火のマナ獣①
七本槍の道化衆
★「008」ナギト(17)♂ 武器片手剣 魔法剣士資質 Eランク
スキル:(開眼)マナ寄せ、マナ返し 回転マナ返し
〇「009」ライガ(46)♂ 武器槍 槍突騎士資質 王下Bランク
スキル:突撃の槍、亜空間魔法(収納激小)他
〇「010」マルマル(51)♂ 鉱山守資質、
武器音叉、ハンマー スキル 鉱石サーチ、鉱石割り、鏡合せ
〇「011」ストナ(20)♀ 聖騎士資質 武器大剣
スキル:聖流剣 聖回復 亜空間魔法(特大)他
○「015」オーウィズ王子(16)探求者資質
スキル:探求
炎勇旅団
○ユーム(38)♀ 隊長 Aランク アーチャー資質
雨矢 千本矢 心臓の矢 瞬速矢
○ウスイ(33)♀ 副隊長 Bランク 剣士資質
なぎ払い 多段切り 疾風切り
○フミヅキ(23)♂ Bランク 魔法使い(火)資質
(ハズキとは兄弟)
○ハズキ (22)♀ Cランク 魔法使い(風)資質
○ブンケル (29)♂ Dランク 書士資質 スキル:検索
○ボールス (17)♂ Eランク 演算士資質
○ヤタガーラ (55)♂ 火炎防御士 (学院職員 臨時メンバー)
スキル:火炎バリア(2重掛けまで)
火山島唯一の街、瀝審市。
炎英離都との距離は直線にして10キロ程。波が穏やかな日であれば、小型カヌーでも十分渡れる距離である。60年前まで、この瀝審市はボルケーノ地方有数の巨大な都市であった。火山島周辺の巨大な漁場。温暖な観光地。そして、火山島の目玉、エストナ火山。標高3000メートルを超える巨大な火山は島の東側にそびえている。その内部は複雑な洞窟状になっており、洞窟の最深部には火のマナ獣がいると言われている。この洞窟に冒険者や発掘者達が大勢訪れていた。
さらに5年に一度のマナ獣式典にはボルケーノや大陸全体から多くの人達がこの火山島へやってきていた。
炎英王都から瀝審市までが巨大な賑わいを見せ、運河には大小様々な船が行き交っていたと言われている。
その面影はもうない。
60年前のクーデターで火山島への渡航は島民以外禁止された。
軍部トップのアブシーフォが旧炎英王を倒して、最初に行った政策が旧炎英王の一族の抹殺だった。
軍部の中枢の有力な将軍を各地域に送り込み、徹底的な惨殺を行った。その政策は完全に成功した。ボルケーノ地域にいた旧炎英王の一族を完全に排除する事ができた。完璧までの遂行が、巨大な損失を生み出した事に気付いたのはその後の事であった。
アブシーフォに心酔する部下たちは炎英王一族及びその関係者全てを抹殺した。それだけにとどまらず、遠縁や部下の一族、そして、火系の資質やスキルを持った者までもが対象となった。
クーデター終えんから2年間でボルケーノ地方に住む者で火系のスキルを持つ者はいなくなったと言われている。
その為、気がついた時には火のマナ獣との関係の保ち方、マナ獣式典の内容は全て闇の中へ消えていった。
炎英王一族の驚異がなくなった変わりに、火のマナ獣が巨大な驚異へと変貌した。
マナ獣式典を執り行うにも、式典の詳細が書かれた書物はクーデターで紛失。式典と執り行っていた炎英王の取巻きも全て滅亡し、知る人がいない幻の式典と化したと。
アブシーフォ新炎英王が出来た唯一の手段はマナ獣を怒らせない事。つまり、火山島への入島禁止令だった。
時が過ぎ、2代目新炎英王の政権になると、炎英王の遠縁、当時聖京都にて難を逃れた研究者一族と和解した。彼らに炎英離都の自治権を与える変わりに炎英魔宝学院にて火のマナ獣との関係修復をするように要求したとされている。
現在の瀝審市は当時の街より少し南に位置した小さな漁村となっている。旧瀝審市市街地は廃墟となり、誰も住んでいない。漁村側の高台には小綺麗な邸宅が立ち並んでいた。
「右手の端にある赤い屋根の家が我々のここでの滞在邸宅だ。」
他の邸宅よりも大きな赤い屋根の邸宅が目に飛び込んで来た。この邸宅、まさか?
「元炎英王の火山島の別荘だ。炎英離都から逃げた一部の一族はここで自害したと言われている。曰く付き物件だ。」
その流れ、もういいです。お腹いっぱいです。
「ストナとナギトは私と共に来てくれ、他は邸宅に荷物を運んでくれ。2人共行くぞ。」
「ど、どこへ?」
そう言って、オーヴィズは真っ直ぐに歩いていく。僕はストナを見たがストナも首を傾げていた。
暫く歩くと、少し大きめの屋敷が見え始めた。
「あそこがこの瀝審市の市長邸宅だ。」
「挨拶にいくんですか?」
「違う。住民になる手続きをする。七本槍の道化衆は今日ならこの火山島の住民になる。」
「はあ?オーウィズ、何企んでるの?」
ストナがオーヴィズに近寄る。
「ストナ姉、今から説明する。ここは火山島だから、基本島民以外立ち入り禁止。だから、炎英魔宝学院の研究者も最初にここに家を建てて島民手続きをしてから研究に入る。」
「なんで私達なの?あなたの名前で登録すればいいでしょ。」
「自分の名前で登録すれば、王や父に請求書がいく。ここで何をしているかバレる。」
「それなら七本槍の道化衆も一緒でしょ。こっちだって、王下聖騎隊経由で領収書が上に上がっていくわよ。王子を守らなくて何遊んでいるんだって、注意されるのは私よ。冗談だないわ。」
「大丈夫。」
「何が大丈夫よ。私がバカ騎士団長に怒られるのよ。よりによってあいつよ。あいつ。怒られる事が屈辱なの、わかる?」
あいつとはマーロンの事だ。
王下聖騎隊、総騎士団長。人呼んで恐帝マーロン。
アタゴ山の戦いで一緒に戦ったが、決して悪い人ではない。悪いのは口だけで意外と部下思いの様だ。ただ、同じ聖騎士資質で、王族の資格を持つストナには厳しい。ストナもあの性格なので合わない。
話に出て来ただけでも機嫌が悪くなるので、七本槍の道化衆では彼の話題は禁句となっている。
何度も言うけど、決して悪い人ではない。あの戦いから何度も会ったけど、結構僕には良くしてくれる。一度、彼の友人でもあり聖騎隊4番隊隊長のカールと3人で食事に行って奢ってくれた。結構楽しい食事だった。ただ、ストナには絶対に言えない。
憤慨するどころの騒ぎではなくなるから。
オーヴィズはストナの発言を片手を伸ばして止めた。
「マーロンには既に了承を得ている。」
「はあ?なんであいつが。」
「ストナ姉、ナギト、今から言うことは他言禁止だ。」
王子が僕達を真剣な面持ちで見て言った。
「狙われているのは、自分では無い。聖京都自体が狙われている。」
「どういう事?」
「詳しくは分からない。しかし、最近、気になる動きが聖京都内、王城内で起きている。」
「それなら、むしろこんなところで油を売っている場合?」
「こちらが本当に欲しいのは、ナギト、君とマナの剣だ。」
マナの剣。マナを一切受け付けない不思議な剣。魔王大戦の時、マナの英雄エイディが使い魔王を封印した剣。そして、先のアタゴ山の戦いでエイディの幻が現れて、僕に予備のマナの剣をくれた。そのおかげで復活しようとした魔王を再び封印する事ができた。
現在、マナの剣はもうない。両方とも魔王封印の際に魔王と共に石になった。代わりに幻で現れたエイディが僕にマナの剣作る秘伝の書を手渡してくれた。それは不思議と僕の心の中に入っている。
マナの剣を作るには二つの封印の書が必要だと言っていた。一つは僕がもらった「技法玉鋼」そして、もう一つがここから北の旧ノーズフィン、現在のクラスタルにあるドワーフが持つ、「技法たたら」。この2つの封印を解けば、マナの剣は作る事が出来るらしい。
アタゴ山の戦いが終わってから、聖京都、王下聖騎隊の全面協力でマナの剣の封印を解く計画案が浮上した。しかし、ライガが猛反対して、案は棚上げ状態となった。ライガ曰く、強大な力は争いを生む。更にたかがマナを一切受け付けない剣だけをエイディがここまで存在を消す様に封印した事も何かある可能性がある。今封印を解く時では無いと主張した。
3魔女の残りの2人が生きている可能性がある。通常、バンパイアやゾンビの類のモンスターは光か聖のマナ攻撃に弱い。マナ寄せで両方のマナを掛け合わせた攻撃はモンスター相手にかなり優位に立てた。マナ寄せした攻撃で相手の心臓にある核を攻撃すると核は崩れてモンスターも倒れる。
しかし、3魔女の一人、バーブルにはその攻撃が効かなかった。彼女のマナは再生した。
その唯一の攻撃手段が「崩壊の一撃」火水風土光聖のマナを全てマナ寄せして相手の核にぶつける攻撃手段。しかし、そのマナに武器自体が耐えきれずに自分の腕もろとも破壊される。マナの剣だけがらそのマナに受け流す力がある。
「無理よ。ライガが許さないわよ。この前の話し合いも全くもって妥協しなかったから。ただ、私もライガの意見に賛成。バンパイアがいないなら、マナの剣は不要。もし、マナの剣を持つマナの剣士がいると帝国に知られたら、ナギト自身が危ないのよ。」
ストナは僕の前に立って王子に言った。
「分かっている。しかし、3魔女は生きている。しかも聖京都の中に。」
「え!聖京都に?」
「だから、あまり時間がない。」
「そんな曖昧な情報ではライガは首を縦に振らないわよ。」
「分かっている。だから、あいつの息子を助けるんだ。そうすれば、あいつに貸しを作る。それが目的だ。」
「そんな事で……。」
「ナギト、政治とはそう言うものだ。ただ、結果としてあいつの息子を助けるのも事実だ。だから、マナ獣には必ず会わねばならない。あと、マナの剣の事も聞く。」
僕はストナの方を見た。
「ま、私達は私達のやるべき事をしよう。」
「誰がなんと言っても、マナ獣に会わないとライガさんの息子を助ける事が出来ない。マナ獣に会おう。」
オーヴィズは僕の方を見た。
「そうそう、あと、これも秘密だけど、「炎帝御輪」が手に入った場合は、自分達がもらうから。ボルケーノのには渡さない。」
そう言いながら、彼は意気揚々と村長の家へと向かって行った。
何の話してた?
……。
そうだ。七本槍の道化衆の家をどうのこうの言ってた。
その時、僕の袖を何かが引いた感覚があった。僕は横を見た。
「お兄ちゃん達はゴーレムを退治しに来たの?」
「ゴーレム?」
それはこの漁村の子供だった。ストナが子供に話しかける。
「ゴーレムを見たの?」
「うん、見たよ。火のゴーレムだよ。」
火のゴーレム?
「報告ありがとう。私達が退治するから、大丈夫。」
王子が僕達と子供の間に入って何かお菓子を手渡した。そうすると、子供は喜んで去っていった。
「ゴーレムって、あの伝説の。」
「いや、多分、火の熊系モンスターだろう。旧市街地に火山のモンスターが時々出没するらしい、それより、時間が無い、急ぐぞ。」
その日、火山島にある旧炎英王の別荘は七本槍の道化衆の所有となった。所有と言っても購入金は全て聖京都持ち。維持費用も掃除者等も全て聖京都が支払うという事が今回の契約内容だった。
ただの名前貸しだけど、僕達にはデメリットが無い契約。しかも、島の住民権が七本槍の道化衆に付与されたので、七本槍の道化衆は入島に特に許可が必要無くなった。ありがたい内容だけど、この火山島に今後も来るのかと言われると疑問だった。
お金はあるところにはある。
としか言えない出来事だつた。