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高速少女の星1

 何だ……あれ。


「猫猫!! 猫猫ぉおおお!!!!」


 ツインテール先輩は意外にもすんなり見つかった。


 あそこから彼女の叫びが声が聞こえたという事はそこまで距離が離れていないという事だとは思ったが、さっきの空間捻じ曲げに比べると本当にあっけなかった。


 ただ……。


「つ……ツインテール殿っ……あ、足がっ!?」


 一瞬地面に埋まっただけかと思ったが、どう見ても足がひざの関節で千切れているように見える。


「大丈夫ですかツインテールさんっ!!」


 私は再び彼女に尋ねる。


「大丈夫な訳ないでしょっ!!」


 まあ、そうですよね……。


 しかしテルみんの話では四肢切断くらいまでなら直せるという事だったはず。


 彼女はきっと大丈夫……だと思う。


「あれは……何でゴザルか!?」


 そう、トンネルのアスファルトの一部が何やら毒々しく波打っており、ツインテ先輩のお尻と腕がそこに浸かってしまっている。


「なんかっ!! なんかどんどんこの沼みたいなのに飲まれて行ってて抜け出せないのっ!!」


 という事は、あの足は埋まっているだけなのだろうか?


 しかしあれが先週の幽霊と似たものであるなら、完全に飲まれるとツインテ先輩もグロ注意になってしまう可能性は非常に高い。


「とりあえずツインテールさんを持ち上げてみよう! スイさんは左側の腕を持って!」


「ダメッ!! ウチそれで足が……足がこんなになっちゃったの!!」


 なるほど、ちゃんと千切れていた。


 だとしたら、これはどうすれば……。


 ……あっ!


「『”アナライズ”』!!」


 私がその魔法を地面に向かって使うと、今度こそ私は幽霊の姿をとらえ――。


「――ひぃい!?」


「!? ど、どうしたでゴザルか猫猫殿!?」


「……手……手が……」


 トンネルのアスファルトの下には、無数の小さい手が大量にうごめいていた。


 そしてその中心には……何だあれ?


 大量の手が邪魔をしてうまく形を把握できないが、巨大な丸っこい何かがあるように見える。


「なになに!? 結局これってどうなってるの!?」


 これはちょっと、言わない方がいいだろう……。


 でも、この前の霊もそうだが、どうやら幽霊と言う物は手をいっぱい生やしたい生き物(?)のようだった。


 しかし、地面の下にいるあれをどうやって引きずり出すか……。


 とりあえずスイクンに言ってあそこに攻撃を打ち込んでもらいたいものだが、下手に手を出してツインテ先輩の身に何かあっては困る。


 バスンバスンッ!!


 !?


「今助けるでゴザルツインテール殿っ!!」


「ちょぉおっ!?」


 スイクンが先走って、その底なし沼に向かって弾丸を打ち込んでしまった。


 ――ずぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞぞ……。


 その瞬間、地面が激しく波立つ。


「えっ!? 何っ!? なになに何なのぉお!? もぉおおおおお!!」


 そしてそれがどんどんせりあがって行き、みるみるうちにツインテを覆うように彼女を飲み込んでいく。


「……あれ、拙者何かやってしまったでゴザルか?」


「『”フォーティファイ・コート”!!』


 私は彼女が飲み込まれる寸前、彼女に向かってスキルを放つ。


 正直このスキルはどれほどの効果があるのか私自身も良く分かっていないが、使わないよりは確実にマシだろう。


「あわわわわわわわ……」


「スイクン……次は何かやる前に相談してくれると助かる……」


「どどどどどどうしようでゴザル……!?」


 どどどどどうしたもんですかねぇ……これは。


『きゃっきゃっきゃっきゃ!!』


 !?


『きゃっきゃっきゃ!!』


 トンネル内に、赤ちゃんの笑い声のようなものがこだまする。


「なななななんでゴザルかこの声は!?」


 どうやら声は私意外にも聞こえているようだ。


 ――ごぽごぽごぽごぽ……。


 どす黒い沼がツインテ先輩を完全に飲み込んだあたりで、今度はそれが沸騰したように沸き立ちながら徐々に浮き上がって来た。


「ひっ!?」


 そしてそれは完全に宙に浮くと、周囲に手が大量に生えたスライムのような見た目になった。


 一見するとそれは、蛾か何かの繭のようにも見える。


 そしてその中に、ツインテ先輩ともう一つ、私がスキャンをした時に見えた何かが浮かんでいた。


 あの丸いものが幽霊の核だろうか?


「…………あれは、赤ちゃんでゴザルか?」


 スイクンが目を凝らしながらそう言った。


「赤ちゃん?」


「あの中の物でゴザル」


 てっきり私は笑い声の事を言っているのかと思ったが、どうやらスイクンはその丸い物を指して言っているようだ。


 確かに、よく見ると赤ちゃんの形に見えなくもない……というか。


「もしかして、あれは胎児か?」


「……水子(みずご)


 さっきに引き続き、また黄色が突然、何かを呟く。


「黄……サンちゃん?」


「あれ……水子……」


 黄色は私越しにそれを見て言った。


「水子って確か、生まれる前に死んじゃった子どもの事だよな?」


 私が尋ねると、黄色は私の方を一瞬向いて、すぐにプイっと顔を逸らす。


 当たり前だが、完全に嫌われてしまったようだ。


「でも水子の霊だとしたらおかしいにゃ。水子は霊の中ではかなり強力な部類にゃけど、こんな意図的に空間を歪めたりするような事はしないはずにゃ?」


 またいつの間にかそこに現れた使い魔が、顎に手を当てながら何かを考えるように解説をする。


「もうこの際それはいいとして、正体がわかったなら何か対策が出来るんじゃないか?」


「水子の霊と言うのは無邪気な念の塊ホエー! 他の霊の様に作為的にはあまり動かないけども、逆に行動が読みにくくて強力な分、何をするか分からないホエー!」


「それで、我々はどうすればいいでゴザルか?」


「気合と根性ガウッ!!」


 つまり、明確な対策は無いということかしら?


 ――ごぽごぽごぽごぽ。


「……また何か起こりそうでゴザル」


 この感じ、先週の()()と似たような感じがする。


「『”ラピッド・ドライブ”』!!」


 私は自身と二人に、念のためスキルをかけ直す。


「とりあえず霊が何かやってきたら、全員バラバラに飛――」


 ドパパパパパパパパパパパパンッ!!


 宙に浮いた球体から生えた小さな手が、一斉に私達に襲い掛かって来た!!


「うおぉおおおああっ!?」


「ひいぃいいいぃいい!?」


「ぴゃぁあああああああああ!!」


 私とスイクンはそれをギリギリで回避するが、黄色はもろにそれを喰らっていた。


「もうっ! まだ私が話してる途中でしょうがっ!!」


「すすすごいスピードが出るでゴザル!!」


 私は自分に対する手の応酬を回避しながら、黄色に張り付いた手を鞭で振り払う。


 腐ってもタンクなのか、黄色は全く無傷のようだった。


「猫猫殿っ!! 打ってもいいでゴザルか!?」


「ああ、でも先輩に当たらないように注意して!!」


「合点承知の助でゴザル!! 『”クイックドロー”』! 『”フルオート・ファイアリング”』! 『”ホーミング・ショット”』!」


 スイクンが自身にスキルを立て続けに使う。


「ファイヤーでゴザルっ!!」


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!


「うおぉ……」


 スイクンが大量に放った弾丸が、全て霊に命中する。


 ごぽごぽごぽっ。


 ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ!!


 すると今度は霊の方からスイクンに向かって集中的に腕が伸びる。


「『”マジック・シールド”』!!」


「『”フォーティファイ・コート”』!!」


 スイクンは防御スキルを発動しながら宙を旋回してそれを避けていく。


 私も念のため、また防御スキルを使う。


「猫猫。スキルが切れてるかどうかは対象を見ながらそう念じれば確認できるにゃ。ちょっと魔力の無駄遣いをしすぎだにゃ」


 聞かない私も悪いのだが、この猫はもう少し私の意図を察して早めに教えてくれない物だろうか。


 しかしこの攻撃は私としては慣れた物で、こちらに来た攻撃を私は軽々と回避する。


 トンネルの直径が広がっているせいで、むしろそれが私達に回避の余地を与えていた。


 これは思っていたよりも楽勝かもしれない。


「『”エンチャント・バースト”』!!」


 ドパァンッ!!


 私は幽霊の懐に潜り込むと、スキルを発動させてそれをぶち込む。


 核を覆うスライム状の物が抉れて、飛び散った物が灰の様に消えていく。


「『”オーバーチャージ・ショット”』!! でゴザル!!』


 ズパァンッ!!


 スイクンも攻撃スキルを使って霊を削って行く。


「……これ、効いてるんだよな?」


 しかし、霊のサイズが大きいからか力が強いからか、この前の霊の様に削れている実感があまり湧かない。


「大まかなHPは”アナライズ”を使うと分かるにゃ。そのスキルは相手に長く照射するほど多くの情報を得られる仕様にゃ」


 そうそう、そういう情報が私は欲しいんだよ!


「『”アナライズ”』!!」


 私は言われた通り、そのスキルを出来るだけ長い間、幽霊に照射するように飛び回る。


□■□■□■INFORMATION■□■□■□

・ENEMY TYPE : GHOST

・SUBTYPE    : LOST INFANT SPIRIT


・LV:60

・HP:2500000

・MP:2000000


 !?


 60レベル!?


「てか……二百五十万っておかしいだろっ!!」


「まああのサイズならそんなもんにゃ。あと、それあんまり正確じゃないから過信しすぎないようににゃ?」


 それってスキルとして存在する意味あるのか?


「だとしても、私の魔力でも全然足りなくない!?」


「ああいうタイプの霊は力の効率とか全く考えないし、魔法は攻撃する側が圧倒的有利なように出来てるにゃ。現にキミは前回、圧倒的にレベルが上の霊を一人で倒したにゃ?」


 言われてみたら、私よりも魔力が低いと思われるカガミンが20レベルの霊を一人で倒していた。


 敵と私たちとでは、もしかしたらそもそもの数値の算出方法が違うのかもしれない。


「このまま地道に削りきるのが丸いか?」


「倒すならそうにゃね。でも、そろそろマズいんじゃないかにゃ?」


「マズい? まだあの霊に何かあるっていうのか?」


「それも注意しないといけないけど、ボクの言っているのはあの霊に取り込まれているツインテールの事にゃ」


「? それはどういう?」


「キミのパーティーはちょっと能力値がインフレしてるから分かりづらいけど、普通はあんな霊に襲われたら、この前のベテラン(笑)みたいなことになるにゃ」


 !?


 よく考えたらそうだった。


 先週の件で黄色が無事だったのは、てっきり私のスキルのおかげだと思っていたが、おそらくあれは黄色のHPが飛びぬけて高かったからだろう。


「という事は……」


「あの魔法少女はいつ死んでもおかしくないにゃ」

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