廃村ハイデールと炎の双剣④
炎の双剣。
テンペスト(兄)が使う炎の巨大剣。サーベーション(弟)が使う炎の長剣。この連携が脅威だと言われていた……らしい(ライガ談)。
巨大剣での全体攻撃と長剣での精密攻撃を軸に交差攻撃を仕掛けて来るところは想像しただけでも厄介である。ただ、相手に合わせて攻撃スタイルを変えれば良いので、そこは気にしないで良いと思っていた。思っていたが、甘かった。
「ナギト、そっちに兄が行ったわよ。」
僕は剣を構える。僕を目掛けて男が剣を構える形で距離を詰めてきた。
兄なら剣の振りが大ぶりになる。弟なら小ぶり。兄なら一歩前に出て一瞬を突く。弟なら一歩下がり、相手の剣を受け流す。
ここ数分間戦って編み出した僕が出来る戦法だ。
でも、……。
本当に兄か?
兄弟と言っても双子だ。容姿も戦う癖すら瓜二つ。
違いは剣のみ。
その剣も通常は亜空間に入れて攻撃の瞬間に引き出す。これが彼らの攻撃スタイル。炎の剣に炎のスキル、その上、亜空間魔法の連発。無尽蔵のマナにこっちを翻弄させる奇術的な攻撃スタイル。これが聖京都最強と謳われた炎の双剣。亜空間って結構マナを消費すると聞いているけど。
兄なら一歩進む。……。剣が見えた。巨大剣だ。兄に間違い無い。
でも何か違和感がある。
僕は咄嗟に2歩引いた。
巨大剣が一瞬で消え、長剣に変化した。袈裟斬りと同時に2段突きが飛んできた。
やっぱり弟の方だった。
突きは防いだが、剣先から猛火が襲ってきた。右肩と左脇に衝撃が走る。
彼等の最大難所は炎の追従攻撃だ。剣を振る度に猛火や火災旋風が襲ってくる。厄介な敵である。
しかし、こちらにも理はある。この腕輪、炎帝御輪と炎兵鳴輪によって炎の攻撃は無効化させる事が出来る。(但し、衝撃波と言う形で攻撃は飛んでくるけど。)
「百段突撃」
右横からライガが弟を狙って攻撃を仕掛けたが、避けられた。
「良くあいつが弟だと見破ったな。」
「勘です。何か嫌な予感がして。」
「その目であらが何だか分からないのか?あいつらうまい具合に交差攻撃を仕掛けてきて、かく乱させられる。くそだな。」
ライガが止まって僕に話掛けて来た。
マナ寄せ開眼であのふたりを見ているが、見分けが付かない。見分けが付かない訳では決して無い。生まれながらに持つマナはひとりひとり違う。言葉では言い表せられないけど、違いがある。けど、あのふたりはそのマナを絶妙にバンパイア特有の闇のマナの中へと隠している。彼等の強さの源はここかもしれないと思ってしまう。マナの扱いが他とは比べ物にならないほど上手い。あのAランク冒険者のナスが使用していたマナを通して身体能力をあげる行為が稚拙に見えてくる。ナスの行為が身体全体にマナを循環させるなら、こっちはマナを必要なポイントに必要量のみ送る省エネ方法と言える。無駄がない。
「さっきから見てますけど、なかなか手強いです。」
兄のテンペストのマナを赤と例えるなら、弟のサーベーションは青。全く違う。そのマナを見分ければ、容易2色別は可能となるが、でも、通常は闇のマナで補強している。
「そうか、まずはあいつをストナと一緒に回復させてやってくれ。」
ライガはそう言うと、後ろで倒れているコイルズを指差した。
コイルズがかなり火傷を負った様子で倒れていた。最初の兄テンペストの巨大攻撃からの火災旋風で負った火傷の様だ。
僕には炎帝御輪があったから風圧と衝撃波の一撃だったけど、コイルズは……。火炎をもろに喰うとこうなるのかとふたりの攻撃の怖さを垣間見る傷跡だ。
ストナが近いて来て、聖回復を使った。火傷が8割近く回復したが、体力も持っていかれているから、あまり動かさない方が良い。
僕達はコイルズを柱の影に隠し、ポーションを数本渡してから戦いの場に戻ってきた。
炎の兄弟相手にライガが一体、ユームとテロットでもう一体を相手にして、ボールスとエージナがサポートの体制をとっている。
「僕達も行こう。」
「待って。」
ストナはそう言って、僕の歩き出しを止めた。
「ナギトは何か分かったの?」
「完璧ではないけど、少しだけ見えた。」
「見えた?」
「あのふたりは通常、バンパイア特有の闇のマナに自分のマナを隠している。でも、攻撃の一瞬だけ、自分のマナを使う。その時、兄か弟かが判別出来る。」
「倒せるの?」
「分からない。けど、ストナに頼みがある。」
「何?」
「兄なら一歩前に出て、一撃を入れる。その瞬間にストナも攻撃してほしい。倒す必要はない。数秒足止めできれば、ライガさんが仕留めてくれるはずだ。」
「そうね。分かった。それなら、最初に私があいつら一匹をこっちにおびき寄せるから、ナギトがその後に続いて。」
「了解。」
ストナは言い終えると、前方へ走っていった。
暫くして、ストナがバンパイアと戦って、相手をこちらに引き寄せて来た。
防戦では相手は自分のマナを使わない。多分スキルを使った瞬間だけ、マナが動く。相手にマナを使わせる隙を作り、次の瞬間に叩くのが正攻法だろう。
バンパイアが近づく。
僕はその懐目掛けて付きを出す。
予想通りの弾かれたが、相手はこっちを敵と認識した。
一歩下がる。
この距離で必ずスキルを使う。
マナが動く。
赤色のマナ。兄だ!
大振り。スキルが来る。
マナが手から剣へと移る瞬間に僕は一歩踏み込んだ。
相手の攻撃抑え込めれば、その瞬間にストナが攻撃に転じる。ふたりの攻撃が決まれば必ず体勢は崩れる。ライガならその瞬間を見逃さない。
僕にはこの目の前のモンスターを倒す力は無い。でも、僕にはストナやライガ、みんながいる。今のメンバーなら必ず勝てる。
スキルを使った瞬間を狙う。
すると、何か。
何かがおかしい……。
目の前のバンパイアのマナが青に変わっている。なぜ?
兄だと思っていたのが、実は弟?
まずい、離れなければ……。
しかし、体に重しが圧し掛かる。
何があった。
ふと、ミリアンを見た。
彼女が踊りを始めていた。
一番の強敵を忘れていた。
狙った様なタイミングでこっちの動きを封じて来た。偶然?必然?
弟サーベーションの精密な剣先が僕の心臓中央向けて迫る。全てスローモーションの様に時間が進む。
心臓手前に刺さった剣先を払おうと剣を動かすが、自分の行動は相手の行動より遅く全く動かない。
ただ、心臓へと刺さる刃物も眺める他なかった。
剣先が数十センチ程刺さった。
痛みよりも、焦りが脳裏を駆け巡るが手の動きは相変わらず元の位置から動かない。金縛りに遭っているのかと思える程、動かせない身体に刺さる剣を見ているだけの瞬間が続いた。
更に剣先が進む。脳裏では冷静と捉えているが完全に心臓を突き刺している。気のせいか?呼吸が苦しく思える。
剣の半分が身体に入った。完全に串刺しだろう。でも、痛みを感じない。視界が微かにぼやけてくる程度だ。
後方からライガがこっちに向かってくるのが分かる。
もう無理だけど。
……。
何が無理なのか?
……。
思考が安定していない?
次の瞬間、身体が浮いた。何が起こっているか、もはや分からない。視線が天井に見上げる。
相変わらず、身体は動かない。
僕は何処へ行くのだろう。
……。
「聖回復。」
……。
……。
ストナの声で視界が戻ってきた。
「ここは?」
ストナが僕に抱きついて来た。
「ストナ……。大丈夫?」
僕はストナの背中に手を置いた。生き返った感じがする。……。ゆっくり意識が整理される。
そうだ。まだ、戦い最中だ。
僕は前方を見上げるとライガとユームがあのふたりのバンパイアと戦っていた。
突然、右頬に痛みが走る。
「痛、いたたたたた。」
「バカ、聖回復が無ければ死んでたわよ。」
僕は自分の心臓に手を置いた。痛みも傷も無い。助かったのか。
「ストナありがとう。」
「ナギトの得異質のおかげで全回復出来たけど、死んでたら私でも治せないのよ。気をつけなさい。」
「ありがとう、でも、あいつらの正体が少し見えてきた。あの天才戦士の持つ不思議なスキルが何なのか。」
「何?」
「まだ仮説だけど。うまくいけば、ふたり同時に倒せる。」
「何なの、教えてよ。」
「だから、仮説。そして、あいつらの狙いはやっぱり僕だ。僕の能力は彼女に周知されている。その上であのふたりをぶつけて来たんだ。」
僕とストナが話していると、エージナが近寄って来た。
「無事だったか。死んだかと思ったぞ。」
「エージナさんも無事で良かった。」
「あのふたりは化け物だな。こんな環境で良く戦えるな。」
「ミリアンの周りのバリアをなんとかしないと……。この重圧はなくならないです。」
「バリアを張っている主を見つけたんだか、ちょっと厄介でな。」
「厄介?」
「魔晶石化している。」
「魔晶石!」
魔晶石化は自らの命と引き換えに身体をマナの塊と化す技。スキル上では存在自体確認されていない。使用者は命を失う為、どの様にしてなるのか全く不明。しかし、その技は確かに存在する。
七本槍道化衆初期メンバーにして幼馴染のコハルもこの技を使い命を絶った。
ミリアンが強制して魔晶石化させたのか?分からないが、バンパイア一族を決して許す事は出来ない。




