飛んで行こう2
見えた人影は全部で四つ。
全員の視線がこちらに注がれていた。
恐らく奥にいる腕組み仁王立ちの女性がと、そのとなりの女性が今回の教官役のだろう。
となると、手前にいる二人が私の仕事仲間となる魔法少女達か。
「ゴメンにゃ。ちょっと遅れたにゃ」
テルみんが私よりも先に行って、彼女達に声をかける。
「……ちょっと? もう三十分も遅れているぞ?」
腕を組んだ先輩魔法少女らしき人物が、少し怒り気味で口にする。
「ウチの魔法少女がなかなか聞き訳が悪くてにゃ。ちょっと手間取ったにゃ」
コイツ……。
言ってる事は事実だが、もっと言い方があるだろ言い方がぁ……。
「申し訳ございません。契約内容に不明点が多かったので、それを確認していて遅くなりました」
ここで下手に言い訳をして、先輩魔法少女の心象を悪くするのも良くないと考え、私は素直に頭を下げる。
「うむ。素直でよろしいい。よし、これで全員揃ったな?」
彼女はうんうんと満足そうに頷いた。
そして、改めて私はその先輩魔法少女の姿を……魔法……少…………女??
そこにいたのは、ぱっと見で少女と呼んでいいのかどうか怪しい年齢の女性だった。
ベテラン魔法少女って……そう言う?
「ん? ちょっと待つにゃ。にゃんか一人足りなく無いかにゃ?」
「何だ? だいぶ前に連絡があっただろう? なんでも、もう一人は辞退したらしい」
……は?
「ああ、マナーモードにしてたから気づかなかったにゃ」
何だそれ……いや、マナーモードじゃなくて、辞退なんて聞いてた話と違うんだが?
「……もしかしてお前、図ったのか?」
「いやいや、だからキミはちょっと事情が違うと説明したにゃ? まあ、どちらにせよ辞退するのはかなりレアケースではあるけどにゃ」
「あたしも本当に驚いたよ。まさかこんな素晴らしい招待を断る人間が存在するなんてな!」
先輩魔法少女は宗教にはまった女性のようにキラキラと目を輝かせながらそう言うが、あんな怪しい話にホイホイと飛びつく方がどうかしていると思う。
その意味でも、辞退した少女は私にはとても懸命に思える。
オレンジ色の魔女……先輩は「一応確認するからちょっと待ってくれ」と言ってスマホをタプタプしている。
その横では、私のテルみんのような謎生物だと思われる、オレンジ色の物体が浮かんでいる。
見た目は完全にミカンそのものだが、植物のパターンもあるのか……。
「では最初に自己紹介しようか。あたしはこの地域で”魔法少女の地域リーダー”をやっている”かがみん”と言う。こっちは”使い魔”は”おそなえ一号”だ」
彼女はスマホを閉じるなりそう自己紹介する。
地域リーダーや”かがみん”と言う名前も気になったが、最後の”おそなえ一号”という名前が気になって完全に吹っ飛んでしまった。
おそなえって……ひき肉とか右足とかそっち系のネーミングだろうか?
「そしてそっちにいるのは、ウチのパーティーでサポートをやってる”アクマちゃん”だ。ほらアクマちゃん? 自己紹介して」
どうやら、変な名前を付けられているのは私だけでは無いようだ。
そのアクマちゃんと呼ばれた少女は先ほどからずっとスマホをいじりながら長い黒髪をもてあそんでいる。
彼女はオレンジの魔女と違ってギリギリ少女と言える年齢に見えるような気がする。
そして色は私と同様に紫で、使い魔には某国民的RPGのドラ〇ーのようなコウモリ型の姿を連れている。
「……ん? あーし? …………めんどっ」
そう言って紫の女性はため息をつき、チラリとこっちに目をやる。
「あーしは”アクマちゃん”。……以上」
そう一言だけ言うと、またすぐにスマホに視線を戻す。
どうやらちゃんまで含めて名前のよううだ。
「ボクは使い魔の”いびいび・いーびる二世”だキー! 長いので”いびちゃん”って呼んで欲しいっキー!」
紹介してもらえなかったそれが自分で色々アウトっぽい自己紹介をする。
その名前は置いて置いて、どうやら”使い魔”と言うのがオーソドックスなコイツらの呼び方のようだ。
「よし、じゃあ改めてキミ達にも自己紹介をしてもらおうかな? じゃあまだ名前を聞いていない、遅刻した紫のキミから」
そう言ってオレンジは私の方を指さした。
どうやら、私が来る前に一通りの自己紹介は済ませていたようだ。
((一応言っとくけど、本名は名乗っちゃダメにゃ))
!?
こ、コイツ……脳内に直接!?
急にテレパシー能力を使って来たテルみんに私は大いに驚いたが、直ぐに平静を取り戻して前を向く。
「私は”猫猫”と申します。漢字で猫を二つ書いてねこねこと読みます。ポジションはサポートだと伺っています。こちらは使い魔の”テルミドール三世”です。言いにくいので、私は”テルみん”と呼んでおります。まだまだ分からない事が多く、ご迷惑をお掛けするかもしれませんが、どうかご指導ご鞭撻のほどを宜しくお願いします」
そう言って私は、深々とお辞儀をする。
「お……おう、なんかこう……しっかりしているな……それに使い魔はテルみんか、少しあたしと似ていて親近感が湧く。よろしく!」
オレンジの人が明らかに引いているが、やっぱりっもっと子どもらしく砕けた感じの方が良かっただろうか。
「じゃ、じゃあ。隣のキミ、行こうか?」
彼女はそう言って私の隣にいる黄色の少女を指さす。
「…………」
しかし、その黄色い少女は下を向いてもじもじし始めて、何か口にする気配はない。
「緊張しないで大丈夫だぞ? そろそろ自分の口で名前くらい言って貰えないかな?」
オレンジの人が気を使ってそう言うが、少女は更にもじもじして顔を背けてしまう。
「オラオラァ!! 何してるガウっ!! 最初からそんなのじゃあ先が思いやられるガウ!!」
突然、隣にいるライオンのような姿をした使い魔が、少女の頭をてしてししながら叫ぶ。
「オレサマの名前は”ガウリンガル二号”だガウ!! こっちのオンナは魔法少女の”サン”だガウ!! こんな感じだから足を引っ張る事は確実だが、オレサマが次までには少しマシになるようにシゴいとくから勘弁してやってくれ!!」
そう言って、高らかに自己紹介をするライオン。
しかし、最初にぱっと見でライオンっぽいとは思ったが、どっちか言うと犬がポン〇リングでも被ったような見た目をしている。
「本人から自己紹介をしてほしかったがまあいいだろう。じゃあ最後に”スイ”クン。自己紹介をしてくれ」
スイクンと呼ばれた青色の少女が、大きく頷いて一歩前に出た。
彼女は見た感じまともそうだが、しかし隣の使い魔はなんだろうか……。
白くて丸い体に双葉のような尻尾……いや尾びれだろうか……。
なんか既視感があるような気がするんだが、それが何だったか思い出せない。
「オホンッ! 拙者は魔法少女”スイ”と申す!! ポジションはシュータでゴザル!! こっちは使い魔の”知世11号”でゴザル!! 若輩者ですがよろしくでゴザル!!」
なんかやっべーキャラ来たぁ……。
「知世だホエー!! よろしくホエー!!」
いやだからお前は一体何なんだよ……。
今までで一番謎だわ……。
「うん。元気があってよろしい! という事でこの三人でキミ達はしばらく行動を共にしてもらうから、仲良くするんだぞ?」
「あ、すみません。一つ質問いいですか?」
「どうぞ。猫猫クン!」
初めて他人から猫猫と呼ばれたが、やっぱり違和感がすごい。
「本来は四人パーティーだと聞いていたんですが、今後それが補充されることはあるんでしょうか?」
テルみんの話を信じるとすればだが、このままでは私達は一欠け状態で魔法少女の仕事に当たらなければならない事になる。
その仕事がどの程度の物かは定かでは無いが、それはかなりのディスアドバンテージになるのではないだろうか。
「うーむ。通常なら補充があるはずなんだが……どうなるんだ? おそなえ?」
……おそなえ。
「本当だったらリーダーとなる筈だった二期目の魔法少女が辞退しちゃったんだい! 流石に新人三人での任務は危険だから、近いうちに人員補充があるはずだい!」
ああなるほど、そう言う事だったんだい!
「ん? ああ、何か全員新人っぽいと思ったが、やっぱりそうだったのか」
辞退って契約更新を辞退したって事か。
私はジロリとテルみんの方を見る。
「どうやらそうみたいにゃ」
……コイツ本当に大丈夫なのか?
「次の時までに確認しとくホエー!! 新人三人は流石に酷だホエー!!」
コイツ等って、どういう方法で本部と通信を取ってるんだろう。
魔法があるんだったら、そんなもの一瞬でできるんじゃないのだろうか。
「まあ、時間も押してるしとりあえず仕事の説明をしよう。現地に行くから付いて来てくれ」
そう言って、オレンジは私達に手招きをした。




