火のマナ獣②
エストナ火山。この島の人々はこの火山をそう呼んでいた。エストナ火山には洞窟が5つ存在する。厳密には人の入れる大きさのと前置詞が必要だろうが。
この5つ洞窟はエストナ火山の北側に1つ、西側に3つ、南側に1つ。北と東の3洞はあまり深くなく、数キロで行き止まりとなる。南の洞窟は通称マナ獣の洞窟と呼ばれているが、不思議な封印がされており中へは入れない。マナ獣式典ではこの洞窟が使われていた形跡があり、ここからマナ獣のいる住処には確実に行ける。しかし、現在では誰も入る術を知らない。
残る選択肢は東の洞窟、通称「死の不腐洞」。名前の由来はあまりの暑さに、ここで死んでも身体は腐らず炭になると言う言い伝えから来ているとか。名前だけでも恐ろしい洞窟である。この死の不腐洞がマナ獣の住処まで通じている保証はどこにも無い。しかし、ここしか入れる可能性がある場所は他に無い。
死の不腐洞は現在発見されているのは地下3階まで。それ以外の情報は火炎系モンスターが大量に住んでいる事、地下2階以降はマグマ溜まりの横を通る必要があると言う事。その事が最大の問題である。
更に付け加えるなら、マグナ付近の温度は100度を越える。普通の冒険者には入る事すら出来ない洞窟、それが死の不腐洞。
今回、学院職員でこの洞窟の調査をしているヤタガーラ氏が同行してくれる事になった。彼の資質は「火炎防御士」、その名の通り、火炎系の攻撃から身を守るスキルを多く備えている。スキル「火炎バリア」を使えば、マグマ溜まり横の100度の空間も50度位の体感温度で通過出来るらしい。それでも熱いし、暑いと言う事は体験する以前に分かる。
氷を作り出すスキル持ちがチームにいると話が変わるらしいが、今回はいない。それ以前に水系、氷系スキルは暑さを和らげるが、火のマナと相反するので、マナの状態によっては一瞬で消える可能性がある。ここで調査している人達からは火系のマナ防御の方が安全と言う意見が多い。暑いけど。
地下2階のマグマ溜まりは一箇所通過するだけなので、大きな問題にはならない。暑いけど。
問題は地下3階である。マグマ溜まりというより、マグマの池が何十箇所もある壮大な草原を散策すると考える方がいいらしい。その中から地下4階への入り口、もしくはマナ獣の住処を探す事が今回の最大の目的。しかも滞在時間数十分で。これまで、数多くの研究者チームの努力によって、地下3階の全貌が少しづづ明らかになってきてた。
地下3階には5つの池と呼ばれるマグマ溜まりがある。入り口直ぐ目の前に第一の池、右手側に第二の池、左手側に第三の池、第二の池の奥に第四の池、第三の裏に第五の池がある。5つの池は円弧を描く様に出来ている。池と池の間は間隔がほとんど無く、中央がどうなっているのか不明だった。
第一、第二、第三の池周辺は既に詮索済み。第四、第五の池周辺が現在の詮索のポイントとなっている。そして、最近の詮索の中で新事実が見つかった。5つの池の中央への道が第四、第五の池の間に存在すると言うのだ。しかし、マグマ溜まりの間の通路は簡単に言えば、マグマの上に立つと等しい。自殺行為である為、未だに誰も調査した者がいない。
誰も調査した事の無い場所をこの男、オーウィズ王子の好奇心を湧き立てない理由が無く。今回の散策ポイントはその池の中央となった。死ぬって、絶対に。撤退か撤退。それ以外の選択肢は無いと思う。悪いけど。
今回、この「死の不腐洞」に挑むメンバーは僕達七本槍の道化衆の4人、オーウィズ王子、火炎防御士のヤタガーラ氏、炎勇旅団は4名。計10名で挑む事となった。
炎勇旅団からは隊長のユーム。アーチャー資質 素手でアーチャースキルを多用して戦う格闘家スタイル。彼女は元聖京都の王下聖騎隊に所属しており、その時、ライガの部下だったらしい。その為、ライガの事を師匠と言っている。格闘を主としているので、女性にしてはかなりの筋肉質。力比べでは間違いなく負ける自信しかない。
2人目はフミヅキ。魔法使い(火)資質 素手で火の魔法使いスキルを多用して戦うユームと同じ格闘スタイル。こちらも女性。炎勇旅団のほとんどが格闘スタイルでスキルを使う人が多い為、筋肉質の人がほとんどだ。
3人目はハズキ。魔法使い(風)資質 素手で風の魔法使いスキルを多用して戦うスタイル。彼はフミヅキと兄弟。この兄弟、背丈も高いので壁の様に思える。
4人目はブンケル。書士資質 珍しい資質の持ち主。また、このメンバーの中で新人ボールズ以外で唯一華奢な人物である。見た目通り体力はあまりないらしい。しかし、彼特有のスキルが炎勇旅団最強格にしたと言えると全員が答える程だ。そのスキルは「検索」。手に持つ本を開かずして、検索が出来るスキル。モンスター図鑑を持って、モンスターを発見すると、そのモンスター情報が脳裏に浮かぶらしい。地図も手に持っていれば、どこを歩いているか一目瞭然のスキル。使い方次第では全ての情報の中から必要な情報を瞬時に取り出せる万能スキル。
この「検索」が今回重要となる。限られた時間内で洞窟内を歩くのに道を間違える事が死に繋がる。オーウィズ王子の無茶苦茶な行動も、ある程度理論に基づいている。王子の理論の中に彼の存在がある事は間違い無い。そう言う意味ではこの強行日程を生み出した張本人と言っても過言では無いだろう。本人も行きたく無いだろうが。
今回、副隊長のウスイと同期のボールスは洞窟前で待機係。僕達からの緊急信号を受け取った時に炎英新都や炎英魔宝学院へ救助要請をするのが目的と言ってはいるが、実際に何かあってから救助要請してもその頃には灰になっているだろう。僕達が戻って来なかった時に僕達の死を明確にするのが本当の目的だろう。
死の不腐洞は洞窟内に入るとひんやりとした。
「涼しい。」
「今のうちに涼しさを満喫しておけ、そのうち涼しいと言う感覚すら忘れる。」
オーヴィズが僕の一言にありがたくない言葉を添えてくれた。
「ここに入った事があるんですか?」
「無いわよ。絶対に。これが彼の特技。知識で脳みそを満たして、さもやったかのある様に言いふらす事。」
そ、そうなんだ。何も言い返さないところを見ると図星らしい。ストナの口攻撃にはオーヴィズも相手にしない事としているらしく。都合の悪そう時は無視している。ただ、そう言う時は大抵ストナの言っているがあっている事が多い。
僕達は死の不腐洞をブルケンとヤタガーラを先頭に進んで行く。地図のプロだけあって全く迷う様子も無く一直線に最短ルートを歩いて行く。
その後ろを炎勇旅団の3名が2人を守る様に進み、中央にオーヴィズ王子、末端を僕たちが進んで行った。
時より現れる炎コウモリや火炎虫を炎勇旅団がなぎ倒すので、僕達は道案内されている旅行客の様にそれを観ながらただ進むだけだった。
炎勇旅団の3名の攻撃は凄いの一言に尽きる。内部破壊と言う言葉が一番良く会うかもしれない。
拳に溜めたマナを相手を攻撃(素手)した瞬間にスキルとして発動する。千本矢、火炎球、風牙を内部から受けるので、一般的なモンスターは姿形も無くなってしまう。そして、ブルケンの道案内とモンスターの的確な読みがメンバーと相まって、洞窟を最短で掛け抜けてしまう。
冒険者部隊としては最強かもしれない。手際の良さ、目的地への移動スピード、モンスターとの戦闘方法、スキルの使い方。
「凄いよね。私達の出番ないし。」
「お嬢ちゃんも正拳突きはどうだ。」
「無理、無理。」
そこへライガが話に加わった。
「あれは、一種の才能だ。失敗すると、スキルを失う。自分の中で確証がない時はやらない方が良い。」
「確証?」
「そのうち分かる。その戦い方が自分に合っているかは、自分自身が分かっている。」
「何、その上から目線。」
「ちょっと、ストナ今はそう言う時じゃないよ。」
「行こう、ナギト。」
ストナは僕の手を取った。いつもなら前に駆け出すだろうが、今は隊列を崩す訳にはいかないから、少し早歩きで進むだけである。七本槍の道化衆の正式な隊長になって隊長らしい事は何もしていない。結局、ライガやストナの意見に振り回されているくらいだ。今の様に時より起こる二人の中に入るくらいだけだ。だけど、マルマルはそれで十分と言う。隊長とは何か未だに分からない。前を行く、炎勇旅団のユームを見ても彼女立ち振舞には強さを感じる。僕は……。僕は前を行くストナと後ろのライガを見た、今はライガから学ぶ時だ。そう心に言い聞かせる。
そうこうする内に洞窟探索は深い階段に差し掛かった。1階と地下1階は一般的な洞窟。地下1階への階段も洞穴に段を付けて階段にしたと言う感じの階段だった。しかし、地下2階への階段は明らかな人的な造形が施されている。誰かが掘り、階段にした。しかも、その深さは1000段近くあるらしく。螺旋状に暗黒の世界へと渦を巻いている。
「皆さん、ここから地下2階への進みます。階段を降りると小さな部屋状の空間に出ます。絶対そこから出ないでください。その空間には結界があり、地下2階の温度が遮断されていますが、一歩外に出ると命の保証はありません。」
ヤタガーラは恐ろしい事をさらっと言うと、先頭を炎勇旅団に譲った。
「結界?誰が結界なんかはったの?」
僕はひとつの疑問を声に出していた。
「さあ?誰だろう?炎英王マリーナ?」
「マリーナって70年以上前だろ、亡くなったの。その結界大丈夫?」
僕の疑問にオーヴィズが答えた。
「普通の結界は20年だ。結界を維持するマナが切れるからだ。しかし、相手が本当にマリーナ、いや、8勇士達ならこの洞窟内に漂う火のマナ利用する可能性は高い。お前達が魔王城体験したエイディに会ったと言う亜空間魔法も多分同じ原理だろう。とすると、ここに8英雄達が来ていたと言う事になる。それは言葉を返すると、ここは火のマナ獣の住処に繋がっていると言う事だ。」
確かにそこまで聞くとここを調べる価値がある事は分かる。でも、生きて帰れるかは別問題だと思う。