ……そんなすごかったのか?そんな風には見えなかったけど。


「いくよ!!雷光槍(サンダーランス)!!!」


 詠唱と同時、宙に現れたイナズマが長い槍を形作りそして、彗星のような速度でゴーレムめがけて飛んだ。


 ドガッ!!


 低空で直線を描いて飛んだその槍はゴーレムの腕部分を削ってみせた。


「ふんっ!!どうだみたか!!中級にも届く俺の魔法!!!」


 どよめく会場。感嘆の声の声が次々と聞こえてシンはそれに満足したのか大股で会場を出ていった。


「次!リン・エルリエ!!」

「はい。」


 シンが会場を出た後、その名が呼ばれたとき会場はまたどよめきに包まれた。


「エルリエってさ……。」

「ああ、伯爵家の先代を殺した家だよ。最低だよな。」

「帰れよー!!」


 先ほどとは全く違う。軽蔑や侮蔑、怒りまでもが渦巻く空間に一人、それらの感情を一身に受けてなお、強く燃える瞳で前に出る少女の姿があった。

 真紅に輝く長い髪を風に靡かせ、前を向くその凜とした姿は王の気品すら思わせる。

 少女は位置に着くとペンダントをぎゅっと握りしめて小さくつぶやいた。


「待っててね、アンナ。もうすぐだから……!」


 少女は瞑っていた目をキッと見開く。


火炎矢(ファイアーアロー)!!!」


 空中に炎がユラリと動く。まるで舞いのような動き。それが変化し、やがて一本の矢と化した炎はゴーレムに向かって飛んでいった。


 バガーーーンッ!!!


 鼓膜を揺らす破壊音、舞う火の粉。土埃が止み、そこにあるのは破壊されたゴーレムの残骸だけだった。

 一同がその光景に息を呑む中、少女は振り返り、先ほどまで自らを馬鹿にしていた奴らを睨んだ。その鋭い瞳で睨まれた者はヒッと小さい悲鳴を上げて黙りこくってしまう。

 そして、静まり返った会場でルインの名前が読み上げられた。


「ルイン・アーデンベルク、前へ。」


 アーデンベルク。この苗字はルインが小さいころエリゼにもらった苗字だった。


「はい。」


 ルイン緊張した面持ちで前に出る。魔法使用の許可が出て1分ほどたっただろうか。立ち尽くすばかりで一向に動作を行わないルインに試験官は痺れを切らした。


「アーデンベルク。早く魔法を。」


 汗がルインの顎から落ちる。


 ────ああ、まずい。


 思い出すのは朱い空。


 ────ここは森じゃない。


 その真紅の空より赤く染まった自分の手。


 ────使ってはいけない。


 そして自分に投げつけられる石の数々。


 ────使ったらまた。


「殺してしまう────。」


 ぽつりとこぼれる一言。しかしそんなものは試験官の耳に届くはずもなかった。


「ルイン・アーデンベルク終了。次!!」


 時間制限で強制終了になったルインは心ここに在らずといった雰囲気で地面に視線を落として重々しくフィーの傍を通る。


「ルイン、もしかして……属性魔法、使えない……?」


 通りすがりに放たれたフィーの一言、しかしルインは目を見開いて歯を食いしばるだけでフィーに返される言葉はなかった。

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