継承と序章終幕①
★「008」ナギト(17)♂ 武器片手剣 魔法剣士資質 Eランク
スキル:(開眼)マナ寄せ、マナ返し 回転マナ返し
〇「009」ライガ(46)♂ 武器槍 槍突騎士資質 王下Bランク
スキル:突撃の槍、亜空間魔法(収納激小)他
〇「011」ストナ(20)♀ 聖騎士資質 武器大剣
スキル:聖流剣 聖回復 亜空間魔法(特大)他
○「019」エージナ (80)♂ 鍛冶細工資質
スキル:熱風、火炎球、分解、適合(サーチ系)、火炎鳥
僕達はゴスラルを後にした。
後ろを振り向くと見える城壁都市の景色が暗褐色に見え、何も語らず静かに見送っている様だった。西ラーフィン山脈から下ってくる風はいつもより肌寒く、秋への季節の移り変わりを暗示していた。
大きな戦いが終わった。
3魔女のひとりを倒して得た勝利の感覚より、仲間を失った失望感の方が上回った。数多の戦功より大きな損失を生んでしまった。
ボールスは完全に生気を失った。何とかゴスラルまでは戻って来たが、そこから宿に入って立ち上がれなくなった。目の前で尊敬する師が亡くなる現状を直視したらか……、いや、砕けるのを見たからと言った方が正しいのかもしれない。これ以上の旅は負担が大きいと判断して、ゴスラルで静養を取るように勧めた。ひとりで残らせると言う訳にもいかないので、テロットに付き添ってもらい、後で炎勇旅団に迎えへと行ってもらう事となった。
光の翼のコイルズとレナも同様に重症。彼らも回復には時間が掛かりそうだ。コイルズは完治に数カ月。無理やりの聖回復が完治に時間を掛ける事になった。自身が持つ聖属性の割合で治す聖回復はそれ以上自然治癒でしか治らない。キュア系の複数掛けが出来ない欠点付きである。しかし、命には代えられない。コイルズは最後まで僕達に謝意を表していた。
もうひとりレナにいたっては完全な回復は絶望的だと言う。ゾンビ化は防げたがそれ以上どうする事も出来なかった。こっちこそ命あっての……だろう。意識もまだ戻らない。
僕達はふたりを光の翼支部に引き取ってもらい、冒険者連合支部に今回の報告をして、ゴスラルでのやるべき事を終えた。
僕達は次の目的地目指して旅立つ事になった。メンバーは僕、ストナ、ライガ、エージナの4人。目的地はエチャーメルである。帰路につくと言う感情は無い。むしろ次の任務が始まっている様な感覚だ。
それ以上に時より見せるライガの複雑な表情が気掛かりでならない。ストナがライガに声を掛けた。
「心配事があるの?息子さんの事?」
ストナの声にライガが杞憂の面持ちでこっちを見た。
「そっちではない。聖京都の方だ。」
「聖京都?」
「嫌な予感がする。ミリアンの魔王から受け継いだ能力だ。」
「眷族化の事?」
「そうだ、あの女は「蠱惑」「飛翔」と言う言葉を使った。バーブルは飛翔だろう。そうなると長女リリラが蠱惑になる。いわゆるテンプテーション、誘惑系の力だ。そうなると、第4王子だけの問題ではなくなる。聖京都全体が危険だな。できれば北西のヤバン辺りで静養してもらうのが最適だが……。でもな、いくら王に進言しても、何の非もない王子を聖京都から追い出すのは…………。」
「ライガさんは知っていたんですか?第4王子の妻が3魔女のひとりだと。」
「有名よ!」
ストナが会話に入って来る。
「え?ストナも知ってたの?」
「何で、聖騎隊の中では有名よ。」
「えー!」
「何よ!」
「だって、オーウィズがストナには黙っておけって……。」
「私だって直接聞いたわけではないわよ。最初は噂話、第4王子の妻は闇に魅入られし者。そんな噂よ。でも、これまでの戦いから考えると、長女リリラしかない。て言うか、あのバカオーウィズは私に内緒?そもそも1回ほのめかしているんだから、分かるわよ。バカじゃないんだから。」
「ライガさんエチャメールに戻ったら直ぐに聖京都へ戻りますか?」
「いや、まずはマナの剣が最優先。技法たたらが見つかっているのか。最悪の場合、あの倒伏剣を大量に作って持って行くしか無いな。」
そう言えば、オーウィズ王子は技法たたらを探しておくとエチャメールに残ったけど、見つかったのだろうか?
「まずはエチャメールだ。」
とにかく今はエチャメールに戻るしかない。
ゴスラルからエチャメールまでは街道を辿る方法が一般的である。ゴスラルから東へ山間部を下り、南北街道に突き当るまで進む。街道に出たら南下して、途中にある岐路で東へと続く街道へ。草原から森の中へ入ると街道はゆっくりと北上していく。街道が獣道へと変わるまで突き進むとエチャメールが見えてくる。
一般的な旅行者なら徒歩3日の日程となる。
この一般的なルートを無視して、ゴスラルから直線的にエチャメールを目指す。
日程はわずか1日。もちろん休憩なしで、夜通し森の中を走り抜ける事が前提。1日と言うのは24時間と言う意味である。めちゃくちゃだ……。
誰が考えたんだ。こんなルート。言わなくても分かるが、ライガとエージナである。ライガの「最短ルートで案内してくれ。」に対して、エージナが「直線的に進めば、休憩なしで1日だ。」「それで。」
このわずか数秒の会話で、エチャメールまでのルートが決定した。地獄マラソンの始まりである。出発は夕刻、到着は休憩無しで明日のお昼頃。
最短ルートって道なの?休憩無しってどう言う事?
数々の僕やストナの思いを黙殺して、七本槍の旅が再び始まった。
日が完全に陰り、闇に包まれ始めた頃、風景も草原から森へと変わって来た。本日は晴天、月明かりが森の中を照らしているので、思った以上に明るかった。十三夜月だろうか?明るい月の光が足元を照らすので、そこまで気にもならずに進めている。幸先良い。
月夜に誘われてか?熊系の野獣が時より襲ってくる。当たり前だが、街道ルートとは比べ物にならないくらい危険度は増す。ただ、このメンバー、ライガとエージナのコンビなら増しても大した事にはならない。むしろ……。
予想通り、瞬殺で野獣を倒していく。
後で解体するからと、ストナの亜空間へ無理やり野獣の死体を入れさせるので、ストナのストレスが極度に上がる。結果、そのしわ寄せが僕に来る。毎度の事である。
「倒す必要ある?あの二人なら、気絶させるだけで十分でしょ。なんで私の亜空間に入れるの?」
「ストナしかいないから。」
「はあ?私運搬係ちがうから。」
「わかってる。後で取り出すの手伝うから。」
「それだけじゃ、いや。」
「なら何?」
「100キャラリオンの金剛石が欲しい。」
「は?どこで?」
「エチャメールに宝石細工の巨匠がいるの。その人に頼んで。」
「誰が?」
「ナギトくん。」
「なんで僕?(と言うかここだけ「くん付け?」)」
「当たり前でしょ。私から注文したら、下心丸出しでしょ。」
いや、使い方間違ってないか?それは僕が注文した時に使う言葉だろ。と言おうと思ったけど……、ここは素直に聞いておいた方がいいと思った。
「分かった……………頼んでみる……………。(断られるとは思うけど……。)」
突然、先頭を行くライガが止まった。次の瞬間、僕にもその理由が分かった。素早く戦闘体勢に入る。野獣ではない。凶暴な何かがいる。
何かでは無い。このマナの感触はバンパイアだ。
それに……、この気配、あの時だ。ミリアンが最初に呼び出した。炎の双剣と一緒に出てきて、一瞬にして逃げて行ったあのバンパイアだ。
「ナギト、マナ寄せを頼む。」
「ライガさん、この感じさっきの」
「あ、ああ、見張られていたか?たまたまかは分からん。」
僕はライガとストナのマナでみんなの武器にマナ寄せする。ライガの光のマナ、ストナの聖のマナがあるから通常のバンパイア退治ではマナ寄せの石は使わなくていい。こんな事言えないけど、経済的ではある。
目の前の木の上に立っている。月明かりに照らされて顔までよく見える。男性の戦闘系、格闘タイプか大型武器タイプの成立ち、肩幅の広い。背丈はそこまで高く無いけど……。
一瞬、バンパイアと目が合った。嫌な予感がする。いや、嫌なと言うより何だろう……恐怖……その一言に尽きる。最初にこの感じを受けたのはバーブルと対峙した時だ。
その後で幾多の強敵と対峙した。ミリアン、ナス、炎の双剣、傀儡師、誰もが一癖あって強敵だった。しかし、バーブルの時受けた感じ方はしなかった。
僕が徐々に強くなってきたからだと思っていた。
その気持ちが覆された気分だ。圧倒的な力の差のある敵と対峙した時の感覚を再び感じていた。
この感覚こそがバーブルに感じた感覚だ。
その男は、いやバンパイアは木の上から、飛び降りてきて、僕達の目の前に立ちはだかった。
「そこの男、お前だ、マナの一族だな。名は何と言う。」
バンパイアは僕だけを指差して語ってきた。敵なのか、味方なのか?いや味方は無いだろう。しかし、相手はミリアンから逃げ出した経緯がある。敵の敵は……と言う可能性もある。今はこちらも満身創痍、戦いを避けられるならそれに越した事は無い。
「お前こそ何者だ。」
「分かるだろ、吸血種だ。3皇姫ミリアンによって作り出された化け物だ。人の血肉を喰らい生きて行くしか無い。闇の化身。たが、元々はお前と同じマナの一族、呪われしレゲ族の族長だ。」
「呪われし?族長?」
「お前は誰からその眼をもらった。」
「眼?これは生まれつきだ。」
「そうか……。それなら、良いか。」
「何が良いんだ?」
「お前には関係ない事だ。ここで死ぬお前には。ただ本当のマナの戦士と言うものを見せてやる。」
そう言うと、男は両手に何か丸い物を取り出した。石の様な何かは片手に2個ずつ持った。僕達に見せる様に手のひらを開いた。魔吸石だった。マナ寄せ?あいつはマナの戦士と名乗った。それならマナ寄せは可能だ。魔吸石の見た目から、火、水、風、土。4属性。
そして、その男はゆっくりと手で石を握ったと思うと、石が弾けた。
「エージナの分解と同じ?」
「ばかか!あれはスキルでは無い。単なるバカ力だ。」
4属性のマナを目の前にで浮かせる。浮いたマナが幻想的に宙に舞う。
マナがゆっくりと男の右手に集まる。
集まったマナを握りしめた。
その次の瞬間。
バンパイアに攻撃仕掛けようとしたライガが吹き飛ばされた。
何が起こった。見えない。マナ寄せでも何が起きているのか、見えなかった。
ユームの乱舞に近い。いや、乱舞以上の動きだ。
更にストナとエージナが攻撃された。ストナとエージナも一瞬で倒され、その場で動かくなった。
僕は交戦しようと剣を構えたが、相手の動きが全く見えない。
マナ寄せ開眼でも捉えられない。マナが隠れるのでは無い。バンパイアの闇のマナをそのまま垂れ流している。何処にいるのかは造作も無く分かるのに、男が動くと視界いや、探知の範囲から一瞬で消える様に気配が無くなる。
張り詰めた緊張感が漂う。強い、強いレベルを超えている。僕が相手に出来るレベルではない。けれども、ここで諦める訳にはいかない。バンパイア相手に負けはイコール死である。何度も見てきた光景だ。弱肉強食以外何ものでも無い世界。
向こうは戦闘体勢を取っていないのに、近づくこと自体ためらってしまう。近づけない。死を感じさせられる。バーブルはこちらを見下していた感があつた。強敵だったけれどその隙を付けた。でも、この男にバーブルが見せた見下す感はない。全力で相手を叩き潰す気合が漂う。
再び男が消えた。視界からいなくなった。
「ごふ」
みぞおちに強烈な一撃を喰らった。
完全に攻撃どころか防御まで後手に回っている。
更に強烈な蹴りが2発脇腹を直撃する。声すら出せない。息の出来ない状態が続き、恐怖感だけが増す。
立ち上がろうとした時に再び顔を蹴られて背中から倒れ込んでしまった。
その時、何が近づく。ライガだ。ライガが戻って来てくれた。ライガが攻撃してくれている間に相手の隙を突く。そうすればライガが完全にトドメを刺してくれるはずだ。
二人で応戦する。
起き上がると右手脇腹から強烈な痛み全身に回る。多分肋骨が折れている。臓器の一部も破損しているだろう。身体がふらつく。でも、弱音を吐いている場合ではない。全身の痛みを耐えながら応戦する。
しかし、……、僕の唯一の希望が瞬く間に消え失せた。
男は再び両手にマナを取り出した。そして、マナ寄せでの攻撃で向かってきたライガを再び吹き飛ばした。
どうなっているんだ? 夢?いや、この痛みは夢ではない。でも、あのライガがここまで手が出ない?いや、同じ攻撃を2回もバカみたいに食らうのか?
何なんだろう。この男、本当に闇の化身なのか?動きが全く見えない。何をしてくるのか読めない。
バンパイアの気配、いや存在が再び消える。
来る!
僕は腹部を重点的に身構えた。
しかし、今度は右頬に強烈なパンチを喰らい数メートル吹き飛ばされる。僕が倒れ込む前に顔面へと数回強烈なパンチが炸裂した。
攻撃と言うよりリンチに近い。左、右、後ろ、前と方向感覚がない程痛みと共に身体が飛ばされる。
ただ、このバンパイアが格闘系ではなく、剣士なら既に切り刻まれていただろう。
再びバンパイアの足が倒れている僕のみぞおちを踏みつけた。
「ごふ」
口から血が飛び出す。口の中が血であふれているのに味覚がない、一部機能が麻痺している。
「どうした。ここまでか?魔王大戦以降ほとんどの人間が弱体化している。戦士は戦いの中でしか成長しない。あのライガとか言う戦士は見どころがある。だか、後は駄目だ。お前も。この娘も。生かしておく価値もない。」
「……。」
声すら出ない。
「大丈夫だ。淋しく無いぞ、お前より先にあの娘をミンチにしてやる。お前はここで恋人がミンチとなるのを眺めておけ、後でお前に口へとミンチを押し込んでやるぞ。恋人のミンチ肉、想像する以上に至高の味だな。」
ゆっくりとストナへと向かうバンパイアに僕は怒りで我を忘れた。立ち上がり、剣を腹に据えて突っ込んでいった。
「やめろー!」
次の瞬間、僕の脳裏は再び冷静さを取り戻した。
いや、取り戻された。
バンパイア、いや、その男の心臓を僕の剣が突き刺していた。僕の攻撃が強かった訳では無い。向こうが剣に向ってきた。刺されに来たと言うのが正しい表現だろう。
「お前に託す。」
そう言うと、その男は息絶えて、肉体が崩れ始めた。その崩れに耐えきれず、僕は腐った肉の泥の中へと飲まれて行く。力が出ない。
倒れゆく僕の身体が強く支えられた。
「良くやった。」
「ライガさん、無事だったんですね。」
「ああ、あいつは何者だ?」
「分かりません、マナの一族と言う事だけしか。」
「立てるか?」
「はい、何とか。」
本当に辛うじて立てるくらいのしか体力は残って無かった。
僕は倒れているストナの方への向かった時、僕の中で何かが起こった。
身体が熱く光りだした。
「な、なんだ?」
その時、右手に技法玉鋼が現れた。そして、右手に技法たたらが現れた。
どうしてここに?
あのバンパイアの言葉が思い出された。「お前に託す。」 あの男が持っていたのか?
ふたつの技法が合わさる。
その瞬間に何が弾け飛ぶように消えてしまった。
………………。
なんだったんだ?
何が起こったのかも分からないまま立ち尽くした。
東の空が薄明るくなり始めていた。




