『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
トレーニングに励む理由
私は今年の春から騎士団へ配属された。
王国の貴族は全員十六歳になると騎士団へ入ることが義務付けられている。国防を担うことで愛国心を育み連帯意識を強化すること、国防費を節約するなどの様々な理由があり基本的に拒否することは出来ない。
新人は基礎体力を付けるために筋力トレーニング中心のメニューとなる。
これがなかなかに地味でキツイため、はっきり言って人気が無く、こっそりサボるものが多かったりする。
どうせ二年間我慢すれば除隊出来るのだから無理する必要はないという気持ちはわからないではないが、私は根が真面目なのでしっかりとメニューはこなしていた。
そういう事情もあり、少々浮き気味の私だったが、そんな私が霞んでしまうような男が居た。
鬼気迫る勢いでトレーニングをこなす。それも通常メニューの三倍だ、はっきり言って狂気の沙汰だ。
「なあ、なぜそんなに必死にトレーニングをしているんだ?」
どうしても気になり一度聞いてみたことがある。
「……俺が弱かったせいで大切な人を失ってしまったんだ。だから――――俺は強くなりたい、二度と後悔したくないんだよ」
何も言えなかった。興味本位で聞くべきではなかったと後悔した。
それから二年後――――
「くそ、スタンピードだ!!」
「なんで除隊直前でこんな……」
大量の魔物が街を襲ってくる。当然私たち騎士団は国民を守るため全員最前線へ向かった。
そこは地獄だった。
人間か魔物かもはやわからない原型すら留めていない死体が積み重なっている。
私は死に物狂いで剣を振るった。
身体は鉛のように重く、手は痺れ視界は血で滲んでいる。剣を杖のようにして立っているのがやっとの状況。もう限界だと思った。
その時逃げ遅れた子どもが目に入る。そしてその子を狙う魔物の姿も。
考えるよりも早く身体が動いた。最後の力を振り絞って魔物を倒す。
「真面目にトレーニングしてきて良かった」
最後の最後、ギリギリのところで動いてくれた身体を愛おしく撫でる。
子どもを助けることが出来た。私は初めて本物の騎士になれたような気がした。
だが、ここまでのようだ。
私に死を運ぶはずの魔物が崩れ落ちた。
「よく頑張ったな、後は任せろ」
鍛え上げられた分厚い背中がやけに頼もしく見えた。
「どうしてここに?」
彼は別の地区を担当していたはず?
「魔物全部倒してこっちへ来た。大切な人を二度と失いたくないって言っただろ、フィリス」
これが私と旦那さまとの馴れ初めである。