境界なき魔境④
魔境には「ツタの傀儡」と呼ばれる植物獣がいる。
以前僕が死狂の館で遭遇したツタの植物系モンスターの巨大バージョンと考えるなら分かりやすい。死狂の館をツタの木と考えると、今遭遇している「ツタの傀儡」はツタの森と表現するのが良いのだろう。出会ってはならないモンスターの種類に属する。いや、そのモンスターを見て生き残った者はいないと言うのが正しいのかもしれない。
魔王大戦からこの大陸は平和になった。各地で大暴れしていたモンスターは姿を消した。4英雄一行が壊滅的な打撃を与え、凶暴なレアモンスターの多くは絶滅したと言われている。
その1体が「ツタの傀儡」である。
絶滅種に認定され、魔王大戦以後に目撃情報はない。それは、本当に絶滅したのか、それとも、目撃者の方が全滅したのかどちらかだろう。
今回においてはどうやら後者が正しい様である。
上空から雨が降る様にツタが落ちて来た。
「万段突撃!」
ライガの掛け声と共に逆方向へと槍のツタが昇っていき、両者が相殺する。
「ナギト大丈夫?」
「僕は大丈夫です。でも、3人共に意識がないです。」
「お前も気をつけろ、毒が蔓延している。」
僕は腕輪が光っている事に気が付いた。炎帝御輪だ。今回もこの力で守られたのか?
でも、炎帝御輪の効果は持っている者だけ。僕とライガの2人は歩けるが、ストナ、ユーム、ハズキの3人は意識不明。
そしてこの森の何処かにか「ツタの傀儡」らしきモンスターが隠れて僕達を狙っている。
「ナギト、ストナとハズキを抱えられるか?俺がユームとツタを何とかする。2人を背負って来た道を戻れ。」
「やってみます。」
僕はストナとハズキを抱えた。両方の重みが肩にくる。全く走れない。でも、どちらかを置いていくわけにはいかない。重りを持って一歩一歩進む。
「万段突撃」
ツタの攻撃は周期性があるかの様に、時間が経ったと襲ってくる。ゆっくりと、この偽の集落の出口に向かう。
あと少しで出口のところで再びツタが襲って来た。
「万段突撃」
ライガの攻撃でツタの攻撃が止む。
しかし、突然足首が引っ張られた。ツタか一本地面を這うようにして攻撃してきたのだ。
僕は前方への倒れ込む感じで2人と一緒に倒れた。今度は勢いよく引っ張られた。
「ナギト!」
ライガが僕の足に絡んでいるツタを切ろうとした時、再び上からツタが強襲してきた。
ライガが僕に向けた助けの足が止まった。僕はひとり奥へと引きずられて行く。
何とかしないと。剣を抜くいてツタを切ろうと試みるが引きずられる勢いでうまく手が取れない。辛うじて柄に手が届いた。剣を抜いてツタを切ろうとした時、頭部に衝撃が……。引きづられたまま岩に衝突したのたった。衝撃で剣が手を離れた。「くそ。」手で切るしかない。
ドン
ツタが切れた。いや、斧?ハンマーでツタは潰されていた。
「熱風」
高音の風が上空に舞い上がった。すると、ツタが離れていく。
「大丈夫か?」
助けてくれたのは2人のドワーフだった。
小さな方のドワーフが僕の手を取って立たせてくれた。
「怪我はない様だな。毒は大丈夫か?」
「あ、はい。」
「そうか、念の為だ。」そう言って、彼は「分解」と唱えた。そのスキルを使うと僕の中から何かがゆっくりと楽になった。
周りを見渡しが、ライガ達は見当たらない。結構遠くまで引きづられた様だ。
「ありがとうございます。僕はナギトと言います。」
「私は火のドワーフ属、エージナ。こいつは土のドワーフ、テロットだ。」
大きい方のドワーフは僕よりも少し大きかった。その大きな手を僕に伸ばして握手を求めて来た。
「よろしくお願いします。」
「テロットだ。これは相棒の「大地のハンマーだ」よろしく。」
大きなドワーフは肩に置いている大きなハンマーをこっちに見せた。聞いた事がある。「大地のハンマー」とは昔ドワーフの名工が作ったと言われる大地を震わせる土のマナ系武器。
「違う。ウソを教えるな。それはただのでかいハンマーだ。」
「何だと、誰が何と言おうとこれは「大地のハンマー」だ。実際に俺が使えば、地震も起こせ、岩石すら粉々にするぞ。」
「それはバカ力なだけだ。私の持つこの小槍こそ、かの名工サーゴの作り出した炎のロッドだ。」
炎のロッド?これも聞いた事がある。火のマナを操る武器。ロッドと言われているが、実際には短槍に見える。
「お前の方こそウソをつくな。サーゴ作などと見栄をはるな。」
「うるさい。これは師匠の師匠から受け継いだ……。」
そろそろ止めた方が良さそうだ。
「あのー。」
ドワーフ2人は我に返った様にこっちを見た。
「お前は誰だ。」
また、自己紹介から?
僕達はライガ達の方へ戻った。ドワーフのエージナのスキルでストナ達の毒を解毒してもらう為だった。
エージナとテロットの目的は素材採取だと言う。あのツタの化け物「ツタの傀儡」の心臓(核)が欲しいらしい。何に使うか分からないけど……。
エージナは火のドワーフ族。資質は鍛冶細工。かの有名な8英雄の1人、大地の従者カルメの弟子。見た目は若そうに見えるが80歳との事。マルマルと変わらない。
資質通り、鍛冶師を生業として、その素材集めにこの森へとやって来た。
彼の持っている。炎のロッド(もどき)は名工サーゴ(カルメの師匠)が作った物を模した物らしいが、実物は魔王大戦で失われた。すなわち、彼も炎のロッドを見たことがないので、彼の作った物が模造ですらないとテロットは言う。
テロットは土のドワーフ族。資質はマルマルと同じ鉱山守。ただ、マルマルは支援系のスキルしか持っていなかったのに対して、彼は明らかに攻撃型である。がたいも良く、マルマルの2倍近くでかい。歳はエージナと同じ80歳。
彼も鍛冶師をしているが、どちらかと言うと素材収集担当らしい。
大地のハンマーも本物は名工作の有名な物であるが、こちらは村の納屋に眠っていた物を掘り起こした物で、詳細は不明とか。
ツタの傀儡は基本的に核と呼ばれる心臓を突かないと倒せない。しかし、彼等が欲しいのはその核である。
その為、本体をおびき寄せて、あのハンマーで気絶させてから、核を抜くと言うのが作戦らしい。が、が……、実際に戦った事は無いらしい。村に残っている文献を頼りに核を探して森の奥まで来て、僕と出会ったのであった。
ただ、彼等にしても、僕にしても都合の良い運命の出会いではあった。僕達、いや、ストナ達をあの森の毒から解毒してもらう必要がある。エージナの「分解」は解毒スキルである。そして、もうひとつ。彼は鍛冶細工特有スキル「適合」を持つ。素材と素材の相性や適応する素材を探すスキルである。俗に言う「サーチ系」スキルなのである。
僕はマナ寄せ開眼が使える様になる。(ちなみにテロットはマルマルが使っていた「鉱石サーチ」を習得はしていない。)
そして、僕達の奇妙な暫定チームが出来上がった。
ストナ達を解毒してもらう代わりに、僕の眼を貸して、ツルの傀儡の核を手に入れる。
ウィンウィンの戦いが始まる。
ライガがひとりツルの傀儡の見えないツルと戦い続けていた。
「ライガさん」
「ナギト!無事か!か?……?」
ライガが僕の後ろにいる二人のドワーフに驚いた様だったが、僕の表情を見て、何かを悟ったのかそれ以上は言わなかった。
「熱風」
エージナがその言葉を唱えると高温が上空へと巻き上げた。ツタの攻撃が止んだ。
「分解」
次の言葉でストナ達の意識が戻って来た。
「ストナ、大丈夫か?」
目が覚めたが、何が起こったのか分からない状態で、キョトンとしていた。良かった無事の様だ。
ライガが僕の肩に手を置いた。
「ここはヤバい。引くぞ。」
「無理だ。」
ライガの言葉にエージナが返した。
「無理?」
「この霧はボツリーヌの葉から吹き出す毒だ。普段は何もない葉だが、この葉に30℃くらいの水蒸気を当てると毒を吐き出す。」
「水蒸気?」
僕は少し手を上に上げて水分があるか考えた。良く分からない。
「そしてもうひとつは「ツタの傀儡」が命令する。分かったか?この森のいたるところにボツリーヌは生えている。あの化け物を何とかしないと、逃げると言う選択肢はない。」
「俺達は何をすればいい?」
ライガの問に奇妙な笑みを浮かべるエージナがいた。




