ドワーフの村エチャメール③
僕は不思議な剣を手に取っていた。
マナの剣。
それがこの剣に触れた時の第一印象だった。
その剣の名は「倒伏剣」
名工サーゴとカルメがエイディの為に作った剣と言われている。
柔木を剣の形に薄く彫り上げ、それに魔反鉱などの金属を溶かした液で塗り固め、先端のみを軽く鍛造して剣の形にしたもの。
特徴は脆く、壊れやすい。突きで突くのは有効だが、それ以外の攻撃はほぼ不可能。
カルメ曰く世界最弱の剣。
なぜカルメはこんな物をエイディの為に作ったのか?マナの剣の代用であった。
正確にはマナの剣を復活させるまで使っていたと言われている剣である。
攻撃の瞬間に砕ける弱さ。
すなわち、崩壊の一撃の際に、腕へのマナ崩壊を防ぐ役割があるらしい。実際の使用可否はさて置きとなる。
崩壊の一撃を決める前に相手の攻撃を受ければ、剣は壊れる。確かに今までの戦いの様に倒れている3魔女バーブルにトドメを刺した時も、動けない魔王を封印した時も、マナの剣は突きしか使ってない様な気がする。けど、使ってないのと、使えないとでは重みが違う。
僕にこの剣が使えるのだろか……。
僕に「倒伏剣」を渡してくれた男は奇妙な笑みを浮かべた。
「お主はこの剣を持つに相応しいか鑑定させていただく。」
「鑑定?」
その男は僕にもうひとつ別の剣を渡してきた。綺麗な木刀だった。でも、この木、何処かで見た様な?
「気が付いたか?その木はツルの傀儡の核だ。私がエージナに依頼した者だ。」
この剣がツルの傀儡の核。少し紫がかった木刀にはマナの力を微かに感じた。
「鑑定は簡単だ。その剣に宿っているマナの種類を当ててみろ。出来たなら、合格だ。但し、その「目」の使用は禁ずる。」
僕は木刀を覗き込む。紫の色味。ツルの傀儡は聖のマナを嫌う。火のマナを好む。一般的に言えば、聖か邪で間違いない。色味が明るさをもっているから邪のマナだろう。
僕はもう一度、目の前の男に目を向けた。
「何だ?降参か?」
僕は首を左右に振る。紫色?僕は木刀を持ってみた。思った以上に軽い。でも、しっかりしている気がする。何だか分からないけど、ある程度の斬撃なら受け止められる。そんな気がした。太刀の部分が色味掛かっている。その太刀の周りにうっすらと赤いマナが取りまわっていた。
「まさか?火のマナ?」
その男は満足そうな笑顔で「正解だ」と語った。
僕の目の前にいるドワーフの男はナンカン名工と呼ばれる、現エチャメール随一の鍛冶師である。
元々エージナの弟子として働き、20年前に独立した。資質は鉱山守。その為か、鉱石を扱わせれば右に出るものは無いと言われている。カルメが残した資料を読み漁り、名工サーゴの再来とも言われる鍛冶師である。
なぜ僕が彼の工房にいるかと言うと……。
話は3日前に遡る。
ライガとオーヴィズ、そしてユームの話し合いの中に僕とストナは呼ばれた。
「ストナ姉とナギトに頼みがある。エージナの話では、この村に最高の名工と呼ばれる鍛治士がいるらしい。エージナの元弟子でもあった男らしい。彼にマナの剣の代わりになる物を作ってもらって欲しい。特急で。」
「特急?」
僕は突如の話に混乱した。すると、ライガが話を加えてきた。
「ナギト、俺達は今からクラスタル地都、イーダーオーツを目指す。旅券団のあの女の言っていた魔女が3聖女を狙っていると言った事が気になる。」
「言ってましたが、「さんせいじょ」ってやっぱりあの?」
僕の質問にオーウィズが首を縦に振る。
「3聖女は光の翼の3人の支援役を指して使われてるのが一般的だ。光の翼には3人のAランク剣士、その補佐役に3人のAランク支援資質者をセットにしてチームを組ませている。」
僕は頷いた。光の翼の3翼と呼ばれる最強剣士の3人。カプサイシン、ナス、コイルズの3名。(ちょっと前にカプサイシンの事を知らなくてストナに説教されたばかりだ。ナスはイケメンで人気が高いから知っていたけど、他の2人はナス程の人気は無い様に思う。)
「3人の支援資質者はナスの相方回復士資質のナディ、カプサイシンの相方回復士資質のパプリカ、コイルズの相方光盾防御士のレナ。この3人が光の翼の三聖女だ。。」
「ストナ、ひとり光盾防御士って、聖なの?」
「どう言う事?」
「聖女だから、聖属性やストナ見たい資質に聖を受け継ぐ人を指さないの?」
「知らないわよ。」
「聖女とは違わなくない?」
「だから、私に言わないで、知らないわよ。名前をつけた人に聞いて。」
「ストナの方が聖の回復スキルがあるのに。」
「ストナ姉のは偽物だ。」
いいいいい、痛い……………………。
ストナが僕とオーウィズの耳を思いっきり摘んで持ち上げた。
オーウィズが僕に呟く。
「聖女は無理だろ。」
納得。
いいい、痛い……………………。
再び耳に激痛が走った。もちろんオーウィズにも……。
ライガが場を落ち着かせて話出した。
「話を戻すぞ、再び2班にする。イーダーオーツを目指す班とここで技法たたらを探す班。魔境メンバーでイーダオーツを目指す。エージナとテロットも同行してくれるそうだ。」
「ふたりが?」
オーウィズが話出した。
「ナギトの目が必要になる可能性もある。一応、聖騎隊からの報酬を出すと言う体で同行を頼んだ。2人は要らないと断って来たが、聖京都側の鉱物を渡す形で折り合いをつけた。」
「さすが王子殿下ね。そう言う所は頼りになるね。」
「でも、王子は行かなくいいんすか?魔境の時はあれほど渋ったのに。」
オーウィズは笑い出した。
「私がやりたい事は元々ここにある。ここを探索出来るなんて、こんなチャンス滅多にない。頼まれてもイーダーオーツには行かない。」
オアシスの街ノルデーナでは王子を帰らせるのに一苦労だった。(結局帰らなかったけど……)今回、それは無さそうだ。
ライガが僕に地図を見せてきた。
「ここに行ってくれ、2人で。」
「ここは?」
それまで話しに入って来なかったユームが話出した。
「そこは名工ナンカンが住む工房だ。彼にマナの剣の製作を頼め。それとお前が持っている硬芯鋼と柔芯鋼を半分、彼に渡して来い。」
「半分?」
今度はオーウィズが話しだした。
「その石、いくらすると思う?セットで城が立つ値段だ。それも聖京都位の……。」
「え?」
「ナギト、売ろっか!」
「いやいや、それならストナ持ってよ。ストナの亜空間の方が安全だろ。」
「嫌よ。前にも言ったけど、亜空間って完璧ではないのよ。絶対的な安全なんてないの。」
「それでも僕が持つより安全だろ。」
「嫌、ナギトがリーダーなんだから、リーダーが持ってなさいよ。そもそも、そのマルマル巾着だって亜空間仕様でしょ。」
その時、ユームが咳払いをした。
「どっちでもいい。リスクを減らす上でも半分はナンカンに渡せ。」
ユームは少し声のトーンを下げ、僕とストナに聞こえる位の声で話した。
「マナの剣は無理でも、例の核なら出来るかもしれない。」
そう言って黙ってしまった。マナを吸収する核。ライガの息子ダーナーの病を直す唯一の方法。(マナ獣曰く)
結局、巨大な城が10城も立つと言う恐ろしい石は1セットをストナの亜空間、4セットをマルマルから譲り受けた巾着袋に入れ、残りでマナの剣を作ってもらう為にナンカンと言う名の鍛冶師を訪ねて来た。
その工房は村の奥にひっそりと建てられていた。
「待って。」
僕は先を進んでいたストナを止めた。
「この風景見覚えない?」
僕は奇妙な違和感を覚えた。
「うーん?無いかな。」
ストナはあっさりと答える。確かにここに来たのは初めてだ。記憶がある訳でも無い。でも、違和感が取れない。
「私には無くて、ナギトにあるのだから、私達が出会う前の記憶?」
「分からない。でも、冒険者になってからの様な気がする。」
「冒険者って、ナギトと私が出会う前の冒険って、死狂の館か、光の坑道くらいでしょ。」
ストナの言葉に違和感の正体が浮かび上がった。
「死狂の館だ。そうだよ。死狂の館だ。」
「は?あの工房が?全然違うわよ。私だってアタゴ山の麓で死狂館見ているけど、規模も見た目も違うわよ。」
「見た目じゃなくて、雰囲気。雰囲気。この森とか小屋の位置とか、木の配置とか。」
「…………。アホくさ。そんなの森の中ならどれも同じよ。同じ。先に行くわよ。」
「だから、雰囲気……。」
ストナが僕に近寄って来て、僕の手を取った。
「僕ちゃん行くわよ。」
そして、思いっきり手を引っ張って先に進み始めた。
「ストナ、バカにしただろ。」
「してないわよ。僕ちゃん。」
「やめろよ、その言い方。」
ただ、ストナが威勢の良かったのはそこまでだった。工房の扉をノックすると出てきたのは、強面のガラの悪そうなドワーフだった。
ストナは僕の影に隠れた。……。あなたは僕ちゃんを盾にするのか?とも思ったが、それ以上に目の前の圧力に僕自身もタジタジで声が出なかった。
「入れ」そのドワーフは一言つぶやく様に言葉を発して、中へ入っていった。
工房の隅のテーブルに女性のドワーフがお茶を運んでくれた。
「どうぞ。楽しにてください。」
その女性はナンカンの奥さんであった。
「主人が今探し物をしているので、そこで待っていてください。」
「あの……。ご主人は何か機嫌が悪いですか?」
ストナの質問にその女性は一瞬何を言っているのか分からない顔をしたが、次の瞬間に大笑いし始めた。
「ごめんなさい。主人はいつもああいう顔なの。新鮮だわ。久しぶり。」
「何がですか?」
「最近は顔見知りしか訪れないから、そう言ったやりとりも忘れてたわよ。あの顔は昔から、少し気難しい所はあるけど、気にしないで、本人はあれで普通だから。それより、マナの剣の事よね。」
「はい。あの、マナの剣ってこの土地で有名何ですか?」
「そうね。有名と言うか神話よ。神話。」
「神話?」
「そのうち分かるわよ。ほら噂をすれば……。」
足音が近づいてきたと思うと、ナンカンが何か荷物を持って戻ってきた。
ナンカンはぶっきらぼうにひとつの古い書物を机の上に置いた。
「これがカルメの書だ。」
そう言って中を開き出した。
「あなた、それだけだでは一般の人には分からないわよ。きちんと説明しなさい。」
奥さんに叱られて少し罰の悪そうな様子だった。強面のナンカンに少し親近感が持てた。
「ここにマナの剣の作成方法が書かれている。」
突然のはなしだった。
「え?あるの?」
僕とストナはハモる様に声を発した。
封印しても、別の書物に作り方が書いてあるなら、封印の意味無くない?と僕は思った。
「読んでみろ。」
僕とストナは開いてあるページを覗き込んだ。そこには……、え?目が点になった。
「文字が……。」
「なにこれ?」
子供の落書きなのか?文字が文字で無くなっている。一部は見たこともない文字、ある所は黒くなり、ある所は文字が消えている。
「これが封印だ。カルメとエイディが何をしたのかは分からん。カルメ達はマナの剣の作り方をその技法たたらと玉鋼の書に書き残しただけでなく、この世界にある作り方が書かれている書物の全てから文字を奪った。」
「そんな事が出来るの?」
「これが証拠だ。」
「でも、元々これが落書きだったて可能性もあるんでしょ。」
「私の父はカルメの仕事仲間だったのよ。カルメはここにマナの剣の技法を写本した事は確かよ。そして、封印と同時に読めなくなったの。私の父たげではないのよ。何人も証人がいるのよ。私は見たこと無いけどね。これでも45歳よ。この村ではまだ若者だから、おばあちゃんみたいな目で見ないでね。」
そこまで話すとナンカンとその妻フーリエは僕達に3日後また来るように言って工房の扉を閉めた。
そして3日後、「倒伏剣」が出来上がっていた。奥さんのフーリエは火の番を3日3晩していた様で今日は休んでいらそうだった。
マナの剣無き今、この剣が唯一の攻撃手段となる。




