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踊り子と奥義⑤

降り掛かる棺桶。どんな光景だろうか。

 棺桶が天から降ってくる。いや、棺桶が天から射られた様に地面へと突き刺さっていく。

 僕達は矢の様な棺桶を避けながらエージナ達と合流した。


 全員が集まるとひとりだけいない事に気づく。

 ユームはもう居ない。存在感があり余っている人だけに、何とも言えない虚無感が込み上げてくる。彼女の死がボールスに大きな影を落とした。完全に意気消沈してしまっている。暫くは戦う事すら出来ないだろう。歩けるだけましと言うのが正確な言い方かもしれない。

 他のメンバーはと言うと、光の翼のコイルズは傷が回復しているけど、動けるのが精一杯。こちらも歩けるだけレベル。レナは意識すら無い。

 まともに戦えるのは僕、ストナ、ライガ、エージナ、テロットの5名。

 この5人で棺桶バンパイア30体と戦うしかなさそうだ。この降ってきた棺桶ひとつひとつにバンパイアが入っている可能がある。(いや、多分入っている。)

 出来ない事は……、無いが相手次第ではこちらも何かを失う覚悟は必要になる……だろう。

 やはり、ここでユームさんを失っ…………、止めよう。倒すんだ。目の前の敵を!

 

 ライガが戦いの準備を始めた。

「ストナ嬢、俺とナギトに予備の武器をくれ。」

 先の戦いで、僕とライガは武器を失った。ここまでの戦いでライガの武器が壊れたのは初めてかもしれない。

 ライガの声にストナが亜空間を確認している。ライガも亜空間を持っているけど、武器一本くらいしか入らない少量の亜空間。ストナはかなり膨大な量が入る。だから、僕の予備武器も入れてもらっている。

 亜空間を確認するって、どうやって?亜空間を持ってない僕には謎の行為である。

 ストナ曰く、頭の中にその空間が出現するから、その中にあるものを取り出すイメージ……らしい。

 僕にはそのイメージすらまず浮かばない。


「うーん?槍は無いわ。ナギト用の予備はあるけど、あとは私の大剣の予備くらいかな。」

 そう言うと、ストナは僕に長剣を手渡してくれた。

「はい、今回もう予備はないから、大事に使ってよ。」

「ありがとう。」

「もう例の剣は無いから、崩壊の一撃は使わないでよ。」

 例の剣とは倒伏剣の事である。考えみると、倒伏剣を使っても崩壊の一撃からの反動は防げなかった。結局、マナ返しで防ぐしか無かった。けど、それなら普通の剣で崩壊の一撃を使ってマナ返しすれば良いのではと思ってしまう。

 倒伏剣いる?

 僕はそう考えて、考えるのをやめた。

 失敗したら、腕が使えなくなる。危険な事を考えるのは止めよう。


 ストナがライガに大剣を渡した。

「あ!」

 手に取ったライガが突然声を上げて、ホール奥を見てから、僕を見た。何があったのか?僕もホールの奥を見ようとした時、ライガの気付いた事が分かった。

「あ!」

 僕も同じ声を上げていた。

「何?何かあった?」

 ストナはまだ気がついていないので僕の方を謎めいて見ている。僕はストナに言った。

「マルマルの鉱石袋をキャロリーに取られた。」

「知っているわよ。見てたから。あの女が急に現れた事も。だから何?」

「光の魔吸石が無いんだよ。もう。」

「あ!」

 気づくのが遅い。

 ストナは周りを見渡した。

「エージナ、テロットは光の魔吸石持ってない?」

「持っているわけなかろうが、そもそもパーティーの予備品管理は亜空間魔法保持者がする。冒険者の基本じゃろ。」

「そんな事言っても……。」

 ストナはそれ以上珍しく何も言わなかった。まさに図星だったのだろう。ストナだって聖騎隊に属していたからパーティーの基本は心得ている。でも、このメンバーが特殊だった。ライガは敵なし。武器も予備を持たない。魔吸石はマルマルが管理していた。

 ストナに責任があるわけではないが、聖騎隊隊長としては痛い失敗なんだろう。誰も責めていないが、一人落ち込んでいる。

「ストナ。代わりを探そう。」

 戦うべきバンパイアは30体近く。彼らの弱点は光と聖のマナを混合させた攻撃でその心臓(核)を貫く事。

 混合マナが無くても対処方法はある。何度も核を攻撃すると言う方法だ。攻撃によってその核は徐々に弱って消滅する。ライガが前回の戦いで試した結果、何のマナ付与の無い攻撃で1000回程核を壊すと消滅するらしい……。

 数体相手ならそれも可能かもしれないが、この数にその攻撃手段は避けたい。

 僕は周りを見回した。光のマナ、光のマナ……。

 考えられるのは光の翼の聖女・光盾防御士のレナだ。しかし、今は完全に無理だ。辛うじて生きている状態なのに。

 他にマナが使えるメンバーや武器防具も無かった。

 

 もう一手は相手のマナを奪う方法。そもそもバンパイアに光と聖のマナ使いがいるのだろうか?バンパイア自体が苦手なマナを扱えるのか?元々光や聖のマナ使いがバンパイア化したらどうなるのか?

 考えてみると、光と聖を使うバンパイアに会った事が無い。出会ったバンパイア自体そんなに多くはないけど。

 そもそも、光のマナや聖のマナ使い自体が希少と言われている。聖京都は聖の英雄の末裔が多く住む街の為、ストナやマーロンの様に聖のマナを待つ者は多いが、一般的には滅多に出会わない。

 だから、魔吸石が重要となる。



 ライガとエージナが何やら作戦会議をしていた様だったけど、それも終わり戦闘体勢を取った。

「ナギト、聖のマナ寄せを頼む。たっぶりとな!」

 光のマナは諦めて、聖のマナだけで臨むしか無さそうだ。ストナ達はさっきのマナ寄せで若干光のマナが残っているが、それでも雀の涙でしかない。

 僕はみんなの武器に聖のマナ寄せをした。

「ライガさん、大剣で大丈夫ですか?」

「あ、ああ、スキルが突き系だから、突き攻撃なら多少扱いにくいが何ともない。それより、ナギト、ありがとな。これまで楽しかった。」

 ど、どう言う事?

 ライガの意味不明な言葉に気を取られていると、突然、僕の身体が宙に浮いた。いや、テロットに担がれた。

「ちょっと、テロットさん何を?」

 僕の話しを遮るようにライガが声を上げる。

「ストナ嬢、ナギトを頼む。こいつは聖京都の未来だ。絶対に死なせるな。」

「ちょっとライガさん、何言って…………。」

 ストナが僕の口を塞いだ。

「分かった。約束する。」

「ナギト、後を頼む。お前はゴスラルへ戻って光の魔吸石を持って来い。命令だ。」

「ちょ、そんな事してる暇ないでしよ!こんな数のバンパイアの大群、ライガさんだけに任せられない。それならみんなで逃げるべきだ。」

「悪いな、ナギト。先に行ってくれ!俺はもうひとりのバカな愛弟子を置いて行く訳には行かないんだ。」

「何言ってんだよ!だったら僕も戦う。僕だって。ユームさんは師匠だ。ふたりの師匠を残して戻れない!」

「エージナ、テロット。頼む。」

「分かった。」

 テロットが僕を抱えて、エージナがボールスを抱えて走り出した。テロットのスピードで僕の声が流されて行く。

「ライガさーん!」

「ナギト、ストナ嬢、出来るなら息子を頼む!」

 ライガはそう叫んで僕達に一礼をした様に見えた。そしてバンパイアの方へと向きを変えた。

「ライガさーん!駄目だ!逃げてくれ!」

 僕は大声をあげて叫んだが、次第に声の届く範囲から遠ざかっていく。

「ライガさーん!ライガさーん!」

 僕はただ腹のそこから声を張り上げた。

 


 ライガがいなければ、僕はここにいない。それは間違いなく言い切れる。

 ユウ、アイカ、グロス、コハルとはぐれて逃げ帰ってきた僕を助けてくれたのはライガだった。あの時、ライガがいなければ僕はどうしていたのだろう。一人で死狂の館に乗り込み殺されていたか、死狂の館にまでたどり着けず、冒険者を辞めていたか、分からない。けど……、ライガが居てくれたからこそ僕は今ここにいる。ライガが……、ライガ師匠が居なければ僕はダメなんだ。

「ライガさーん。逃げてくれー!」

 既に声の届く範囲からは遠ざかっているのは分かっている。でも、僕は叫ばずにはいられなかった。

 テロットに担がれて、ドーム型の建物から飛び出した。僕は身体を揺さぶって降りようとしたが、全く身体が動かない。テロットの何かのスキルで固められている様だった。

 僕は何度も、何度も叫んだが、次第にドームが視界の全体へと捉えられる様になっていく。

「ライガさーーーん!」

 僕は声が枯れるくらい彼の名前を連呼した。


 ドーム型の建物が視界中央に収まるくらいまで離れた時だった。

 突然。ドームに大きな衝撃が起こった。

 ストナだけでなく、テロットやエージナまでも足を止めた。

 ドーム全体から光のマナが溢れ出たのだ。

「光のマナ。」

 テロットが僕を下ろした。

 マナ寄せ開眼で確認すると、バンパイアのマナでは無い。

 僕達はライガの元に、目の前に見えるドーム型の建物へと急いで戻る事にした。

 この輝く光のマナがあれば、ストナが持つ聖のマナと合わせる事で、バンパイアを全滅させる事が出来る。今ここでライガだけを置いて行く必要はない。

 僕達が向かう前に何度も光のマナが放出される。錯覚では無い、何が起きている。

 ただ、疑問は残る。誰が?何を?援軍が来てくれた。可能性は無いとは言えない。ゴスラルやイーダーオーツが今回の異変に気づき、何かしら援軍、偵察隊を送ってくれた。でも、どこから来た?援軍なら正面から来る。それなら僕達と出会っている。

 他の可能性は光の魔吸石が落ちていた?

 そんな事があるのか?敢えて言うなら、爆弾投げバンパイアの魔吸石爆弾の中に光の魔吸石爆弾が残っていた?

 理屈には合う。時より放出されているは光のマナの吸石爆弾が爆発したものだと考えるなら、ライガが魔吸石爆弾を破裂させてバンパイアと戦っている。爆発に合わせて攻撃するというのは、考える以上に至難の技だが、ライガなら可能だろう。でも、あのバンパイア達が自分達の苦手な魔吸石を持っているのか?先ほどの戦いで爆弾は全て爆発したのでは?

 もうひとり考えられるのは、ここは鉱山だ。たまたま地面を掘った時に光の魔吸石が掘り出された。ライガが地面を掘るとは考えられないが、敵の攻撃で地面に穴があき、その中から光の魔吸石が……。

 いやいや、そんな事があるのだろうか?


 とにかく、ライガが無事なら何であろうと構わない。



 僕達がドームの入り口まで戻って来た時には、光の放出は無くなっていた。

 ドームの中からも物音ひとつしない。静寂に包まれていた。

 僕達はゆっくりとドームの中へと入っていった。


 ドームの広場が見渡せる所に来ると、そこには、モンスターの死骸の上に堂々とたたずむひとりの男がいた。

 その最強の戦士は息ひとつ切らさずにこっちを振り向いて言った。

「悪いな、片付けてしまった。」

「ライガさーん!」

 僕はあふれてくる涙を拭きながら、ライガに駆け寄った。

「どうして光のマナが?」

「資質が変わった。『雷帝』だとよ。次の資質は。」

 少し照れくさそうに言い放った。

 この最強の戦士は更なる高みへと昇り始めていた。


 30体以上のバンパイアも雷帝ライガの前では成すすべも無く、心臓を突き抜かれて死んでいた。

 


 戦いは終わった。軍配はこちらに上がった。けど、受けた代償も大きかった。

 僕達は簡単に墓石を作り、そこに花を飾った。彼女の持ち物全てが粉々に砕けてしまい、塵ひとつ残っていない。気持ちだけしか彼女に贈る事は出来なかった。

 ユームありがとう。


 そして、僕達一行は廃村ハイデールを後にした。

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