波乱の予感
────アーデラ王国。
ゴアの大森林に面し、魔法使いの国と言われるほどに魔法使いに対する支援が厚い国。
そしてその大国の城下町でわき目も振らずに全力疾走する一人少年の姿があった。
「遅刻だああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
出店の並ぶ街道に響くルインの声。その手に抱えられた荷物は大量で大きな二つのリュックにボロボロのローブ。そして────
「ん、ルインもうちょいゆっくり……。」
ルインに担がれながら眠そうに眼をこするのは吸血鬼の少女・フィー。銀色の髪を風に靡かせ、ルインの肩の乗り心地の悪さを愚痴っている。
「我慢しろ!!元はと言えばお前が何か見える度に寄り道ばっかしてるからこんなに遅れたんだぞ!!」
「だって見たことないものばっかだったんだもん。」
「ああそうかよ!!てゆうか起きたんなら降りろ!!そんで走れ!!」
「起きたばっかで運動、よくない。だからルインがんばれ、ハイヤー。」
バシッ。バシッ。
「叩くな!!」
その後、多くの通行人やら出店の店員やらに笑われながらルインとフィー、主にルインが走って二人は何とか時間ギリギリで学園の正門に到着した。
「つ、着いた……。」
「おつかれさまルイン。がんばった。」
「お前が走ってればこんなに疲れることはなかったんだがな……。」
ルインが激しくなった呼吸を整え正門を見ると、中にはもうすぐ時間だというのに人だかりでごった返しになっていた。しかし、その人だかりは見物客や保護者というわけではなく、ルインやフィーのように若い人がほとんど。ルインはその場の全員が入学希望者であることをその様子から察した。
「おい、そこの汚いの。」
その高圧的な声と共にルインの背中がドンと押される。
「あ?」
その声の主にルインが睨みを利かせる。高価そうな黄金の装飾のなされた白のジャケットに身を包み、嫌味な切れ長の目ときっちり整えられた中分けのオレンジ髪が特徴のその男は、憎たらしく口角を上げた。
「おっと、そう怒るなよ。僕はシン・ベルゴニア。君、出身は?」
「・・・ゴアの大森林。」
ルインがそう言うとシンと名乗った金持ち風の男は頭を抱えて笑った。
「あっはっは!!ゴアの大森林て!!あんなとこ誰も住めっこないじゃないか!それこそ魔女でもない限りね!!君、身なりはまずしいがユーモアはあるみたいだね!!」
住めるはずがないと大笑いで豪語するシンにルインはあえて何も言わず黙って睨み続けた。それに興が冷めたようにはあ、と息をついたシンは続ける。
「いやね?僕は君に忠告しに来たのさ。」
「忠告?」
「ここは大魔法使いである神秘の魔法使い・クレインオーバード様とアーデラ王国が設立したクレイン魔法学園だ。言うまでもなくその授業は最先端で学生には高い能力が求められる。しかし君はどうだ?見た目は平凡、服は貧相でどこにも気品が感じられない。正直言って吊り合っていないのだよこの学園とね。だから忠告だ、そこの美しい少女を置いて今すぐこの場所から失せたまえ。さもないと、痛い目をみるよ。」
シンは話を終えるとルインに顔を近づけて脅しをかけた。
なるほど、狙いはフィーか。学園の話にかこつけて俺とフィーを離れさせる気だろうな。
「悪いけど、それはできないな。」
「ほう?僕に逆らうと?」
「そう言ったつもりだったんだが、馬鹿には理解できなかったか?」
ルインの挑発を受けたシンの顔にビキッと血管が浮く。
「僕にそこまで言うやつは初めてだよ……。最後の忠告だ、僕の前から消えろ。」
「断る。」
「……そうか、じゃあその舐め腐った舌の根から焼き払ってあげよう。」
シンは先ほどまでの舐め切った声から一変。低く唸るような声に変わる。
「サンダーボル────!!」
「静粛に。」
怒鳴るように叫んだシンの詠唱。だがそれは冷然な男の一声によって遮られた。一同の視線が男に集まる。
「私はここ、クレイン魔法学園の講師ガレイル。これよりクレイン魔法学園の入学試験を始める。列に並べ。」
大きいガタイと金のひげ、その姿からは獅子のような獰猛な印象が伺える。
「っち。……君とはまた後で話すとしよう。」
ガレイルと名乗った男の指示によって正門に群がっていた人だかりが列を作り始め、ルインの目の前にいるシンも舌打ちをして列に並びに行った。
「なんだったんだよ……。」
「ルイン。並ばなくて、いいの?」
「あ?そういえば入学試験がなんたらって……」
ルインはガレイルの言った「入学試験を始める」という言葉を思い返した。
おい、まさか……。
ひらりとルインの足元に一枚のメモが落ちる。それはエリゼのパンツについていたメモだった。”致すのに使え”と書かれたメモ、そのメモをルインは恐る恐る裏返す。
追伸「入学試験あるの忘れてたわwま、がんばれ!」
「あいつ!!!!!!!!!!!!!!!!!」




