地下室にて
クレイン魔法学園────。その入学試験が終わった翌日、ルインとフィーはアーデラ王国の城下町に繰り出していた。
「はあ。結果が出るまで待機しなきゃいけないとはいえ、こんな朝っぱらから出る必要あったか?」
ルインが不満げに漏らすとフィーはふんっと鼻を鳴らして答える。
「おかしいっぱい。ここ通るとき、見た。」
「朝から俺の血たらふく飲んだのにまだ食うのか……。」
「おかし、別腹。ルインもしかして、あたま悪い……?」
こいつ、言わせておけば……!!
ビキッとルインの額に血管が奔る。
「てめーの腹の具合なんざこっちは知らねぇんだよ。」
「うーーーあーーー。」
ぐりぐりとルインがフィーの側頭部を拳で挟み、その小さい体を揺らす。
抵抗すらめんどくさいのかフィーはされるがままだ。
その時、ドタドタと大通りの地面が揺れる。
「ん?」
ルインがその音の出所を辺りを見回して探る。
すると背後に大量の人の波がこちらに向かってきているのが見えた。
「おいおい……なんだ、あれ……。」
「たぶん、あれ。」
フィーが指さす先。そこでは海のようなブルーのドレスを身に纏い、骨のような白い仮面で目元を隠した女が馬車から降りてきていた。
「ハルカ様だ……!!ハルカ様がおいでになったぞ!!」
「ハルカ様ーー!!」
「きゃーーー!!!」
そのハルカという女めがけて人々は黄色い声を上げながら突進する。
「なあ、あいつそんな人気なのか?」
ルインが問う。しかしフィーからの返事はない。
「なあ、聞いて────フィー!?」
ルインが振り向くとフィーはハルカに向かう人の波にのまれていた。
その様子に目を丸くしたルインだがすぐにすんと無表情になりつぶやく。
「……帰るか。」
面倒な用事がなくなって丁度良かったとルインは安堵し、フィーが流された方とは逆の宿に向かって歩を進めた。
すると大通りから路地の方へと抜けた見覚えのある人影をルインは見た。
あれはたしか……。
ルインは特に考えもせずその後をつける。
路地に入り、その後姿を見てルインは確信した。
やっぱり、あの見覚えのある赤い髪はたしか……リン・エルリエだったか。
リンは後ろを歩くルインに気づくことなくスタスタと早足に路地抜け、向かいの大通りに出る。
やけに急いでるな。気になる……。
リンという確信を得たところで引き返すつもりだったルインだが、入学試験時に見たような凛とした姿ではなくどこか焦りを孕んだリンの一面を見てそのまま後を追うことにした。
リンは大通りに出た後、また路地に入る。
どこまで行くんだこいつ……。
ルインがやはり帰ろうかと迷いだしたとき、リンは突然立ち止まり、
「あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
吠えた。
頭を抱えしゃがみ込み、この世の終わりを悟ったかのように激しく吠えたのだ。
「な……は……?」
動揺するルイン。
しかしそんなルインを置いてリンは置いてすっと立ち上がり、何事もなかったかのようにすぐ隣にあった重厚な木の扉を開け中に入っていった。
なんだったんだ、一体……。
動悸の止まない心臓を押さえたルインはともかく、と息を呑む。
あの様子明らかにおかしかった。一体何があるんだ……?
ルインはリンの後を追い木の扉をそっと開ける。底冷えするような冷たい風がルインの肌を撫でた。
あるのは下に続く石段とそのわきに等間隔に取り付けられた松明。
ルインは恐る恐る階段を下る。
そして一分もしないうちに階段は途切れ、また入り口を同じ重厚な木の扉がルインを迎えた。
木組みの隙間から中の明かりが冷たい階段の闇を薄く照らす。
この中に、なにが……。
ルインは薄く扉を開ける。
そこから見える景色は石の壁と、鹿の頭部の剥製のみ。さらにルインは扉を開ける。しかし、
扉が……!?
開き途中の扉が自分の力とは全く別の力により停止した。ルインの額に汗がにじむ。
と、その時
「お客さんですかい!!いらっしゃい!!」
屈強なガラの悪い男が勢いよく扉を開け放った。
「はえ……?」




