終章
炎英離都、帆色縄索露店は僕達が初めて来た時と変わらず、活気が溢れていた。
僕とストナは帆色縄索露店の魚類鍋を食べながら、街並みを楽しんでいた。
突然ストナが僕の手を取って言った。
「泳ぐ?」
「え?」
「元々そう言う計画でしょ。」
「違う。それはストナの勝手な妄想。オーウィズ王子の護衛が仕事です。」
僕達はなぜが笑い出してしまった。
長い旅だった。
掛け替えの無い仲間を得て、そして、失った。そんな旅となった。思えば、炎英離都へ来た……、いや、この旅の出発点はここだった。
あの時はまだ、マルマルがいた。不思議なドワーフだった。蜃気楼の街モガナートに残りたいと言い出して別れた。蜃気楼の街が現れるのは5年後、しかし、蜃気楼の街の中は500年近い時間が経過しているから、もう会うことは無い。マルマルとはあれが最期の別れとなった。
そして、炎勇旅団との出会い。隊長ユーム、副隊長ウスイ、フミヅキ、ハズキ兄弟、ブンケル、最後にボールス。
現在、ウスイが隊長となり、活動を再開している。実際には僕達よりも早く炎英離都へ戻ってきており、次の任務の為に、炎英新都へ出ていった。
悩む前に身体を動かせがユームの口癖だったらしく、ユームの遺言通り活動を再開させたと言っていた。ボールスだけが、元気が無かったが、実際他のメンバーを元気を繕っているのはよくわかる。それでも彼らは進んで行くんだろう。
ドワーフのエージナはライガの槍を作った後、工房へと籠ってしまった。テロット曰く、何か気になる事があるとしばしば工房に籠るらしい。早くて数週間、長い時には数年顔を出さない。僕達が村を出る時にも現れなかった。ナンカンも同様だけど……。マナの剣を受け取りに行っても会えない可能性があるらしい。エージナらしい別れだった。
テロットは最後まで僕達に付き合ってくれた。テロットとオーウィズは最後まで彼の持つ大地のハンマーが本物かどうかを議論していたが、結論はでなかった。炎英魔宝学院に大地のハンマー類を研究している教授がいるらしく、オーウィズはテロットを炎英離都へ招いていた。
ライガの息子はマナを吸い取る核によってマナ失調症は治りつつあるとの事。今回の旅の最高の報いかもしれない。
ライガ自身は息子の回復を見届けてひとり聖京都へ旅立った。
下手に精神的弱者が聖京都へと近づくと3魔女リリラの手へと落ちる。彼女は魔王からの受け継いだ能力「蠱惑」、すなわち誘惑系スキルを使う可能性が高い。誘惑系スキルは精神力で跳ね除けるしかない。その為、ライガやマーロンなどの強靭な精神力のありそうなメンバーを厳選して城内守護に充てる事となった。
確かにあの二人なら大丈夫だろう。
僕とストナは先程まで火山島のマナの獣の会ってきていた。炎帝御輪へマナを込めてもらうためだ。
マナ獣はどこまで知っているのか分からないが、魔王のマナが濃くなりつつあるとだけ語ってくれた。リリラが何かをしようとしているのは確かな様だ。
ただ、マナ獣の意見も皆と同じでマナの剣の完成を待てだった。5から6ヶ月の間は魔女との戦いは避けた方がいいと言う事だ。
そして、再び炎英離都へ戻ってきて、オーウィズと落ち合う為、ここで待っているのだった。
予定では今日の午後、スルーニルへ船で向かいルイーゼ王女に会う。
本日の天候は晴天、最高の船出日和。
船頭達から話ではこの時期はスルーニルまでの船旅で海が荒れる事あまりない。陽気な船旅を楽しめそうだ。
晴天で照り返す日差しを浴びながら、僕は久しぶりの魚類鍋を食べ終えた。
「小腹空かない?」
ストナが何かを甘い物を食べようと提案して来た。午後まではせっかくのオフである。これからまた戦いは始まるかもしれない。それなら、オーウィズが来るまでゆっくりと羽を伸ばしますか。僕立ち上がって露店を眺めた。そう言えば奥の方はあまり行った事が無い。
「ストナあっちを見に行かないか!」
僕はストナの手を取り彼女を軽く引き寄せ様とした、その時だった。彼女のはるか後方からひとりの人が凄い形相で駆けてくるのが目に留まった。僕は一瞬身体の動きが止まった。
ストナは僕の違和感に気づいた様で視線の先へと振り返った。
「え?リピートさん?」
その形相の男とはリピートであった。彼は炎英魔宝学院の職員であり、現在、オーウィズの秘書的役割を果たしている。
今日ここで待ち合わせをしているのは彼ではなくオーウィズ自身である。彼が来ると言う事は……、彼に何かあったのか?
僕達はリピートの第一声に恐る恐る耳を傾けた。
「ストナ様、ナギト様、至急館にお越しください。大変な事が聖京都で起こりました。クーデターです。」
「クーデター!?」
予想外の言葉に僕達はそれ以上語る言葉を失ってしまった。
実際は僕が想像したより遥か上の事がこの時点で聖京都では起こっていた。そして、その事は聖京都が実質3魔女の長女リリラの手中に落ちた事を示していた。
クーデターと言ってもクーデターではない。
事実は現王並び第一王子の自害。
遺書には王位を第四王子に託すとだけ書き遺されていた。
それに反対した第一王子派の貴族の大部分は第四王子、いや王への不敬罪として投獄、もしくは斬首。
王の側近含め、宮中の管理者は全て今まで見たこともない人々に取り替えられたと言う。
クーデターでは無い。リリラが居なければ……。実際は蠱惑を使った王家転落の策略に落ちたのだ。
更に1年後、王位継承式典の開かれる通知が大陸全土に届いた。更に半年後王族、貴族、王家に仕える者、並びに聖京都下にある全ての国民、冒険者は式典準備の為帰国を命令する通知が送られてきた。
オーウィズ自身、ストナ、そして七本槍の道化衆にも、もちろん届いた。その通知には警告が書かれていた。参加しない者、遅参者は不敬罪が適用され、斬首もしくは聖京都の民の資格を剥奪すると。
リリラからの招待状いや挑戦状だろうか。半年後と言うとマナの剣が出来ている時期、こっちの行動が読まれているのか?たまたまか?全く分からない。
ただ分かっているのは……。
聖京都建国以来初めての巨大な戦いが始まろうとしていた。先程まで真っ青に見えていた大空が心なし灰色に曇り掛けている様に思えた。いや、夕立に見舞われている様だった。
七本槍の道化衆2 (マルクロードと旅の踊り子) 完
駄文
トントン
扉をノックする音が部屋中に響いた。
「何?」
「失礼します、陛下、珈琲店の店主をお連れしました。」
「ありがとう。いいわよ、下がって。」
女中は部屋の入り口から部屋の中へ珈琲店の店主と名乗る人物を案内すると、陛下と呼ばれる女性に一礼して去って行った。
男性は陛下と呼ばれる女性にゆっくりと近づき帽子をとり、深々と頭を下げた。
「女王陛下、御即位おめでとうございます。」
女性はその男に見向きもしないで、何か石に手をかざしていた。
「で!それだけで来たのではあるまい。なんだ。」
「少し人払いを…。」
女性の横には小太りの男性が座っており、その対面には数十人の老年男性が椅子に座っていた。
「かまわん、何を話そうが既に彼らに耳には届かん。コイツラの心は既に深い深い闇の中だ。そう言う意味ではゾンビと変わらんな。で、なんだ、心にもない祝い事を言いに来たわけではあるまい。」
「心にもないとは心外ですが、今日は暫くお暇をもらう為、そのご挨拶に。」
「暇?もしかして、我が主の復活が怖いのか?昔事を根に持つ御方ではないぞ。」
「もちろん存じでおります。私も主の復活は心から切望のしております。今回は私事ゆえ……」
女性は小太りの男性側を向きいて「たぬきめ!」と呟いた。
「何かおっしゃいました?」
女性は店主の方への向きを変えた。
「お前が見込んだ教授は恐ろしいな。おおよそ計画通り進んでいる。」
「最後の準備は整いましたか?」
「あと少しだ。残りは赤の豆と例の石が揃えば、全てが揃うのだが。」
「例の石はどうやって手に入れますか?それだけなら、私の方で手配させましょうか?」
「心配いらん、こちらには1、2の手駒がいる。彼奴等やらせる。」
「良く手駒に仕立てましたな。蠱惑も使わずに。」
「お前と同じだ。戦士は強さを求め、その強さを餌にすれば、簡単に堕ちる。」
「耳の痛い話です。今後の参考の為、心に刻んでおきます。あと、既にご存じかと思いますが、マナの剣の封印が解かれました。お気を付けて。」
「分かっている。妹二人が殺られたんだ。あのエイディめ!」
そう言うと手元に置いていた石を握りしめ、粉々に砕いた。
「陛下、怒りをお静め下さい。これ以上民を惨殺しますと、民の心が離れます。」
女性は怒りを抑えながら、店主を睨んだ。
「考えを変えて、もう少しここに留まらんか?」
「申し訳ございません。旧友と会う約束がありまして、それに、ここはすぐに戦火に見舞われます。そんな中で店を開くのは限界がありますので……。」
「もういい、下がれ、あの方が復活した暁には使いを出す。その時には顔を出せ。」
「かしこまりました。陛下と我々の主と会う日を心待ちにしております。」
そう言うと、店主は女性に更に深々と頭を下げてから、部屋を出ていった。
女性は思いっきり目の前のテーブルをたたき割った。
「たぬきめ。あいつといい、エイディといい、気に食わん。誰か!」
女性が大声を上げると先程の女中が部屋の中へ入って来た。
「5番牢獄の囚人を処刑場へ連れて来い、私自ら惨殺する。」
「かしこまりました。」
そう言うと女中は部屋を出ていった。
駄文 完




