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リベンジのマウンド!

作者: 高崎一茶

野球のお話です

小学6年生の春、名実ともにピッチャーとして最強と呼ばれていた俺、佐藤優太(さとうゆうた)は、少年野球の地方大会決勝戦でとんでもない経験をした。


その試合は、まさに一進一退の攻防だった。1-0でリードして迎えた9回の裏。あと一人で優勝だという瞬間だ。そして、女の子の加藤美咲(かとうみさき)が打席に立つ。


「次の一球、しっかり投げろ。」母の声を思い出しながら、全力で投げた。しかし、甘くインコースに入ってしまい、その瞬間、ボールは空を舞い、美咲はそれを綺麗に弾き飛ばした。ツーランホームラン。


「よっしゃーー!!」と、喜ぶ美咲の声と、その後ろで喜び合う家族の声が今でも鮮明に耳に残っている。あの一発が、俺の野球人生を変えてしまった。


試合後、俺は放心状態でグラウンドを後にし、あの日からずっとイップスに悩まされ続けた。どんなに努力しても、インコースにボールを投げることができなかった。中学に進んでも成績は伸びず、すべてがあの一球に起因していると考えるようになった。


そして、高校に進学して迎えた新学期、ついに運命の再会が訪れた。


クラスの自己紹介時間で、静かに話していた女の子がいた。髪は長く、目は大きく、まるで文化部のような雰囲気。


「加藤美咲です。趣味は絵を描くことです。」


その一言が俺を激しく動揺させた。あの時のホームランを打ったあの子だ。間違いない。でも、なんでこんな雰囲気の女の子が本当にあの、加藤美咲なのか?


その後、先生が質問した。「スポーツとかしてた?」


美咲は少しだけ顔を上げ、「小学生の頃、野球をしてました。」と答えた。まさにその言葉が、俺の心の奥底を揺さぶった。




放課後、俺はいつものように自転車に乗ろうとしたが、鍵が見当たらなかった。鍵を取ってくるため教室に戻ってみると、あの美咲が本を読んでいる姿が目に入った。普段は話すこともないけれど、なぜか口が動いていた。


「帰らないの?」


「迎えを待ってるの。」

淡々とした答え。


それだけで終わらせればよかったのに、俺はつい言葉を続けてしまった。


「野球やってたの?」


「うん。」


「ポジションは?」


「ファースト。」


その瞬間、俺の心が震えた。あの時、ホームランを打たれたとき、あの子も確かファーストだった。間違いなく、あの美咲だ。


「ファースト守れるんだ。すごいね。もうしないの?」


「女の子は野球なんてしないらしいよ。」


「なんで?」


「知らない。偏見じゃないの?」


その言葉に何かが引っかかった。美咲には何かがあったのだろう。でも、それよりも俺が気になるのは、あの時の美咲なのかどうかということだった。


「少年野球の時さ、地方大会で逆転ツーランとか打った?」


美咲の動きが止まる。顔が固まった。


「なんで知ってるの?」


「いや、俺が打たれた張本人なんだよな。それ以降イップスになってさ。」

俺はそう言った。


少しの沈黙の後、彼女は冷静に答える。

「精神が弱いのね。」


「は?」

俺は驚き、心の中で叫んだ。「お前のせいで俺は投げられなくなったんだよ!ずっとお前のことを忘れられなくて、悔しくて…」と思っていたが、その言葉は飲み込んだ。


「じゃあさ、一打席やろうぜ。」突然、思いつきで口を開いた。


「は?何言ってんの?女の子がするわけないでしょ?」


「そんなこと誰が言ったんだよ。」

怒りがこみ上げてきた。「あの時も、ホームラン打った後、嬉しそうに家族と喜びやがって。」


美咲は少し黙った後、少しだけ冷ややかな声で言った。

「その家族よ。」


「は?」


「特に母親よ。女の子は野球なんてしたらダメなんだって。だから、中学は嫌々美術部に入ったけど、あまりにも下手だから顧問から『なんで入ったの?』って言われる始末。」


「…あーはいはい、わかった。辛かったんだな。」

俺はすぐに切り替えた。

「よし、行こうぜ!」


そう言って、俺は美咲の腕を掴んで引っ張った。


「ま、待ってよ。」


「いいから!」

俺は強引に彼女をグラウンドへと連れ出した。月曜日で部活は休みだったため、グラウンドには誰もいない。


「私、制服なんですけど?」


「はやく!」

俺は無視して、バットを美咲に渡し、ボールの入ったカゴをマウンドの横に準備した。


「マジでやるの?」


「早く、お前のせいでイップスになったんだよ!」


「は?私のせい?きもいんだけど!」

彼女は少し怒り気味に言ったが、それでも右打席に立った。やる気はあるようだった。


俺は力を込めてストレートを投げる。「ストライク!」


「ギリギリ外よ!ボール!」

美咲はすぐに反論してきた。


「入ってる!何言ってんだよ!」

俺も負けじと返す。


そして投げるたびに会話が続く。最初は小競り合いのような感じだったが、徐々に楽しさが出てきた。

ボール、ファール、ファール、ボールと....


「なんでお前、こんなに打てるんだ?」

俺が聞く。


「そんなの、負けたくないからよ。」

美咲は力強くバットを振る。


そして、俺は再び投げる。今度は高めのストレートがファールになる。美咲は

「あー!なんでよ!」

と叫ぶ。


「それ、ファールかよ!」

俺は少し笑って言った。


「やり直しよ!そんな球、前ならよゆーで打てる!」

美咲は少し舌を出しながら言った。


そして再び、俺はフォークボールを投げる。ボールは空を切り、ファールになる。


「連続でインコースなんて、単純な配球ね!」

美咲は鼻で笑った。


またインコースにボールを投げる。何度も何度も、繰り返し投げる中で、心の中で何かが弾けた気がした。


「やっぱり、野球やりたかったんだろ?」

俺は問いかける。


「負けたくないからね。」

美咲は笑顔を見せた。


その後、何度もやり取りを繰り返し、周りが暗くなる頃には二人とも疲れ切っていた。


「そういや、迎えは?」俺が息を整えながら言う。


「家が帰るのが嫌だから、あの時は嘘言ったのよ。」

美咲は少し恥ずかしそうに言った。


「毒親ってやつ?」


「そうかもね。」

彼女は微笑んだ。


その時、俺は思った。

「決めた、高校で野球をやる。そしてマネージャーのお前を甲子園に連れていく。」


「は?なんでマネージャー確定なのよ?」


「もし俺が甲子園に連れていったら、俺に向かって『やっぱり、佐藤君はかっこいい!』って言えよ。」


「あなた腹立つわね。でも、いいわ。言ってやる。」

美咲はニヤリと笑った。


「言ったな?男に遺言はねぇぞ?」


「それを言うなら男に二言はないなだし、まず私男じゃないし。」

彼女はふふっと笑って、約束が交わされた。


その瞬間、俺は確信した。俺たちの野球人生は、これから新しい一歩を踏み出すんだと。

高崎一茶 復活しました。

来年から長編小説投稿するつもりです!

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