オーウィズ王子と火山島①
七本槍の道化衆メンバー 登録順(★はリーダー)
★「008」ナギト(16)♂ 武器片手剣 魔法剣士資質 Eランク
スキル:(開眼)マナ寄せ、マナ返し 回転マナ返し
〇「009」ライガ(45)♂ 武器槍 槍突騎士資質 王下Bランク
スキル:突撃の槍、亜空間魔法(収納激小)他
〇「010」マルマル(50)♂ 鉱山守資質、
武器音叉、ハンマー スキル 鉱石サーチ、鉱石割り、鏡合せ
〇「011」ストナ(19)♀ 聖騎士資質 武器大剣
スキル:聖流剣 聖回復 亜空間魔法(特大)他
レッドマリーナ号はゆっくりと帆をなびかせて進んでいた。乗客は僕と同年代くらいの若者が多い。冒険者と言うよりは研究者的な服装をした人が大半である。中には冒険者風の格好した人達もいるが、魔法資質系と思われる人が多い。あとは一般的な旅行客だろう。
僕達は看板に出て海を眺めた。
「初めてか?」
遠くに見える火山島を眺めていた僕にマルマルが話しかけてきた。
「遠くから眺めた事はありましたが、近くで見るのは今回が初めてです。」
「マルマルは?」
「わしは昔、色々と世界を見て回ったからな。この大陸はほとんど行っている。もちろん、ボルケーノ地方も火山島も。」
「さっき船は初めて言ってなかったですか?」
「帆船はな。昔はバカがこれで海を渡らされたんだ。」
と言いながら、マルマルは両手で舟を漕ぐ動きをした。
マルマルはドワーフ族。この大陸ではドワーフは人間に対して2割くらいが暮らしている。ほとんどはクラスタル地方とエントレイルス地方の大陸中央北中部にひっそりと暮らしている。しかし、近年、ドワーフの出張鍛冶工房と言う露店が各地で流行り初め、色々なイベントで見るようなってきた。ドワーフの寿命は人間に対して2倍と言われている。マルマルは100歳くらい。魔王大戦の終結近くで生まれている……らしい。
マルマルの資質は「鉱山守」。スキルは「鉱石サーチ、鉱石割、鏡合せ」。
「鉱石サーチ」は文字通り鉱石を探索するスキル。
「鉱石割」は鉱山からマナを取り出す事の出来るスキル。実際に鉱山の中の鉱石を掘り出す事やを鉱石を分解して、様々な物質に分ける事も可能らしい。
「鏡合せ」鉱石サーチを仲間と共有化するスキル。
そして、趣味は鉱石集めとその鉱石を眺める事。鉱石集めは収集と言うより研究に近く、マナ寄せの為に鉱石割を使えば、鉱石が粉々に砕ける、その事を惜しまない。
マルマルは昔、リトダと言う研究家と一緒に世界を回った。リトダが死狂の館の戦いで戦死(形式上)すると、その弟子であるライガと一緒に行動していた時期もあり、前回の冒険で七本槍の道化衆に正式に加盟した。
もう一人、七本槍の正式メンバーがいる。現在、船内でビールをあおっているライガだ。僕の知る中で最高の冒険者だ。資質は槍撃騎士。戦士資質変化の派生型と言われている、槍に特化した資質。
スキルは「多段突撃」「亜空間閃破」をメインで使っているが、本人は使わないけど、実際にはかなりのスキルを持っている。資質が戦士の時は槍、短剣、弓を多用していたらしいが、槍突騎士になってその時代使えていたスキルが使えなくなり、現在は槍を多用している。以前スキルが多くてどれを使えば良いか迷いませんかと聞いた事があるが、「感覚で使っているから分からない」との回答だった。
この人は感覚的なものが人一倍優れている。下手な感知系スキルでは足元には及ばないだろう。その上驚異の身体能力、上級冒険者は身体能力を高める為に全身にマナを巡らせている。しかしライガはそれをしていないのに、その上を行く身体能力を持っている。実際、前回の冒険ではこの人がいなければ何度死んでいたか分からない。
僕達3人が七本槍の道化衆の正式メンバーになる。そして……。
甲板先端の方から手を振る一人の女性がいる。
「火山島がきれいに見えるよ。こっち。こっち。」
その女性は僕達を手招きした。
「おい、お嬢様がお呼びだぞ。」
「僕達ですよ。」
僕とマルマルは顔を見合わせて、彼女の方へ歩き出した。
彼女の名はストナ。現在王下聖騎隊10隊長である。アタゴ山の戦いでの功績が認められて隊長へと昇進した。しかし、王下聖騎隊はその戦いで多くの犠牲を出した。その為、隊を縮小、隊全体の立て直しが急務となっている。結果、12隊を10隊へと縮小。更には7から10隊は民間部隊の力を借りる事になった。その一つが僕達、七本槍の道化衆である。
現在彼女は七本槍の道化衆客員メンバー兼王下聖騎隊10隊長度言う事になる。
彼女の資質は「聖騎士」。聖の英雄の家系に多く生まれてくる「聖」の資質持ちである。
スキルは「聖流剣」「聖回復」。彼女は少し小さめの大剣を使う。彼女の力では扱いきれていない。しかし、聖流剣は武器を1方向へと流すスキル。それを彼女の戦闘センスで巧みに操り、独自の技として使っている。
そして、聖回復のスキルをもっている。攻撃系と回復系のスキル持ちと言えば聞こえは良いが、聖回復は聖属性の割合い分だけ回復させると言う不思議なスキルである。マナには外属性と呼ばれる「火」「水」「風」「土」、内属性と呼ばれる「光」「聖」「闇」「邪」をまとっていると言われている。属性は相反するものがある。その為、生まれながらに備わっている属性は最小で2属性。最大で4属性となる。
聖回復はこの属性の内で聖の占める割合い分のダメージを回復すると言う特殊回復系スキル。通常のヒールやハイヒールと違い、重ね掛けが出来ない。自身のマナを使うのでなく、相手のマナに働き掛けて直すスキルらしい。
被ダメージの回復量は最大者で50%、最小者では25%しか癒せない為、ヒールの重ね掛けの方が役に立つと聖騎隊では不遇スキル扱いされている。
しかし、彼女の聖回復はマナを持たない僕にとっては他とことなり、被ダメージの回復率100%と驚異の回復力となる上、聖回復の時に放出されるマナはマナ寄せする事が出来るので、頼もしい仲間この上ない。
スキルは遠投や2段斬りなども使えるがほとんど使っていない。聖流剣が強すぎるのだと思う。
以上が七本槍の道化衆の頼もしい仲間である。
レッドマリーナ号の真っ赤な帆が動き出した。火山島に差し掛かったのだ。ここからは右手にボルケーノの大地、左手に巨大な火山と絶景が心を楽しませてくれる。これからの任務や聖京都での悪い噂をも忘れさてくれる絶景であった。
隣で火山島を観ていたストナが両腕を上げて伸びをする。
「さて、そろそろ仕事の事を考えますか。」
そう言って、僕とマルマルの方を見た。
仕事とは炎英離都での護衛任務の事である。通常の任務と違い1年間という長期間での任務になる。そして、護衛対象は第一王子の息子、現王の孫。オーウィズ王子である。
なぜ、王子の護衛をするのかと言うと。話は少し前に遡る。アタゴ山の戦いの国葬が終わった頃に聖京都を騒がした大事件が起こった。僕達は光る坑道に再び籠っていたので騒ぎを知らなかったけど……。
国王暗殺未遂事件である。しかも事件を起こした犯人の中には王家に古くから仕える者達もいたと言う。主犯格は確保直前に自害し、捕まえた容疑者達は犯行の詳細は知らかった。彼らの供述は王家を皆殺しにする内容であったと言われている。この事件を発端に聖京都王家を取り巻く空気が再び重い暗闇へと表情を変え始めた。
王家旧知の側近が暗殺に加担していた事に王家全体が衝撃を受け、今までの防衛体制の見直しが必要となった。王家いや、聖京都全体が混乱の手中にハマり、混乱を和らげる一手も限られてくる。王家は重要管理下に置かれ、海外へ出ている王族は至急帰途につく指示が飛んだ。その中で、数名がその指示を無視したのである。その一人がオーウェル王子である。
オーウェル王子は第一王子の長男であるので、将来王となる可能性が高く、本来は炎英離都で学業を学ぶ立場ではない。炎英魔宝学院は大陸随一のマナ研究機関ではあるが、国家を背負って立つ人物を育てる機関ではない。なぜ、こんな奔放が許されているのか。それは彼が「聖」の資質を受け継いでいないからである。「聖」の資質が王家の資質と言われるゆえ、「聖」の資質を受け継いでいない人物は王家に入る事は出来ないという暗黙のルールがあると言われている。オーウィズ王子は資格を持たない王子と影でも言われている。本人もそれを自覚しており、自身の好き勝手にマナの研究に精を出していると言われている。
好き勝手にしていても、王の孫の地位が無くなる訳ではないので、今回、僕達が彼の護衛をする事となった。僕達が選ばれた理由にはひとつは現在聖騎隊や他の護衛部隊に余裕がない事。そして、もうひとつはオーウェル王子とストナは古くから面識がある事であった。
ストナ曰く、オーウェル王子は頭脳明晰、品行方正と人格的にも好青年ではあるが、好奇心、探究心が異常にまで高く、警護中に姿を消す事は日常茶飯事という。護衛対象として会うのであれば、要注意人物であると言うのである。
七本槍の道化衆にとっても初の護衛任務。失敗は許されない。しかし、それ以上に何か嫌な予感がしてならい。一抹の不安。どの様に表現して良いのか分からないけど、敢えて言うなら。「バーブル」あの死狂の館の魔女。彼女の面影が僕の脳裏を過ぎる。アタゴ山の戦い以降忘れていた感覚が、なぜか、炎英離都を目の前にして再び心を騒がせた。
30年前、アタゴ山直下のアリス川畔に突如として現れた館。人々は死狂の館と呼んだ。この死狂の館には魔王バンパイアロードの側近と言われている3姉妹のバンパイアが住んでいた。長女リリラ、次女バーブル、三女ミリアン。その容姿から人々は彼女達を3魔女と呼んだ。
当時の王下聖騎隊を率いた現王が3魔女を討伐した。
しかし、実際には次女のバーブルは生きていた。そして、魔王復活を掛けて、僕達と戦う事になった。それが前回の冒険、アタゴ山の戦いである。バーブルは倒した。だが、リリラとミリアンはどうなったのか?
誰にも分からない。
だから、なのか。
僕の心に不安がよぎる。今頃なぜ?自問自答したところで答えは出ない。分かっているが……。
船は大きく西に舵を切った。ゆっくりと目の前に大きな街が近づいてくる。炎英離都だ。炎英離都の港はオツの港とは比べ物にならないほど、巨大な帆船が軒を連ねていた。
きらびやかな帆が風になびき、まるで船上のパレードの中へと入って行く様だった。
僕達七本槍の道化衆の次なる冒険譚はここから始まったのだ。そして、僕のこの不安は予想通り的中する事になる。