サプライズは突然に①
ローレルが襖を開けると、ひんやりとした空気が顔の横を通り抜けた。
「わー! すっずしー!」
そこへ私達をすり抜けるように、襖を開けた本人が入って行く。
興奮して体温が上がったのか、私は自分がうっすらと汗ばんでいる事に気づく。
部屋に踏み込むと、全身がスーッとするような感覚があり、非常に心地よかった。
少し黄色のワガママに感謝してしまう一方、この季節にエアコンを点ける事に慣れてしまうのは、かなり危険な事だと思う。
「なんか、すごくいけない事をしている気分でゴザル」
「大丈夫? 寒くない?」
そんな事を呟きながら腕をさすっているスイクンに声をかけるが、彼女は一言「大丈夫でゴザル」と返事をする。
「という事でローレル。私の身に何が起こったのか教えて貰おうか?」
「まあまあそんなに事を急かないで、せっかくのお泊り会なのですから、もう少し楽しみましょう」
やはり、はぐらかすような事を言うローレルだが、その言い方だとまるで、それを聞いた後は楽しくない事があるみたいに聞こえる。
「ローレルさんは、日本語が上手でゴザルが、こちらには長いんでゴザルか?」
「うーん……もう何年居るのか忘れてしまいましたねぇ」
「その年で分からなくなるという事は、もしかして幼少期から日本に住んでいるのでゴザル?」
幼少期どころか、下手したら江戸時代より前から住んでいると言われても私は驚かない。
「一応、ローレルは魔法少女の関係者だが、二人はあくまで留学生的な物という認識で頼む」
一応、最初にチャットでローレルの事を伝えてはいるが、念を押す意味も込めて改めて私は彼女を二人に紹介する。
「気になっていたのでゴザルが、ローレルさんは一体、どのような経緯でアヤメ殿の家に居候しているのでゴザルか?」
「それはですね――」
「ちょっと訳ありなんだよ。あんまりコレに関する知識を入れると誤爆しかねないから、気になると思うけど、あんまり深堀しないように頼む」
「誤爆? 言うなという事でゴザルか? 分かったでゴザル」
バレると一番困るのはローレルのはずなのだが、彼女は意外と危ない発言が多いので、何かを言う前に私がそこに被せていく。
とりあえずスイクンは聞き訳がいいので助かるが、問題は黄色の方である。
まさかわざと漏らすようなことはしないと思うが、コイツならやりかねないという危うさが拭いきれない。
ピッピッピッ。
「ちょっとサンさん。これ以上下げると寒いよ」
その黄色は、エアコンのリモコンを取って下矢印を一心不乱に押している。
「そうでゴザル。電気代が大変な事になるでゴザルよ!」
いつもは黄色の謎行動に触れようとしないスイクンも、貧乏性なのか止めようか止めまいか、手を出したり引っ込めたりしている。
「どうせ金持ってんだろ? ケチケチすんなや」
「一応言っておくけど、ウチは全然お金持ちじゃないからね? 家は大きく見えるかもしれないけど、あんまり仕事が上手く行ってなくて、けっこうピンチなんだよ」
あまりこう言う事は言いたくなかったが、あまりに傍若無人な事をされるのも本意では無いので、一応釘を刺しておく。
「ウチのエアコンは動いてるところを見た事無いでゴザルよ。親は暑くなったら、パチンコ店に避難するでゴザルから」
ついでにスイクンの口から決定的な言葉が出たが、焦っていないところを見ると、隠しているという訳では無いようだ。
「仕事が上手く行ってない? ウソこけやババア」
「あのねサンさん? あんまり憶測で物事を言うのは良くないよ?」
例のごとく、注意されたのが悔しかったのか、そうやって言い返して来る黄色に対し、私も少しカチンと来て思わず言い返し返してしまう。
しかし、何が面白かったのか、黄色は私に対してニチャリと腹の立つ笑みを向けて来る。
「……ねえルリちゃん?」
「!? な、なんでゴザルか……?」
急にちゃん付けで名前を呼ばれたスイクンが、明らかに警戒した様子で返事を返す。
私も何事かと、彼女の言葉の続きを待つ。
「……ディアブラの配信、見た?」
!?!?!?!?
「おお! この前、学校はその話題で持ち切りだったでゴザル!」
普通なら、その話のつながりで何でディアブラの話が出るんだと突っ込むところだが、
「実は拙者、スマホを持っていないので生配信とやらは見れなかったのでゴザルが……」
あ、そういえばそうだった。
とりあえず、スイクンはアレを見ていないのは助かる。
「実は放課後にコッソリ、友達にそれの動画とやらを見せてもらったんでゴザルよ!」
いや見てるんかーい!
「ひまわりの所も、みんなあの話してたよ。ガチでキショすぎってね」
「そうでゴザルか? 変わった人だとは思ったでゴザルが、拙者の学校では、天才はこんな感じなんだ的な意見が多かったように思うでゴザルが……」
フォローしてくれているのに悪いのだが、語尾がゴザルの人間が周りにいたら、私のRPなんて霞んでしまうんではなかろうか。
まあ、学校でもこれをやっているのかは分からないが、てか、ちゃんと友達はいるんだな。
よかったよかった。
「曲も聞かせてもらったんでゴザルが、拙者も聞いたことあったでゴザルよ! 外で良くかかってるから、コレかー! って感じだったでゴザル! しかもメンバーのリラって人がめちゃくちゃイケメンで、拙者は一気にリラのファンになってしまったでゴザルよ! もしかして、これが一目惚れと――」
「おめーの話はいいんだよっ! だまってろ水色」
いや、自分から降ったのに流石にそれは酷くね?
「ディアブラ。あんだけ曲作って売れてて、どんだけ儲けてるんだろうねー?」
そう言って私をチラッと見る黄色。
……これは間違いない。
確実にバレている。
「そんな事より大会の話をしようっ! 黄色は大会に出る方向でいいんだよね?」
「は? 黄色ってひまわりの事?」
やっべ、焦って頭で思ってる名前がそのまま出てしまった。
「一体どうしたでゴザルか二人とも? 少し様子が変でゴザルよ? 何か拙者に分からない話を――」
ジャカジャカジャーン!
!?!?!?!?
突然、黄色のスマホから聞き覚えしかない曲が流れ始める。
「おお、Blüteの曲でゴザル!」
うぉおおおおお!!
止めろぉおおおおお!!
「バカぁあ! それを止めるんだぁああ!!」
「やだピョーン!」
「何がピョーンだ、いつの時代の小学生だよそれぇえええええ!!」
私は黄色につかみかかろうとして、ハッとして動きを止める。
「おめーにいわれたくねーよババア!」
「どうしたでゴザル、アヤメ殿?」
「そのジャカジャカいうのを止めなさい!」
「聞かねーよバーカwwww」
マズイマズイマズイ!
さっき、扉を開ける音が聞こえた気がする!
「違うっ! 誰か来る! 急いで勉強をしている振りをしよう」
「!? わ、分かったでゴザル!」
階段を登る足を賭を聞いて、私は急いで持って来た鞄から教科書を取り出す。
このお泊り会は、家族には勉強会だと伝えている。
なので、私達は事前に、作戦会議の間は机に教科書とノートを広げて勉強をしている振りをしようという事を共有して置いたのだ。
しかし、よく考えるとまだ来たばっかりなので、ただ雑談している事にしても良かった事に気づいたが、もうここまできたら今更すぎるので私は部屋の中央にある座卓に教科書を乱暴に広げる。
それにスイクンが続き、黄色も魔法少女の秘密を守る事には抗えないのか、渋々とそれに従っている。
だが、スマホから流れる音楽は止まらない。
「早く止めて! 聞かれちゃうでしょうが!」
「は? 聞かれると何か困るのぉ??」
「まあそれは別に良いのではないでゴザルか?」
それは……そう!
「いやいや、勉強してるのに音楽流してたらおかしいでしょ!?」
私は気がそれている黄色から、スマホをひったくると、急いで停止ボタンを押す。
しかし、手元が狂って今度は別のBlüteの曲が流れ始める。
「返せっ! ヒマワリのだぞっ!!」
「すぐ返すから暴れる……なっ!?」
私はあるものを見て、完全に思考がフリーズする。
「おらぁああ!!」
その隙を見逃さず、黄色にスマホを取り返される。
「……見た?」
黄色が何かを言っているが、おそらくそれはスマホの壁紙の事だろう。
たしかにかなり驚いたが、しかし私が驚いたのはそっちの方では無い。
「黄色。お前……」
「だから黄色言うなっ!」
コンコン。
襖がノックされる音が聞こえる。
――――――――
――――――――
何か、えらい騒がしい声が部屋の中から聞こえる。
どうやら姉と友達がじゃれ合っているみたいだが、こんなはしゃいでいる姉の声なんて初めて聴いた。
「どうしよう。入って大丈夫だと思う?」
「いいんじゃない? なんなら菖太もよーしーてって仲間に入れて貰えば?」
冗談じゃない。
年上の女子三人の中に入る勇気なんて無いし、そもそも入りたいとも思わない。
コンコン。
俺は意を決して、足で襖を二度、ノックする。
建付けの悪い襖がゆれて、思ったよりも大きい音が出た。
それを聞いたからか、部屋の内側から聞こえて来る声が、ピタリと止まった。
静かになった事で中から、聞いた事のある曲が漏れ聞こえている事に気づいた。
「さあ、菖太。サプライズの時間だぞ?」
俺は横から聞こえたその言葉を無視して、目の前の襖に向かって口を開く。
「あー。姉ちゃん? お昼持って来たんだけど、入っていい?」
「…………どうぞ」
一瞬の間があって、姉の声で返事が聞こえた。
それを聞いて、俺はゆっくりと襖を足で開ける。
行儀が悪いが、両手でお盆を持っているので仕方がない。
扉を開けると、まず最初に髪の短い女の子の顔が目に入り、それから姉の顔が見える。
「こんにちは。そうめんを持って来ました」
まだ襖が開き切らない段階で、俺は部屋の中に向かって挨拶をする。
「こんにちは」
最初に見えた女の子から挨拶が帰って来るが、俺は彼女とは目を合わせずに、一度足の位置を調整して、襖を最後まで開き切る。
最後の一人の横顔が、チラッと見えた。
「ええと、弟の菖太」
姉が俺を顎で指して、なんかぎこちない感じで紹介してくる。
「よろしくお願いします」
「アヤメさんの友達のルリです。よろしくお願いします」
最初の女の子が、ペコリと頭を下げながら敬語で自己紹介をする。
俺もそれに合わせて、ペコリと頭を下げる。
上目で彼女をチラッと見るが、なんかかなり華奢で、俺と同い年くらいに見える。
「こっちは……ええと、サンちゃん? いいかげんちゃんと名前を自分で言ってくれない?」
?
ああ、ネットの知り合いって言ってたから、普段はハンドルネームか何かで呼び合ってるのだろうか?
「ええと、弟の菖太です。姉がいつもお世話に……」
!?
一応、自分からも改めて挨拶をしようと思った時だった。
その方向に見える黒髪ロングの女の子の顔を正面に見た瞬間、思わず持っているそうめんを取り落としそうになる。
「……よう、ショータくん」
その女が、気安く俺の名前を呼ぶ。
「……楽々園」
なんで今日、この時この場所に、コイツがいるんだ?
それは、俺に対するとんだサプライズだった。
これにて六幕の第一部が終わりました。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は長くなってしまうので、二部構成になっております。
二部の投稿まで、またしばらく書き溜め期間をいただきますので、ご了承ください。




