【SS】第7話 カテイ
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起承転結の短さと、伏線回収までの短さに悪戦苦闘しながらも、読みやすさの魅力に魅かれて執筆しています。
※編集済み作品は、【SS】カテイ【修正ver.1.0】として公開しております
この国では、多子若齢化に頭を悩まされている。
多子若齢化とはいわゆるベビーブームのことであり、出生率が爆発的に上昇する現象のことだ。
出生率が上昇するに伴い家計が圧迫された末、非人道的な間引きが行われるなど、悲痛な問題が生じていた。
そんな社会問題を解消すべく、国会においては昼夜を問わず議論が繰り広げられていた。
繰り返し執り行われた議論の末、今後の方針が決定した。
現代のテクノロジーを最大限に生かすことを前提とし、国の機関から全国の新婚夫婦の元へと、成長するロボットを与える運びとなった。
そのロボットは三年の間に赤子から成長し、家族の一員として過ごす。
これは平等に与えられた義務であり、三年間の時を経て、育児の資格があるか否かを決定するための重要な取り組みであった。
しかし、奮闘したであろう三年間が終わるとロボットは廃棄しなければならないという、厳しい決まりでもあった。
とある新婚の男女はそれが楽しみでならなかった。
与えられたロボットに人間らしい名前を付け、共に遊び、共に学び、時には躾を行い、愛情を注いで育てた。
二年が過ぎたころ、法案が可決された折には楽しみで仕方がなかった子育てだったはず。なのだが、厳しい規則に疑問を抱き始めていた。
自分たちが愛情を注いで育てたロボットを、なぜ手放さなければならないのか。
妻は特に反対の意思を示し、子どもを産み、育てることができるかどうかの指標を、ロボットで判断するなんておかしいのではないか、と考えていた。
一方の夫はというと、妻の意見に耳を傾けつつも、国が決めた法律を天秤にかけ、後者に重みを置かざるを得ない状況であると頭では理解していた。
三年が経過しようとしていたある日のこと、夫婦の元に国からの通知が届いた。
そこには次のような文面があった。
「本日を持ちましてあなた方には、育児の資格がないものと判断されました。なお、この通知から三日以内にロボットを回収しに伺います。」
夫婦にとっては驚く内容ではなかった。法案が可決した日から嬉しさとは裏腹に、覚悟を決めなければならないことを自然と受け入れていたのだ。
しかし、三日後には手塩にかけた我が子が連れ去られてしまう。
国からの通知を読んだ夫婦は慌てて家を飛び出した。愛する我が子を渡すまいと、息も絶え絶えになりながら必死になって走った。
とうとう国の使者に追いつかれた二人は、涙を浮かべて我が子を抱きしめた。
無情にも連れ去られてしまう我が子を目の前にし、泣き崩れる妻を夫は辛うじて支えるのであった。
妻の口からこぼれた、「やっと授かった我が子なのに」という言葉を両手いっぱいにすくい上げた夫は、
「私たちにはあり得ないことだったじゃないか、少しでも良い思い出をくれた我が子のために、しかりと送り出してあげよう。」と、妻の耳元でか細く囁いた。
老夫婦は人生の良き思い出として、また、人生に輝きをくれた国に、感謝の意を表したのであった。
※編集済み作品は、【SS】カテイ【修正ver.1.0】として公開しております
※6/11 00:15 編集済み
・「間引きを行ったのは誰か」を明記しました
・「ベビーブーム」の引き金を追記しました
・言い回しや表現方法を修正しました