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オーウィズ王子と火山島③

 炎帝御輪と炎粉飾剣。

 8勇士の一人、大地の英雄の従者が作り上げた名品。ドワーフの中でも最高峰の武器造り匠と言われていた人物で、彼女?が残した遺物は各地に名品として残っているらしい。(僕は見た事も聞いた事もないけど。)

 この腕輪と小剣は炎英王の護身武具として使われていた。

 炎帝御輪は火炎系マナ攻撃を100%防いだと言われている。特定のマナだけとは言え、その攻撃を100%防ぐ方法は現在も存在しない。そんな防具が本当に有ったのか、疑問でしかない。

 もう一つが、炎粉飾剣。小剣の類に属する剣。剣としての威力はほとんどない。しかし、驚くのはその性能。火炎系マナ攻撃の攻撃力を100%付随させる。回りくどい言い方をしているが、言い換えれば攻撃力が2倍になるという事である。

 ありえない。

 炎帝御輪にしろ、炎粉飾剣にしろ。現代の技術ではその十分の一くらいの性能しか出せられない。どこまで本当なのかは謎のままである。


 現代でも解明されない理由のひとつに炎帝御輪と炎粉飾剣は60年前のクーデターで2代目炎英王と共に砕け散ったと言われている。この世にもう無い遺物である。

 クーデターの連絡を受けた炎英王はこの炎英離都から各地に援軍の要請を行い、炎英王都へ向かった。

 そして、炎英王都南方のミスルトの丘に陣を敷いた。ミスルトの丘は炎英王都全体を見渡せる場所。そこで援軍を待つつ、クーデター主を牽制するのが目的だった。

 しかし、その丘こそが罠であった。

 クーデターを起こしたの軍部トップのアブシーフォ。彼は炎英王がここに陣を敷くことを見越して、策略を巡らしていた。ボルケーノ各地の名家は調略されており、援軍と思わせてミスルトの丘を包囲する用意がされていた。

 その罠にまんまとはまり、炎英王は降り注ぐ矢じりを全身に受けて絶命した。その際に持っていた炎粉飾剣と炎帝御輪が粉々砕け散った。

 ここまでは、ボルケーノの各地に残っている伝承。

 

 ここからは炎英魔宝学院や炎英新都の書庫に有った別の記事。

 炎英王と共に粉砕したのは炎粉飾剣だけだった。紛争が終結してから旧炎英王の遺品を全て調べたが、炎帝御輪は発見されなかった。その為、炎英王と共に果てたと言うのを通説としたと書かれていたそうだ。

 また、炎英王はいつも炎粉飾剣と炎英御輪を身につけて、祭事や式典にはそれを披露していた。

 しかし、過去の王家の歴史書を調べても炎英王の式典に剣と腕輪が同時に出てくる記載は無かったらしい。

 オーウィズ王子がどうやって調べたのか敢えて誰も聞かなかった。

 


「これらの事から、ひとつの仮説が生まれる。」

 オーヴィズは全員の前で再び力説を始めた。

「いまだに作れない技術の2つの伝説武具。更には同時に存在しない過去。そして、5年に一度のマナ獣に会う式典。」

 まさか……。

「そう、それだよ。」

 オーヴィズは僕の顔を見て言った。

「全ては火のマナ獣にある。エイディが使った不思議なマナを受け付けないマナの剣があるのなら、応用でマナを思いっきり吸い込む剣や腕輪も作る事は可能だろう。その未知なる道具に火のマナ獣が特大のマナを入れ込めば、炎粉飾剣も炎英御輪もそれほど難しい技術ではないはず。永久機関ではないのなら、定期的にマナを補充する必要がある。5年毎の式典は2つの武具を交互に入れ替える為のものなら……。」

「それだと……。」

「そう、炎英御輪は火のマナ獣の元にまだあると言う事になる。」



 

「駄目だ。認められん。」

 ライガは食堂の椅子に深々と腰を下ろして、王子を見上げた。ライガのテーブルの前には様々な酒が置かれているが、一切見向きもせずに、王子だけに視線を注いでいた。

「こんなチャンスまたと無いんだ。良いだろ?」

「不許可。貴方は分かっておられますか?命を狙われている可能性がある事をお忘れですか。火山島、しかも、マナ獣に会いに行く?死にたいのですか?」

 ライガの言うことが最もな答えだと思う。王子が火山島に行きたいと言い出してから、もう2時間近く議論が進められている。最初はストナと炎勇旅団のユームが猛反対。しかし、王子も妥協せずに、ライガが来て再び話し合いが再開された。

「考えてみてくれ、今しかない。」

「…………。別に今行く必要はありません。」

 オーヴィズは突然僕の方を見た。

「今、ここには聖京都と炎英離都で最も強いと言われている、七本槍の道化衆と炎勇旅団の2部隊がいる。しかも、聖の英雄と血筋が2人、更にマナの英雄の血筋までいる。こんなチャンスはまたと無い。伝承では、火のマナ獣と正式に契約を交わしたのは、火炎の英雄とマナの英雄の2人だけ。マナの英雄の子孫はマナ獣に会うためのキーなんだよ。このチャンスを逃す訳にはいかない。」

 「この暗殺犯が全て捕まって、問題が解決したなら、私達は殿下に付き合います。だから、今は耐えて下さい。」

 ライガはそう言って僕の方を見た。

 僕もライガに対して頷いた。

 今ではない。暗殺者軍団がどう動くか分からない今は守りを固めるしかない。


「今しか無いんだ。」

「駄目です。」

 オーヴィズの説得に全く聞き入れず、ついには酒を飲み始めた。

「今にも死ぬぞ。どう考えている。」

 オーヴィズの唐突な質問にライガが彼を睨みつけた。

「何が言いたいのですか?」

 殺気が……、怒り……。これはバーブルと向かい合った時のライガそのものだ。でも、何が死ぬ?話が読めない。

「ライガ、火のマナ獣の別名を知っているか?」

「知りません。知りたくもない。」

「古代の叡智だ。4英雄も魔王との戦いの前に火のマナ獣に助言を求めた。」

「さっきから言っている意味が分かりません。」

「マナ失調症を癒す方法だ。火のマナ獣なら知っているかもしれない。」

 マナ失調症?何の話なんだ?

 その時、ストナが僕の肩を叩いた。ストナは真っ直ぐ僕の方を見た。何かを言おうとしていたが、何も言葉を発せずにライガとオーヴィズの方を向いた。

「決まりね。火山島へ行きましょう。」

 はあ?なんでそうなるの?

「ストナ姉、話が早い。」

「その代わり、オーウィズ、勝手な行動は禁止。危険があると判断した場当は即撤退。それが条件よ。」

「了解、ストナ姉。今から準備してくる。」

 そう言うと、王子は食堂から出ていった。

「ストナ、何言っているんだ。勝手に了解して。今は炎勇旅団と合同の護衛任務にあるんだ。こっちの考えで動く事は出来ない。」

 僕はそう言う炎勇旅団を見た。

「私達は七本槍が良いと思うのなら、断る理由がない。」

 な、な、なぜだ。どうしてそうなる?

「ね。」

 ね?何が「ね」なんだ。

「全員の意見が一致したのよ。あのバカはマナ獣にあって、腕輪と言うより、自分の仮説を立証したい。そして、そちらさんは、マナ獣に会うことが炎英魔宝学院、いやボルケーノ地方全体の利益になる。そして、私達はライガの息子の治療方法を知ることが出来るかもしれない。」

「ちょっと待って、ライガの息子?そんな話聞いてないんだけど。」 

「お前さんに言ったら世界中を回ると言いかねんからな。黙っていた。ライガにはお前さん達より少し上で今年21歳になる息子がいる。名前はダーナー。13歳の時にマナ失調症を発病して以来、寝たきりだ。」

「直す方法は?マナ失調症って?」

 僕はライガの方を見た。ライガは黙っている。

「だから、火山島に行くのよ。バカがどこかで仕入れて来た情報。古代の叡智。それは調べる価値はありそうね。どうするの?隊長。」

 ストナは僕を見てウインクした。

「行く。行きましょう。ライガさん。行きましょう。」

 その言葉にライガは少しうつむいた。でも、嫌ではなさそうだった。

「ライガ、息子はあとどのくらいだ。」

「半年だ。今日。医者に言われた。」

 は、半年?何が?

「ら、ライガさん、半年って何ですか?マナ失調症って?」



 魔王大戦が終結して、世界は平和になった。


 現在において本当にそう思っている人は何人いるのだろうか?確かに魔王との戦いはなくなり、このアリシア大陸全体を自由に往来出来るようになった。

 けど、貧富の差は拡大し、民族間の紛争も増えと言われている。冒険者になるにあたって、冒険者はモンスターを倒し、財宝を探すだけではない。この混沌とした世界の中に足を踏み入れる事になる。貧富の差が激しい地域には強盗、盗賊も多くいる。紛争地域では、戦いに巻き込まれる事もある。それが現在の冒険者としての使命でもあると教えられた。

 そして、更に注意すべきは病魔である。4大病魔。「斑点病」「心奇症」「痩腐病」「結核症」。この4つの病魔は現代になって、4種類の分類であり、原因、症状は様々にある事が分かってきた。

 その一つ。心奇症。心臓が突然止まる病である。その中に「マナ失調症」というものがある事を今回僕は初めて知った。心奇症の中でも持続型に類され、徐々にマナが弱くなり、最終的には心臓が止まる。現代医療や魔法でも、この病を治す方法は見つかっていない。

 ライガの息子。(と言っても僕より年上だけど。)ダーナーが発病したのは8年前、彼が13歳の時。王下冒険者学院で学んでいる時だった。

 ライガの家族はダーナーの体調を気づかい。魔王の瘴気が漂う聖京都より、温暖なこの炎英離都へと移り住んだ。ライガは暫くこの地を拠点として活動をしていたらしい。

 それがなぜ、あの時の、あの場所で僕はライガに出会ったのか?マルマル曰く、虫の知らせだろう。


 火山島へと移動する前に僕たちはダーナーに会った。身体や顔は恐ろしい程に弱っていた。でも、目はどことなく優しく、ライガさんそのものだった。

 彼を死なせる訳にいかない。そう心で決心して僕達は火山島へ向けて出発した。

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