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蟲の魔法使いは吸血鬼と恋をする  作者: 帯川 葬


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10/12

決着

 ────同時刻、クレイン魔法学園その職員室にて。


「なんだ今の振動は!!」

「分かりません!!発生源おそらく闘技場だと思われます!!」


 ガレイルと同じクレイン魔法学園の講師であるアンブロッサムとその部下が世界が揺れるほどの振動を感知し動揺していた。


「闘技場だと!?あそこは今入学試験の真っ最中だろう!!」

「はい!そう聞いていますが……。」

「くそっ、ガレイルは何をやっている!!」


 ガタンッと席を立ち、窓向かって闘技場を見たアンブロッサムは言葉を失った。

 だが、すぐに我に返りその場にいる職員全員に告げる。


「治癒魔法師および各戦闘講師は闘技場に急げ!その他の職員は受験生の避難優先だ!!行け!!」

「「「はい!!」」」


 指示を受け、各々が職員室を足早に去っていく。そしてアンブロッサムは歯噛みしていた闘技場から登る蟲の天蓋を見て────。


 ◇


「ルイン!!」


 呪いの発生源である男を制圧したフィーだが。

 心臓の鼓動のような振動、それに恐れていた事態が起こったとばかりに、なりふりかまわず時計塔から飛び降りていた。


 まだ……間に、合う────っ!


 そう確信し、ルインめがけて落下を続けるフィーだが、その体を捉えたのは他でもない────、ルインの蟲だ。


 地面から湧き出た、蜻蛉(トンボ)の羽、闇色の蜘蛛の脚、紅の(サソリ)の尾、飛蝗(バッタ)の脚、蟷螂(カマキリ)の鎌、サファイアのような蝶の羽。それら無数の蟲の部位が落下中のフィーを”敵”と認識し、捕捉。刹那、間欠泉のように吹き上がった蟲はフィーを飲み込んだ。


 それを身をひねらせ、間一髪で躱したフィーはルインのもとへ着地。そして自失状態のルインの頬に触れ、


「魔法、使える、よ?」


 一言。たった一言。だが、たったそれだけの言葉でルインの虚ろだった目に光が灯る。


「……フィー────?お前、なんで……ここにいる?」


 フィーが消失していく蟲の柱に視線を移すのを見て、ああ、とルインは納得する。


「だれも、殺してないか?」

「ん、へいき。」

「……そうか。」


 ボロボロになった姿で、しかし安心して微笑んだルインに。

 フィーも安堵したように微笑む。


「な、なんなんだお前!一体今のは……!そうだ、魔法!魔法は使えないはずじゃ!?」


 一方動揺するのはシン。

 あの男と共謀して作り上げた最高の舞台────だったはずなのに。と怒り、そしてルインの繰り出した未知の力に怯えている様子で。


「あれは、魔法じゃねぇよ。あんなのは────呪いでしかない。」


 悔いるような目で消えゆく蟲の残影を見送るルインに、フィーが目を見開く。


 やはりルインの”それ”も呪いか────と。


 呪い────。父を殺したその忌まわしき力に。魔法とは違うまた別種、”魔法使い殺し”のその力に。フィーは少なからず身を震わせて、しかし。

 人を殺す恐怖に怯えるルインから、父を殺したあの男やルインに呪いをかけたあの男とは違うものを感じて。

 そして────フィーは安堵した。


 ルインなら呪いの力を持っていても大丈夫────と。


「魔法じゃないだと!?まだ誤魔化す気か!!おい試験監督!まだ試合は続いているんだよな!!」


 闘技場のフィールド、その一段上の階で仁王立ちするガレイルはただ、静かにこちらを見下ろすのみ。


 それを肯定ととったシンは冷や汗をかきながらもニヤリと笑みを浮かべて、


「さっきのはよく分からんが、また魔法を使えなくしてやるだけだ……!おいそこの女ぁ!!さっさとはけろ!!お前もあとでじっくり味わってやるからよぉ!」


 下卑た笑いをあげながら笑うシンに、フィーは半眼でもらす。


「あの男なら、やっつけた、よ?」

「なっ!!」

「あの男?」


 フィーはゆっくりと大きな校舎の上にある時計塔を指さして、


「あそこ、ルインに魔法使えなくさせてたやつ、いた。から、倒した。」


 フィーがすまし顔でさらりと話した内容に、ルインは目を見開いて驚くような表情をみせた。しかしすぐに納得したようにフィーに視線を落とし、恥ずかしそうに頬をかきながら、


「そうか、まあなんだ。その……助かったよ。」


 夕暮れのように頬を赤く染め、顔を逸らすルインにフィーはまた、母のように微笑んで、


「ん、あとはらくしょー。」


 ブイサインを作った。

 それにルインは苦笑して、しかし目の前の動揺している相手を見やって言い放つ。


「今日はもう疲れたからな!一瞬で終わらせてやるよ!そんなナマクラ装備で防御したきゃ防御してろ!!」

「くっ────そがあああああああああああ!!!!!!!!!!!」


 防御は不可能と断じての特攻か────。


「悪くない、が。まだ甘い。」


 ルインの身体から黒い魔力が吹き上がる。影より黒く、闇より惹きこまれる漆黒。それはまるで夜のようで────。


 フィーの懐かしむような視線。それを置いていくようにルインは瞬時に加速。超音速を生んで駆けたその黒い彗星は、相対する煌びやかに光る星を────貫いた。


倒れゆくシン。それを背にルインはただ、天を仰いだ。


「シン・ベルゴニアの気絶を確認!よってそこまで────っ!!勝者ルイン・アーデンベルク!!」


 それまで沈黙を貫いていたガレイルの宣言が響く。

 ルインはふうと一息。


「お疲れ様、がんばった。えらいぞぅ。」


 トテトテとフィーが寄ってきてルインを労う。しかしルインを撫でようと伸ばす手は背伸びしても頭に届かない。

 その様子を無表情に見つめていたルインはただ、無言で。自分を優しくなでようとする少女の頭を、逆にわしゃわしゃと撫で始める。


「わふっ、あわわ……。」


 慣れていないのか恥ずかしそうに顔を俯かせるフィーにルインはただ、感謝していた。


 お前がいなきゃ────多分シンを殺してた。よく分からないが、魔法が使えなくなっている原因を倒してくれてなきゃこんな結果もなかっただろう。まあとにかく────


「お手柄だ。フィー。」


 ルインのその言葉を聞いて、撫でられ続けているフィーは、前髪に落ちた影の中で口角を上げて、


「ぶい。」


 楽しそうに笑った。


 その後、大慌てでたくさんの講師たちがルインのもとへやってきて事情説明に手間を取らされたがともかく、色々あった入学試験はこれにて全項目終了────。

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