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マルクロードと旅の踊り子②

 雑技団の演目は既に始まっていた。

 空を照らした日光はゆっくりと傾き始めていた。

 僕達が会場に着いた時、松明の照明が会場とその周囲を優しく照らしていた。

 しかし、状況は一転する。会場内へと入ると色とりどりの光が目に飛び込んできた。舞台の上には特殊なマナの光が変色しながら団員を照らしている。その輝きや情景を眺めていると、自分のいる場所がどこなのか忘れそうになる。

 次の演目に入った。雑技団員が梯子を取り出し、その梯子に登ると、その頂上が山の様な輝きに変わった。

「きれい。」

 ストナが隣で梯子芸と言うよりそのマナの風景演出に見惚れている。

 

 この会場は大型テントで270度四方が観客席になっていた。全体の奥側に舞台がある作りになっていて、舞台中央付近には椅子の観覧席も作られていた。その席はほとんど埋まっており、座れない人達は後ろで立ち見をしていた。

 ゴホン!

 オーウィズが僕の隣で咳払いをした。

 僕かオーウィズを見ると、少し顔を近づけて言った。

「ああいう場合は、君の方が綺麗だよと言うのが常識だ。」

「そうだな、ナギトはデリカシーが無い。」

 後ろからライガも言ってくる。

 ああ言う?そう思ってストナを見た。あ、そう言う事?

「いや、僕達は、そう言う関係では……。」

 と僕が言い訳をしようとすると。

「うるさい、静かにして。」

「すみません。」

 ストナに怒られた。何もしてないのに……。

 

「いよいよ、登場よ。舞姫。」

 ストナが僕に紙を見せてきた。演目表だった。

「そんなのどこでもらったの?」

「入り口よ。何も考えず真っ先に入って行くから、どこへ行くのかも分からなくなるのよ。」

 色々な意味のこもった言葉が返ってきた。

「あ、あれ、見て、どうなっているの?」

 4枚の大きな布が落ちてきた。それが、浮き上がって来たと思うと、その布が綺麗なドレスへと生まれ変わった。そして、そのドレスが踊り始めるとその踊りと一緒に音楽が聞こえてきた。

「風の魔法?」

「マリオネット系の操り魔法じゃないか?」

「何?マリオネット系って?」

「どんな資質の人がひらめくの?」

「さあ?」

「さあって。本当にあるの?そのマリオネット魔法って。」

「さあ?」

「きっと、火魔法だ。」

「いや、燃えるでしょ。火って。」

「火で下から蒸気を浮き出させてドレスを舞わせる。」

「それって、風で良くない?」

 それぞれがドレスの踊りを見ながら、言いたい事を口にした。

「そう言えば、舞姫ってあのドレス?」

 その時だった。大きなドラの音が会場内に響いた。

 すると、もう一枚更に大きな布が上から降ってきた。その布は4つのドレスの中央に落ちた。その次の瞬間、布が再びドレスへと変わったと思うと、女性が踊り出した。

 僕とライガが咄嗟に剣の柄に手を伸ばした。

「バーブル!」

「違うな、あいつはミリアンだ。」

 バンパイア三姉妹の末っ子ミリアン。なぜ気が付かなかった。考えてみると、現パーティーにサーチ系スキルが使える人はいない。すなわち、マナ寄せ開眼が使えない。結構ピンチかもしれない。でも……。僕だけではない。仲間がいるんだ。


 僕は剣を抜こうとした時に、ミリアンと目が合った。

 この死の視線。バーブルそっくりだ。

 ………………!

 な、なんだ?

 いきなり、身体が重くなった。

「気をつけろ。デバフだ。それもかなり強力だ。」

「何をしたんですか?」

 オーヴィズが突然倒れた。

「王子!」

 すると、周りにいた人達も倒れ出した。

「どうしたんだ?何が起こっている?」

 意味が分からない。身体が重い。一歩前に足を出すのにもの凄い時間がかかる。

「デバフ、全能力半減いや、60%減か。」

 ライガの声に僕は周りを再び見渡した。

 時間の経過と共に一人、また一人と倒れていく。

 


 思い出した。

 冒険者学院時代に授業で習った事が脳裏を突き抜けた。

 一般的に半減のデバフを喰らうと耐性の無い場合、そのまま意識を失う。70から80で死に至ると言う内容だった。バフやデバフで2割以外が一般的と言われている。ただ、踊り子資質などの特殊資質にはその効果を超える物が稀に存在すると言われる。

 特殊資質とは、性質上スキル使用当たって枷を受ける資質である。戦士資質と剣士資質では剣士の方が武器の制限がある。すなわち、枷があるのでスキルの威力が強いと言われている。ただ、戦士と剣士位の差は個人差の方が大きいので話題にもならない。

 踊り子資質の踊りのスキルの枷は踊りを踊っている間にしかスキルが継続しない。魔法使い系資質とは比べられない枷がある。その代わり絶大な効果の差が出来る。

 しかも踊り子の踊りは継続時間が経つにつれて、徐々にその威力を増すと言われている。


 言い換えれば、このままあの魔女を踊らせておくと、本当に死人が出る可能性がある。

 

「ストナ大丈夫?」

「だ、大丈夫……。」

 フラフラで答える。戦える状態では無い。そう言う自分も同じだ。立っているだけで体力が奪われていく。何とかしないと。

 気合を入れようとした時、一瞬デバフの効果が無くなった。


 踊り子の踊りが終わった?止まった?

 笑い声が会場内に響いた。

「まさか、お姉様の敵が来ているなんて、夢にも思わなかったわ。」

「何が目的だ。」

「アナタ、ライガね。なるほど、確かに私では負けそうね。お姉様と互角に戦うだけの事はあるわね。目的?むしろ、私達は招待されたのよ。ここで踊ってくださいってね。あら、やっぱり。」

 彼女が僕の方を見た。

「その剣。マナの剣ではないのね。やっぱり、あの……。」

 ミリアンが僕の方に視線を変えた瞬時をライガは見逃さなかった。一瞬の隙をついてミリアンを向けて攻撃した。しかし、舞台に弾かれた。

 バリア?ライガの攻撃が届かない。舞台上に何かがある。

「びっくりした……。あら、残念でした。そんなに戦いたいの?それなら、良いものあげるわ。」

 何か巨大なマナが動く様に感じた。

 あれから、ライガは何度もミリアンに攻撃を仕掛けたが、攻撃は一切届かない。何かに守られている。この強大なマナに関係があるのか?

 ミリアンが両手を挙げると、地面から棺桶が現れた。人が入れるサイズの棺桶が縦に立ち上がる様に置かれた。

「何が起こるんだ?」隣にいたストナも声すら出ず眺めているだけだった。

 ゴゴゴゴと大きな音が鳴り響いて、ゆっくりと棺桶が空いていく。

「ナスさん?」

 目の前に現れたのは2体のバンパイア。1人は光の翼のナスだ。見覚えのある顔、あの迷い森で剣(棒?)を交えたから覚えている。そして、もう一体は?分からないが、こちらは魔法系だ。


 ライガが戻って来た。

「気をつけろ!あいつはグラードだ。闇のマナ魔法を使う。視力低下に注意しろ。」

「グラード?」

「死狂の館の戦いの時、2番隊隊長だった男だ。」

「隊長格か……。」

「リトダよりはマシだ。安心しろ。」

 僕は剣先をナスに向けた。

「もう1人、光の翼のナスさんです。」

「あいつが?結局捕まったのか。」

「その様です。厄介な敵が3体。」

「一番はあのバリアだ。全く攻撃が通じない。単なる防御魔法ではない。来るぞ。」

 ナスとグラードが僕達の方へ向かってきた。


 ナスが僕に向かって来る。何か仕掛けて来る。マナ寄せ開眼は使えないが、開眼だけでも、向こうの動きである程度まではわかる。

 これは!

 あの時の構えに似ている。

 「蜃気楼切り」マナが読めないから100%の確信はない。間違えれば、背中が丸腰になる。あの時の記憶と現状を重ねる。間違いない。

 想像するんだ。あの時の攻撃を。前回は避けたけど、今回ならカウンターを狙える筈だ。あの時、目の前にいるナスと同じ動きを後ろでしていた。前の攻撃を避ける様に後ろの攻撃を避けて、弱点の右脇を攻撃する。

 来る。

 予想通り、攻撃は蜃気楼切りだった。僕はそれを交わしながら右脇に攻撃を入れた。

 感触がある。

 ナスが狼狽えた。

 そこにストナが攻撃をする。「聖流剣」ナスの身体をぶった切る。やった。

「あ!」

 僕は声を上げた。

「何?」

「光のマナ寄せしてない。」

「あ!」

 僕はナスを見た。ナスの2つに分かれた身体が合わさり始めた。やっぱり聖と光のマナが必要だ。

「ナギト早く。」

「分かった。」僕はマルマルの残してくれた袋に手を伸ばした、その時。

 再びあの重圧が僕を襲った。ミリアンの踊りが始まったのだ。ヤバい。この状態でナスが復活したら手に負えない。

 遠くから声が響く。

「やっぱりあなた達危険だわ。ここで終わりにしてあげるわ。」

 そう言うと舞を加速させた。身体の自由が徐々に奪われていく。

 と、ミリアンの踊りが再び止まった。

「あ、忘れてたわ。これ。お姉様の形見。貴方達にあげるわ。」

 そう言って手を開いた。何かが手の上に乗っていた。

「さあ、皆。私と一緒に踊りましょう。」

 彼女は回転を強めて踊りだす。すると、白い何かが会場の天井まで昇っていくと思うと雪が舞うように白い何かが舞った。

 粉だ。

 粉が身体に降り注いだ。

 こ、これは……、記憶にある感触。ゾンビパウダーだ。

 ヤバいぞ。踊りとゾンビパウダーはマズイ。今倒れている人達がゾンビ化する。オーウィズ王子も耐性がないからこのままでは完全に餌食きになる。ゾンビパウダーを無力化するには日の光しかない。まだ、宵の口。このままでは会場にいる人達は全滅だ。

 再びミリアンの踊りが加速する。

 その時、ナスがこっちを見た。

 完全に相手のペースに呑まれた。僕は剣を構えるがナスを眼下に捕らえるのがやっとで集中力が無くなっていく。

 来る。駄目だ。見えない。やられる。


「キュア」

 その声と同時に身体の中にあった淀みが消えた。

 後ろを見ると、光の翼のメンバーと炎勇旅団が立っていた。そして、襲ってきたナスをユームがおもいっきり殴った。そのままナスを舞台近くまで吹き飛ばした。

「よく頑張った。まだ、倒れるなよ。」

 その言葉が何よりも心強かった。

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