表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/5

新たなる友人

作物に恵まれた豊穣の国、フラリス王国。

 長い歴史を持ち、およそ百年単位で現れると云う『聖女』が穢れを浄化し、更なる恵をもたらすとされている。

 王国は、王家と教会と軍とにそれぞれ均等に権威を与えられ、独政をすることが無いように、またそれぞれが協力のもとに民を導いていくようにとの強い思いが基盤となっていた。

 王家は、法律を定め、市民の戸籍や税を管理する。また、貴族が納める土地の元締めでもある。

 教会は、顕現する聖女を保護し、市民の病気や怪我の治療や薬の調合等も行う、生活する上で欠かせない機関だ。

 軍は、秩序を遵守し、法を犯した者の捕縛や巡回、また他国と戦争となれば、磨きあげられた技で敵を一掃する。

 それぞれが協力し合う事で、今日までの平和が守られて来た。それは事実だが、より多くの権力を欲する者達が暗躍しているのも、また事実だった。

 

 特に王家は魔術師を独占し、独自の機関を与え様々な魔法具の開発に力を入れて来た。その恩恵は、瞬間移動や防御、性別の入れ替え、等を可能とする魔法具だ。日々、新しい魔法具の開発に励むと共に、その情報は厳重に隠されて来た。

 そもそも、魔法具自体が、魔力を保持していないと使用出来ないと云う特性があるので、魔力を持つ者が少ない市民達にとっては絵に描いた餅である。魔力保持者の貴族には幾つかの魔法具は高値で売買されていたが、王家の秘法とも云われる『聖なる腕輪』はその存在すら知られていない。

 その魔法具を与えられた第一王子の暫定婚約者、レオディアーナは教会に着いた所だった。


 別に、レオディアーナが教会に来る事は、不自然でも何でもない。病院や怪我、または祈りを捧げる為に信徒は教会に通うのだから。

 教会はいつも人が多い。信徒だけではなく、()()()も居るからだ。

 誰の親衛隊かと云えば、大司祭に就任したフレッド・ダイダニー。ダイダニー公爵家の三男だったが、幼い頃から教会に入り二年前には大司祭になるという大出世を果たした。彼は四十前だが、涼やかな目鼻立ちをしており、女性に凄ぶる人気がある。その為、教会はいつも熱い視線の婦女子の姿が至る所に見られる。


 レオディアーナが女神アクアに祈りを捧げた後、庭をそれとなく散策していると、後ろから声をかけられた。

 振り向くと、桃色の髪と赤い瞳の小柄な少女が佇んでいた。

「こちらからお声掛けする無礼をお許しください。私はアユコと申します。」

 おずおずと申し出る仕草は可愛らしく、庇護欲を擽られる。

「アユコさんね、私はレオディアーナよ。私に何か御用かしら?」

 侍女は連れているが、不用意な目に合わない為にも、普段はフルネームを名乗る事はしない。

「レオディアーナ様、こんな事聞くなんて恥知らずだと思われるかも知れませんが……」

 目を伏せてアユコが言葉を切る。しかし、耐え難いようにまた口を開く。

「その…扇に付けられているストラッ…えと、付属品は、もしかしたら、隣国の書物を元にしたものでは…?」

 問われてレオディアーナは、驚きを隠せなかった。

 隣国の書物、王子と親友の騎士の物語を書いた『誓いのくちづけ』を聖典として何度も読み込み、それだけでは飽き足らなくなったレオディアーナは、二人の姿を刺繍に縫い止め加工し、扇の装飾品として身に付けていたが、そもそも隣国の書物なので、これがすぐに分かる人間は居なかった。

 

「貴女、読んだことが…?」

 同志なのかしら?恐る恐るレオディアーナが口を開く。あの書物は下町で買った物だから、知っている人が居るのも分かるが、何分 隣国の言葉で書かれているのだ、挿絵もあったがそれだけでは何の話か分かるまい。そもそも、庶民は自国の文字すら完璧とは言い難い環境で生活している。

「ええ、勿論です!!実は、私…私は『ダス×ニド推し』なのです…!」

 アユコが小声で呟いたのに、レオディアーナは雷に撃たれたかのように身が痙攣した。知らない単語なのに、それが何を意味するかを悟ってしまったのだ。

 ダスは、王子ダスウィックの『ダス』ニドは、親友騎士のニードルの『ニド』…!!! 『×』と言うのは、二人が愛の奴隷だと言うこと? つまり、アユコは二人の愛の信徒!!私の同志!!!

 早合点かも知れないのにレオディアーナは膝から崩れ落ちそうになって、慌てた侍女がその体を支えた。

「わたっ…わたくし、誓いのくちづけが、本当に好きで…っ」

 レオディアーナが瞳を潤ませて、息も絶え絶えにそう口を開くと、ずっと様子を窺っていたアユコが感極まったようにレオディアーナの手を両手で握りしめた。

「分かります!!!素晴らしい書物ですよね!!!」

 キラキラと目を輝かせてアユコが言う。おおお、と声にならない声を出してレオディアーナは彼女の体を抱きしめた。しかし、冷めた瞳の侍女に離れるように言われ、ここでは人目につくからと、教会の一室に場を移す事になった。


 ◇◇◇◇◇

 その頃、オスカーは王子宮の執務室で、辟易していた。

 自分を王に、と力を尽くしてくれるのは有難いが、どうしてそれが『聖女を妃に』という事になるのか、まるで分からない。何度も諌めているのに、隙あらば事を成そうとする連中に心からうんざりしていた。

 確かに自分は側姫の息子だ。母は隣国から友好の為と称した人質も同然の姫で、本来なら先に産まれていようとも王太子になるのは難しいかも知れない。

 だが、陛下はそんな母にも紳士的な態度を崩さず、心を尽くしてくれている。だからこそ、王妃の息子であり弟のヘンリーと同じく、王太子を目指せるのだ。

 それに、陛下は王妃を蔑ろにしている訳ではなく、常に助け合う良きパートナーで、誰にも肩入れして居ない事から賢王とも呼ばれている。

 

 オスカーは、レオディアーナを心から愛している訳では無い。幼い頃からの馴染みでもあるし、確かに容姿は美しい。しかし、彼女の素晴らしさはその心根にある。真面目で正義感に厚く、かといって融通の効かない世間知らずでも無い。染み入るように知識を吸収し、時に残酷な判断も厭わない。常に微笑みをたたえ、誰よりも優秀である彼女は、王妃に相応しく、またやがて王の座に着く時、自分を良くサポートしてくれると信じている。

 やや、人間味にかけるが、それも王家に相応しいと云える。

 (その辺の事を、全然分かって無いんだよなぁ〜)

 顔が可愛いだけの子や、有力貴族の子なら後から後宮に迎えればいい。王はその血を繋ぐ事が責務の一つでもあるので、常識の範囲内なら何人 側姫を増やしても構わない。つまり、後から『恋愛』を愉しめるのだから。

 だが、『聖女』は駄目だ。

 聖女は教会の管轄、スパイとなり得るし、何より軍が黙っては居ないだろう。否定した所で、王家と教会が結託したと見られるに決まっている。権力が偏れば、謀反に繋がる事も考えられる。

 

 その辺の事を、良く解っているだろう賢王と評判の陛下は、レオディアーナの立場を一旦、棚上げした。

 確かに、本来なら正式な婚約者となってから行う教育なので理屈は通るのだが、それを聞き付けた者達は血気づいた。

 王宮とは魔窟だ、かも知れない程度の噂で物事が大きく変わる事もありえるのだ。

 オスカーはため息をもらした。

「殿下、そろそろお茶の時間ですが」

 ため息を聞きつけて、侍従のウェルトが傍に寄った。

「はぁ、もうそんな時間か。ではテラスに用意してくれるか?気分転換がしたい。」

 貴族にとってお茶の時間はとても重要な意味がある。一人の場合はリフレッシュし頭の中を整理する。相手があれば情報の引き出し合い合戦。それ以外にも、寝起きや、寝る前等もお茶を飲む。欠かせない習慣である。

 ぼんやりと綺麗に整えられた庭を見ながら、侍従がお茶を用意するのを待っていたオスカーは、そう言えばこの間は、ここでレオディアーナとお茶会をした事を思い出していた。

 普段のお茶会は玉の宮の一室で行うのだが、今は他の妃候補もなく、前回、レオディアーナとのお茶会を延期させて貰ったので、謝罪の意味も込めて王子宮でお茶会を開いたのだ。

 王子宮に呼ばれる事自体が、『お気に入り』の意味を含む。

 しかし、レオディアーナは浮かれた様子もなく、いつも通り毅然としていた。王妃候補としては文句も無いが、多少 浮ついた所を見せて欲しかったと言う男心もあった。

 だが終盤、後期王妃教育に話が転ずると、珍しく表情を消していた。

 (まあ、俺の妃から外されるを恐れているんだろう。)

 可愛い所もあるじゃないか、とオスカーは独りごちた。

 勿論、レオディアーナを妃候補から外すなど有り得ない。恋愛とは言えなくとも 政治を執り行う上で彼女程、隣に欲しい人材は居ない。自分と共に死ぬまで戦って貰わねばならぬのだから。



 ◇◇◇◇◇

「異世界転生者」

 

 レオディアーナは、教会の庭で小柄な少女と意気投合し、注目を集めそうになった為、場所を移動する事になった。少女はアユコと名乗り、教会に席を置いていると言うので、彼女の住まう部屋へと誘われた。

 そこで、本の感想を言い合い熱く語っている内に、別の本の話になった。

「そうです!ティア様、こちらの本は、別の世界から来た男の子が主人公で、三人の紳士と冒険を通して愛を育む話なのです!」

 いつの間にか愛称で呼び合う仲になったアユコが、奥の本棚からいくつも書物を引っ張り出した。

 普段は分からないように隠してあるようだ。

「まあまあまあ!それは是非、拝見させてくださいまし!!」

 最初は『ダス×ニド』一択だったレオディアーナだが、アユコと話す内にドンドン男同士に嵌り、感じたことの無い高揚感に酔っていた。

「ティア様!これもオススメなんです!コチラは…」

「まあまあまあ!!!」

 盛り上がる二人を他所に、侍女のミントは外の様子に意識を払っていた。教会と言えども危険がないとは言いきれない。アユコが次々差し出す本は、なんとアユコ自身が文字を綴った本だと言う。元々あった本を思い出しながら、写本にしているのだとか。まさか、誰かに進める日が来るとは思わなかっただろうが。

 

 

「そう言えば、聖女様にご挨拶した事はある?今日は私、新しい聖女様にご挨拶しようと思って来たのよ。」

 喋り続けて夕陽になろうかという頃に、やっとレオディアーナは当初の目的を思い出した。

 教会に住んでいるなら、きっと聖女を知って居るだろうと、案内を頼むつもりでアユコに声をかける。すると、

「あ、私です!」

 ぴょこっと手を上げて、アユコが無邪気に応える。

 えっ、とレオディアーナが呟くとアユコは更に説明を続けた。

「私が、この間ここに異世界転生してきた新しい聖女のアユコです!」

「異世界転生!」

 ニッコリ笑って言うアユコに、レオディアーナはオウム返しに言葉を放った。

「あ!しまった!異世界転生は言わない方が良かったかな!?」

 慌てて独りごちるアユコにレオディアーナは

「異世界転生ってさっきの、あの書物の…!」

「そうです!今、流行りなんですよ!まあ、元の世界のなんですけど!!!」

 結局アユコは自分の身の上を洗いざらい吐く事となった。しかし、どうして自分がここに居るのかは分からず、出来れば元いた世界に帰りたいらしい。

「それは大変だったわね、私が貴女だったら途方に暮れてますわ」

 もし自分が突然知らない国に飛ばされたらと思うと同情を禁じ得ない。

「ええ、本当にどうしようかと思いました。いつの間にか城下町に居て、しかも伝染病も広まっていて、幸い教会に保護して貰える事になったんですけど、ここには薄い本が無くて…」

 「薄い本?」

 レオディアーナは、伝染病云々の辺りより、本能的に知らない単語の筈の”薄い本”に注意が向かった。

「ええ!私の居た世界でも、まだまだ男同士は認められてなくて、私達腐女子は 陰日向でその物語を語り綴り合う為に薄い本にしたためるのです。」

 神妙な面持ちでアユコが告げる。

「その聖本とも呼べる薄い本は、日々沢山この世に産まれているのです。でも、ここに居てはその本を得る事が出来ません。だから、私は還りたいのです。」

「アユちゃん…」

 もうすっかり親友だと思っている子が帰りたがっているのを見て、帰るのに協力したい気持ちと、親友を失いたくない気持ちとでレオディアーナの心は荒れた。

「それにここ…もしかしたら、乙女ゲームの世界かもなんですよね」

「乙女ゲーム?」

 むむっと考え込むアユコに、またオウム返しするレオディアーナ。

「ええ、乙女ゲームって言う…まあ、書物みたいな物がありまして。確か『ドキ☆春祭りのパートナーは君に決めた!』だったかな…?普段は乙女ゲームしないので、詳しくないんですが…」

 そう言ってアユコが語り出したのはゲームのあらすじだった。

 タイトルは『ドキ☆春祭りのパートナーは君に決めた!』。

 主人公は下町育ちの女の子で、ある時浄化の力に目覚め、伝染病を鎮めた手柄が認められて、教会に保護される。そこから攻略対象者と愛を育みながら、一人を選びタイトルの春祭りを乗り越え、ハッピーエンドを目指すと云うものだった。

 攻略対象者は五人。王家の王子、教会の祭司、軍の団長、公爵家の跡取り、下町のボス。

 アユコの妹がやり込んでいた乙女ゲームだったから、概要は分かるけど、攻略対象者の名前までは分からないという事だった。

 成程、そう聞けば今の状況に当てはまる。

「では…アユちゃんが主人公の聖女という訳なのね」

「あ!もう一人、シークレットキャラが居たはずです!こういうのに付き物ですから、シークレットって!」

 ポンッと手を打ってアユコがつけ足す。しかし、シークレットに至っては、名前所か 役職すら分からないという。

「すいません、普段は”腐”専門でして…」

「いいえ、良いのよ。色々教えてくれてありがとう。」

落ち込むアユコに、レオディアーナが感謝を込めて微笑むと、また あ!と声を上げる。

「ティア様!もしかして、『レオディアーナ・アクアビット』!?」

 突然、フルネームを告げられ目を白黒させたが、そうだと肯定すると、アユコは真っ青になった。

「た、大変だ!『ドキ☆君』に出てくる悪役令嬢と同じ名ですよ!なんか見た事あるな〜って思ってたんです!」

「悪役令嬢?」

「はい!ストーリーを盛り上げる為に、意地悪する悪役令嬢が必要で、攻略対象者に王子を選ぶと出て来て、最終的にパーティーで婚約破棄を言い渡されるんです!」

「婚約破棄ですって?」

 パーティー中に婚約破棄と云う事が結び付かなくて、レオディアーナは狼狽えた。

 婚約とは家と家の契約であり、書状でもって確約される。”婚約破棄だ!”と叫んだ所で破棄出来る訳もなく、醜聞になるだけだ。

 しかし、今、自分の地位は揺らいでいる。パーティーで婚約破棄される事は無いにしても、婚約解消自体は 十分に有り得る。しかし、そうなったら、第二王子のヘンリー・オン・フラリスと婚約する事になるだろう。

 (いえ、ヘンリー殿下にはまだ 婚約者候補が居たんだったわね…)

 どちらになるかは分からないが、まあ最悪、生家に戻る事になるだろう、とレオディアーナは思った。話を聞いたアユコは神妙な顔をした。

「成程、生家に…。それは良い案だと思いますけど、攻略対象者は公爵家の跡取りも含まれてますから、もしかしたら、ティア様の兄上だったりしませんかね?」

「もしそうだったら、どうなるの?」

「攻略対象者を公爵家の跡取りに選んだ場合、やっぱり『レオディアーナ・アクアビット』が悪役令嬢として登場しましてね!あの手この手で嫌がらせをして、最終的に辺境伯のジジイの性奴隷にされるんですよ!」

「ろくでもないわね。」

「軍の団長を選ぶと『フローラ・キャストル』って悪役令嬢が出て来て、最終的に斬首されてます」

「斬首!!!何をどうしたら、そうなるのかしら!?」

 ヒッと声を上げたレオディアーナに、良くは知らなくてすいませんとアユコが詫びる。妹から色々聞いてた筈だが、他はぽやぽやしている。しかし、結果だけ覚えてるくらいだ、それだけ印象深かったのだろう。

 「…でも、主人公は、アユちゃんなのよね?」

『ドキ☆君』について色々話し合っていたが、ようやく、そこに至る。

「あ!そうか、私が主人公か!」

 誰目線で語っていたのか、アユコはハッと目を見張った。

「つまり、アユちゃんが誰を選ぶかで、これから先が変わるって事かしら?」

 ここまで、一応、アユコから聞いたストーリーに謎えられている。

「うーん、どうでしょう?だって、主人公は、ここで『レオディアーナ・アクアビット』とは親友になっていませんよ。」

 確かに。アユちゃんがオスカー様を選ぶとして、意地悪しようなんて気にはならないわ。選ぶのはオスカー様だし、婚約解消するかを決めるのは、陛下と父上だし。

「それに、私は男同士には興味深々ですが、恋愛対象としては有り得ません。」

あまりにハッキリ断言するので、レオディアーナは驚いた。

「そうなの?私がよく知る男性はお父様か兄様かオスカー様だけど、みんな魅力的な方よ。腹黒いけれども。」

 腹黒い、に笑ってアユコがつけ足す。

「確かにそうですね、でも私はいずれ元の世界に戻るつもりですから。」

 もしかしたら、元の世界に心を決めた人が居るのかも知れない、そう思ってレオディアーナはしゅんと項垂れた。

 こんなに気持ちが揺れるのも初めてだ。

「そうなのね、じゃあ、私に出来る事があれば何でも言って頂戴。その辺の紳士より役に立つつもりでいてよ。」

 気持ちを切り替えて、不敵に微笑みレオディアーナに、アユコがキャー!と言って身悶えた。


 ◇◇◇◇

 玉の宮の自室に戻ると、外はすっかり暗くなっていた。

 教会を訪れたのは昼過ぎだと言うのに、まるで時を感じない程楽しかった。後ろ髪引かれる思いで戻って来たが、アユコから借りた書物もあるので、暫くは退屈しなくて済むだろう。考えなければならない事は山ほどあるけれど、本当に素晴らしい友人に出逢えたと、レオディアーナは満足そうに吐息を洩らした。

 しかし”伝染病”の話を詳しく聞いていない事に思い至って、ハッとしたレオディアーナは、アユコとまた逢う約束をする為に手紙を書こうとレターセットを取り出した。

 時間はあるので、アユコの予定に合わせる事が出来る。何なら、毎日逢いたいくらいだ。そうそう、今日のお礼も書かなくては。

 机に向かって居ると、侍女が手紙をトレーに乗せて持って来た。礼を言って受け取ると、それは第二王子ヘンリー殿下からだった。

 (ヘンリー殿下?私に手紙?)

 今まで特にやり取りのない相手からの手紙に、思わず不信感が過ぎる。

 そう言えばお父様が、ヘンリー殿下派の方から、婚約の打診を受けたと言っていたわね…。

 手紙を開くと、四日後に王城の庭園で会いたい と、言う内容が書かれていた。この会合がどう作用するか分からない。一応、オスカーにも知らせておこうと、レオディアーナはまたレターセットをとった。

 ヘンリー殿下の婚約者が居る 彗の宮殿の情報は、意識して調べてみても、特に変わったものは無かった。あまり良い雰囲気では無いみたいだが、王妃候補として競い合っている以上、それは仕方ないとも言える。

 それに、十歳のヘンリー殿下に合わせて婚約者として集められた子は、まだ五歳から八歳で王妃教育もまだ幾らも済んでいないだろう。

 (そう言えば、筆頭婚約者の方が儚くなられたのよね…)

 この間の伝染病が原因だと云う話だった筈だ。やっぱり、アユコにその辺の話をキチンと聞かなくては、とレオディアーナは気持ちを新たにした。


 ◇◇◇◇◇

「私も立ち会おう」


 翌日、レオディアーナの手紙を受け取ってすぐにやって来ただろうオスカーは、ソファに座るや否やそう切り出した。

「え」

「ヘンリーは王子とはいえ王族だからな、招待を断るのも難しいだろう。かと言って二人きりで合わせる訳にも行かないから、私が立ち会おう。」

「でも、オスカー様はお忙しいのでは…」

 そう、ヘンリーの誘いを断るのが難しい為、一応オスカーに一報を入れただけのつもりのレオディアーナは、直ぐにやって来て自分も行くと言い出したオスカーに心底驚いていた。

「何、予定など何とでもなる。それより、知らせてくれてありがとう。君の聡明さには頭が下がるよ。」

 ニッコリと微笑まれては二の句が継げない。問題ないとオスカーが言う以上、レオディアーナには否は無い。

 しかし、ヘンリーはレオディアーナと何の話をするつもりなのか、オスカーが居てはその話を出来ないのでは…と思わないでも無かったが、真意が分からない以上、万全の状態を期す必要がある。これで良かったのかも知れないと、レオディアーナは頷いた。

 

「私はね、売られた喧嘩は全て買う事にしてるんだよ。」

 不穏な空気を纏うオスカーに、はて、これで良かったのかしら?とレオディアーナは首を傾げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ