踊り子と奥義④
奇声がドーム全体にこだまする。
僕はストナ、エージナと合流し、ストナから倒伏剣を受け取った。ナンカンから受け取った2本の内、最後の1本である。
ライガはもだえているミリアンの心臓に再び槍を差し込む。
この部分だけ見ると、ライガが女性を拷問しているようにも見えるが、相手は3魔女のひとり、こんな事では死なない。エージナに魔吸石を渡して、倒伏剣にマナ寄せする。この倒伏剣は下手すると崩壊の一撃の反動を受けるから、慎重に使わなくてはならない。
ミリアンの心臓はゆっくりと戻って来る。復活最中に攻撃してもどうなるか分からないので、心臓の核が戻った瞬間を狙う。
核はゆっくりと形づくりマナ形成し始める。
今だ。
僕はミリアンの核へ倒伏剣を差し込んだ。
が、油断した。
突如、ミリアンの心臓からマナが溢れ出した。魔王の闇のマナの暴風にも似たマナが溢れ出し、僕達はその衝撃で後方へと投げ出された。
「ナギト、剣が……。」
ストナの声で剣を見ると、剣先が折れていた。
そして、倒伏剣は折れてしまった。ヤバい、ミリアンを倒す手段が無くなった。
ミリアンは少し浮かび上がると、再びマナの暴風を撒き散らした。
「お前達、絶対に許さない。次は殺してやるからなー。」
そう言うと、地上に足をつけ、上空へとおもいっきりジャンプした。
しまった逃げられる。
でも、ここは逃がした方が得策では?
心の中で思索か交差する。ここまで来て逃がすのか、しかし、倒伏剣がない以上はここまでで良しとするのか。
ユームが突然、僕達を呼んだ。
「私の拳に崩壊一撃をマナ寄せしてくれ。あいつを倒す。」
不意な申し出に頭が混乱した。
「無理です。何言っているんですか。手が動かなくなります。さっき覚えたスキルも使えなくなりますよ。」
「もう、無理だ。私の事はいいから早くしな!」
「どう言う…………。」
その瞬間、ユームが何をしたのか、何をしようとしたのか気がついてしまった。
足元からマナが湧き上がっていた。そのマナを見た瞬間に彼女の気持ちを察すると同時に涙が溢れてきた。
魔晶石化だ。
「ユームさん駄目だ!」
僕は叫んでから、もう遅い事を悟った。
彼女はゆっくりと僕を見た。
その時の彼女はとても気高く、気品に満ちていた。魔晶石化を始めた時のマナは紅色に光輝く。目の前に迫る死でさえも、彼女の目の輝きを止めることはできなかった。その輝きは何よりも優しかった。
僕達は彼女を説得する事を諦めた。
僕は彼女の手に崩壊の一撃のマナをマナ寄せした。
彼女はゆっくりと上空を見上げた。
「3分。私が動ける時間だ。この魔晶石化は思った以上に早い。その前にあの女を私の前へと連れてきてくれ。私の半径数メートルだ。」
ユームの足は既に魔晶石となり、固まっているのが、見て取れる。
このままミリアンに逃げられたら、それこそユームが無駄死にになってしまう。
「ボールス!」
僕はユームの状態を見て放心状態のボールスを叩き起こす様に、大声で奮い立たせる。
「いくぞ!ここで戦わないと一生後悔するぞ。」
ボールスも涙を拭った。
これで本当にラストにするんだ。
上空に逃げたミリアン止まった。
「次は絶対に殺すから。」
そう言い終えると、ドームから逃げようとした。
その時、ミリアンの更に上空、ドームの天井から何かが落ちてきた。テロットだった。
「予想的中!」
そう言うと思いっきりミリアンに大地の鉄槌を喰らわせた。
ミリアンはハンマー攻撃の勢いで地面へと叩きつけられた。
ただ、ユームから少し離れている。このままではユームの攻撃範囲外だ。
そこへ、ライガがミリアムの心臓付近へ槍を突き、その勢いでユームの近くまで押し出した。
ユームの範囲内だ。
その瞬間、ミリアンが再び闇のマナの暴風でライガを吹き飛ばした。ライガは槍から手が離れてしまい。数メートル吹き飛ばされた。
そして、ミリアンは再び上空へと舞い上がった。再び逃げる気だった。
待っていた。
この時を!
ミリアンが逃げるとしたらここになると予想していた。ライガなら間違い無くこのルートへ追いやってくれる。
そしてミリアンは前回同様背を天井に向けて飛び跳ねた。もう上には誰もいないと思う……だろう。
僕達はそれを待っていた。
ボールスの空間浮遊で石を螺旋状に積み上げていき、数メートル上空から僕はミリアンの動きを見ていた。
そして、予想通りにミリアンは天井に……いや、僕に向って飛び跳ねたのだ。
僕はミリアンの心臓目掛けて剣を向けて飛び降り、心臓を刺して、そのまま一緒に落ちていく。
「死ね、ミリアン!」
「小僧!」
このまま落ちれば、ミリアンの心臓に向けてユームが崩壊の一撃を放ってくれる。しかし、それはそのまま僕をも貫通するだろう。崩壊の一撃を防ぐ手はない。
いや、知らない。
でも、ユームさんは命を掛けている。僕はそれに答えるしかない。この後どうなろうと。
「ユームさん。お願いします。」
「くそー離せ!」
僕達はユーム近くまで落下した時、ふっと僕だけ浮かび上がった。
ライガが僕をミリアンから引き離してくれた。僕はライガに抱きかかえられながら、ミリアンの最後を見届けた。
ミリアンが数メートル範囲に来た瞬間、ユームは心臓の矢を放った。その閃光はミリアンを突き抜けた。僕とライガの剣と槍が崩れていくのが見て取れる。そして、ミリアンのマナが消えていく。
ミリアンの身体がユームと重なる瞬間、いやその手前で、ユームの魔晶石は粉々に砕け散り、ミリアンは身体は地面と衝突してこちらも粉々に砕けた。
僕はゆっくりとユームのいた所に歩いていった。
もう魔晶石の欠片も残っていない。ミリアンの身体と思われる砕け溶けた物体が辺りに散らばっていた。そこに、光る何か見つけた。
僕はそれを手に取った。
炎兵鳴輪だった。
ユームが付けていた炎兵鳴輪だけが残っていた。僕はそれを抱きしめた。
ユームさん、ありがとう。
終わった。この戦いは終わりました。僕が、その腕輪に話しかけるように一言つぶやいた。
感傷に浸っている、いや浸る前に地面が……、いや、空間が揺れ始めた。
「ナギト、ここは危険だ一旦引け!」
ライガの声に僕はみんなの方へ走り出した。その時だった。
「良くやった!」
その声と同時に押されて前かがみに倒れてしまった。
「キャロリー!」
ライガの声が響く。
そうだった。ここへはコイルズとレナを助ける為に来たんだ。その時、コイルズ達と一緒に入って来たのは6名の冒険者。その内4人はバンパイアにひとりが仮に魔晶石になったとしてもひとりだけ足りない。
それが彼女、キャロリーだ。でも、今更、ミリアンに加勢するのでも無く今になって?なぜ?
「凄い、君達は凄い!あの3皇姫の2人を倒すとは、恐れ入ったよ。おっと、今日は戦いに来たわけではないよ。ライガの旦那の強さは良くわかっているから。」
キャロリーはライガに攻撃意思が無いことを伝える。
「何をしに来た。お前の依頼主は今しがた死んだぞ!」
「わかっている。だから、旅券団は義賊だ。バンパイアに仕えるつもりは無い。ただ、私が欲しいのはこれだ。」
そう言うと、キャロリーは右手に巾着袋を持っていた。何処かで見覚えのある。あ!
僕は腹の辺りを探ったが無い。僕の、いやマルマルの鉱石袋。
「それは僕の袋だぞ!」
「まあまあ、依頼主から頼まれていた硬芯鋼と柔芯鋼。何処を探しても見つからなかった。その時、お前達が持っていると噂を聞いて、譲ってもらう為にここへ来た。」
「何が譲ってもらうだ!盗んだんだろ!」
「義賊だからな、これも立派な譲ってもらうだ。お前達には何もしてないだろ。おっと、旦那も私に構う余裕があるのかい?」
「どう言う意味だ。」
キャロリーは人差し指を上に向けた。
「始まる。3皇姫ミリアンの相続財産。あなたは達に全部あげるから。じゃあサヨナラ。」
そう言うとキャロリーは山手方向へと消えていった。
危険な香りがする。キャロリーは何者なんだ!硬芯鋼と柔芯鋼が奪われた。確かに4セットで城が4つ建つ。あれだけあれば一国の主にはなれるだろう。
ただ、僕達にはそこまで必要無い物だ。
どちらかと言うとマルマルの形見?だった袋が盗まれたの方が悲しい。
それは置いておいて、謎がひとつ彼女は何処にいたのか。僕の目にも分からない。あのライガですら現れるまで気が付かなかった。スキルなのか?危険な存在だ。
空間が今までの以上に揺れだした。
「ナギト逃げるぞ。」
僕はライガに腕を貸してもらい、ミリアンの元から離れた。
「何が起こるんですか?」
「多分、亜空間が割れる。」
「割れる?わ、割れる?そんな事あるの?」
「亜空間は魔法と言っているが、亜空間の大きさは生まれつき大きさが決まっているんだ。ストナ嬢の様にバカ広い空間保有者もいれば、俺の様に小さい者もいる。その空間に入れる量はスキルによって変わんだ。俺の様に小さくても、ストナ嬢以上に物を入れる奴もいる。」
「どうやって?」
「圧縮と言うかなり強引なスキルを使えば可能だ。亜空間の中を更に捻じ曲げる。通常、人が死ぬと亜空間は崩壊して、ゆっくりと亜空間の物が排出されると言われているんだ。しかし、圧縮を使った亜空間は圧縮の方が先に無くなるから、空間が爆発する様に破裂して中身が飛び出す。」
ドン、ドン。
落下の音と共に地響きが始まる。
亜空間から強制的に放り出された棺桶が地面に落ち突き刺さる音だ。
ドン、ドン。
更に音は続いていく。
「あれにバンパイアが入っているんでしょ、何体いるんだよ。」
「さあな、30体?もう少し上か?……」
勘弁してくれよ。この戦いでかなり、ボロボロなのにまだ戦うのか?僕はユームの付けていた炎兵鳴輪を見た。ここでやられる訳にはいかない。
その時、ふと疑問が浮かんだ。
「ライガさん、あのバンパイア達は僕を襲って来るんですか?」
味方では無いにしろ敵なのか?
「さあな、ただ、逃げ出しても離散させる訳にはいかない。」
そうだった。バンパイア数体に聖京都の軍隊や聖騎隊は大打撃を食らっている。この量のバンパイアを取り逃す訳にはいかない。僕達は体勢を整える為、仲間の元へと向かった。




