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不幸せの予感2

 私は少し、勘違いをしていたようだった。


「……やはり多いな。初心者を連れて来るには少し酷だったか?」


 五つほどフロアを上ると、そこらじゅうが白い霧のような物に覆われて、先ほどの白い塊のような物が所せましとうごめいていた。


 しかし、一番の問題はそれではない。


「めっちゃ幽霊でゴザル……」


 私の視線の先には、明らかに人型をした白い塊が一体、ふよふよと彷徨っていたのだ。


 これこそ、私の知っている幽霊そのものである。


「あれはまだそこまで育っていないから大丈夫だが、もっと力の強い霊になると目を合わせただけで襲われる事があるから注意が必要だ」


 私が昔、実際に見た事がある霊の中には明らかに近づいてはいけない見た目をしていたものがあるので、おそらくそれがそう言う奴なのだろう。


「よし、じゃあ私がまず手本を見せようか。アクマちゃんは念のため、この子たちの所に居てくれ」


 オレンジがそう言って、スタスタと幽霊の元へ歩いて行く。


 彼女は全く警戒している様子が無いが、大丈夫だろうか。


 パァア……。


 彼女が手を掲げると、ファンシーにデコデコされたステッキの様なものが現れる。


 中学生ならまだギリ許されるデザインだが、彼女が持つと何というか、とても痛々しい。


 私はふと、背後に気配を感じる。


 驚いて振り向くと、黄色い少女が私を盾のようにして前方の様子を伺っていた。


「喰らえ! 『”ホーリー・ライト”』!!」


 オレンジが霊をステッキで指して、声高らかに言い放つ。


 ピカーー!!


 すると、ステッキから前方に光が発射され、瞬く間に前方の幽霊を飲み込んだ。


 そしてその光が晴れると、光が指した方向にある全ての靄が、くりぬかれたように消滅した。


 それは人型の幽霊も例外では無かった。


「これが魔法スキルによる除霊の仕方だ。今みたいに声に出すと、覚えたスキルが使えるぞ!」


 一仕事終えたオレンジが、そう言いながらこちらに近づいて来る。


「キミ達の中で、遠距離攻撃スキルを持っている者はいるか? ああ、スイクンはシューターだから、元から遠距離攻撃が可能だったな」


 そう言いながら、今度はオレンジが私の方を見て来る。


「私の攻撃スキルは、先ほどのエンチャントだけですね」


 私が答えると、次に視線が黄色の少女へと移る。


「サンも遠距離攻撃スキルは持ってないガウ!! 言いそびれてたが、サンはタンクだガウ!!」


 嘘だろ……コイツ、タンクなのかよ……。


 ある意味、今日一番の衝撃を受けた。


 むしろ、今まさに私が彼女にタンクにされていると言うのに!?


「スイクン。キミの魔力はどのくらいある?」


「ええと……450でゴザル」


 ……ん?


「!? お、おお! 凄いな……私の初期値の倍近くある」


 あれあれ?


((魔力の初期値の平均は、百くらいだにゃ))


 うぉ!?


 また突然コイツは……。


「それだけあれば、ある程度連射しても魔力がすぐに枯渇するってことは無いだろう。ただ、シューターは銃弾を発射する度に魔力を消費するから、魔力管理はしっかりするように!」


「言い忘れてたけど、他のパーティーの魔法少女にステータスを聞かれても軽々しく答えたらダメにゃ。今回は研修だからいいけど、これは絶対守ってほしいにゃ」


「でもパーティー内は例外ホエー! 知らないと魔力管理が出来ないからホエー!」


 オレンジの説明に、使い魔たちが補足をする。


 いや、マジでそれ最初に教えとけよ……。


 しかし、私の魔力が平均の五十倍ってマジか。


((キミは、もし聞かれたら五百って答えるにゃ。本当のことを言って、誰かがぽろっとでもお漏らししたら大変な事になるにゃ))


 だからさぁ……。


「スイクン! 攻撃スキルは何がある?」


「ええと……”オーバーチャージ・ショット”っていうのがあるでゴザル」


「なるほど、魔力を多めに込めて発射するスキルだな。よし、それを次の標的に撃ってみようか。じゃあついて来て」


 オレンジに促されて、私達は霊の巣の中を進んで行く。


「よし、じゃああれに狙いを定めて」


 そして、そこに現れた人影を指して、スイクンにそう伝えていた。


「撃っていいでゴザルか?」


「よし、撃て!」


「『”オーバーチャージ・ショット”』でゴザル!!」


 スバンッ!!


 スイクンが叫ぶと、ホーリー・ライトとかいうのと同様に、弾丸の軌道上の霊が浄化された。


 普通ならちょっとは打つのを躊躇いそうなものだが、この子は先ほどからなかなか思い切りがいい。


「おおっ! いい威力だ!」


「何か必殺技みたいでカッコイイでゴザル!!」


 これを聞いて思ったが、さっきから魔法と言わずにスキルと言う所とか、チームの事をパーティーと言う所とか、なんかゲーム感がすごい。


 それと、彼女のその「ゴザル」とかいうのは一体何なんだろう。


 知性は今の所まともそうなのに、その語尾のせいで普通にヤベー奴である。


 ……ん?


 ……あれ?


 ふと気づいたが、何か私達意外に声が聞こえる気がする。


「……ねえ、あんた」


 !?


「え? はい、何でしょうか?」


 私が耳を澄ましていると、隣から急にアクマちゃんに声をかけられた。


 耳を澄ませていたのと、その声の主がスマホの精霊のアクマちゃんだったことで、私は少し驚いてしまう。


「……それ、本物?」


「え? 本物? ……ですか?」


 彼女は私の胸を指しながらそんな事を言って来た。


「猫猫殿! おっぱい大きいでゴザルよね!」


 ……ああなるほど、本物ってそう言う事か。


「ええ、一応……」


「キミは中学生だよな? なんとも羨ましいな!」


 オレンジ先輩もそれに食いついて来る。


「はは……個人的には悪目立ちするので、あんまり良い事だとは思わないんですがね……」


「今はそうかもしれないが、大人になれば色々と使い道が分かるぞ!」


 使い道とか言うなよ……。


 てか、結局この人は何歳なんだろうか?


「拙者何て、いまだにブラも付けてないでゴザルよ!」


 いや、それはそれでどうなんだろう。


「自分は良くても周りが気にしてしまう事があるから、中学生ならそろそろ付けた方がいいぞ? あたしは――」


 てか、胸の話題から離れてくれないかなぁ……。


 私に聞いて来た本人は、早々にスマホいじりに戻ってしまっている。


 何とも締まらない空気の中、私達は再び幽霊の蔓延る中を雑談しながら進んで行く。


 …………。


 ……やっぱり何か声が聞こえる気がする。


「あの、なんか声が聞こえませんか?」


 幻聴が聞こえているのかと不安になったので、私はオレンジの人にそれを尋ねてみる。


「声?」


 彼女はそう言って立ち止まり、聞き耳を立てる。


「あたしは聞こえないが、キミたちはどうだ?」


 そう周囲に確認するが、どうやら聞こえているのは私だけのようだった。


「猫猫は霊感が高いから、遠くの霊の声を拾ってるんだにゃ」


 やっぱり幻聴なのかと不安になっていた所、テルみんがそう言って助け舟を出してくれた。


「なるほど、そう言う事か。どっちから聞こえるか分かるか?」


「ええと……いや、そこまでは……」


 ……あれ?


 待てよ。


「いえ、何となくなんですけど、あっちの方から聞こえる気がします」


 私は、右前方の壁の方を指す。


 なぜだか分からないが、ちゃんと聞こえるわけでも無いのになんとなくそんな気がしたのだ。


「アクマちゃん。その方向をスキャンしてみてくれ」


 オレンジに声をかけられたアクマちゃんが、とても面倒くさそうにその方向をジロっと見る。


「『”スキャン”』」


 ピキーン!


 頭の中を何かが通り過ぎたような感覚があった。


「……一つ上の階に、”レベル20”の霊が居る」


 アクマちゃんがそう言って、すぐにまたスマホに視線を戻す。


「レベル20!? それは少しマズいな……」


 その二十と言うのがどの程度なのか分からないが、どうやら幽霊にもレベルが存在するらしい。


「あたし達のパーティが四人で当たれば特に苦戦する相手でも無いんだが、流石に初心者を連れて行くのは厳しいな……」


 オレンジはそう言いながら顎に手を当てて何か悩んている様子だ。


「でも、幽霊ってもっと怖いものと思っていたでゴザルが、何というか思ったほどではないでゴザルね、猫猫殿はどう感じたでゴザルか?」


 少し空気に慣れて来たのか、スイクンが私にも普通に話しかけて来た。


「ああ、見た目に関してははっきり見えるせいか、逆に不安感が無くなっている気がする」


 言葉で表現がしづらいが、何というかお化けと言うよりは生き物として認識しているような、得体のしれない物に対して感じる恐怖と言う物が幽霊からほとんど感じられないのだ。


「それは魔法少女の力のせいだホエー! その衣装には、幽霊から感じる恐怖を軽減する効果があるホエー!」


 なるほど、なんとも便利な力だな。


「……そうだな、いい機会だ。キミ達はちょっと油断しているような気がするし、一度幽霊の怖さと言う物を経験して置いたほうがいいかもしれない」


「え……いや、私は見た目の話をしたのであって、決して油断しているわけでは無いですよ?」


 しまった……。


 今の話は藪蛇だったかもしれない。


「心配するな。マズいとは言ったが、キミ達があたしたちの言う事をしっかり聞いてくれれば、そこまで危険性が高いものではない」


「え? 本当に行くの? メンドクサ……」


 アクマちゃんが自分の髪をクルクルしながら呟く。


「おいアクマちゃん。新人相手にそう言う態度を取るのは良くない。キミがそんなだから彼女達が油断するんだろう?」


 だから油断してないってぇ……。


「よし決めた。アクマちゃんに気を引き締めてもらうためにも、あの霊を二人で除霊しよう」


「はぁ?」


 どうやら、オレンジは意思を固めてしまったようである。


 彼女は自信たっぷりにそう言っているが、私はなぜだか心がざわざわした。

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