夢で遭えたら 2
まずはスキルの構成を考えよう。
そう思ったのだが、改めて考えると、やはり私にはこのガチャ方式というのがあまりにも非効率に思えて仕方が無かった。
「これ、私が念じながらガチャを引いたら、思ったスキルが引けるとかそう言うのは無いのか?」
「そういうのは無いにゃ。でも、システムと猫猫が思ってる事が一致している可能性はあるから、あまりに素っ頓狂なことを思い浮かべていなければ、意外と思ってるスキルが出るかもしれないにゃ?」
前回ガチャを引いた時、割と思った通りのスキルが出て来たのでもしかしたらと思ったのだが、そんな甘いものでは無かったか。
とりあえず今の私のスキル構成は。
□エンチャント・マテリアル ☆
⚔エンチャント・バースト
▯シャドウグライド ☆
◎アナライズ ☆
⇧フォーティファイ・コート ☆☆
⇧ラピッド・ドライブ ☆☆
◎□パーフェクト・エンゲージ ☆☆
そしてそこに、前回の直前に取得した。
▯シェル (自分) (範囲・小) (消費・小)
自身を中心に狭域の球形防御壁を展開する。
強度は他の防御スキルに劣るが全方位を守ることが出来る。
範囲は固定で変更不可。
しかし、こうやって改めて見ると、特に穴と言う穴が無い良いスキル構成に見える。
前回、私がポイントを余らせていたのは、これ以上のスキルの補強が必要無いと判断したからである。
「やはり、防御スキルを強化するべきだろうか?」
「シェルの強化だったら、パーティー戦を考えるか個の安全性を考えるかで、アップグレードの選択肢があるにゃ」
これを聞いて思ったが、スキルを気にするより、やはり黄色をどうにかする事が先決なのでは無いだろうか?
あの子さえ機能していれば、あの狙撃に対しても、もう少し余裕を持った対応が出来たかもしれない。
そして逆に言うなれば、ここで私が防御スキルを強化してしまうと、いよいよ彼女のやる事が無くなる気がする。
「これこそ三人で相談するべきなんだろうなぁ……」
スイクンに関しても、彼女は近距離攻撃と自身の防御を強化していた。
それはつまり、おそらく彼女も私と同様に、黄色が信頼できないから自分の身を守る手段を確保した物だろうと思う。
しかし、チームのして動くのなら、それはとても非効率的だと思う。
ああ……こう考えている内に、私の貴重な時間がどんどん消費されていく……。
いっその事、夢のように黄色を殴れたら話が早いんだがな。
「こう言ったら身も蓋も無いかもしれないけどにゃ? 君はポイントがかなり余ってるんだから、雑にとっちゃってもいいと思うにゃ? 30レベルに上がった事だし」
前回、私は幽霊と戦っていないにもかかわらず、何故か2レベルも上昇した。
これで、前にテルみんから、ここから一気に上がりにくくなると言われたボーダーラインまで来たことになる。
「案ずるより産むがやすしにゃ。とりあえず景気づけにスペシャルガチャでも引いてみるにゃ!」
「そのスペシャルガチャの根拠はどこから来た?」
「……キミ、ノリが悪いにゃぁ……」
やはり私は、効率を求めるあまり、かなり頭が固くなっているのかなぁ……。
「まあ、たまにはお前の言う通りにしてみるか」
「そう来なくちゃにゃ!」
私はスマホを操作して、勢いに任せてスペシャルガチャをポチる。
『キラリラリン☆ スペシャルボトル!! 入りまーすっ☆☆』
……このボイスは、一体誰が担当しているんだろうか。
『シャララララン☆ ええっ!? すっごぉおおい!! こんなの出ちゃったぁあ!!』
最初に引いた時と同じ演出で、そこにスキル名が表示される。
〇不死者の鎧宝 (パッシブ) ☆☆☆
あなたの決死機構が発動した際、自身に強力なアーマーを展開する。
展開中はあらゆるスキルが使用不可になる。
一度アーマーが展開すると任意での解除は不可能。
使用後は戦闘不能に陥る。
…………。
「おお、タンクの最上位のパッシブスキルだにゃ」
「……これはどう見ても運営が私に用意しただろ?」
「いやいや、これはれっきとしたタンクのスキルだにゃ!」
だとしても、このタイミングでタンクのスキルが出ることがおかしいし、こんなの死なないためだけのスキルじゃないか……。
「このスキルは持てる魔力のリソースを全て防御に回す事で最強の防御力を得られるスキルにゃ? 今の猫猫にはピッタリのスキルにゃ?」
「いや、それが不満なんじゃなくて、スキルが使えないんじゃ逃げる事しか出来ないだろ? それって場合によって戦況が悪化しないか?」
「もちろん逃走に必要な最低限の能力は残るにゃ。それに猫猫の決死機構が発動している時点で、前みたいにどうしようもない状況だと思うにゃ?」
「そもそも、何でそれをガチャで引かせるんだよ? それくらいサービスで追加してくれてもいいじゃんか?」
「文句が多いにゃねぇ……。きっとたまたま猫猫がそれを引いただけで――」
ピロリロリン。
『”スペシャル・スキルボトルチケット”を一枚獲得しました。これで無料で一回、スペシャル・ボトルがもらえるよ!!』
「…………」
「…………」
こーれ絶対、運営がガチャ操作してまーす!
「……とりあえず、もう一回引いとくかにゃ?」
私は無言で ☆『スペシャル』!!!スキルボトル!! を再度タップする。
『キラリラリン☆ スペシャルボトル!! 入りまーすっ☆☆』
もうええて……。
⚔ソニック・ラッシュ (距離・中)(消費・中) ☆
対象一体に直線的な連続攻撃を放つ。
相手が大型の場合や攻撃先に障害物がある場合は不発する場合がある。
その場合は相手の側面や空間を意識することにより回避が可能。
……もはやサポートポジションとは何なのだろうか。
「これって結局、私がやってた攻撃方法の事だよな?」
「有り体に言うならそうにゃけど、何もしないより軌道がかなり安定すると思うにゃ」
「イラストソフトの手振れ補正的な?」
「それが何なのか分からないにゃけど、その下位スキルの”ソニック・トリック”で一撃で止めとくことも出来るから、うまく使い分けるにゃ?」
ふーん、そういう事も出来るの……。
「……待てよ? まさか他のスキルも下位スキルを使えたりするのか?」
「え? もちろんだけどにゃ?」
「ほえー……お前さぁ……」
「てっきり気づいてると思ってたにゃ……」
お前からステータスを隠せ隠せと言って置いて、それは無いんじゃないかにゃ?
「使える物と使えない物があってにゃ。スキル名をタップして切り替わるスキルは下位スキルが使えるにゃ」
実際ちゃんと考えてみれば、下位スキルで事足りる場合に無理に上位スキルを使って魔力を浪費するのはかなり非効率だ。
これは確かに、私の考えが浅いと言われても仕方が無いだろうが、こういうのは普通、その時に言ってくれるものじゃないのか?
「だから悪かったにゃって……。最初から上位スキルを持ってたせいで、ボクも失念してたにゃ」
私が睨んでいたせいで責められていると思ったのか、テルみんが謝罪の言葉を口にする。
「あとはアプグレか新規スキルの取得だが……どうすっかなぁ……」
「猫猫の場合は主要なスキルは揃ってるから、ボクはスキルのアップグレードか武器のアップグレードをオススメするにゃ?」
それは分かっているのだが、今の私のスキルは既に大抵が上位スキルとなっている。
初期スキルから上位スキルへのアップグレードはそれほどでもないのだが、そこからのアップグレードは倍々的に必要ポイントが増えていくのだ。
となると、今の私のネタ武器からの脱却を計るのも択なわけだが……。
「この武器。以外と使い勝手がいいんだよな……」
リーチが短い事が短所と思いきや、初日の閉所での戦闘を考えると、射程が必ずしも正義では無い事が分かった。
これならば、スキルで遠距離の攻撃手段を充実させるか、チーム戦を考えるなら私の近づけない相手はスイクンに任せても良いだろう。
なので、この武器の唯一の問題点と言っていいのが、要するに見た目なのだ。
「あのスイクンが使ってた”銃剣”はどういった扱いなんだ?」
「あれは”サブウェポン”の扱いだと思うにゃ。スイは結構、思い切った選択をしなとおもうにゃ」
サブウェポンは☆2スキルから☆3スキルへのアップグレードと同等のコストで、私の現状、分かる範囲では最もポイントを要する。
そしてサブウェポンの選択肢はどうやら、自分のポジションとかけ離れているほど、そのコストもかさむようなのだ。
「私が持つならやっぱり銃だが、それだとスイクンと丸かぶりだ。一人で全部こなすなら正直、ベストなチョイスだとおもうんだけど。それは流石にスイクンに対して心象が悪いよな……」
「向こうもこっちに寄せて来てるわけだから、そこまで気にする事でもないと思うにゃ? それよりは自分の思う最善を求めた方がいいんじゃにゃいかにゃ」
そうは言うが、チームという事を考えるとやはりチームメイトの仲も考えるべきだろう。
ここでスイクンにまでヘソを曲げられてしまうと、このパーティーは完全に崩壊してしまう。
「やっぱり銃を装備するって選択肢は無いな。遠距離はスイクンに任せるべきだ」
「猫猫がそう言うならそれでいいと思うにゃ? でもだったら本格的にどうするって話になるにゃ?」
そしてまた、振り出しに戻るのである……。




