境界なき魔境①
七本槍の道化衆
★「008」ナギト(17)♂ 武器片手剣 魔法剣士資質 Eランク
スキル:(開眼)マナ寄せ、マナ返し 回転マナ返し
〇「009」ライガ(46)♂ 武器槍 槍突騎士資質 王下Bランク
スキル:突撃の槍、亜空間魔法(収納激小)他
〇「011」ストナ(20)♀ 聖騎士資質 武器大剣
スキル:聖流剣 聖回復 亜空間魔法(特大)他
○「016」ユーム(38)♀ 炎勇旅団隊長 Aランク アーチャー資質
雨矢 千本矢 心臓の矢 瞬速矢
○「017」ハズキ (22)♀ Cランク 魔法使い(風)資質
○「018」キャロリー(29)♀ Dランク 幻術士資質
クラスタルとエントレイルスの地堺に境界なき魔境と呼ばれる地域がある。
クラスタル、エントレイルス、ボルケーノと旧魔王領、現聖京都との間には大陸の屋根と呼ばれる巨大な山脈がある。東ラーフィン山脈、4000メートル以上山峰が連なる巨大な山脈群。
基本的には南東に伸びる山脈であるが一部だけ西側に分かれる様に分岐している場所がある。
クラスタル南東、エントレイルスの北東の境界線となっている地域である。
この地域はエントレイルスもクラスタルですら領土としていない。(元々エントレイルスは中立的な地域なので支配者と言う概念はないが。)
この空白の険しい渓谷が魔境と呼ばれ始めたのは、つい最近の事らしい。
「時の番人事件」時の番人と言う名の冒険者部隊が全滅した事件。その事件が発端となっている。時の番人メンバー全員でここにあるとされる究極の鉱石、硬芯鋼と柔芯鋼を探して中に踏み込んだ。そして消息を絶った。(世間的には硬芯鋼と柔芯鋼はこの地にあると言われているらしい。)
数日後、帝国と冒険者連合の帝国支部に多額の身代金要求があった。当時(今でも)魔境には蛮族と呼ばれる種族がおり、迂闊に彼らの縄張りに入り込むと血祭りにされると言われていた。
そして、帝国はその要求を却下した。
その翌日、帝国の大広場(帝国サーバン会場)中央に時の番人メンバー全員の首がさらされていたと言う。
怖!
僕はこの話を王下冒険者学院の座学で聴いた。そんな魔境なんか死んでも行かないと思った。行く必要がない。そもそも誰が好んでクラスタル南東に行くんだろうか?何を求めて?
まさか、自分が足を踏み入れるなんて思いもしなかった。正直今でも直ぐに帰りたい。
道なき道を進む。ただ、無闇矢鱈に進む事が出来ない。いつ蛮族に襲われるとも限らない。細心の注意を持って進む。
ポキ!
小枝を踏んだ音が山間の森林にこだまする。
「しまった。」
再び僕の声が山間部にごだまする。
「いや、声の方が大きいから。別に誰も音を立てるななんて言って無いわよ。」
「でも……。」
「はぁ~、あなた分かって無い。」
「何が?痛!」
突然、ユームが僕の背中を押した。僕とストナは会話を辞めてユームを見た。
「ナギト、お前は目が良すぎるんだよ。」
「目?」
僕とストナはお互いに向き合って目を見た。彼女もよく分からない様子だった。
「どうしてマナ寄せ開眼を使わない?」
「今?」ユームが頷く。「無理ですよ。サーチスキルを使える人がいないから。」
「違うね。マナ寄せ開眼の時、何を見ている?」
「マナですけど。」ユームが僕の目の前に指を突き立てた。
「目で見ているか?」
「は、はい。」
「お前はマナを目で見ていると言うが、実際は違う。」
そう言うと、ユームは頭に人差し指を向けて2回程にノックする。
「脳で見ている。その脳のイメージが目に見えているんだ。」
「??」
「ユームさん、どうしてそう思うのですか?私達はマナ寄せ開眼なんて使えないのに。彼固有の能力ですよ。」
「使わせただろ。ライガ師匠に。」
そういえば、思い出した。魔王城での戦いの時、マナ寄せ開眼をマルマルの「鏡合わせ」と言うスキルで共有したんだった。
「それが?」
「その時、ライガ師匠が感じた事をさっき話で聞いた。そこから推測するとマナ寄せ開眼はサーチスキルを脳で処理して眼下に見せるものだ。ブルケンの検索と似ている。」
そこまで言うと、ユームは僕のおでこに指を置いた。
「本題に入る。五感を研ぎ澄ませ。そうすれば、お前の目は更に強くなる。普通の人が何十年掛けて習得する技能をその眼とスキルは瞬時に取得させてしまった。もちろん、お前の努力も認める。たが、もっと強くなれる。」
ユームが熱くなったのを知ってか、先頭を行くハズキが声を掛けた。
「ユームさん達行くよ。」
先頭集団と少し距離が空いていた。ユームがハズキに手を振った。ハズキがまた始まったと言う目でこちらを見ている。そして、話は終わり、僕達は歩き出した。
メンバーの先頭は炎勇旅団のハズキ、その次に光の翼のキャロリー、ライガと続き、僕とストナ、最後にユームの6人編成で境界なき魔境を旅していた。
なぜこの不思議なメンバーかと言うと話は少し前に遡る。
3魔女の一人、ミリアンが襲ってきた2日後であった。あのドタバタ騒ぎがようやく落ち着いた日常へと戻り始めていた。僕達はノルデーナ(オアシスの街)の人々の好意で特別な人だけが泊まれる宿に泊めてもらっていた。
その日も朝からユームに叩き起こされて、ボールスと一緒に空手のトレーニングをしていた。その前を光の翼の4人が通り過ぎて行く。
「おはようございます。」僕とボールスが挨拶をすると、向こうがこっちに気が付いて近づいてきた。
「おはよう。朝からトレーニングか?」
「はい、ユーム師匠が毎日やれと言うので。皆さんは?」
「それは良い事だ。私達はこれから調査へと行くところだ。」
「調査?」
「先程、クラスタルから来た行商人が道端で人らしき何かが倒れていた。と連絡があって今から調査に行くところだ。」
「何かってその時に助けないんですか?」
カプサイシンとパプリカかちょっと複雑な表情を見せた。
「最近、行商人を狙う犯行が横行しているの。疑心暗鬼にとらわれている人であれば、余計に何か罠と思って逃げ去るのよ。ただ、ちょっとでも罪悪感のある人たちは私達に依頼をするのよ。」
「パプリカさん、そんな事彼らに言っても無駄ですよ。」
パプリカの話に割って入って来たのが、キャロリーだった。彼女の声を聞いたのはこれが初めてではないだろうかと思ってしまう。滅多に話をしないイメージがある。資質は幻術士だそうだ。どんなスキルなのか、昨日の昼間に光の翼と一緒に食事をした際に聞いたけど、一切答えてくれなかった。と言うよりは話すらしてもらえなかった。カプサイシンやパプリカは密かに言った。彼女はそういう子だから。
キャロリーは僕とボールスを見るなり、少し見下す様な視線を送って来た。しかし、何も言わない。
「何ですか?」
「くだらない。」
「え?」どういう事?
パプリカが一歩少し近づいて、僕とボールスに聞こえる様に耳打ちをした。
「ごめんなさい。悪気はないのよ。彼女は元々小さな冒険者隊にいたらしいけど、ある冒険で彼女以外が亡くなったの。だから、小さな冒険者団を嫌う節があるの。本当にごめんなさい。」
そこまで言うとカプサイシン達は調査に旅立った。
その事があってからの正午。事件は起こった。
冒険者連合ボルケーノ支部の職員が突然宿にやって来た。
このエントレイルスには国が無い。本来冒険者連合は全国に点在する独立の機関ではあるが、運営費は基本的にその国(支部)が補助している。ここにはそれがない為、南方をボルケーノ、北方をクラスタルが受け持っている。
「すいません、七本槍の道化衆か炎勇旅団の方はおられませんか?」
全員が揃っての食事時間だったので、一斉に全員が手を挙げた。
「ここです。」
その職員さんは少し安心した様な、どこかぎこちない様子でこちらにやって来た。そして、身分を名乗ってから、用件を話出した。
その用件は思いもしないものだった。
朝早く街道脇の人の様な物体を調査しに行った、光の翼のメンバーが戻って来ない。それだけでなく、人の様な物体が4体に増えていると言う内容だった。どうして良いのか分からない職員さんが僕達に再度調査を依頼したのだった。
「やっぱり、おかしいだろ。」
ボールスが僕達の横で並走しながら話し掛けて来た。
「仮にあの4人が死んでもいたなら……。」
「やめなさい。そう言う不謹慎な例え話。」
で?と口ではそう言うが話を聞きたがる、催促するストナに向けてボールスが話し出す。
「もし4人が倒されたなら、人の様な物体は5体ないといけない。だから、最初の1体が例の行商人を狙った犯人だったとか。」
「あり得るわね。でも、彼らのうちに2人はAランクの冒険者よ。そんな強盗ごときに殺される。」
「ストナ、まだ死んでない。と言うか、その4体が光の翼とは限らないよ。」
「そうか。でも、強盗がAランク以上って、それなら強盗なんかしてないわよ。」
確かに。
「例の闇のマナ一族なら?」
何か腑に落ちない思いを胸に納めて、僕達は4月体の人らしき物体の場所に急いだ。
4体の物体は人だった。近づく事無くその惨状は僕達に死と言うものを見せつけていた。
3体が身体と首が離れていた。身体の数メートル横にある丸い物体が首だと一見して見て取れた。アタゴ山の戦いで嫌でも遭遇した戦場に引き戻される様な気分だった。
しかし、いつまでもここで眺めている訳にはいかない。僕達はゆっくりと遺体に近づいた。
ふと、首の取れていない物体が少し動いた。ライガがすぐ近寄る。
「ナギト、ストナ嬢、こっち、聖回復を。まだ生きている。」
それはキャロリーだった。背中を剣で斬りつけられいた。聖のマナ寄せした再回復で背中の傷はほとんど分からない位に回復し、意識を取り戻した。
「闇のマナ一族だ。」
意識を取り戻した彼女が最初に発した言葉だった。
首の吹き飛ばさた遺体はカプサイシンとブッキー二、そして身元不明の女性遺体だった。




