飛んで行こう1
「ふおぉおおお!! すごぉおおおい!!」
私はあまりの感動から、思わず声を出してしまう。
「だから最初に言ったにゃ。空を飛ぶことが出来るだけでも十分価値があるってにゃ」
私は夜の街を見下ろし、颯爽と雲の下を泳いでいた。
普段田舎だと思っていた自分の町は意外にも明るく、深夜にもかかわらず人々の営みの光がそこかしこに散見された。
こんな薄着で夜空を飛んではさぞ寒いのではと思っていたが、向かう風はどういうわけか、とても心地よく感じた。
「目的地までオートクルーズに設定するから、とりあえずスキルの説明だけさせてほしいにゃ」
まだまだ分からない事は多いが、魔法とはやはり便利なもののようだ。
私は猫型生命から言われた通り、スマホの☆マークをタップする。
☆☆ACTIVE SKILL☆☆
このスキルは、自らの意思によって任意で発動させることが出来る。
◇⚔エンチャント・ウェポン(上限・4体)(消費・小)
武器に魔力を付与する。
付与した武器で攻撃することにより、物質以外にもダメージを与えることが出来る。
魔法少女の基本スキル。
▯ハイディング (自分)(消費・小)
敵からあたなの存在を隠す防御魔法。
あなたに密着している対象者にも効果が波及するが、魔力の消費も増大する。
移動すると効果が解除される。
⇧フォーティファイ・コート (上限・4体)(消費・小)☆☆
対象の守備力を強化する。
強化量は対象のステータスとスキルに依存するが、魔力消費はあなたに依存する。
通常の防御スキルよりも魔力効率が良い。
⇧ラピッド・ドライブ (上限・4体)(消費・小)☆☆
対象の魔法を伴う移動能力を強化する。
強化量は対象のステータスとスキルに依存するが、魔力消費はあなたに依存する。
通常の移動スキルよりも魔力効率が良い。
「めっちゃサポート魔法じゃん……」
「攻撃手段が直接攻撃しかない事を除くと、かなりバランスの良いスキル構成だと思うにゃ?」
武器というのが何なのかは分からないが、とりあえずスキルで防御と速度を上げて殴れと言っているわけか。
ヤバそうならハイディングを駆使して隠れることも出来ると。
しかし、使ってみなければ、これがどれほどの物なのかイマイチぱっと来ない。
「上限と消費ってのはそのまま魔法の対象人数と魔力の消費量って事か? でも星は何だ?」
「前者はキミの認識で合ってるにゃ。でも付与魔法や強化魔法はかけて終わりじゃなくて、継続消費もあるから気を付けてにゃ?」
同時にかける人数が増えれば増えるほど、魔力の消費が激しくなるという事だろう。
「そしてその横の星マークは魔法のティアを現してるにゃ。つまり、マークが多ければ多いほど上位だったり珍しかったりするにゃ」
「って事は、この星が二個ついてる奴はけっこうレアだったりするのか?」
「星二を初期で持ってるのも普通あり得ないし、ましてや二つなんて初めて見たにゃ。そこは素直に誇っても良いと思うにゃ」
それはきっと喜ぶべきなのだろうが、効果を読んでも何か地味さが拭えないのである。
「じゃあ、またスワイプして次を見て見るにゃ」
何も理解できないまま、私は言われた通り画面をスワイプして次をの画面表示する。
★★PASSIVE SKILL★★
このスキルの効果は自動で発動する。特に記載が無い場合はその効果を任意でコントロールすることは出来ない。
〇浮遊
空中を浮遊することが出来る。
移動速度はあたなのステータスに依存する。
魔法少女の基本スキル。
〇身体強化
身体能力が強化され、パッシブアーマーが展開される。
強化量はあなたのステータスに依存する。
魔法少女の基本スキル。
〇守護天使☆☆☆
あなたが使用した全てのサポートスキルの効果と、範囲内にいる仲間が使用したサポートスキルの効果が大幅に向上する。これは自身にも適用される。
ただし、魔力の消費量も大幅に増加する。
〇無償の愛☆☆☆
あなた以外が使用したスキルのコストを肩代わりする。肩代わりする魔力量は調整が可能。これは自身に使用されたものも含む。
ただし、元のスキルの魔力よりも多くの魔力を消費する。
効果対象は任意で切り替えが可能。
なんか、もろに中学二年生が好きそうなスキル名が並んでいる。
「……とりあえず、私の消費魔力がえらいことになるって事だけは分かった」
「キミはそもそも、魔力量が他の人よりも圧倒的に多いのと魔法効率のいいスキルが揃ってるから、そこはあんまり気にしないでいいと思うにゃ。ただ、他人のスキルを肩代わりするときは、その効果を知らないと大変な事になる可能性があるからよく確認するにゃ」
ただ、やはり字面だけ見ても実際に使ってみなければそれがどの程度の物なのかが実感できない。
「でもこれってサポートのサポートしかできないじゃん。これが攻撃魔法だったらかなり有用そうなんだけどなぁ……」
「応用次第では攻撃にも転用できると思うけどにゃ? まあ、それも今後スキルが増えることによっておそらく改善されるにゃ」
「火力が他人任せってのが何か微妙なんだよ。今後、私ももっと攻撃スキルが覚えられたりするの?」
「分かりやすい攻撃スキルの適性は属性の”火”に依存するにゃ。それで言うと、アヤメの”C”って値は決して低いものでは無いけど、他がそれ以上にバグってるから個人的にはそっち方面に伸ばす事をオススメするにゃ?」
「”風”が高いんだからウィンドカッター的な魔法が使えてもいいんじゃないか?」
「確かに、風ってそう言う意味もあるにゃけど、どっちか言うとバフ系のサポートスキルが風に該当するにゃ。ちなみに氷はデバフ系サポートスキルにゃ」
だったらやっぱり、元素魔法みたいに書かずに最初っからそう表記してくれないかなぁ……。
……ん?
ってことはやっぱり私って、バフとデバフを駆使してチクチク戦うような陰湿なスタイルが向いてるって事かよ……。
「……でもよく考えたら、私達の戦う相手って幽霊だろ? スキルを見る限り、どうにもそんな感じには見えないんだが?」
「その辺も、今日の講習で説明があるにゃ。というか、実際にそれがどういったものか体験してもらうにゃ」
「ええ……いきなり実地体験かよ……本当に大丈夫なんだろうな?」
「しばらくベテランの魔法少女が付いて指導するし、仲間もあと三人いるにゃ。大丈夫大丈夫にゃ」
……不安だ。
「てか、なんかちょっと気分が悪くなってきたんだけど……」
「ああ、多分それは浮遊酔いにゃ。飛行中は慣れるまであんまりスマホとか見ない方がいいにゃ?」
「お前……自分で見ろって言っといてそれは無いだろ?」
やっぱりぶん殴ってやろうかなコイツ……。
「ほら、そろそろ正面に目的地が見えるはずにゃ。あと、そろそろボクのことはちゃんと名前で呼んで欲しいニャ? ボクもこれからはキミの事を猫猫って呼ぶからにゃ」
これで私だけ変な名前だったらどうしよう。
相手がやんちゃな子で、指差して笑われたりしないかなぁ。
「……そういやお前、名前何だっけ? テル……テルミット?」
「テルミドール三世にゃ。何にゃそのめちゃくちゃ眩しそうな名前はにゃ?」
「長いからじゃあ”テルみん”で」
「それも全く意味が代わってるけど、呼びやすいならそれでいいにゃ」
そうこうしていると、先の方に明らかに不自然な人工的な光が見えて来た。
そして、それはどうやら複数あるようだ。
「あそこにゃ」
「? 何だあれ? もしかしてスマホの光か?」
それに近付いて行くにつれ、それが空中でスマホを覗き込んでいる複数の人影だという事に気づく。
同時に、自分の視力がかなり強化されている事も理解した。
「あれ大丈夫なのか? 下から見たらワンチャンバレるんじゃないか?」
今まで特に気にしていなかったが、よく考えれば生身の人間が飛んでいる所を万一でも目撃されたら速攻でSNSで晒されてしまうだろう。
「今更かにゃ? そんな事をボクらが対策していないはずが無いにゃ? もしかして空を飛べたのが嬉し過ぎて気づかなかったかにゃ? 意外と子どもらしいところあるにゃねー」
いちいちムカつく言い方をしなければいけないプログラムでも組まれてるのか、この猫型生命体は……。