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百日草の同期  作者: 兎束作哉
第1章 再会の同期
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case07 友人の無茶ぶり



「何つった?」

「合コン行かないかって、言った!」

「いや、だからなんで俺……」

「合コン!」

「分かってんだよ!うっせえな!」



 きゃぴっとぶりっ子を決めた颯佐を怒鳴りつつ、俺は共犯である高嶺を睨み付けるが、高嶺は「俺は知りません」を決め込んでおり話にならなかった。

 そもそも、俺が恋人いると言ったのにカミングアウトさせられたのにどうしてそうなるのか、頭のねじが吹っ飛んでいるのかと疑いたくもなる。



「俺、さっき恋人いるって言ったよな!?つか、その恋人がいる前でんなこと言うな!」

「え~だって、もうハルハルいくっていっちゃったもん。あ、ハルハルがいくというよりかは、あと一人連れて行くからねって言っちゃった」



と、颯佐はごめーん。と謝る気のない謝罪ポーズを決め込む。


 そんな時、神津は口を開いた。

 もしかしたら、神津ならこのバカどもを止めてくれるのではないかと期待を寄せたが、神津は神津で俺の事をじっと見つめながら何かを考え込んでいる様子。

 一体何を考えているのやらと様子を伺っていれば、神津はスッと片手を上げた。



「その合コン、僕もいっていい?」

「は?」



 予想外の言葉が飛び出し、開いた口が塞がらなかった。

 てっきり、「春ちゃんはダメ!いっちゃダメだから!」と止めるものだと思っていたのに、どういう風の吹き回しか。そもそも、此奴が合コンの意味をはきまちがえているのではないかとすら怪しくなった。

 でも、さすがに合コンの意味ぐらいは分かっているよな……と、心配しつつ、俺は神津を見上げた。

 すると、神津は俺の耳元に顔を近づけ、そっと囁いたのだ。



「春ちゃんは僕のものって、もっと皆に知ってもらわないと。僕だけのものって事……春ちゃんも誰のものなのか、もう1回しっかり認識してもらわないと」



と。その瞬間、俺は神津を突き飛ばし、声にならない悲鳴を上げてしまった。



(何を言い出すんだ、此奴は!)



 だが、突き飛ばされた神津本人はケロッとした表情で、首を傾げている。

 いきなり大声を上げてしまったため、驚いた颯佐は高嶺にしがみついて震えていたし、俺一人が悪いみたいな雰囲気になってしまっていた。元はと言えば、颯佐とその共犯である高嶺が俺を合コンに誘ったのがいけないのではないかと、心の中で突っ込みを入れた。

 そして、颯佐は涙目になりながらも、俺に指を指してきた。

 俺が悪者になっているこの状況に、腹が立つ。



「つか、何で神津は合コンいきたいんだよ」

「うーん、1回行ってみたかったんだよね。合コン」



 そう、神津はとくに変わった様子もなく言った。

 でも、深読みしすぎた俺は「俺よりも言い女性を見つけに」という意味だと頭の片隅で考えてしまった。俺に嫌気がさしたのかと、少しでも思ってしまうのは許して欲しい。

 神津に限ってそんなことはないが、神津は女性なんて選び放題だろうし、男の俺よりもうんといい人がこの世には沢山いるだろう。もっと神津に見合う女性だっているに違いない。神津の横が必ずしも俺だとは限らないと。

 久しぶりにネガティブ思考を発動させてしまい、俺は首を横に振った。



(んなこと考えるなよ、ぜってぇないから)



 ない。とは言い切れないし、初夜を失敗した身としてはもしかしたら。ということもあり得るのだ。だから、絶対という言葉はあまりにも信用できない。

 それでも、俺は不安になるばかりであった。



「え、じゃあ、ハルハルもユキユキも参加って事でいい?」

「あ、うん。いいよ……」



と、神津は少し戸惑ったような返事をした。


 その理由はきっと颯佐が変なあだ名をつけたからだろう。そして、神津は「神津恭かみづきょう」として名が知られていたため、本名、本当の呼び方の「ゆき」で呼ばれたことに驚いているのだろう。何故颯佐がそっちで呼んだかは知らないが。

 神津は、その後はとくに気にする様子もなく、もう一度行くという意思を伝え首を縦に振った。


 颯佐はそれを受けて、「よっしゃー!」と何故かガッツポーズを決めていた。神津なんかが行ったら、女性は皆神津に釘付けだろうと逆に不利になるというのに良いのだろうかと一瞬思ってしまった。ただ、そういう有名人と仲がいいんだぜ的なアピールにはなるが、全くそれは意味をなさない。


 結局不利は、不利である。



(まあ、そんなモテる神津の恋人は俺なんだけどな……)



 などと、優越感に浸りつつ、俺はあの頃と変わっていない高嶺と颯佐をみて思わず笑みがこぼれた。こんな馬鹿騒いでいる(のは颯佐だけなのかもしれないが)二人を見ると、本当に懐かしさがこみ上げてくる。存外、警察学校での10ヶ月は悪くなかったと今となっては言える気がした。



「春ちゃん」



 スルッと、俺の指に自分の指を絡め神津が俺の名前を呼んだ。

 何事かと見てみれば、何処か不安そうに耳を垂れ下げて俺を見つめている神津にどうかしたのかと首を傾げれば、絡めた指を手をギュッと握って神津は口を開いた。



「春ちゃんは春ちゃんだよね。僕の知ってる春ちゃんだよね」



 そういった神津の言葉を俺は理解できなかった。



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