マルクロードと旅の踊り子③
3魔女の末っ子であるバンパイア、ミリアン。魔王直下のバンパイアの中で一番謎に包まれていた。理由として彼女と戦った者で彼女の能力を把握出来なかったと言う事になる。
彼女と戦った者が全て殺された訳ではない。4英雄達は彼女と戦い勝っている。しかし、彼女の能力を後世に伝えていない。死狂の館の戦いでも、彼女と戦った者も生還している。それでも、彼女の能力は伝わらなかった。
3魔女という名称は魔王大戦初期、現帝国領に攻め込んで来た魔王軍団の3体の指揮官として歴史に名を刻んだ。
4英雄が魔王城突入前にアタゴ山の直下での戦いで3魔女を倒したとされている。
しかし、30年前の死狂の館の戦いで再び現れた。
当時の現聖京都王(オーウィズの祖父)率いる王下聖騎隊と死狂の館で死闘を繰り広げたとされる。小さな屋敷(大軍団からすれば)での戦いの為、屋敷内で分かれての戦いとなった。3魔女は死狂の館に入り口のエントランスホールから3方向に分かれる扉の中へと誘い込んだ。
中央の扉は3魔女の長女リリラ、血の魔女。血のようなドレスをまとっていたとされており、水の魔法使い系資質だったと言われている。
当時最強と謳われた。現王と聖騎隊の最強チームによって心臓を串刺しにして、とどめを刺したとされている。
中央左の扉には次女バーブル。闇の魔女。戦士系資質と言われていたけど、たぶん格闘系資質だろう。こちらは当時まだ新人だったライガによって、両肩、心臓を貫いて倒された。
最後は右の扉の三女ミリアン、支援系資質、踊り子資質。黄く発光するドレスをまとう、金色の魔女。
先程も触れたが、彼女に関してはほとんど情報がない。ミリアンの扉に入って戻って来た者達は不思議な事を話していたと言う。ある者は金縛りにあった。ある者は盲目になった。また突然意識を失った等の証言もあったと言う。しかし、主要メンバーは誰一人戻って来なかった。その為、隊長、副隊長格のメンバーが刺し違えて倒したと推定した。
その隊長の一人が今ライガと戦っているグラードだ。
3魔女に関しては謎が多い。そもそも、バーブルは4英雄エイディの母親だった。それなら、魔王軍団、進軍時にバンパイアであったと言うのは時間軸的に説明がつかない。
それだけではない。
元王の聖騎隊はバンパイアのコアを砕く、マナの剣と崩壊の一撃を持っていなかったから、死狂の館の戦いで倒せなかったのは分かる。でも、エイディ達4英雄はなぜ3魔女を倒していないのか?倒せなかったのか?倒さなかったのか?
歴史認識と実際事象に差がある様に感じる。
歴史の闇?
その闇の一部を垣間見る様な経験は前回の戦いで何度も見てきた。多分そう言う事だろうとしか言えない。
ただ、今はこのバンパイア2体と3魔女の一人をどうするかが大問題である。
会場中央では依然と音楽が鳴り響き、光のマナが虹色に変化しながら踊り子の女性の周りを照らしている。
その音楽に合わせて、踊り子も華麗に踊る。
その踊りに合わせて、僕の身体には今まで体験した事もない負荷が掛かっている。
「ナギト、どこまで動ける?」
「ゆっくりしか身体を動かせないです。ユーム師匠は?動けますか?」
「昔、重力の谷と呼ばれる谷での修行を思い出すよ。あの時よりは動けるね。」
なんだ?その重力の谷とは?どんなところで修行しているんだ?
「ナギト。マナ寄せは出来るか?光と聖のマナをこの拳にかけてくれ。」
僕はマルマルよりもらい受けた袋の中から光の魔吸石を取り出した。
「あ、……。」
「どうした?」
「マルマルがいないから、少量のマナしか取り出せない。」
「少量ってどのくらいだい?」
「10回くらい使うと効果がなくなる。」
「了解。それで充分。要は一撃で倒せば問題ない。」
「そう言えば、他のメンバーは?」
「私とウスイだけだ。後は会場の外で待機している。さすがにウスイでもここで戦うのは無理だろう。彼には会場の人達を外に連れ出してもらっている。後、光の翼の二人は会場内の除菌を頼んだ。」
ふと見ると、オーヴィズ王子の姿が無かった。ウスイさんが連れて行ったのだろう。
「でも、あのバリアは厄介です。何か手はあるんですか?」
ストナがユームに聞くと「無い。」とりあえず、ぶん殴るだけと答えた。この人とライガはその単純な攻撃で本当にバリア解除出来そうで心強い。
そういえば、ライガは?
僕がライガの方を見ると、闇が会場左側を覆っていた。グラードのスキルの様だ。
「気にするな、あの人なら大丈夫だ。今は目の前のモンスターに集中しろ。」
「はい。」
ナスが再び攻撃を仕掛けて来た。
開眼の威力が落ちている。スピードにも、技にも付いて行けない。ほとんど、ユームに任せている状態だ。
しかし、ユームもナス相手に苦労している。元々Aランクの冒険者だ。それがバンパイア化しているから、全体的に力が上がっている。しかも、このナスはマナを全身に回して能力を上げる事が出来る。おまけにミリアンの踊り。
不利が不利を呼ぶ状況だ。
押されて当然だけど。このままでは、ユームが危ない。
僕も戦いたい。
でも身体が動かない。
「くそー。」
悔しさの余りに、大声を出した。
その時だった。僕の左手から何かが湧き上がってきた。
「な、なんだ?」
僕の左手にはめていた炎帝御輪からマナが溢れ出していた。
炎帝御輪は炎粉飾剣と一緒で火のマナを100%防ぐ最強防具だと言っていたのに、火のマナ以外も防ぐ事が出来るのか?良く分からないが、身体が軽くなった。身体中に炎帝御輪のマナ、火のマナ獣のマナが僕をまとまりついた。
分からないが、助かった。これで戦える。
「開眼」
見える。ナスの動きが!
僕はナスの動きを見た。さっきの僕の攻撃を警戒したのか、右脇をかばっている。けど、逆左肩側にわずかな隙が出来ている。狙いは決まった。後は、ユームの動きに合わせる。
ユームが何かを仕掛ける。しかし、ナスがそれに備える体勢を取っている。分かる。
この場合、両者の力が均衡して、お互いが弾かれて数歩下がる。狙いはその時だ。
ユームが千本矢のスキルを使った。一撃のパンチに何百という撃が同時に動く。何がどうなっているのか全く分からないが、威力だけは絶大だと言う事は見て取れる。
しかし、ナスはそれを受け流しのスキルで全てを流している。
更にユームが何かを仕掛けた。「心臓の矢」だ。心臓に一撃を与える強大な一撃だ。しかもパンチで。
さすがにナスも受け流しではなく、ガードをした。
来た。
次の瞬間、ユームとナスが弾け飛んだ。
飛んだと同時にナスに飛びかかり、肩から切り裂いた。ナスが一瞬僕を睨んだ。
「心臓の矢」
一瞬の隙間、ユームの拳がナスの心臓を貫いた。
勝った。いや、まだボスが残っている。
…………。
居ない。ミリアンが居ない。どこに消えた?
気がついたら、会場から音楽と光のマナが消え、松明だけが辺りを照らしていた。舞台の上には既に誰もおらず、大きな布が5枚落ちていた。
その静かな会場に大きな声が響いた。
「ナディ!彼女を離せ!お前達は何者だー。」
ナスの断末魔が響き、ナスの身体が消えていった。
時より、バンパイアには死ぬ前に何か話して消えていく奴らがいる。バーブルもユウ。でも、それが何かは分からない。人間時代の懺悔の念なのか?やり残した何かなのか?
ナスの叫びは、ナスがバンパイアに捕まる時の記憶か何かなのだろう。
彼がどこで捕まったのか?わからずじまいだった。ユウはバンパイアの時でも普通に話し掛けて来た。(一般的な普通ではないけど。)ナスは何も話さなかった。話せなかったのか?話す気が無かったのか?全くの謎である。
その後、ライガが戻ってきた。
「ライガさん無事でしたか?」
「ああ、なんとか倒した。」
「倒した?マナ寄せ無しで?」
「どうやら、あいつらは無敵と言う訳ではない。心臓の核を潰すと徐々にマナを失っていく。1000回くらい核を貫いてやったら、最後には動けなくなって消えたぞ。」
さすが、普通の人には無理と言うか諦めるレベルだけど。
「あいつはどこにも行った?」
「分かりません。気が付くといませんでした。」
「俺達を追ってきたのではないが、何かを探していた。」
「何か?なんでそんな事が分かるのですか?」
「あいつの視線が会場いや、この地域を探っている感じだった。」
いやいや、普通分からないって。いや、普通、あんな全力で戦っていて、そんな余裕ある?
「ナギト何だ?炎帝御輪か?」
「そうです。突然マナを発して踊りの効果が薄まりました。でも、炎帝御輪って火のマナを防ぐって聞いてましたけど。」
「やっぱり、それは炎帝御輪か。」
ユームが会話に入って来た。
「あ、すいません、黙っていて。」
「別に謝る事はない、私達は火のマナ獣に会えなかったのだから、とやかく言う資格もない。ただ……。」
「ただ?」
「マナの剣士は使えるか?炎帝御輪を。」
「はい、元々エイディの為に作られた物らしいです。」
ユームが僕の腕を持って腕輪をまじまじと観察した。
「炎帝御輪は火のマナを100%、その他マナを50%防ぐ防具と言われている。そして、その防具を使いこなせたのは8勇士の内の一人マリーナの従者リグナだけと言う言い伝えがある。」
「マリーナじゃないんですか?」
「マリーナは火の攻撃系。リグナは火炎防御士だ。」
「火炎防御士って、……。そう言う事か。」
「そう言う事、あのおっさんがマナ獣に会わせろと、要求したのは、それが欲しかったんだよ。まさか、マナの剣士が使えるとは思っても見なかっただろうが。」
戦いは終わった。しかし、ミリアンの狙いも、目的も分からなかった。ただ、この戦いで死者はでなかった。それだけは良かった。
僕達は会場の後片付けと倒れた人達の救護に当たったのだった。




