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境界なき魔境⑤

 暗い森をひとり歩いていた。

 日が暮れ、辺りが一気に闇となった。魔境と呼ばれるだけあって、平地では見ない幻想の世界に身を置いている。

 光苔と呼ばれる苔が弱弱しく光を放っている。光る坑道を思い出す。あの時は石自体が発光していたが、今回は石や木の根に着いた苔が下から光を出して道なき道を照らしてくれた。

 森が深すぎて、月も星の光も届かない。ただ光苔だけが唯一の光である。言い換えれば、上空は何も見えない闇。そして、上空からは僕が丸見えの状況である。

 格好の餌食ではある。但し、ツタの傀儡に目があるならの話ではあるけど。



 僕はゆっくりと右手を上げた。手には握り心地の良くない小槍が収まっている。「炎のロッド」と呼ばれる、いや勝手に呼んでいる槍。一般的にはショートスピアと呼ばれる類の武器である。投槍とも呼ばれているが、これは投げる物でも無ければ、槍として相手を突く物でもない。

 火の魔吸石と別の鉱石を混ぜ合わせた様な鉱物で矛先から柄まで作られている。若干重い。そして柄に意味があるのか分からない程の大量の布が巻かれている。若干汚い。

 この若干汚い炎のロッドは僕の手の動きと同時に火のマナを放ち始めた。辺りに火のマナがゆっくり広がっていった。

 何をしているのか?それは単に僕が囮役をやらされているだけなのである。

 どうしてこうなったのか?

 エージナ達との会話に少し戻りたいと思う。



 エージナは笑みを浮かべた。

「ツタの傀儡には好きなマナと嫌いなマナがある。火のマナを好み、聖のマナを嫌う。火のマナ使いを自らの体内に入れて食するが、聖のマナ使いはあのツタで串刺しにして地中に埋める。」

「火のマナ?水のマナと間違いじゃないの?」

「いいや、火のマナだ。不思議な習性ではあるが、奴らは水と風と土を根や幹、葉から吸収するが火だけは吸収しない。その為なのか、火のマナを生き物や鉱物から食する。」

 その話を聞いて僕は袖をまくった。やはり炎帝御輪は火のマナを発していた。今回、この炎帝御輪にかなり助けられた。

「炎帝御輪?どこでこれを?」

 エージナが僕に飛びつく様に腕輪に触れた。

「本物だ。サーゴ師匠の最高傑作。炎帝御輪と炎兵鳴輪。これが……。初めて見る。共鳴……。これが…。」

 エージナが僕ではなく、腕輪に向かって理由の分からない事を話しまくった。独り言を言いたいだけ出し切ると、更に聞こえないくらいの小さな声で何かをつぶやいてから僕を再び見てきた。

「これは?どこで手に入れた。まさか、盗み?」

「火のマナ獣からもらった。」

「火のマナ獣……、火のマナ獣……から、火のマナ獣からもらう?……。そう言う事か。なるほど。なるほど。それならこれを持って……可能かも……。」

 再び気持ち悪い笑みを浮かべて僕を見てきた。

「おぬし、これをやる。ひとつ仕事を引き受けてくれ。」

 そう言って、エージナは僕に炎のロッドを手渡してきた。その投槍はずっしりと重かった。握りしめると槍全体が赤く光輝いた。

「やはり、ナギト殿、君が囮役。適任だ。」

 お、囮?な、何が適任?


 エージナの作戦は簡単だった。

 僕がエージナ達に取って最高と思われる狩場でこの炎のロッドでマナを放出してツタの傀儡をおびき寄せて、おびき寄せられたツタの傀儡をテロットがハンマーで気絶させて、エージナが心臓を取り出す。

 実に明確な作戦である。

 僕の周りにはこんな作戦しか立てられない人ばかりなのか、悲しくなる。けど、そう言う自分も他の作戦が浮かばないのが悔しい限りである。

 

 ライガ達はここから、かなり離れた場所で待機。ツタの傀儡が来るとまたボツリーヌが毒を吐き出す。ストナ達はまだ回復途中の為、距離を置いて回復に専念している。

 ここは、僕とエージナ、テロットの3人での戦いになる。

「マナ寄せ開眼」

 久しぶりマナ寄せ開眼に目が冴え渡る。

 前方上空に巨大なマナの塊が見える。マナが渦巻きながら、ゆっくりとこちらに向かって来ている。あれがツタの傀儡だろう。

 ツタの傀儡は火のマナを好むらしいが、実際の熱や火には弱い。先程のエージナの「熱風」を恐れてか、ジリジリと距離を詰めているのが見て取れる。

 後ろを見ると、真っ暗闇である。はるか後方にライガ達がいるが、モンスターはそちらには興味を示してないようだ。


 ツタのマナが近くまでやって来た。

 本体はまだ数メートル上空にいる。ここでツタの攻撃を躱して本体を誘き寄せるのが僕の役割である。

 誘き寄せる?

 躱す?

 無理でしょ。

 あのライガも万段突撃で持ち堪えるくらいの攻撃をどうやって?

 いきなり詰みだ。

 来た!

 上空からツタが降り注ぐ。

 とにかく、斬って避けるしかない。矢じりなら上空からの攻撃だけに気をつければよいが、こっちは上空と左右、下からもツタが飛んで来る。

 一個一個を確実に切り裂く。


 あれ?

 思ったより、攻撃が緩い。

 マナの動きに応じて近い物を避けるか、斬るかで選択して行けば、そこまで不可能な戦いではない。マナ寄せ開眼の力は大きいが、敵が本気を出していない?

 そうか。火のマナを食べる為に、捕らえようとしているから、攻撃手が甘いんだ。

 ライガ達の時はストナもいたから、串刺しにするつもりで飛んで来ていたが、こっちはゆっくりと捕らえようと忍び寄っている様だ。

 徐々に本体のマナが近づく。

 真上に来たから合図をする事になっている。


 ツタの攻撃を躱しながら、相手のマナを探る。

 カウントダウンが始まる。

 後20メートル位置からして木の高さが8メートルくらいだ。残り10メートルくらいなれば、ほぼ真上にいる。

 残り15メートル。

 こっちは何処かでエージナとテロットが待ち構えている。しかし、油断は出来ない。上空に来た時点で、向こうの射的内にいる事は間違いない。

 残り10メートル。来た!

「真上だー。」

 僕は大声で叫んだ。

 右の草むらが揺れた。そこには何もいない筈なのに。


 次の瞬間、大きな木の口が僕を襲って来た。油断した。

 右足にツタが巻きついた。次に左手首もツタが巻き付く。動けなくなった僕へ木の大きな口がそのまま飲み込もうと大口を開けて迫って来た。

 逃げられない。

 でも、なぜ?マナは上にあるのに……。駄目だ。

「火炎球」

 斜め後ろから炎の塊が僕に向かって投げ込まれた。

 え、僕?

 僕は炎に包まれた。火炎は僕を焼き尽くすかの様にその炎は上空へと燃え上がる。

「熱い……、熱くない。」

 僕は燃え盛る火炎の中心に平然とたたずんでいた。

 しかし、僕めがけて突っ込んできた木の大口はその炎に触れて、炎が燃え移り、焼かれ始めた。

「おぬし、無事か?」

「エージナさん、この炎はなんですか?」

「何もない。ただの特大火炎球だ。その炎帝御輪が炎からお主を守っているだけだ。」

「それより、奴の術が解ける。本体を探してくれ。」

「本体?解けるって何?」

 その時、目の前の森が動き出した。その時、何が弾けた。目の前に見えないガラスの壁があり、その壁が粉々に割れた。そんな感覚だった。

 すると、目の前に木の巨大なモンスターが火で苦しんでもがいていた。

「どうして……見えなかった?」

「これが「隠伏」と「憑依」のスキルだ。」

「いんぷくとひょうい?」

「「隠伏」はこの森の中に姿を隠すスキル、そして、「憑依」は森の全ての木々を自分自身として扱うスキルだ。」

「何で見えなかったんだろう。」

「お主の目も完璧ではないと言う事だ。スキル同士の戦いでも、勝敗を決めるのは本人の力だ。悔しいなら、力をつけるんだな。」

 力か……。もっと強くならないと、結局、僕はライガの力に頼っているかもしれない。


 上空から大声が聞こえてきた。

「うおーーーーーーー!「大地のハンマー!」」

 ドガン!

 ツタの傀儡の上で仰け反り、満足気に勝ち誇るテロットがこっちを見た。

「ツタ打ち取ったり。」

 エージナが小さなため息をしながら、ツタに向かって歩いて行く。

「もうほとんど倒した後だが、何をあそこまで自慢するんだか?」

 2人は文句を言い合いながらも、協力してツタの傀儡の核を取り出した。それは想像以上に綺麗な木片であった。

「これが核?」

「おぬしのお陰で、核が手に入った。お礼がしたい。我々の街に招待する。来い。」


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