唐突な旅立ち
「なんでだよ!!」
ルインがエリゼに叫ぶ。それもそのはず────エリゼが進学を勧めてきた魔法学園、それに目の前の吸血鬼の少女、フィーを連れて通えと言っているのだ。それも恋をしろとの課題付きで。
「仕方ないだろう。こいつの呪いを解くためには恋をするしかないんだぞ?学校という場所はそれにぴったりな環境じゃないか。」
「まだあんだろ、方法。」
恋をする以外に呪いを解く方法。それに該当するのは一つ────主人を殺すことのみ。
「……それはお前の勝手だが、できるのか?」
ルインを見やったエリゼは冷ややかな声音で問う。
「それは……。」
言い淀むルインを見て、エリゼはフィーに視線を向けた。
「これから行くところは?」
「おうちは……無くなっちゃった……。」
エリゼの問いにフィーは俯いて答えた。その小さい手はスカートの裾を強く握っていた。
「そうか。では学園に行ってみないか?もちろんルインと一緒にだ。」
「ルインも一緒なら、いく。」
「だそうだが?」
そう言ってエリゼは悪戯な笑みをルインに送った。それを鼻で笑ってルインは一蹴する。
「嫌だね。」
「では仕方ないな。」
途端、エリゼはフィーに何かを耳打ちする。耳打ちを受けたフィーはルインに向かって指をさした。
「わたしと一緒に魔法学園に行ってルイン。」
「は?いやだけ────っぐ!!」
ルインの首元のタトゥーが赤黒く発光し、熱を帯びる。燃える鉄を押し付けられたような感覚にルインは悶え、ついには────
「分かったよ!!行けばいいんだろ!!」
ルインが叫んでフィーの”命令”を”承諾”する。その瞬間、任務完了とばかりに焼けるような熱くなったタトゥーは急激にその熱を冷めさせた。
「お手柄だフィー。これで友人が減らずに済むぞ。」
「フィーお手柄。」
満足げに笑みを浮かべ、フィーとハイタッチを交わすその魔女、エリゼにルインは呆れかえる。
友人が減るのが嫌だっただけかよ。俺を育ててくれた恩はさておき、やっぱクズだな。
「そんで、どういうところなんだ?その魔法学園とやらは。」
「ふふ、聞いて驚くな?隣国、アーデラにあるクレイン魔法学園はなんと────私の友人、クレインとアーデラ王国の共同で設立された学園で非常にレベルの高い教育がなされる場所なんだ!」
エリゼが自慢げに話す内容にルインは疑念を抱いた。
なるほど王立の学園、それは素晴らしい。高度な教育機関である点も……うん、申し分ない。しかし、だ。────クレインてだれ?
「エリゼの友人、えーとクレイン?てのは?」
「お前は時事も抑えてないのか、世間知らずめ。」
若干軽蔑のこもった瞳でルインを見上げたエリゼは、つらつらとクレインに関する説明を始めた。
「クレインは優秀な魔法使いだ。物体に魔法の効果を宿す刻印魔法の発明、ドワーフと共同で発明した魔導艦隊の技術開発、エルフの神樹都市創造の手助けなどその実績は多岐にわたる。巷では神秘の魔法使いと呼ばれていたりもしているな。」
エリゼは手元の新聞をルインに渡して説明を終えた。その新聞には長身長髪のエルフの男性が写っていた。そしてその見出しにはでかでかと『【神秘の魔法使い】クレイン・オーバード!!アーデラ王国と連携して王立魔法学園を設立!!』と書かれていた。
本当にすごいやつみたいだな────ん?
ルインが新聞に載っている一文に目を凝らす。そこに書かれていたのは『120歳ながら王立の魔法学園を~』と続く文。
そこでルインは考える。あれ?120歳のおじいちゃんと友人て、つまりエリゼの年齢は────と。
「なんだルイン?あまり女性の歳は探るものではないぞ????」
ルインが新聞をどけるとエリゼの不気味な笑顔がそこにあった。夜叉の面影すら見えるその笑顔にルインは恐怖する。
「な、なんでもねぇよ……。とりあえず魔法学園のことは分かった。あとは……こいつのことだ。」
ルインがフィーに目を向ける。
「たぶん、こいつ。俺を隷属したってこと分かってねぇぞ?」
「れーぞく?」
「ほらな?」
ルインは半眼になった眼をエリゼに向けた。
「しかしお前がやらなければいけないことは変わらない。フィーと学園に行って、そこで共に過ごし、恋をしなければ呪いは解けんわけだからな。」
「まあ、そうだけど。」
ルインは隷属化した自らの身体を見て思う。
この吸血鬼、フィーが今はまだ俺を隷属化に置いていることを自覚していないから助かっているが、本来なら毎回の食事の際に血を吸われるだけの家畜になるかもしれなかった。自覚が芽生える前に一刻も早く解呪しないとな。
その時、パンッと手を叩く音がリビングに響いた。
「さあ、明日には出発だ今日は早く寝るんだぞ!!」
「明日!?」
「ん?当たり前だろ。だって入学式、明後日だぞ。」
絶句するルイン。そしてその後は「ギリギリすぎる!やっぱり行くのはやめだ!!」などど叫んでいたが、そんなものがエリゼの耳に届くはずもなかった。
翌日、ゴアの大森林にて────
「まじで追い出しやがった……。」
がっくりと肩を落とすルイン。それもそのはず、ルインたちは、起きて早々エリゼに家から追い出されたのだ。
「エリゼがこれ、持って行けって。」
フィーが持っていた荷物をルインに渡す。
確認するとそこにはクレインへの紹介状と一か月は王都で贅沢できるほどの金貨、それと魔女のパンツ。────パンツ?
その黒のTバックの紐部分に何やらメモが張り付けてあった。
『女子と二人きりでは何かと溜まるだろう、これを使え。どれだけ汚しても構わないからな♡ エリゼより』
「なんてもん入れてんだっ!!!」
メモを見て発狂したルインはパンツを叩き落とす。
皆さんも育ての親の下着など見たくないだろう。ましてや”そういう行為”に使えなどと……。仕方ない、こんな呪物は記憶から消してしまおう。
はぁとため息一つ。相変わらずぽかんとした顔で自分の裾を握るフィーを見てルインは頭を抱えた。
「全部お前のせいだからな……。」
「ん、よく分かんないけど。ルインと一緒なら楽しみ。」
微笑んだその天使を見たルインのため息の大きさが増す。ルインは心の中で叫んだ。
この先不安だ!!!!!!!!!────と。




