しりっこないことを しらなくちゃ 2
デートって何かと思えば……。
「今日は月がキレイですねー!」
私はローレルと夜の空を飛んでいた。
ローレルの魔法少女衣装は純白で、上品さと神々しさがあるものだった。
そして、何故だか舞踏会にでも行くような白いアイマスクを着用していた。
「仕事でも無いのに飛んで大丈夫なのか?」
私が当初確認した魔法少女の規則として、不要不急の変身は禁止と言う物がある。
このデート(笑)は、実質それにあたるのではないかと私は少し心配しているわけだ。
「ちゃーんとお仕事として登録してあるので、大丈夫ですよ?」
多分、本当なんだろうが、なんか言い方が嘘くさいんだよなぁ……。
しかも彼女の目的を聞かされないまま強引に引っ張り出されたので、私は未だに彼女に不信感を抱いている。
「そろそろ何を考えているのか教えてくれてもいいんじゃないか?」
「まぁまぁ、そんな焦らずに」
って具合にずっとこんな感じなのだが、これは私は誘拐されかけているんじゃないだろうか?
「何で協会の人間じゃない者が魔法少女の仕事を受けられるんだにゃ? 絶対、何かやってるにゃ」
いつもはここぞという時にしか出てこないテルみんも今日は出ずっぱりだ。
もう何から何まで嫌な予感しかしないのだ。
「さぁて、そろそろみえてくるんじゃないですか?」
何が見えて来るんだと思ったら、そういえばこの方向はあれだ……。
「まさか、例の建設中のビルに向かってるのか?」
「ふふふ……ご名答」
なにわろてんねんこの娘……。
「あんた、私があそこにトラウマがある事を知って言ってるんだよな?」
「私、性格悪いんですよー」
この女のこの返しと落ち着きよう、絶対に中身は中学生じゃない。
「冗談はさておき、あの場所を選んだのは、この辺で一番、目立つ場所だからですよ」
別に他にも目立つ場所はあるんだから、そんなわけ無いと思うけどなぁ……。
私は疑心暗鬼になりながら彼女の後ろに着いて行く。
「で、その白色の衣装はどのポジションカラーなんだ?」
目立つと言えば、彼女の衣装は何というか、明らかに私達の物とは異なり、なんとも重厚なイメージがあった。
私の物がコスプレだとすると、彼女のは実物というほどの差がある。
「いわゆるGMカラーですよ」
もう、完全にあっち側なのは隠す気が無いようだ。
「さて、この辺でいいですかね?」
他に何を聞いたものかと考えていると、えらく中途半端なタイミングで彼女はそんな事を言い始める。
「あれ、あのビルまで行くんじゃないのか?」
まだビルまでかなりの距離があるのだが、彼女は空中で止まって周囲を確認している。
「『”ファントム・リコール”』」
そして、不意に彼女が何かを唱えた。
ポポーンっ!
「えっ!?」
すると、私の前に二人の見知った魔法少女の姿が現れる。
「黄色とスイクン……」
「あら、そんな呼び方をしてるんですか?」
彼女達と全く同じ姿をした無表情の何かが、うつろな目でこちらを見ていた。
「どうです? 猫猫さんから見てお二人の姿に違和感はありますか?」
「違和感と言われれば違和感しかないが、姿そのものは完全に再現出来てるといっても過言じゃない……かな?」
恐らく魔法の名前からして幻影を作る魔法だとは思うが、それにしても完成度が高い。
「という事は大丈夫そうですね」
彼女は満足しているようだが、説明が全く無いので、こっちとしては何をやるつもりなのか見当がつかない。
「『”メタモルフォーゼ”』」
ポンッ!
そして今度は、彼女の姿がツインテールに変わる。
つまり、これで前々回のパーティー構成と同様になるわけだ。
「……一体何をする気なんだ?」
「猫猫さんはそのまま私に付いて来てくれます?」
やはり何も答える事は無く、ローレルは二人の幻影を引き連れて、またビルの方を目指して飛んで行く。
何か考えがあるのだろうと自分に言い聞かせて、私は彼女の後を追う。
そして彼女はビルの屋上に降り立つと、黄色とスイクンを目の前に並べてそれに向かい合う。
何だか気味が悪いが、私はその二人の横に並んで立つ。
……てかこのコピー、どこまで再現されてるんだろ。
「とりあえず猫猫さんは、私の言った通りに行動して頂けますか?」
「……ああ……分かった」
さて、それで私に何をさせる気なのか。
「スイさんとサンさんはビルの内部には言って貰います、私と猫猫さんはひとまずここで待機」
抜け殻のような表情の二人の口が、声は出ないものの、まるで「はい」と言ったように動く。
そのまま二人は浮きあがると、ビルから飛び降りるようにどこかへ行ってしまった。
「……何してるんだ? まさかお人形遊びでも――」
「猫猫さんは私と一緒に周囲の様子を観察しましょう。またこの前のような強敵が潜んでいるかもしれません」
ローレルは私の言葉を遮ってそう言うと、私が何か返す隙も無く真上に飛び上がる。
そしてツインテの顔でにっこりと微笑んで手招きをする。
全く持って理解できないが、おそらく何か考えが(以下略)
私はゴーストフィルターを切ると、彼女に着いてゆっくりとビルを周回する。
「どうです? 何か感じますか?」
「……うーん」
ビルの周囲には内部からはみ出したと思われる霊がいくらか浮いているが、おそらく彼女の言っている事はそいう事では無いだろう。
そして、かがみんが肉塊に変わったのは、大体あの階くらいだろうか……。
「あの後、ここがどうなったのかって分かる?」
「すみません、流石にそれは管轄外なので、ちょっと分かり兼ねますね」
そういえばあまりにも濃ゆい日々を過ごしたせいで、あのミンチ事件が薄まってしまっている。
あれを思い出してゲーゲー吐いていたのが遠い昔のようだ。
この慣れる事がいいのか悪いのかはさておき、悪夢を見なくなったのは本当に助かる。
……って、その代わりに見た、今朝の夢の事を思い出してしまった。
マジで黄色のせいでフラストレーションがたまってるんだろうなぁ……。
「なあ、あの黄色い方の魔法少女がガキ過ぎて言う事を聞いてくれないんだが、どうすればいいと思う?」
魔法少女について深堀が出来ないのであれば、せめてそれについてのアドバイスをもらおうと、唐突ではあるが、そうやって聞いてみる。
「うーん? それは実際にガキなんだから仕方ないんじゃないですかね? どうしてもって言うなら、殴って言う事を聞かせればいいんじゃないですか?」
「お前……マジで普通にエグイこと言うよな?」
「冗談に決まってるでしょう?」
だからそういう冗談を言うのがエグイって言ってるんだけどな。
「なんか人に言う事を聞かせる魔法って無いの?」
「ありますよ? でも残念ながら魔法少女のスキルには、そう言う類の物は……いや、上手くやれば出来ないことも無いかも……」
「……冗談ですよ」
「あらっ! やり返されちゃいましたね!」
そう言って、ツインテの顔でローレルは本当に嬉しそうな顔をする。
あのプリプリしてた彼女を思うと、違和感がすごい。
「では、最後に真上からビルを見下ろしてみましょうか?」
最後?
私達は今、ビルの外周を数周しただけだ。
まさか、本当にデートのために来たんじゃないだろうな?
私達は高度を上げて、建設中のビルを真下に見下ろす場所まで来る。
黄色とスイクンの分身まで作って、こんなので終わりとは流石に思えない。
……待てよ?
彼女が最初に私に言った言葉を思い返すと、もしかしたらこれは……。
「問題なさそうですねー」
ローレルはそう言った後、私からゆっくりと離れていく。
私はその場で三百六十度、周囲をぐるりと確認してみる。
今日は快晴で、遠くの雲が月明かりに照らされて山の上に浮かんでいる。
月の出ている反対側は、満天の星がキラキラと瞬いているが、今の私には誰かに見られているようで、やや不気味なように感じた。
「猫猫さん、ちょっとあちらを見て貰えますか?」
少し離れた所で、そう言ってローレルがとある方向を指さしていた。
私は言われた通りその方向を見て見るが……。
「? えっと……何かある?」
「見えませんか? あれですよアレ!」
そう言われても、どう目を凝らそうがその方向には目立ったものは一切ない。
……もしかして何か、私を試しているのか?
あの方向から何か感じるとかそういう感覚も特には……。
……ん?
「あぁ……そうじゃないんですけどねぇ……もう勘弁してくださいよぉ……」
「え? 何?」
気のせいか、若干の違和感を感じたような気がした瞬間、ローレルが突然悪態をついた。
それは私に向かっていったのか、それとも……
「なあ、もしかして私――」
「『”|Scutum Invictum《スクトゥム=インヴィクトゥム》”』」
「え?」
バチィイイイイインッ!!!!
「!?!?」
ローレルが何か唱えたかと思うと、物凄い音と光が私を包む。
あまりの閃光に、私は思わず目を閉じてしまう。
「『”|Vincula Captivorum《ヴィンクラ=カプティヴォルム》”』」
耳鳴りのする中、ローレルがまた何かを唱えるが、私は五感が麻痺してしまって、それが何なのかを知るすべがない。
「……うぅ……み、耳が……」
「ぐぉおお!?」
ようやく聴力が正常になって来た私は、ゆっくりと目を開ける。
すると、その目の前には……。
「ちょっと……何で俺を捕まえてるんすか?」
またあの男が居た。
「最悪ですよ、何やってるんですか本当に?」
ローレルが初めて聞くような冷たい声で、魔法少女管理課の男に話しかけた。
「それはこっちのセリフなんですけどねぇ……」
そう答えた男は、全身を光る鎖で縛られており、かなり窮屈そうにしている。
「……まさか、あなたが私の命を狙っていたんですか?」
「ノーノーそれは違うよ猫猫ちゃん。俺は君が安全か監視するために、ここにいたんだよ?」
薄ら笑いを浮かべながら男がそう言うが、しかしその姿に全く説得力は無かった。




