異世界転生から始まるのも良いかもね
勢いだけで書いてしまいましたm(__)m
「マドゥレーヌ・ド・リシュリュー! 本日をもって、お前との婚約を破棄する!」
……うん?
御伽噺みたいな金髪碧眼王子風な人が、こっちに向かってビシッと指を差した。
思わず、指し示すものを見ようと背後を振り返るが――。
誰もいなくない?
「どこを見ているマドゥレーヌ! 逃げようとしても無駄だ! お前のルシィへの嫌がらせの全て、証拠は掴んでいるっ」
壇上からからの怒声は、明らかに私に向けられている……みたい。
しかも、マドレーヌなんて甘そうな名前。夢かなこれ?
何かの演劇でも観ているのかと思ったが、自分自身もドレス姿で立っていることに気付いた。
え、やば。凄いなこのボリュームのドレス。
ふんだんに使われたレースに金糸の刺繍。
ぴらっと持ち上げてよく見ようとすると、突然腕を掴まれた。
「いい加減にしろ!」
業を煮やしたのか、王子が目の前にやって来て私の腕を捻り上げようとする。
「え?」
と思った時には身体は勝手に動いていた。
捻り上げた腕をグイッと回し、力が入らなくなった瞬間に背中に押し付け床へと倒しこむ。
そして、膝で首根っこを押さえつけつけると
「……グェ……」
カエルが潰れたような声が漏れた。
見事な大理石の床にキスした王子様から――。
◇
「お前、信じられないバカだな」
呆れるように言ったのは、私が入れられた牢屋の外を警備する男。
「はは……ですよね」
私はどうやら異世界に転生しているらしい。
しかも婚約破棄される、いや婚約破棄された悪役令嬢に。
「本当ならさぁ。あのまま断罪されて、幽閉――っていっても、そこそこ綺麗な部屋に閉じ込められるだけだったのに」
「いやぁ……体が反射的に動いちゃって、ね」
王子を完全に落としてしまったが為、極悪人認定で犯罪者用の監獄に入れられてしまった。
「なあ。その喋り方も公爵令嬢とは思えないんだけど?」
男は鉄格子の前に座り込み、胡座をかいて頬杖をついた。何が面白いのか、私と話し込む気満々のようだ。
それにしても、どストライクの顔……さっきの王子より好みだ。
仕方ないし、こんな場ですることも無いので、男の顔を堪能しながら情報を聞き出すことに徹した。
――が、しかし。
聞き出されたのは私の方だった。
「へぇ。お前、転生者なのか?」
「たぶんね。自分の顔や名前の記憶は全然ないけど。住んでた世界は覚えてるもの」
「……だから、か」
「え?」
男は急に肩を振るわせ笑い出した。
「それなら、今ここで俺と契約しないか?」
「契約?」
「どの道、お前……マドゥレーヌは俺を復活させて、この世界を滅ぼそうとする」
「え、ちょっと待って。意味がわかんない!」
「この世界は見えない力に支配されているんだ――」
◇
結論――。
この男は、人間ではなくラスボス魔王だった。私……というか、婚約破棄されたマドゥレーヌが復讐の為に復活させる予定の。
私と婚約破棄した王子と、ヒロイン(?)の聖女ルシィの愛が魔王を倒し世界を救うストーリー。
それが、エンドレスで繰り返されている。
魔王は聖女に倒され消滅すると、またスタート地点から同じことが始まるのだとか。自分の意志では動けないらしい。
なのに、勝手に復活してるし。
どういった訳か、今回は不具合なのか記憶も動きも制限されなかったそうだ。
だから、全ての元凶であるマドゥレーヌを始末して逃亡してしまうつもり――
「って!? じゃあ、私あなたに殺されるの?」
のんきにイケメン堪能している場合じゃなかった。
「うーん。そのつもり、だったんだけどな」
「た、多分だけど! あなたが解放されたのって、イレギュラーな私のおかげなんじゃない?」
「まあ、そうかもな」
「なら!! 私は恩人でしょ? 復讐なんて望まないし、一緒に逃げましょ!」
死にたくないし、平和にのんびりが私のモットーだ。合気道を習ったのは、万が一争いに巻き込まれた時の護身術のため。楽しくなって、全国大会で優勝したのは運が良かっただけ。
「何ならあなたを私が守るから!」
無い頭をフル回転して説得する。
「ぶっ! おもしれー女……」
「私と一緒なら、きっと人生楽しいわ!」
もう、必死だった。
「いいぜ。じゃあ、二人で違う国に逃亡して、スローライフってやつを楽しむか!」
私はガッチリと魔王と握手し、その日のうちに脱獄を成功させた。
――そして、予想以上に楽しいスローライフが始まったのだ。
元婚約者と聖女については知らない……というか、どうでもいいので思い出すことすら無かった。
◆◆◆
「主任。今回のカップルはどうですか?」
システムルームに入って来た部下は、画面から視線を離した上司に訊いた。
「成立よ」
「すぐにでも、結婚になりますかね?」
「相性はかなりいいから、すぐだと思うわ」
主任と呼ばれた女は、グーッと伸びをする。
「今回のマッチングアプリ、評判最高っすよ!」
「そりゃ、開発にどれだけかかったか……。おかげで私の肌はボロボロよ」
冗談めかして言った上司に「主任はボロボロでも綺麗です!」と、部下は顔を真っ赤にしながら言う。
「はいはい、ありがと」
「もう、本気なのに……。結婚、いいっすね」と、部下はスローライフを楽しむ画面の中の二人を眺める。
「で、今回は悪役令嬢に異世界転生した女性と、ループを繰り返しヤケクソになった魔王……でしたっけ。二人の条件て何だったんですか?」
資料のホルダーをクリックする。
「男性側は、『面白い女』希望。女性側は『自分に振り回されてくれる、荒っぽいけど実は優しい人』希望。それ以外は……無いわね」
顔や経歴、その他の条件は適合している。
最終的な相性を確かめるためのフルダイブシステム。
これが終われば、二人は各々の記憶を戻して対面する。
「へぇ、変わった要望ですね。ま、だから合うのか! でも、これってある種の吊り橋効果みたいですよね。いつか冷めそうじゃないですか?」
「結婚はゴールじゃないからね。結婚が成立して、初めて二人でスタート地点に立つのよ。長い結婚生活が楽しめるかは当人たち次第だわ」
「なるほど。じゃあ、主任……。今度、僕と一緒にフルダイブしてくれませんか?」
「なっ。まさか、それ……プロポーズのつもり?」
「はい!」
あまりに真剣で真っ赤な部下の姿に、上司は吹き出してしまう。
「わかったわ」
「……て、ことは!」
上司はニヤリと笑う。
「ハーレム系の勇者になって、一度も私以外に目移りしなかったらね」
「え……」
「さて、勇者を誘惑しまくる美女たちを作成しなきゃ! ハニートラップは多いに越したことないわね」
「えっと、中に入ったら今の記憶は……消えるんですよね?」
「そうよ」
ふっ……と口角をあげ、クルリと向き直りパソコンを打ち出した上司。ほんのり耳が赤い。
「……ぐぬぅ。そういうSなところも好きです!」
部下はまず、滝修行に行って煩悩を打ち消してから挑むことを決意した。
〜おしまい〜
お読みいただき、ありがとうございました!
誤字報告もありがとうございますm(__)m
訂正いたしました!