ナイトビジョン
酔った勢いで購入したナイトビジョンが届いた。
大陸製の安い手持ち式の単眼鏡だが、値段の割によく見える。
箱出し後、部屋の電気を消して遊んでいたが、すぐに飽きてしまった俺は近所の公園へ行くことにした。
真夜中の公園は節電のためか街頭は落とされ、辺りは墨で塗ったような闇に包まれていた。
ナイトビジョンを使うには最高の環境だ。
俺はワクワクしながらナイトビジョンの電源を入れた。
赤外線によって照らされた景色がディスプレイにモノクロで映し出される。
公園を取り囲むフェンス、遊具、トイレの建屋。
昼間とは景色が違って見え、屋内より断然飽きが来ない。
木の上で休むカラス、フェンスの外を歩く猫、公園の真ん中で佇む人。
・・・ん?人?明かりもないのにこんなとこで何してんだ?
明かりもなしにここにいる自分のことを棚に上げながら、ナイトビジョンのディスプレイから視線を外して周囲に明かりがないことを確認した。
そして、その人物を確認しようと再びナイトビジョンを覗く。
ディスプレイには両目が怪しく光る感情のない顔が、大きく映し出されていた。
「うわぁっ!」
驚いて声を上げ、ナイトビジョンを下げる。
「え?・・・え!?」
頭の処理が追いつかずその場でフリーズする。しかし、すぐに得たいの知れない者が目の前にいるということを認識し、俺は公園の出口に向かって走り出した。
とにかく人のいる明るい所へ・・・!
ほぼ全力疾走のまま最寄りのコンビニにたどり着いた俺は、明るい駐車場で息を整えてから入店し、缶コーヒーを購入するとイートインスペースに座り込んだ。
「マジで何なんだよあれ・・・」
温かくほろ苦いコーヒーを喉に流し込み落ち着きを取り戻した俺は、公園で見たものの正体について考え始めた。
・最初、公園内を見回したときはいなかった。
・発見したときはこちらに背を向け数十メートル先の位置で佇んでいた。
・一度ナイトビジョンを外し再び覗くと目の前にいた。(この間数秒程度。)
・そもそも足音などの音が一切しなかった。
以上の点から導き出された答えは・・・
「マジでなんなんだよ。あれ・・・」
当然ながら答えなど出るはずがなく、俺は頭を抱え苦悩する。
その後、俺はそのまま帰る気にもなれず、イートインで日が昇るまで時間を潰すのであった。
そして、このことが軽くトラウマになってしまった俺は、これ以降ナイトビジョンを覗くことはなくなった。