継承と序章終幕②
朝、目が覚めた。頭がズキズキする。ここはどこだろうか?冒険者になってから時より感じてしまう感覚だ。起床の場所が何処なのか分からなくなる。何度も経験するとその感覚も自然な感覚になってしまう。人の慣性とは何なのか分からなくなる。
日差しが差し込む窓、ベットに毛布、丸太で出来た壁。それらを記憶とつなげていく……。次第にここが何処なのか分かってくる。
エチャメールの来客用小屋かな?
ここの場所が分かると次はここに来た経緯を思い出す。エチャメール……。
少しずつ記憶が戻ってくる。
バンパイアの生き残りの男との戦いによって、身体の至る所を殴り尽くされた。ストナの聖回復によって傷は癒えた。でもいつもとは何か違う感覚が続いていた。傷は治してもらっても何かしっくり来ない気分を抱えてエチャメールまで戻って来た。エチャメールに到着した頃には翌日の真夜中になっていた。本来の到着予定より半日近く過ぎていた。僕の身体がうまく動けなくなり、スピードを下げて、休息を取りつつ行動したのが原因である。
エチャメールでは僕の戻って来た知らせ受けてオーウィズが出迎えてくれた。何か色々と話し掛けてきたけど、疲労のせいか安堵感からかオーウィズの声に集中出来なくなって、目の前か霞がかったと感じた瞬間……。その辺りから記憶が無い。
ストナが朝食を持って来てくれ、現象を説明してくれた。
オーウィズと会って直ぐに僕は倒れたらしい。その後3日間死んだ様に眠っていたと言う。
今だには身体がうまく動かせない。身体の回線が繋がってない様だった。
マナと言うより生命力の切れが原因と言う話である。今回の戦いでは2回も聖回復によって死の淵から回復した。1回目は炎の双剣の剣で心臓を突き刺された時、そして、2回目はマナの戦士のバンパイアにボコボコにされた時だ。
ストナの聖回復で全回復が出来るが、無限に使えるスキルでは無い可能性があると言う。元々、全回復をするスキルではなく、低回復スキルの類で全回復する訳だから、何かしらのリスクはあるのだろうと言う結論となった。
将来いくら聖回復を使っても治らないリスクがあるから無理はするな!とオーウィズとライガに言い聞かせられた。
エチャメールに戻ってきて6日が過ぎた。
身体も動く様になってきた。昨日から積極的に外に出る事とした。森の中の村であるエチャメールにも道には日差しが差し込む。数日間寝ていたので、太陽の光がいつも以上に眩しく感じる。手を太陽にかざすと、手が輝いて見えた。あの時の事が思い出される。
あの時、『技法玉鋼』と『技法たたら』が合わさった時だった、玉鋼の書とたたらの書は消えてしまった。ふたつが合わさるまで技法たたらは僕の中に確かに存在していた。けど、あれ以降存在を感じられない。きれいサッパリ無くなったとまでは言えないけど、封印の書が消えた感覚はある。あの封印の書自体にとりわけ意味があるのではなかった。ただ、消えた事で不思議な事が起こっていた。カルメの書に書かれていたマナの剣の記述が読めるようになったのだ。他にも、一緒に読めなくなっていた別の記述も読める様になった。封印は書物自体ではなく、この世界の存在を消していた様である。
族に言う「何かの封印が解けた」と言う事なのだろう。
それによってマナの剣の製作は可能となり、ナンカンはマナの剣製作に着手し始めた。
七本槍のメンバーはと言うと、ストナは今回ここに来るまでに捕らえたモンスターの死骸と引き換えに、オリーシアと言う宝石細工職人から指輪を作ってもらえる事になったらしく、毎日通っている。
ライガの方も壊れた槍の代わりをエージナが作ると言う事になり、こちらも工房からほとんど出てこない。
オーウィズはナンカンの工房でマナの剣の工程を見学。
炎勇旅団のメンバーは僕が目覚める前にボールスと合流してユームを弔う為、ゴスラルに向けて出発した。暫くクラスタルに留まり、その後、ボルケーノに戻る算段らしく、ここで七本槍との同行は終える事になった。
その日の午後、僕は食事を食べてから久しぶりに外へと足を運んだ。体力の回復の為、村の中を歩いて回る様にライガに言われていたからだ。
溢れ日注ぐ街道を進んでいく。肌を軽くそよ風が僕を出迎えてくれた。身体の不調を感じさせない心地よさが全身を駆け抜ける。
「ナギトー。」
ストナが向こうからやってきた。
「これ、これ。」
嬉しそうに両手中指に嵌め込んだ指を見せてきた。
「こっちが風のマナの指輪。そしてこっちがかいれい石の指輪。どう?」
どう?と言われても、回答に困る。とりあえず、似合っているよ。と答えておいた。
ストナは指輪を更に見せつける様にこっちに両手を見せつけてきた。でも、金剛石の指輪の事は忘れている様で助かった、この指輪で忘れてくれる事を願う。
「ナギトはかいれい石って知っている?」
「聖京都では有名だろ「一軒一塊」玄関に飾ってる石だろ。そもそもマナを一時的に増加させる鉱石だつたかな?でも、確か欠点があって使われなくなったって聞いたけど……。」
「そう、それ、実は研究の結果かいれい石自体にマナの属性のある事が分かってきんだって、その属性を間違えると増加どころか威力が無くなる場合もあるらしいよ。」話は止まらない。
「だから鉱石の鑑定眼を持って無いと分からないの。」更に続く。
「要するに一般人には手が出せない領域よ。更に厄介なのは、ひとつのかいれい石の塊の中にも属性が混ざり合っているから、鑑定眼と鉱石を取り出すスキルが無いまともなかいれい石は取り出せないだって。」まだまだ続く。
「だから、これ!すごくは値段が張るらしいよ。」
怒涛のストナの口撃で頭に何も入ってこない。だた入って来た単語は…………。値が張る…………。
ストナは剣を抜いて、こっちを見た。
「見て、これがかいれい石と風のマナの指輪の威力。」
そう言うと、ストナは剣を構えて聖流剣のスキルを使った。動きト言うか流れがいつもより速い、速度が増した。更に剣を振った際につむじ風が起こる。威力が増した。
「凄い!」
「でしょ!この指輪気に入っちゃった。だから、金剛石の指輪はナギトが、もう少し大きくなってからで良いから。」
彼女は笑顔でそう言った。
これらの指輪もかなり高価そうな上に金剛石も忘れてなかった……。
ストナのスキルを見ていて、ふと脳裏に浮かんだ事がある。あの時のバンパイアの攻撃だ。
僕はあいつの動きを捉えられなかった。スキルならマナが動く僕はあの時マナ寄せ開眼を使っていた、マナが動いたのかどうかくらいなら見分けられたはずなのに……。そうでなかったと言う事はストナの様に道具を使ったのたろうか?
今まで経験した事の無い恐怖、殴り殺されるそんな体験だった。今でもどうして勝てたのか謎のままだ。あの記憶は夢なのか?今だには混乱している。
あのバンパイアを刺した感覚はある。しかし、次の瞬間はバンパイアの残骸の上で立っている記憶だけだ。
どうやって倒したのか?どうやって勝てたのか?あの残骸は本当にあのバンパイアなのか?あいまいな記憶だけが脳裏に残っている。
ふと、ストナが僕の顔を覗き込む様に見つめていた。
「ナギト?大丈夫?」
「う、うん、大丈夫!あの戦いを思い出して……。」
「そうか、そうだよね。ユームさん、悲しいね。」
どうやら、彼女はあの戦いをミリアンとの戦いだと思っている様だ。僕は否定もせずストナに答えた。
「強くならないと!」
「そうだね。でも、まずはその体調を調える事が重要ね。」
ストナは優しい笑顔が僕の目に飛び込んで来た。……いつもこの笑顔なら良いのに……。口は出せないけど。
「そ、そうだね。」
「あ、そうそう、ナンカンさんが集まる様に言ってた。」
「ナンカンさんが?もしかして出来た?」
「そうかもね。行こう!」
マナの剣。僕の脳裏浮かんだ。
ストナは僕の手を引いて歩き出した。いつもなら走り出す彼女だが僕の体調に気を使ってくれているのだろう。ゆっくりと森の中をナンカンの工房へと歩いた。
工房には既にライガとオーウィズが待っていた。
「ナギト、歩けるか?」
オーウィズが声を掛けると、僕を眺める様に見てきた。そして、何かを思った様に更に続けて話出した。
「後、3日ってとこか。」
「何が?」
「ボルケーノまで歩ける体力が回復する期間だ。」
「…………。もう歩けますよ。」
ライガが僕の肩を叩いた。
「途中離脱が一番厄介だ。体力の回復に専念しろ。」
僕達が話していると、ナンカンが奥の部屋から現れた。
「悪いな、急に集つまらせて。」
そう言いながら、両手に分厚い手袋をして、その手袋で何かを包みながら現れた。
「これがマナを吸い取る核だ。ライガ以外に触るな。」
「どう言う意味だ?」
オーウィズがナンカンに質問する。
「この核は触れた者マナを吸い取る。ライガだけが常に持った状態で子息の心臓に押し当てれば、病は治る。但し、他人は触るな。両親以外のマナが弱っている身体に取り込まれれば、拒絶反応で死亡する事もあり得る。」
ナンカンはそこまで言い終えると、僕の方を見た。
「半年だ。半年後にここへ来い。それまでにマナの剣を完成させておく。」
「もう少し早く出来ないか?必要な物は用意する。」
オーウィズがナンカンに納期を早める様に嘆願する。
「無理だ。ここから一部の技術伝承がされていない区域になる。鉱石にも限りがある。」
「それなら、これも。」
ストナが保有している硬芯鋼と柔芯鋼を取り出した。僕もと懐に手を伸ばしたが、マルマルの鉱石巾着をキャロリーに取られた事を思い出した。
ナンカンはその鉱石をストナに返した。
「必要なのは技術だ。そこを磨いて大切な鉱石の無駄を少しでも減らす必要がある。ここは譲れない。納期を早めない。それが鍛冶師としての信念だ。」
オーウィズはそれ以上口を挟むのはやめた様だった。
僕達は工房から出た。
夕風が僕の頬をかすめた。僕達は上を見上げているオーウィズを見た。
オーウィズは打つ手の無いこの状況を打破する策を巡らしている様だった。今すぐにでもマナの剣を持って聖京都に戻り、3魔女の最後、長女リリラを討ちたい。その気持ちが自分自身を焦らせ、思考を混乱させている様だ。
彼自身それを理解しているから、自身を落ち着かせようとしているのだろう。上を見上げいるのか?瞑想にふけっているのかは分からないが僕達は声を掛けずに見守った。
「半年だ。半年間、七本槍の力を貸してほしい。」
オーウィズは僕達を見て言った。
「半年も何も、私達は1年間貴方を見張るのが仕事なの。仕方ないから何処へでも付き合うわよ。」
僕とライガも頷いた。
「さあ、これからどうするの?王子様。」
「まずは炎英離都へ戻って、ライガの息子を治す。次に、ライガ。」
オーウィズはライガを見た。
「お前には聖京都に行って父に会ってもらう。今回の事を報告してくれ。場合によっては父を守ってほしい。」
「殿下、かしこまりました。」
オーウィズの言葉に何か威厳を感じた。覚悟だろうか?聖京都の為に戦う覚悟をした様だった。今まで、裏方として暗躍して来た歩みから、聖の資質を持ってなくても、聖京都の民、王子として聖京都を守り戦う覚悟を決めた。そんな眼をしていた。それなら、僕も全力で王子を支えるしかない。
「ナギト、ストナ、お前達は私と共にスルーニルに行ってほしい。姉に会う。頼むぞ。」
「はい。…………あ、あね?」
ストナが僕の脇に肘を強く当ててきて、耳打ちをした。
「彼はシスコンだから、これ以上は言わない。」
し、シスコン?
ルイーゼ王女!
今思い出した。オーウィズの姉、ルイーゼ王女。2代目女性国王と名高い。「聖」の資質を受け継ぎ、知性、美貌、品性の全てを兼ね備えた人物。
聖京都は初代王である聖の英雄ウリエルが女性であった。しかし、これ以降、弟である8勇士のローゼルに引き継がれてからは全て男性が王となっている。女性がなってはいけない訳では無いがそれに相応しい人物がいなかったと言われている。その中で密かに(なかり公だけど)囁かれている2代目女性王と言うのがオーウィズの姉、ルイーゼである。
次にオーウィズの父が王となれば、ルイーゼの時代になる可能性が高い。オーウィズもそれを望んでいるからこそ、この戦いに全力で向かうつもりだろう。
オーウィズが手荷物を持つと「戻るぞ、炎英離都へ」と声を上げた。
「ま、待って。今から行くの?」
もしかして、このまま行くのか?僕の体調も全開ではないし、そもそもそも何の準備もしてない。
「気を焦るな、俺の槍もまだ完成していないぞ。」
「そーよ。何カッコつけてるのよ。知ってるわよ。ルイ姉さん用にネックレス注文してるの、まだ出来てもないんでしょ。」
「ストナ姉、それはみんなの前で言うなよ。」
気持ちだけは焦っているが、結局、4日後に出発となった。一番遅かったのはオーウィズの注文ひたネックレスだったとは言うまでもない。




