境界なき魔境②
魔境は奥へ進む程、道は次第に険しくなる。崖と森を交互に進む形で僕達一行は奥へ奥へと誘われていった。
「気をつけろ。」
後ろからユームが声を上げると同時にライガの右手が上がった。僕は歩くのを止め、辺りの気配を探る。
「10匹前後、蜥蜴だね。」
蜥蜴か。ほっと胸を撫で下ろすと、突然、矢じりが飛んできた。
矢?
「来るよ!」
草陰からリザードマンが現れた。蜥蜴ってそっち?弓兵3体と槍兵8体。
「コイツラが蛮族の正体だ。」
ユームが槍を交わしながら僕に言った。
蛮族ってリザードマン?闇のマナ一族もリザードマン?
頭が混乱しているが、今は目の前の敵を倒すしかない。リザードマンの槍を剣で避ける。当たりが強い。技術は無く単純な攻撃を繰り返すモンスターだが、力がかなりの強い。身体の鱗の様な表皮もこちらの攻撃を通じない。受け流しても力に押されてダメージを受ける可能性がある。厄介なモンスターだ。
ストナが僕の背中に来た。
「火のマナをちょうだい。」
火?僕は敵の動きを読みつつ、火の魔吸石を取り出し、ストナの剣にマナ寄せした。ストナは意気揚々とスキルを使った。
「聖流剣」
僕とストナが相手をしていたリザードマン2体を巧みに移動させて重なり合わせた。その瞬間に再度スキル2重掛けを行い、移動と攻撃のコンビネーション技を炸裂させた。結果、リザードマン2体が真っ二つに裂けた。
「硬!」
「大丈夫?」
僕がストナに近寄った。
「大丈夫よ。でも、硬かった。」
ストナは手首を少し回しながら剣を亜空間へと収納した。
辺りを見ると他の人達も戦いを終えた様子だった。
11体のリザードマンの死骸が横たわっていた。
「この死骸売れるけど、どうする?」
ユームがこっちを見て言った。
「嫌、絶対に嫌。」
ストナが何か言う前に拒絶した。
「まだ何も言ってないのに……。」
「言わなくて分かるわよ。私の亜空間に入れろって言うんでしょ。無理、死骸は絶対に無理、嫌。死んでも嫌!」
「要らないなら私達がもらうよ。ハズキ!」
そう言うとハズキがリザードマンを亜空間に入れ始めた。
2匹入れると、手が止まった。
「私の亜空間は2匹が限界よ。ボールスがいれば全部貰えたけど……。」
「2匹で200万くらだから、今回の旅の追加収入と考えれば悪くないね……。」
そう言って、二人がストナを見る。
「1匹100万!」
「誰かさんがぶった斬った物は価値が下がるね。でも、最低でも50万はするよ。」
僕もストナを見た。
「嫌!」
ストナが小声で否定する。すると、キャロリーが近づいて来た。
「このままこの死骸をここに置いておくと、更に別のモンスターを呼ぶ。要らないなら焼くか、葬り去るかどちらかしかない。この森だと、仮に火が燃え広がると私たちの命に関わる。どうする?」
キャロリーが脅す様な目でストナに語った。ストナも負けじとガンを飛ばすが、やがて折れた様にしょぼくれながら死骸の方へ向かっていった。
「ナギト、ライガ、解体は手伝いなさいよ。後、瑠璃の首飾りね。クラスタルに寄りなさいよ。」
なんだ。意外に元気だ。
ユームが僕に近づいてきた。
「2人でリザードマンを2匹仕留められるとはなかなかやるな。」
「ストナのスキルの力です。」
「お前達はいいコンビだ。本来ならあいつらも連れて来たかったが……。」
「蛮族って、闇のマナ一族ではないんですね。」
「ああ、ここ一体は昔からリザードマンなどの亜人種が住み着いているから、彼らを蛮族と呼んでいる。ただ、私も闇のマナ一族がいるとまでは知らなかったよ。」
「リザードマンの死骸って、100万もするんですか?」
「もちろん、綺麗に解体すれば。」
「え?解体できないと?」
「10分の1かな。」
「え!誰が瑠璃のネックレス買うんですか?」
「恋人のお前だろ。そうだ、良いことを教えてやる。私の知り合いに解体のプロがいる。解体費含めて5対5でどうだ。」
ユームの目が意外にマジだった。この人やっぱりすごい。本物の冒険者だ。妥協がない。
「考えておきます……。」
僕達が目指しているのは、ここから更に東に進んだ場所である。光の翼の情報網から手に入れた闇のマナ一族のアジトがあるとされている場所。ある意味魔境の中の魔境かもしれない。
現在、七本槍の道化衆として6名で行動している。炎勇旅団でも光の翼でもない。七本の道化衆にユーム、ハズキ、キャロリーが入隊して行動している。ある意味このメンバーのトップは僕になるが、いつも通り一番下の扱いのリーダーである。
それは良いとして、どうしてこのメンバーなのか、もう少し話を戻したいと思う。
カプサイシンとブッキー二の緊急埋葬を終え、僕達は宿に戻った。宿にはダメージを負ったキャロリーの介護にストナとライガが付き添っていた。
「どうだった?」
ライガがユームに話し掛ける。
「とりあえず、3名を埋葬した。光の翼には電報を飛ばしたから数日以内には来るだろう。不明の女性遺体は冒険者連合で今後不明者リストと照合してくれる。」
「そうか……。後は……。」
そう言うと2人はキャロリーの方を見た。彼女は寝ている様子だった。ライガとユームはこちらには聞こえない小声で何かを話し合っていた。そして、ライガとユームはオーウィズを連れて3名で宿から出ていった。僕達は暫く彼らの後ろ姿を見送っていたが、次第に自由行動となっていった。
ストナが僕とボールスにお茶を持ってきてくれた。
「どうだった?現場調査は?」
「人がいないから、ユームさん主導である程度まとめて、冒険者連合が調書にしてたって感じかな。」
ストナとライガはキャロリーの手当てに当たり、残りの僕達が現場確認と埋葬までを進めたのであった。
「ユームさんが腑に落ちないって言ってた。」
「何が?」
僕がボールスの方を見ると、彼が事細かく説明し始めた。彼はカプサイシン達が倒れていた状況を絵に描いた。
キャロリーの証言では、倒れている遺体に近づいた時、急に背中を斬り付けられ、痛みと衝撃でその場に倒れた。その後、後ろで2名倒れる様な音がして、パプリカの悲鳴が聞こえてきたと言う。その悲鳴と同時に彼女は誰かに踏まれた感覚があったが、背中の痛みゆえ上を見る事が出来なかった。意識が遠のく中で、男性の声が聞こえた。「闇のマナ一族に近づくな」。やがて、パプリカが叫ぶ声、その声がゆっくり遠ざかってく感覚中、記憶が途絶えたと話している。
「ただ。師匠が違和感を覚えたのはカプサイシンが殺された事。仮にもAランクの冒険者だから、キャロリーが攻撃されたなら、反撃か防御態勢を取るはず。それなのにカプサイシンを一撃で殺すと言うことは、Sランク最上クラスの人物か、キャロリーの証言に矛盾があると言っている。」
僕達は更に状況を絵に書いて、何度となく仮想検証をしてみたが、確かに初手がおかしい。
キャロリーを狙う意味がない。いや、背中を袈裟斬りする意味がない。アサシン系の資質持ちが隠密のスキルを使って近づいて殺すにしても、キャロリーに先制攻撃を仕掛けるなら、もう少し簡易攻撃をする。短刀で急所をついて、相手が気づく前にカプサイシンを攻撃する。これが一番シンプルだ。
そうでないなら、数人で同時攻撃したかだ。ただ、こちらもキャロリーを斬りつけるのと同時にカプサイシンを攻撃するのは相当息の合ったパーティーでないと難しい。
どっちに転んでも今回の犯人はかなりの力量の持ち主である事になる。
目的も不明。パプリカさんの誘拐なのか?カプサイシンさんの殺害なのか?とにかく、謎だらけである。
暫くすると、ライガ達3人が戻ってきた。気のせいか、オーウィズだけが何か納得のいかない顔をしていた。ユームは僕達を集めて説明を始めた。
「こらから、七本槍の道化衆と炎勇旅団で別行動をする。炎勇旅団はオーウィズ王子の護衛を続けながら、首都炎英新都まで戻る。そして、七本槍の道化衆は闇のマナ一族の拠点へ行き、パプリカを救出する。」
「え?」
「闇のマナ一族の拠点って?」
「もちろん、境界なき魔境だ。」
えー!まじか?心の中で何度も叫び声を上げた。一度入ったら二度と戻れない所をだろ。「本当にそこにパプリカさんはいるんですか?」と質問したくなったが、言えなかった。可能性が少なくても行かないといけない時がある。そして、今がその時だとは分かっている……。けど……。魔境はないでしょ。と、叫びたい。
「あと、私とハズキが七本槍の道化衆に加わる。」
「えー、なんで私が……。魔境でしょ、嫌に決まってるでしょ。」
僕と全く同意見の人がいた。
「お前が一番。地図を読める。」
「はぁ~?地図なんかブルケンがいるでしょ。ブルケンが……。」と言って、ハズキはブルケンを見てから、「分かりました。行けば良いんでしょ、行けば。」
そう言って、諦めた様に座り込んだ。
「あと、キャロリーさん貴方も同行してもらえませんか?」
ライガが横になっているキャロリーに話し掛ける。
「わ、私?」
ライガが笑顔で答える。
「はい、実際に闇のマナ一族と遭遇したのは貴方だけです。どうしても貴方の力が必要なのです。」
ライガの説得にようやく折れて、七本槍の道化衆にユーム、ハズキ、キャロリーが入って行動する事が決まった。
今回、魔境に入るに当たって、何が出てくるのか分からない。闇のマナ一族。3魔女のミリアンだって、姿を消したままである。しかし、本来護衛対象であるオーウィズを同行させるのはまずいと判断して、別行動をする事になった。
炎勇旅団は副隊長のウスイに任せて、一度南下して首都炎英新都で七本槍との合流を待つ。
七本槍の道化衆、僕達は3名の協力を得て、闇のマナ一族に連れて行かれたパプリカを助ける。あくまでもパプリカ救出がメインとなる。
そして、翌日朝早く魔境に向けて出発した。




